熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

世界最高水準のインドの白内障手術・・・貧民事業から

2007年08月19日 | イノベーションと経営
   「アラビンド・アイ・ケア・システム」は、本来インドの極貧層の患者を救済するために始められたのだが、手術に関するプロセスを根本的に変えて、年間20万件以上の白内障手術を行っているが、世界最高水準のサービスを提供し続けている。
   同じ手術を米国で受ければ、2600~3000ドルかかるのに、アラビンドでは、50~100ドルで済む。人工の眼内レンズも自分たちで作っていて、米国で200ドルするものが、ここでは5ドルである。勿論、アメリカを始め外国へ輸出している。

   この話も、C.K.プラハラード教授の「ネクスト・マーケット」に記載されているBOPビジネスの成功例であるが、常識を覆すような解決策が高度なプロセス・イノベーションでシステマチックに行われているのが凄い。
   病院では、地元で選ばれて目のケア専門に訓練された若い女性の看護士達が、患者の手術前手術後のケアにあたり、医師は手術に専念するのだが、一人の医師と二人の看護士からなるチームで、1日に50例以上の手術を行う。
   徹底的に訓練を受けた医師や看護士達が、インプットをミスなく処理し、システムを正確に機能させ、サービスを確実に提供している。

   このシステムを開発した人間国宝G.ベンカタスワミー医師は、国立マドゥライ医大の眼科学部長を引退後、上手く治療すれば本来治る筈なのに視力を失った人が4500万人、インドだけでも900万人いるので、まず、故郷タミル・ナードゥ地方から根絶しようと立ち上がった。
   まず、1500以上の「アイ・キャンプ」眼科の巡回診療を実施し、各地を巡回し、貧困層の視覚の異常状態を調べて、治療が必要な人を特定して自分たちの病院に移し手術・治療を行いながら、アラビンドの標準プロセスを開発したと言う。
   日本人の好きな「総合○○」と言うシステムではなく、眼科一筋に、集中と選択で徹底的にシステムを磨きぬき深掘りして、今では、研究、製作、教育訓練、遠隔医療も手がけている。

   同じ様な例が、エスコート病院では、心臓病の治療を専門に行っていて、既に6000件にのぼる心臓外科手術を実施している。
   欧米で手術を受ければ莫大な費用がかかるが、ここでは治療費は3000ドルで心臓外科手術を受けられるので、英国の国民保険制度が、コスト削減と手術待機期間を短縮するために、心臓病患者をインドへ送ることを検討している。
   
   IT大国として脚光を浴びているインドの、凄い国力の別な一面を見た感じであるが、ここでの貴重な教訓は別にある。
   最貧層のBOP(The Bottom of the Pyramid)の顧客に焦点を絞り、世界トップの高品質を提供することで、コスト構造が劇的に変化し、世界的な市場機会を創出すると言うイノベーションの果たす役割である。

   プラハラード教授は、この本で、貧困層に生きる機会を与えた「ジャイプル・フット」と言うインドの義足の開発にも触れて、劣悪な条件を総てクリアして、アメリカでは8000ドルもする義足よりもはるかに上等な義足を30ドルで作り出し総て無償で提供されていると紹介している。
   インドの貧困層の人々は、日常的に床にしゃがんだり、あぐらをかいたり、でこぼこ道を裸足で走る。安いのは当然で、指導者もいないし教育水準も低いので難しい装着の仕方などでは無理だし、劣悪なインフラ環境であるから頑丈で耐久力がなければならない。・・・BOP市場の顧客に受け入れて貰う為には、先進国の消費者ニーズよりはるかに高い機能を持った製品を開発しなければならないが、これこそ本当にイノベーションである。

    
   プラハラード教授は別な所で述べているが、環境問題をクリアするような製品が案外このようなBOP市場から生まれてくるような気がしている。最も劣悪な社会インフラ環境で生活しているのは貧困層の消費者であり、彼らが一番欲しがっているのは、所謂「贅沢品」と看做される商品だと言うからである。
   貧困層の支出の中身を見ると、先進国の消費者の優先順位と全く違う。衛生用品や清潔な水道水、より快適な住居ではなく、「贅沢品」が第一で、土地所有権もなく住居の周りはインフラも整備されていない劣悪な環境の中でも、殆どの家にはTVやガスレンジがある。
   我々の常識が全く彼らの常識ではないそんな世界が、まだ、世界人口の半分以上を占めていると言うこのグローバル社会だが、案外、発想を変えてビジネスに取り組む必要を示唆しているような気がしている。
   
   
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