OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

苦行

2006-03-04 16:44:23 | Weblog

あまりに忙しさに苦しんで、逆に進んで苦しさを求めたくなっています。ちょっとM的ではありますが、本日は苦行の1枚を――

Pithecanthropus Erectus / Charlie Mingus (Atlantic)

名盤ガイド本に必ず載っているのが、このアルバムですが、けっして人気盤ではありません。その理由は、聴いていて疲れるというか、私はそう感じています。

もともとミンガスの演奏するジャズは、単なる娯楽ではなくて、そこに常になんらかの自己主張を盛り込もうとしているフシがあります。実際、ステージでは観客に向かって説教をしたり、自分のバンド・メンバーが気に入らないプレイをすると殴ったり、また演奏が自分の意に沿わない方向に流れたりすると、そこで中断した挙句に最初からやり直したりしていたそうです。

そして残された録音からも、そういう危ない雰囲気が感じ取れるのですが、しかし発表された作品群には、駄作というものが、ほとんどありません。それゆえに、全く和めない演奏が多いのですが、よしっ聴くぞ! と気力が充実していれば、これほど快感に結びつくジャズもありません。

このアルバムはそういう最右翼の1枚で、録音はハードバップ全盛期の1956年1月30日でありながら、すでにハードバップを超越しているというか、全く独自のミンガス・ジャズになっている強烈な作品です。

メンバーはチャーリィ・ミンガス(b) をボスに、ジャッキー・マクリーン(as)、J.R.モントローズ(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ウィリー・ジョーンズ(ds) という一癖ある連中が揃っています。特にフロントの2人は私がとても好きなサックス奏者なので、ワクワクしているのですが――

A-1 Pethecanthropus Erectus / 直立猿人
 あまりにも有名なタイトル曲は、ミンガス自身の解説によれば「進化」「優越感」「衰退」「滅亡」という4パートに分かれているらしいのですが、聴いてみても私にはピンっときません。しかしその演奏はモヤモヤ、ゴテゴテ、ドロドロ、グリグリのハードバップで、突然に変化する演奏スピードや刺激的なリフ、妙なハーモニーと不揃いのイントネーションが渾然一体となった、良く分からないけれど凄いんだろうなぁ……、というのが正直な感想です。
 しかしその中で泣きながら咆哮するジャッキー・マクリーンや屈折した心情吐露に終始するJ.R.モントローズは、やはり素晴らしくハードバップしています。

A-2 A Foggy Day
 モダンジャズでは定番のスタンダード曲ですが、ミンガスのアレンジではホーン隊が車のクラクションを真似たり、ピアノやベースが街のザワメキを描写したり、そこへパーカッションが刺激を与えたりするという、なかなか凝ったテーマ提示がなされています。
 もちろんこのあたりは、デューク・エリントンの影響が大きいのですが、その中からお馴染みテーマが現れてくると、ホッとします。恐らくそこが狙いだったのでしょうが、アドリブ・パートでは油断がならず、突如として前述したようなアレンジのリフが被さってきます。つまり、ノッて騒いで、イェ~! というような普通のハードバップでは無いのです。

B-1 Profile Of Jackie
 タイトルどおり、ジャッキー・マクリーンを中心としたスロー・ナンバーです。もちろん、これが哀切のメロディ、泣きのフレーズがいっぱいという、ファンにはたまらない演奏となるはずなんですが、ミンガスおやじは、それを許しません。3分ちょっとの短い演奏時間の中で、参加メンバー全員に自己主張させようとするのです。しかしそれが完全に出来ているのはミンガスのベースだけで、伴奏というよりはベース・ソロをやっているように聴こえます。もちろんマクリーンは好演ですが……。

B-2 Love Chant
 きわめてフリーに近い要素を含んだ曲、というよりも曲になっていない曲とでも申しましょうか、なんとも不思議な雰囲気のうちにアドリブ・パートになっている展開が痛快です。マクリーンは激情的に泣きますし、J.R.モントローズも独自のフレーズばかりで豪快にブローしています。そして素晴らしいのがマル・ウォルドロンのピアノ! ソロにバックに刺激的なコードと絡みのフレーズを連発します。またミンガスのド迫力のベース・ソロも強烈で、圧倒されますねぇ~♪

ということで、全くつまらない演奏と言えば、そう言えるわけですが、やはり凄いっ! そう認めざるを得ないものが、ここに詰まっています。繰り返しになりますが、単なるハードバップではありません。ジャズを愛するって、苦しい……。                      

コメント
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