OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ロマンの騎士になりたい!

2006-03-05 17:59:37 | Weblog

天候が良かったので、実家から赴任地まで、バイクをぶっ飛ばしてきました。久々に「不良番長のテーマ」が頭の中で鳴りましたが、やっぱり寒い……。そこで熱い珈琲にこのアルバムを――

Romantic Warrior / Return To Forever (Sony)

フュージョン全盛期を彩った人気盤ですが、イノセントなジャズファンからは徹底して嫌われた1枚でもあります。

リターン・トゥ・フォーエバーというグループは、もちろんピアニストのチック・コリアをリーダーとしてフュージョンの地平を切り開いてきた名バンドですが、それはあくまでもジャズに拘った方針があってこその人気で、もちろんそれを支えていたのが、ガチガチのジャズファンでした。

しかし1973年に突如としてロック寄りのバンドに変身し、とにかくハードでギンギンのサウンドを作り出していくのです。このアルバムはその方針転換が最も優れた形で結実した傑作というわけですが、それゆえにジャズ喫茶ではある意味で困った存在でした。

メンバーはチック・コリア(p,key)、アル・ディメオラ(g)、スタンリー・クラーク(b,elb)、レニー・ホワイト(ds) という鬼のような超絶技巧の4人組で、録音は1976年2月とされています。その内容は――

A-1 Medieval Overture / 中世序曲
 いきなり左右に飛びまくる単音フレーズの中を、ビシッとキメられたリフと16ビートの嵐が吹荒れて、聴いている者を疲れさせる出だしが強烈です。とにかくレニー・ホワイトのドラムスが半端ではありませんし、4人のアンサンブルが一糸乱れぬウルトラ級の快演!
 曲そのものにクラシックや現代音楽の影響が感じられるのは作者であるチック・コリアの趣味丸出しというところで、アドリブパートらしい部分はほとんど無く、あくまでもバンド全体の演奏力の凄さに感じ入るのが、正しい聴き方ではないでしょうか……。正直言って、疲れます。

A-2 Sorceress / 女魔術師
 レニー・ホワイト作曲のファンク・ロックですが、メローな響きのチックのエレピやシンセが魅力的です。しかし演奏はすぐさま、アル・ディメオラのファンキーなギター・カッティングとハードロックなギター・ソロによって現実に引き戻されます。そしてそういう対比が曲全体の進行を左右して行き、中間部で突如として現れるチックの生ピアノによるソロが、ジャズ者の気持ちを落ち着けてくれるのでした。これも快演です!

A-3 The Romantic Warrior / ロマンの騎士
 前曲まではエレクトリックな楽器を中心として演奏されていましたが、この曲に限っては全員がアコースティックで勝負しています。もちろんそれでも、曲は超絶技巧のキメの連続と驚異の早弾き、鬼神のリズムとビートの嵐で、完全にエレクトリックを凌駕しています。
 チックの作曲したテーマも幻想とロマン、恋と冒険に満ち溢れた雰囲気があり、アドリブ・パートの展開も波乱万丈です。まずスタンリー・クラークがアルコ弾きとピチカートを対比させつつ、聴き手を仰天させるベース・ソロを展開すれば、アル・ディメオラは十八番の早弾きフラメンコのリックを多用して応戦、もちろんそのバックではレニー・ホワイトの反応が素早いドラムスが炸裂していきます。
 そしてクライマックスはチック・コリアの生ピアノ・ソロで、その凛とした佇まいと白熱のアドリブ展開は最高です♪ 何度聴いても感動すること請け合いです。う~ん、それにしてもここでバックをつけるスタンリー・クラークとレニー・ホワイトも、神がかりです。

B-1 Majestic Dance / 荘厳な舞踏
 アル・ディメオラが作曲し、極めてロックに近い演奏になっていますが、実は演奏者その人たちが一番楽しんでしまったかのような仕上がりです。このあたりのノリは英国ロックのブランドXやイエス、キング・クリムゾンというプログレ・バンドにも共通するところがありますが、この超絶技巧を駆使した演奏は、基本はジャズ演奏家という矜持を保つためのものでしょうか……。それにしてはアル・ディメオラのギターが唸り過ぎですが♪

B-2 The Magician / 手品師
 スタンリー・クラーク作曲ですが、まるっきり得意のベースソロのフレーズを繋ぎ合わせたかのような展開がテーマになっています。つまり音のコラージュという雰囲気ですが、それなりに惹き込まれて聴いてしまうところが怖ろしい……。

B-3 Duel Of The Jester And The Tyrant / 道化と暴君の決闘
 大団円に相応しい組曲です。チック・コリア作曲ということで、クラシックからラテン、ファンキー、ロック、そしてもちろんジャズの要素までもが幅広く取り入れられているので、聴き応えがあります。
 まず超絶のキメをすり抜けて登場するアル・ディメオラが圧巻のギター・ソロで燃え上がります。その凄まじさには、流石の3人のバックでの煽りも通用していません。そこでチック・コリアが哀愁モードのシンセ・ソロを繰り出して勝負に出ます。そしてこれがなかなか気持ち良く、演奏はいつしかイケイケの展開になっていきます。もちろんアル・ディメオラも時折、ファンキーなギター・カッティングを入れてきますし、レニー・ホワイトは背後から強烈に煽ります。
 こうして演奏は第2部に入り、細かいキメのリフとスタンリー・クラークの超人的なビートのベース・ソロ、またまた飛び出すアル・ディメオラの早弾きギター・ソロが、ついにはレニー・ホワイトを中心とした、4人の感情の縺れ的なソロの応酬に発展していくのです。
 しかし演奏そのものは、けっして暴走することなく、きちんと盛り上がり、収束していくのです。しかもそれが予定調和になっていないのは、驚異的です。

ということで、あまりにもエレクリック&ファンキー・ビートが強すぎて、これはロックだ、と決めつけたかのように、当時の正統派ジャズ喫茶では積極的に鳴らしていた店は少なかったようです。しかし演奏者がチック・コリアということで完全無視も出来ず、しかたなく「A-3」だけ鳴らしている店もありました。つまりそれだけ、このタイトル曲が凄い出来ということです。

ちなみに、このアルバム、特にタイトル曲は、日本の人気ミステリ作家である島田荘司のお気に入りということで、そちらのファンもかなり買ったという噂がありますが、どうなんでしょう。なにんせよ、このアルバムはこの1曲だけでも絶大な価値があると、本日も断じます。気持ちイイですよ。

うん、いつもまでもバイクに「不良番長」じゃ、ダメだなぁ、「ロマンの騎士」でいきましょうかね♪

コメント
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