OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

新しいティモンズ?

2006-08-31 18:07:24 | Weblog

裏ワザという秘訣が最近もてはやされています。

あるいは隠し芸というのも、ここ一番で威力を発揮します。

こういう意外な一面を持っていると、その人の存在意義はグッと強くなるのですが、問題はそれをどういう形で発揮するかでしょう。嫌味になっては逆効果ですし、意図的にひけらかすのも……。

本日の主役は、それがとても上手い人でした――

Born To Be Blue / Bobby Timmons (Riverside)

ボビー・ティモンズと言えば、ジャズ・メッセンジャーズやキャノンボール・アダレイのバンドで活躍したファンキー派の黒人ピアニスト! 特に自作の「Moanin'」や「Dat Dere」等は永遠のファンキー・ヒットになっており、もちろん本人の大熱演も強烈でした。

ですから、どうしてもゴスペル&ファンキーな演奏に素晴らしさを求めてしまうのがファン心理! そういう私もそのひとりでしたが、このアルバムは目からウロコの1枚でした。

それはソフトな黒っぽさというか、都会的な感覚に満ちた部分です。もちろんファンキーな味はあるのですが、それがコテコテでは無い、とても洒落た感覚なのです。

録音は1963年9月、メンバーはボビー・ティモンズ(p)、コニー・ケイ(ds)、そしてベーシストはロン・カーターとサム・ジョーンズの2人が、曲毎に入れ替わって参加しています――

A-1 Born To Be Blue
 タイトルどおりにブルーな雰囲気に満ちたスタンダード曲を、ボビー・ティモンズは感情を抑え気味に弾き綴りますが、意外なほどに細かいフレーズを駆使して、全篇にホロ苦いような味が醸し出されています。
 また、ここでのベースはサム・ジョーンズで、その軋みの音色で見事な絡みを聞かせてくれます。

A-2 Malice Towards None
 私が大好きなモダンジャズの隠れ名曲で、トミー・フラナガンも切り札にしていますが、とにかく哀切のテーマメロディがグッときます。
 仄かなラテングルーヴも心地良く、ちょっと聞くとレイ・ブライアント? という雰囲気がありますねっ♪ もちろんボビー・ティモンズの個性は発揮されているのですが、何時ものゴリゴリ・ファンキーでは無く、小粋にスイングしつつソウルフルに盛り上げていく様が、私には新しい魅力に受け取れました。

A-3 Sometimes I Feel Like A Motherless Child
 有名なゴスペル曲なので、ついコンゴン・ゴリゴリを期待してしまうのですが、ボビー・ティモンズはそういうファン心理を逆手にとった魂の歌を聴かせてくれます。
 なにしろ最初から思わせぶりたっぷりにビアノの掻き回し、ベースとドラムスにも直線的なノリを要求していません。ちなみにここでのベースはロン・カーターですから、こういう展開はお手の物というか、淡々と絡みながら要所は締めるという懐の深さを披露しています。
 演奏は終始、そういうある種の裏切りに満ちていますが、それは次の曲への布石でもあるのでした。

A-4 Know Not One
 そしてA面最後は、お待ちかねの大ゴスペル・ファンキー大会です!
 前曲とは逆に、最初からガンガン攻めてくるボビー・ティモンズのピアノも凄いですが、グイグイとドライブするロン・カーターのベースが痛快! コニー・ケイのドラムスもシンプルながらジャズロック一歩手前のグループを秘めていますから、演奏は白熱するのでした。

B-1 The Sit-In
 B面ド頭も、ボビー・ティモンズ節が炸裂する強烈なゴスペル・ハードバップです。アップテンポでのドラムスとベースのグルーヴも素晴らしく、早弾き系のピアノフレーズへのツッコミも申し分ありません。
 また見事なソロと軋みのグルーヴを聞かせるサム・ジョーンズ、意外なガチンコぶりを発揮するコニー・ケイのドラムソロもジャズの醍醐味だと思います。

B-2 Namely You
 有名スタンダード曲を凝ったアレンジで聞かせてくれるボビー・ティモンズは、ファンキー節を隠し味にしながら、歌心優先の演奏に撤しています。確かに物足り無さはありますが、これはこれで不思議な魅力があるのでは……。

B-3 Often Annie
 ボビー・ティモンズのオリジナル曲で、冒頭から全くのピアノソロでスタートし、サム・ジョーンズの繊細かつ豪胆なベースソロにバトンタッチしますが、ここまでテーマメロディらしきものが出てきませんので、嫌な予感に満たされてしまいます。
 なんか自己満足に蠢いているだけというか、重苦しいテンポが支配的……。
 と思った次の瞬間、コニー・ケイの軽快なブラシが入ってきて、ようやくメロディがある展開となり、実は新主流派のゴスペル・ジャズ?
 もちろんボビー・ティモンズは十八番のフレーズを出しまくりなんですが、煮えきりません。しかし録音された1963年という時期を考えれば、これは新しいものを模索する表れかもしれません。

ということで、何時ものボビー・ティモンズを期待するとハズレるんですが、個人的には妙に愛着のある作品です。聴いていて飽きないというか……。もしかしたら録音の所為かもしれません。ブルーノートでは無い、リバーサイド独特の音が確かにあって、私は気に入っているのです。

ちなみにジャケットはタバコ物としては秀逸の1枚です。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自虐のブラウニ~♪

2006-08-30 18:23:03 | Weblog

マニアの楽しみっていうのは、どんな世界にもあって、例えば音楽ならば海賊盤の楽しみでしょう。それは非公式音源を聴く楽しみですが、付物なのが劣悪な音質……。

しかしそれを乗り越えた時に味わえる快感も確かに存在しているという、所謂M的世界に覚醒する瞬間が――

Clifford Brown Live At The Bee Hive (Lonehill Jazz)

ジャズ全盛期の録音技術は、現代に比べれば当然劣っています。もちろんスタジオ録音や公式のライブ録音ならば、問題無く聴けるレベルなのですが、これがプライベート録音ともなれば、地獄と紙一重! ただ貴重というだけで感謝する音源が圧倒的なのですが、しかし真の天才が残した演奏記録、例えばチャーリ・パーカー(as)とかバド・パウエル(p)、ビル・エバンス(p) やジョン・コルトレーン(ts) あたりのものになると、一緒に入っている雑音を突き抜けて、ただ音楽だけがファンの感性を直撃するという、不思議な現象が確かに存在しています。

それはファン心理と欲望が、聴覚神経の中に特殊なノイズ除去フィルターを作り出すという、奇跡の生理現象かもしれません。

本日の1枚は、まさにそうしたブツで、主役は早世した天才トランペッターであるクリフォード・ブラウン全盛期のライブ演奏を収めた2枚組CDです。

内容は全て、アナログ盤時代から既に出回っていたものですが、一応最新の技術でリマスターが施され、幾分ましな音質に改善されています。

まず最初のセッションは、1955年11月7日、シカゴのクラブ「ビーハイヴ」で行われた演奏で、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、ジョージ・モロウ(b)、そしてマックス・ローチ(ds) という当時のレギュラーバンドに、ニッキー・ヒル(ts)、クリス・アンダーソン(p)、ビリー・ウォレス(p)、レオ・ビルベンス(g) という地元の精鋭が入り乱れて加わっています。

ここで気になるのは、レギュラー・ピアニストのリッチー・パウエルの不在ですが、もしかするとこの時期のレギュラーはビリー・ウォレスだったという可能性も否定出来ません。

で、演奏されたのが――

☆Disc 1
01 Cherokee
02 I'll Remember April Part 1
03 I'll Remember April Part 2 
04 Woody'n You
05 Hot House
☆Disc 2
01 Walkin'
 以上の演奏は、アナログ盤時代に「ロウ・ジニアス Vol.1 & 2」として日本盤オリジナルで発掘発売されていたものですが、音質はもちろん厳しいものがあります。
 まず「Cherokee」では、その音の悪さゆえに、ほとんどドラムスとのデュオにしか聴こえないクリフォード・ブラウンのトランペットが、止まらない強烈さ! これはもうフリーという醍醐味すら感じられます。
 それはテナーサックスやギターのパートに移っても同様で、実はマックス・ローチのドラムスが烈しすぎるのですねっ! クライマックスでのドラムソロは、完全に爆音になっています。
 続く「I'll Remember April」は2つのパートに分断されていますが、こちらはちゃんと音楽の体裁が整っており、テーマメロディのフェイクやアドリブパートでの美メロ連発という、何時ものクリフォード・ブラウンが楽しめます。そしてこのあたりになると、団子状の音質が逆にハードバップのド迫力に繋がる快感になっています。いゃ~、クリフォード・ブラウンは本当に凄いですねっ♪ 当にマックス・ローチと意地の張り合いというか、スタジオ録音では絶対に聴けないヒステリックな叫び、どうにも止まらないアドリブ地獄が堪能出来ます。なにせ9分半、吹きまくりですからねっ! 
 またテナーサックスは最初に出るのがニッキー・ヒル、「Part 2」で登場するのがソニー・ロリンズでしょうが、ニッキー・ヒルはちょっと無名ながら伝統的な音色とフレーズでなかなかの好演だと思います。
 3曲目の「Woody'n You」はソニー・ロリンズが暴れる荒っぽいテーマ演奏から、流麗なクリフォード・ブラウンのアドリブパートに繋がる仕掛けが、快感です。しかしここでも、けっこうヒステリックに叫ぶんですねぇ♪ つまりマックス・ローチが容赦無い雰囲気なんです。ちなみにここでのテナーサックスは、先発がソニー・ロリンズだと思います。
 そして「Hot House」は、実はかなりヨレ気味の演奏で、何時しかクリフォード・ブラウンのワンホーン体制になるという、言わば結果オーライ♪ バンドのノリの悪さを絶対的なトランペットの力で纏め上げていく天才の底力が楽しめます。
 さら「Disc 2」に移っての「Walkin'」は、なかなかのファンキー大会です。
 それはまず、ソニー・ロリンズが緩急自在のローリン節をたっぷりと披露し、クリフォード・ブラウンがタメの効いたフレーズを交えながら、流麗に山場を作り、本当は逆なんですが、ちょっとリー・モーガン(tp) になっている部分があって微妙に笑えます。またマックス・ローチの重いビートも素晴らしいと思います。
 
☆Disc 2
02 Valse Hot 
03 I Feel a Song Comin' On 
04 What's New ?
05 Daahoud
06 Sweet Clifford

 さて、続く5曲は、1956年4月28日、ニューヨークのクラブ「ベイジンストリート」からの放送録音で、メンバーはクリフォード・ブラウン(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)、リッチー・パウエル(p)、ジョージ・モロウ(b)、そしてマックス・ローチ(ds)という最強クインテットですが、何故か後半3曲でマックス・ローチが抜け、ウィリー・ジョーンズ(ds) が入っていると、解説書データにはあります。
 まず「Valse Hot」はワルツテンポのハードバップで、バンドの纏まりも良く、もちろんソニー・ロリンズが独自のタイム感覚でノリまくれば、クリフォード・ブラウンは暖かく華麗なフレーズを駆使して、完全なる和みの世界を聴かせてくれます。
 続く「I Feel a Song Comin' On」は強烈なアップテンポで、クリフォード・ブラウンの神業トランペットが炸裂! リッチー・パウエルのビバップ丸出しのピアノも好ましい限りです。
 そして「What's New ?」は期待どおりにクリフォード・ブラウンのワンホーン演奏がじっくりと楽しめます。もちろん流石の歌心が全開♪
 さらにこのバンドが十八番の「Daahoud」は、完全なハードバップですが、何故か交代しているドラマーのウィリー・ジョーンズにマックス・ローチほどのグルーヴが無いのが残念……。しかしそんな事は物ともしないクリフォード・ブラウンの輝きは最高で、次から次へ素晴らし過ぎるフレーズを積み重ね、まさに奇跡の一瞬を現出させています。もちろんソニー・ロリンズも熱演です♪
 大団円の「Sweet Clifford」は、当然の大ハードバッブ大会! 司会者が曲名を知らず、つい「スイート・ジョージァ・ブラウン」と言ってしまうのは、ご愛嬌ですが、演奏は何処までも白熱するのでした。

以上の5曲は音質もまあまあ、普通に聴けるレベルなので、素直に楽しめます。そして最後にボーナストラックとして入っているのが――

07 (Back Home Again In) Indiana
 これは1953年11月12日、コペンハーゲンにおけるジャムセッションで、クリフォード・ブラウン(tp)、クインシー・ジョーンズ(tp)、ジミー・クリーブランド(tb)、ジジ・グライス(as) という、当時のライオネル・ハンプトン(vib) 楽団の欧州巡業主要メンバーが、地元ミュージシャンと和気藹々の演奏です。
 ただしリズム隊が現地調達とあって、グルーヴがイマイチ……。しかしその中にあっても、クリフォード・ブラウンが飛び抜けて輝いています。

ということで、これは完全にマニア向けのブツです。しかし「Disc 1」1曲目の破滅的轟音に馴れてしまうと、後は比較的音質が落ち着いているので、素直に楽しめると思います。特に「Disc 2」の2~6曲目はバンドの充実もあって、最高のハードバッブが聴かれます。ただし、もしここが全篇マックス・ローチのドラムスだったら……、と残念ではありますが!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジェラルド・ウィルソン驚愕の再発

2006-08-29 18:04:59 | Weblog

CD時代になって一番嬉しかったのは、ボーナストラックという存在、つまり、オマケの楽しみでした。

なにせ私は子供の頃から、オマケ付きのお菓子が大好きで、お菓子よりオマケ派でしたから! それで今でも食玩とか、つい買ってしまうという話は、まず置いて、本日はそのボーナストラックに歓喜したという1枚です――

Big Band Modern / Gerald Wilson (Jazz Factory)

フルバン物が好きな人には避けて通れないのが、ジェラルド・ウィルソンという黒人アレンジャーです。

この人はトランペッターでもあり、ベニー・カーター(as9 のオーケストラで活動した後に独立し、1950年代からは西海岸を中心に、とてもモダンなアレンジを駆使したビックバンド演奏を聴かせて高い評価を得ています。そして自己のバンド以外でも映画音楽やあらゆる歌手のバンドアレンジでも、今日まで活躍し続けているのですが、我国では知る人ぞ知るの存在でしょう。なにしろ素晴らしいアルバムのほとんどが、日本で発売されていないのですから……。

まあ、そのあたりは本国アメリカでも、残された多くのアルバムが廃盤状態なので不満は言えないのですが、このCDは、その中でもマイナーレーベルの Audiolab に吹き込まれた幻の超レア盤の復刻とあって、私は勇躍入手したものです。

しかもボーナストラックとして、ワーデル・グレイ(ts)、スタン・ゲッツ(ts) 等々が参加したジャムセッションが入っているとあっては、ワクワクするなと言うほうが無理というものです。

まず復刻された「Big Band Modern」は、原盤(Audiolab AL1538)が1954年製作で、メンバーはクラーク・テリー(tp)、ブリット・ウッドマン(tb)、ジェリー・ドジョオン(as)、テディ・エドワーズ(ts)、フランク・ヘインズ(ts) 等々の名手を含むオーケストラで、以下の曲が演奏されています――

01 Algerian Fantasy
02 Bull Fighter
03 Lotus Land
04 Theme
05 Mambo Mexicano
06 Black Rose
07 Romance
08 Since We Said Goodbye

残念ながら原盤を聴いたことが無いので、あくまでも推測ですが、4曲毎にAB面が別れているものと思います。

演目はいずれも色彩豊かなでビート感も満点なアレンジが素晴らしく、曲調もミステリアス・ラテンな「Algerian Fantasy」では、我国の菊池俊輔が大きな影響を受けているのは確実という具合です。なにせ途中が完全に「キイ・ハンター」していますから♪

また「Bull Fighter」は、後にハープ・アルパートが多用するアメリアッチの先駆けですし、「Mambo Mexicano」はヒューゴ・モンテネグロのソフト&メロウになっているのです。

そして「Lotus Land」や「Black Rose」は小型エリントンの趣で自己のルーツを明かし、「Romance」では正統派ビバップ・ビックバンドとしての力量を、たっぷりと開陳しています。

う~ん、やはり名盤であったか……! と独り満悦していると、続けて始まったボーナストラック部分で、ド肝を抜かれました。

それは何と、1950年のライブ録音であるにもかかわらず、完璧なリアルステレオであり、音質も全く普通に聴けるのに加え、力演に次ぐ大力演の連続なのです。

基本メンバーはソニー・クリス(as)、ジェラルド・ウィギンス(p)、レッド・カレンダー(b)、リー・ヤング(ds) を含むジェラルド・ウィルソンのオーケストラですが、そこへワーデル・グレイ(ts)、スタン・ゲッツ(ts)、ズート・シムズ(ts) がゲストで加わっているのですから、強烈至極です――

09 Hollywood Freeway
 最高に景気の良いアップテンポのビバップ曲で、どうやらバンドの十八番のようです。アドリブソロは2人のアルトサックス奏者が登場し、一方はソニー・クリスに間違いありませんが、もうひとりを付属解説書ではウィリー・スミスとしているのは???です。かなりモダンなプレイヤーなんですが……。
 それよりも、このオーケストラのアレンジと演奏力は最高で、シャープなアタックのリフと膨らみのあるソリが素晴らしい限りです。
 こうして盛り上がりきったところで登場する正体不明のテナーサックスが大力演! ここはクレジットが無いのです。
 それにしても、繰り返しますが、このバンドのアレンジは最高です♪

10 Sea Breeze
 一転して緩やかなテンポの演奏ですが、豊かな音使いのアレンジが、ここでも冴えています。

11 Nice Work If You Can Get It
 さて、ここからいよいよゲストが参加しての盛り上がり大会です。
 まずこの曲はワーデル・グレイがメインで、軽快なリズム隊に乗せられて正統派ビバップテナーの真髄を聴かせてくれますが、それはレスター・ヤング(ts) の影響にチャーリー・パーカー(as) を混ぜ合わせ、ワーデル・グレイだけの「泣き」のフレーズとして完成させた唯一無二の素晴らしいものです。
 3分に満たない演奏ですが、その完璧な出来に観客からは万来の拍手が♪

12 Indiana
 さらに続けてアップテンポで演奏されるこの曲でも、ワーデル・グレイが大活躍です。曲はもちろん、ビバップ創成の源になったコード進行ということで、モダンジャズそのものという展開からワーデル・グレイの流麗なテナーサックスが存分に楽しめます♪
 私はこの人が大好きなので、もう歓喜悶絶ですねっ! 

13 It Had To Be You
 そして次に登場するのはズート・シムズですが、残念ながら不完全テイクになっています。それでも上手くテープ編集が施されているので、短いながらも演奏がきちんと楽しめようになっています。
 肝心のズート・シムズは快調そのもので、流れるようなキーワークと絶妙なドライブ感がたまらないだけに、全く惜しいことです。

14 Out Of Nowhere
 続けて万来の拍手で登場するのが、スタン・ゲッツ! もちろん素晴らし過ぎる演奏を存分に聴かせてくれます。
 あぁ、この歌心と緩やかでいて強烈なタイム感覚には、思わず腰が浮くというか、心底シビレまくりです。これは完全なる天才の証明でしょう♪

15 Hollywood Freeway
 最後は再びビックバンドが登場し、3人のゲストが入っての大爆裂演奏が繰り広げられます。
 それは猛烈なアップテンポの中で地獄のリフが炸裂し、その間隙を縫ってまず登場するのが、スタン・ゲッツです。もちろん全くのマイペースながら、吹くにつれて熱いフレーズが奔流のように溢れ出る様は、最高です。
 そして続くワーデル・グレイは、黒人らしいハードアタックなフレーズと豊かな歌心でグイノリの熱演です。バックから襲い掛かってくるリフ地獄との対決を鮮やかに乗り切るあたりは、ゾクゾクしますねぇ~♪
 さらにズート・シムズが登場する頃には演奏も白熱しきっていますので、リズム隊もかなり意地悪に仕掛けてきますが、全く問題ありません! 否、むしろズート・シムズにとっては待ってましたのプレ・ハードバップというか、異常にモダンなノリを聴かせてくれるあたりは、実はジェラルド・ウィルソンの魔法にかかった証拠かもしれません♪
 こうして向かえるクライマックスは3人の天才テナーサックス奏者による、丁々発止の大バトル大会です! 本当に入り乱れる3者は誰一人脱落する者が当然無く、地獄の釜の熱気のようなオーケストラのバック演奏とゴッタ煮状態で、本当に手に汗握る他は無いのでした。

ということで、これは全く嬉しい誤算というか、意想外に欲しかったオマケが出たような強烈なプレゼントでした。

それはもちろん、後半に収録されたジャムセッションの部分で、普通この年代のライブ録音は音質劣悪なものが多いのですが、これは例外と言える高音質ステレオ録音でした。しかもワーデル・グレイ、スタン・ゲッツ、そしてズート・シムズという偉大なサックス奏者がバトルを繰り広げるという恐ろしさです!

ジェラルド・ウィルソンその人は我国では無名に近い存在ですが、ディジー・ガレスピーのオーケストラとか好きな皆様ならば、気に入ってもらえるでしょう。

そしてこれはもう、個人的には今年の発掘大賞ベストテン候補になっています。機会があれば、ぜひとも聴いてみて下さい。必ず悶絶します。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アンダーカレント

2006-08-28 17:52:26 | Weblog

はてさて、残暑厳しく、かなりヘタリ気味の私ではありますが、こういう時こそ、景気の良いハードバップが必要とされます。そこで――

Undercurrent / Kenny Drew (Blue Note)

晩年はレコード会社に魂を売り渡した! とまで言われほどシャリコマな作品を作り続けたケニー・ドリュー……。そこまで貶されたのも、1950年代のハードバップ全盛期に素晴らし過ぎる演奏を残していたからです。

また1960年代に渡欧してからの活動も、レコーディングには恵まれなくとも、本場で揉まれた底力を現地のミュージシャンやファンに誇示していたことは間違いありません。

このアルバムはちょうどその端境期、渡欧直前に吹き込まれた正統派ハードバップの大傑作盤です。

録音は1960年12月11日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ケニー・ドリュー(p)、サム・ジョーンズ(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という、どこを切っても黒くてパワフルな連中で、演奏されるのは全てケニー・ドリューのオリジナル曲です――

A-1 Undercurrent
 いきなりグリグリにブッ飛ばす強烈なハードバップです。叩きつけるようなリフ、ファンキーなメロディ、ブリブリのベースにビシバシのドラムス、そしてエグ味満点のピアノ! 猛烈なスピード感!
 アドリブ先発のハンク・モブレーも刺激を受けたか、最初から得意のモブレー節も力強く、思い切ったフレーズ展開になっています。
 またフレディ・ハバードは若さに任せた溌剌さと緻密なフレーズの組み合わせで山場を作り、ルイス・ヘイズのドラムスとの遣り取りも完璧です。
 そしてケニー・ドリュー! この爽快なグルーヴは確かに晩年には失われたものでしょう。当時32歳と、最も脂が乗り切る直前の馬力が存分に発揮されています。
 演奏はクライマックスでホーン対ドラムスの直接対決からラストテーマに雪崩込むという、最後までスピードが落ちない熱演になっています。

A-2 Funk-Cosity
 一転、今度は真っ黒なファンキー節が炸裂する魅惑のテーマが始まります。
 このあたりはジャズ喫茶でも、思わず口ずさむ覚え易さが最高で、アドリブパートでも各人が、そのあたりを大切にした熱演を聞かせます。
 まずフレディ・ハバードがスピードとタメのコントラストで勝負すれば、ハンク・モブレーは十八番のタメとモタレに加えて、お約束のフレーズを改ざんしながら、独特のグルーヴを撒き散らします。
 しかしケニー・ドリューが素直ではありません。存分にファンキー節を出せば良いものを、最初、少しカッコをつけて……。ただし中盤からは何時ものペースでファンキー&グルーヴィン♪ ここでのサム・ジョーンズのマイペースなベースワークが逆に光ります。

A-3 Lion's Den
 何とも言えない爽やかなメロディ、そこに秘められた黒っぽさが最高という名曲です。
 アドリブパートでは、その魅惑のテーマを変奏していくフレディ・ハバードが、まず最高♪ こういうモード気味の展開では流れるようなフレーズが、実は考え抜かれている疑惑さえ浮かぶほどの完成度です。
 そして続くハンク・モブレーも歌心とジョン・コルトレーン風の音符過多フレーズのコントラストが抜群に冴えているという、この時期ならではの展開を聴かせてくれますから、たまりません。
 さらにケニー・ドリューも新しめのフレーズと直裁的なノリで勝負! 実はここの3分45秒目あたりでルイス・ヘイズがステックを落としている疑惑も聴こえますが、総じてクールなシンバルワークで煽るという名(迷)演になっています♪

B-1 The Pot's On
 変形ラテンメロディと言うか、ちょっと楽しくて珍しいテーマから、ハンク・モブレーがブワブワ~とアドリブパートに突入していくところが痛快です。もちろんその後も、お馴染みのモブレー節がたっぷりと楽しめます。
 そして続くフレディ・ハバードは無理矢理に突っ込むことは控えつつも、溌剌さを失わない潔さ! ルイス・ヘイズのドラムスも冴え渡ります。
 しかしケニー・ドリューは最初から入れ込んでいます! あの、飛び跳ねるようなノリとスケールアウト寸前のフレーズを駆使して、当にリスナーをKOしようと目論んでいるようです。
 う~ん、それにしても面白い曲ですねっ♪ 要所に仕込まれたファンキーなキメが、抜群の隠し味だと思います。

B-2 Groovin' The Blues
 タイトルどおりにファンキーど真ん中の名曲です。
 そして、こういう展開なら俺に任せろ! とばかりにハンク・モブレーがアドリブ先発で大名演を聞かせるのです。それは分かり易いファンキー節とまろやかなモブレー・フレーズの大博覧会です。
 またフレディ・ハバードも抑制の効いたクールなフレーズに黒さを塗したような、独特の「節」をたっぷりと披露しています。
 さらにケニー・ドリューは、この時期だけの真っ黒なピアノです。それは必要以上のネバリ、暗い情念、満たされぬ想いのようなヘヴィな部分が顕著ですし、続くサム・ジョーンズのハードなグルーヴに満ちたベースソロは、その音色だけで圧巻です。

B-3 Ballade
 オーラスは、初っ端からクラシックの素養をひけらかすケニー・ドリューのソロピアノから始まる、哀切のスロー曲です。もちろんフレディ・ハバードがテーマメロディをリードして、ハンク・モブレーがそこに味をつけるという、素直なアレンジが素敵♪
 そしてアドリブパートはケニー・ドリューの一人舞台! 甘さも存分にサービスされますが、後年ほどリスナーに媚びる姿勢は無く、あくまでも自己との対話、あるいは原曲の深遠化を狙っているディープさが覗えます。
 それゆえにクライマックスで出るフレディ・ハバードのトランペットの清々さは抜群で、そのまんま、変奏されるラストテーマの美しさは絶品なのでした。

というこのアルバムも、原盤はアッという間に廃盤になったらしく、長い間ジャズ喫茶でしか楽しむことの出来ない幻盤でした。

私が本格的にジャズを聴き始めた頃は、ちょうどケニー・ドリューが欧州で吹き込んだ録音がネオ・バップのブームで再評価された時期で、必然的にこのアルバムもジャズ喫茶で鳴る機会が増えていたようです。

しかし何故か、このアルバムの日本盤が出るのは、それから数年先のことで、その間にケニー・ドリューはスタア街道を驀進していましたので、その時はかなりの勢いで売れたと言われています。

ちなみにビル・エバンス(p) とジム・ホール(g) の共演として歴史的傑作盤になっている同名のアルバムがあまりにも有名なため、我国ではこの盤が忘れられたという説があることを、付け加えておきます。

さて、この盤の最高の魅力は、例えば「A-1」に代表される、叩きつけるような音の迫力です。したがって大音量で聴くのが好ましいのですが、それとは別に秘められたファンキー&メロディアスなクールなグルーヴも、また最高という、素晴らしいアルバムだと思います。そして実は、終始冷静なサム・ジョーンズのベースこそ、最高の聴き物なのかも……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クラーク&ボランのDVD

2006-08-27 15:28:58 | Weblog

残暑、厳しいです。なんか疲れが抜けないってのは、歳のせいか……。

ても、そんな無気力症状を吹き飛ばすブツが入手出来ました。それが――

Kenny Clarke - Francy Boland Big Band Live In Prague 1967 (Impro-Jazz)

1960年代のジャズ界は内にモード~フリージャズ、外からはロックやソウルに押され、王道派のジャズメンは本国アメリカに居場所を無くして渡欧する者が大勢いました。

そしてこの時期、欧州のジャズのレベルは飛躍的に向上したわけですが、その中核にあったのが、そうした優れた欧米のジャズメンを結集していたケニー・クラーク&フランシー・ボランのビックバンドです。

その結成の経緯は勉強不足でよく知らないのですが、とにかくオールスタアで構成されたバンドの迫力と演奏能力は、フランシー・ボランの作編曲を完璧にこなして優れたアルバムを何枚も発表しています。

しかしこのバンドが実際にどの程度、ライブをやっていたのか? ライブ盤は発売されていたものの、オールスタアゆえにそれは少なかろうと想像していたのですが、ここに彼等のライブ映像を納めた驚愕のDVDが発売されました♪

その演奏は1967年10月22日、プラハでのステージを68分収録してあります。

気になるメンバーはベニー・ベイリー(tp)、ジミー・ドュウカー(tp)、デレク・ハンブル(as)、サヒブ・シハブ(fl,bs)、ジョニー・グリフィン(ts)、ドン・メンザ(ts)、ロニー・スコット(ts)、オキ・ペルソン(tb) といった超一流の実力者を擁したホーンセクションに、リズム隊がフランシー・ボラン(p,arr)、ジミー・ウッディ(b)、フッツ・サディ(vib,per)、ケニー・クラーク&ケニー・クレア(ds) という物凄さです。ちなみにパッケージにはダスコ・ゴイコビッチが参加しているようにクレジットされていますが、影も形も見えませんので要注意です。変わりに参加しているのが、シェイク・キーンという黒人トランペッターです。

01 My Favorite Things
 ジョン・コルトレーンの十八番として有名なスタンダード曲に果敢に挑戦し、楽しい演奏を繰り広げています。
 アドリブソロはサヒブ・シハブの烈しいバリトンサックに始まり、ファッツ・サディの浮かれたヴァイブラフォン、ドン・メンザの悶絶テナーサックス、そしてベニー・ベイリーの突っ込むトランペットと続きますが、何れも1960年代ジャズらしいモードと歌心探求の狭間にあるものになっています。
 
02 Griff's Groove
 タイトルどおり、フランシー・ボランがジョニー・グリフィンを想定して書いたハードバップですが、演奏の前にイタリア人興行師のジジ・カンピが登場し、以降MCを担当します。一説によればバンド結成には、この人が関与したと言われていますが……。
 で、演奏は何時の間にかスタートするのですが、一応、指揮をするフランシー・ボランのローファイな雰囲気が何とも言えません。フラフラと出てきて、観客に愛想をふらず、指揮も脱力気味というあたりが、映像ならでの見所でしょうか……。
 肝心の演奏はベニー・ベイリーのトランペットがミュートカップの妙技で流石の上手さ♪ 続く主役のジョニー・グリフィンも熱演ですが、バックの演奏が崩れそうで崩れない、ダレ気味のリラックス感が絶妙なグルーヴを生んでいると思います。
 それにしてもフランシー・ボランは照れ屋なのか、愛想の無い人です♪

03 Box 703,Washington DC
 これもダレた雰囲気の中で、何時しかビシッと演奏がスタートするところが凄いと思います。作曲はもちろんフランシー・ボランで、アップテンポの中でソロを聞かせるのは、まずシェイク・キーンがミュートトランペットで奮戦し、フランシー・ボーランが幾何学的なピアノソロで歌心を排除、続くデレク・ハンブルもそれに従いますが、途中で、俺はやっぱり歌心! と思い直して熱くなるアルトサックスが最高です。
 またジミー・デューカーのクールなトランペットとオキ・ペルソンの因数分解的なトロンボーンに続くサヒブ・シハブのバリトンサックスが、逆に熱くなっていく様も痛快でした。
 もちろんバンド全体も烈しいリフでスイングしまくり♪ ファッツ・サディの打楽器が楽しさのスパイスですし、ツイン・ドラムスの突進力も凄いものがあります。
 
04 Here The Good Wind Comes
 清々粛々としたテーマから一転、イカしたメロディが景気良く合奏される、フランシー・ボランの素敵なオリジナル名曲です。
 アドリブソロは、まずサヒブ・シハブのフルートが秀逸! その唸りを含んだグルーヴには惹き込まれます。そして続くのが英国の名手=ロニー・スコットの正統派テナーサックス♪ さらに隠れ名手のアイドリース・シュリーマンが、あまり黒人らしく無い暖かいトランペットを披露するのですから、たまりませんねっ♪
 もちろん最後には、最初と同じ雰囲気に戻るという律儀さが、如何にも欧州のバンドらしくて素敵です。
  
05 Nights In Warsaw
 フランシス・ボーランの代表的オリジナル曲ですが、デレク・ハンブルが少し空回りした熱血アルトサックス、シェイク・キーンは、またまた歌心排除のフリューゲルホーン、サヒブ・シハブは垂れ流し気味のバリトンサックス、ベニー・ベイリーは派手なだけ……、と何故か全員のアドリブに精彩が感じられません。
 しかしツイン・ドラムスを核としたリズム隊のグルーヴとバンド全体のノリは、流石だと思います。
 
06 What A Regal Aspect He Yet Retains
 演奏前にジジ・カンピによるメンバー紹介がありますが、あらためて凄いバンドだと思いますねっ♪
 で、この曲も当然フランシー・ボランの作編曲によるもので、まず本人の現代音楽みたいな完全にローファイで長~いピアノのイントロから、幻想的なテーマが演奏されます。
 アドリブソロのトロンボーンはナット・ペックで、愁いに満ちた表現が素晴らしいと思います。
 
07 Ramo De Flores
 アメリカの進み過ぎた作編曲家だったゲイリー・マクファーランドの名曲を、フランシー・ボランが書き直した演奏で、なかなか楽しいラテン・グルーヴが楽しめます。なにしろメンバーの何人かは打楽器に配置転換されていますから♪
 ただしアドリブソロの無い、短い演奏なのが残念です。

08 I Don't Want Nothing
 ケニー・クラークが書いた、このバンドの演目では最高に楽しい大名曲です。このナツメロ調のメロディとグルーヴは完全に本場アメリカのジャズの底力でしょう。演奏しているメンバーも心底、ノッているようです。
 アドリブパートは、まずサヒブ・シハブのバリトンサックス、次いでアイドリース・シュリーマンの味のトランペットにオキ・ペルソンのオトボケ風トロンボーン、さらにファッツ・サディのヴァイブラフォンが熱演を披露します。
 そしてクライマックスではジョニー・グリフィンの熱血テナーサックスが登場! もうあたりはモダンジャズのグルーヴでいっぱいです。あぁ、楽しいなぁ~♪ もちろん観客からは万来の拍手! バンドメンバーがケニー・クラークに促されてスタンディングの御礼です。

09 The Turk
 そして一転、フランシー・ボランの書いたハードスイングな曲がスタート! ほとんどディブ・ブルーベックみたいな作者のピアノとリズム隊のコンビネーションも鮮やかですが、こうした硬質なグルーヴが当時は先端だったのかもしれません。
 それにしてもビバップの創始者であるケニー・クラークのドラムスとデューク・エリントン楽団でリズムの要だったジミー・ウッディのベースという強力なコンビこそ、このバンドの推進力だったのですねぇ~♪ 演奏はこの後、擬似エリントン・サウンドになっていくのでした。大団円でのベニー・ベイリーのトランペットが鮮やかです。

10 And The Hence We Issued Out To See The Stars
 こうしてステージはクライマックスに突入し、モード丸出しのアップテンポ曲が演奏されます。主役は2人のドラマーで、ケニー・クラークはもちろん、イギリス人のケニー・クレアが必死の大奮戦! 要所で締めるケニー・クラークとのコンビネーションも息がぴったりです。  

11 Kenny & Kenny
 これはもう、ほとんどアンコール的に演奏される2人のドラマーのショウケース♪ 一端、退場したメンバーが戻ってきて盛り上げます。そして最後は、お約束の美女の花束贈呈でフェードアウトするのでした。

ということで、これは吃驚仰天の発掘映像でした。今では夢のオールスタア・バンドの動く姿が観られるだけでも感激なのに、その実態というか、幻級のジャズメンが一同に会しての大合奏! 個人的にはフランシー・ボランの脱力おやじぶりが、あまりにも印象的でした。

あとビックバンド物ということで、これも大音量で楽しまなければ、その真髄が味わえないという恨みが、確かにあります。しかし画質はAクラスですし、メンバーが演奏の合間に私語を交わしたり、微笑んだり、さらに楽譜を落として焦ったりという場面も含めて、これは楽しい映像作品だと思います♪

ただし繰り返しますが、パッケージのクレジットと実際の出演メンバーが違っているのは減点です。ダスコ・ゴイコビッチ(tp) とトニー・コー(ts) は登場しないので、ご注意願います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

変態スイングも楽し♪

2006-08-26 19:15:20 | Weblog

突然降ってわいたような「惑星騒動」の結末が多数決とは、科学の世界も政治と似ているなぁ、と思います。

そこで突然聴いて、目覚める1枚が――

King Size ! / Andre Previn (Contemporary)

今ではすっかりクラシック界の大御所になってしまったアンドレ・プレビンも、最初は凄腕ジャズピアニストとして世に出たと言われています。

実際、残されたジャズ作品は強烈至極で、白人らしい硬質なスイング感とバカテクで解釈されるジャズは、モダンだとかモードだとか、そんな枠を飛越えた凄みが感じられます。

代表作としては、シェリー・マンのリーダー盤「マイ・フェア・レディ (Contemporary)」があまりにも有名ですが、自己のリーダー作も凄すぎるアルバムが沢山! 本日の1枚もその中のひとつにすぎません。

録音は1958年11月26日、メンバーはアンドレ・プレビン(p)、レッド・ミッチェル(b)、フランキー・キャップ(ds) という白人ピアノトリオです――

A-1 I'll Remember April
 モダンジャズでは定番のスタンダード曲を、初っ端から豪快にスイングさせていくアンドレ・プレビンは、やっぱり凄い人です。フランク・キャップのブラシとステックで叩き出されるラテン&4ビートの嵐も強烈ですねっ♪ この人は日本では無視されていますが、西海岸のスタジオワークでは常にトップだった実力者で、ジャズばかりでなく、ロックやソウル畑でも数多くのレコーディングを残しており、その歯切れの良さは絶品です。
 そして主役のアンドレ・プレビンのピアノはアタックの強さ、フレーズの硬さ、幾分タテノリ気味のスイング感が如何にも白人ですが、その猛烈な勢いは誰にも止められません! 一気呵成に駆け抜けていく爽快感が最高です。

A-2 Much Too Late
 一転して演じられるスローブルースは、何とアンドレ・プレビンのオリジナルです。トリオは蠢くようなグルーヴを生み出そうと奮闘しますが、その要がレッド・ミッチェルのベースというところに限界が感じられます。
 それでも少しずつ盛り上がって、ついに3分20秒目あたりからの津波のようなフレーズの積み重ねはド迫力! 怖ろしい破壊力です。また最終章あたりの破壊的ブロックコードも痛快ですが……。

A-3 You'd Be So Nice To Come Home To
 説明不要の人気スタンダード曲を、このトリオは重々しく料理しています。これは少~しばかりオスカー・ピーターソンを意識してのことでしょうか、ドラムスとベースも、その「黄金のトリオ」のアレンジを盗んだような動きを聴かせています。
 しかしアドリブパートではアンドレ・プレビンの破壊的なコード弾き、押しの強さ、強引なフレーズの引き回し等々の得意技が炸裂していきます。
 あぁ、こんな裏切り的名演があるでしょうか!

B-1 It Could Happen To You
 モダンジャズではお馴染みの人気スタンダード曲を、ここでは優しく解釈するアンドレ・プレビンという仕掛けが堪能出来ます。しかし当たり前過ぎてと言うか、個人的にはあまり面白いとは思いません。

B-2 Low And Inside
 またまたアンドレ・プレビンのオリジナル・ファンキー曲です。
 本人はグルーヴィ路線を狙っているのでしょうが、やはり白人丸出しというか、破壊的な部分ばかりが目立った前衛的な演奏になっています。案外、それを狙ったのかもしれませんが、これもあまり面白いとは思いません。

B-3 I'm Beginning To See The Light
 一転して烈しくスイングする演奏です。ネタがデューク・エリントン楽団の当り曲ということで、あまり冒険もしていませんが、真っ向勝負のプレビン節が炸裂する痛快さはたっぷりです。
 それは破壊的なコード弾きとタテノリ、ピシビシッとキマるフレーズの妙、つまりアンドレ・プレビン独特のグルーヴが堪能出来るのです。黒人ジャズ的な粘っこさは微塵もありませんが、こういうジャズが成立してしまうのもトリオの優れた技量ゆえのことかもしれません。
 通常の「スイングする」という意味では解釈不能ギリギリの演奏だと思います。

ということで、一種の変態ジャズかもしれませんが、不思議な気持ち良さが秘められています。

実は私はジャズを聴き始めた頃、このアルバムを聴いて、例えばオスカー・ピーターソンとは似て非なる、その変態度に呆れかえった記憶があります。何だ! 全然スイングしていないじゃないか!? やっぱり白人物は……。

ですから万人向けでは無いと思いますが、ある日突然、これを聴いて不思議感覚に目覚める恐れも秘めた、別格のアルバムだと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コルトレーンを浴びる

2006-08-25 20:14:45 | Weblog

全盛期のジョン・コルトレーンは、猛烈な演奏がウリでした。特にエルビン・ジョーンズやマッコイ・タイナーというタフなメンツを従えて以降は、真に爆発的! それはライブはもちろんのこと、レコードという圧縮された世界から解き放たれる瞬間でさえ、驚愕のエネルギーを発するのです。

私がコルトレーンを聴いて快感を覚えるのは、このエネルギーに身も心も溺れさせられるからなんですが、さて、それは実はジャズ喫茶という、日本独自の空間でのお話じゃなかろうか……? というのが、本日の御題です。

実際、私が初めてジョン・コルトレーンという存在に目覚めたのは、ジャズ喫茶での事ですし、そこで大音量で鳴らされるジョン・コルトレーン全盛期の演奏には、許しがたい暴力性と禁断の愉悦があると思います。

そしてもちろん、レコードを買うわけですが、結局、当時の私の生活環境では大型スピーカーでガンガン鳴らすという当然至極の事が出来ず、ヘッドホーンで聴くのが日常でした。

ですから、私はある時期を堺にジョン・コルトレーンのアルバムは買わなくなり、聴きたい物はジャズ喫茶でリクエスト、というコースを辿ることになります。ちなみに後に、ジョン・コルトレーンはその人気と実力、そして実績に反して、リアルタイムでのレコードの売行きは芳しくなかったという事実を知って、妙に納得!

やっぱり、大音量で浴びるように聴いてこそ、ジョン・コルトレーンのレコードは存在価値があると、その思いを噛みしめたわけです。

なにしろ日本の場合は住宅環境、欧米の場合は、おそらくオーディオ装置の普及が日本ほど贅沢では無いという事情があると思います。例えばイギリスあたりでは、1970年代末頃まで、一般家庭にステレオ装置は珍しく、小さなモノラルのレコードプレイヤーで音楽を聴くのが普通でしたし、アメリカにおいては、失礼ながら黒人層でしっかりしたオーディオを揃えていた家庭は、珍しかったようです。

ですからレコード会社が1960年代のジョン・コルトレーンに穏やかな「バラード」や「歌伴物」を吹き込ませたり、スタンダード曲ばかりのアルバムを強要したのも肯けます。もちろんそれらは大ヒット盤になっていますし、魅力の一端をきちんと楽しめるわけですが……。

で、現在の私は、単身赴任地で山間部に一軒家を借り、小さな集落の木立に囲まれた環境を良いことに、30年以上前に父が凝って集めたオーディオ装置を持ち込み、「ひとりジャズ喫茶」をやっていますので、ジョン・コルトレーンのソフトを買う機会が増えています。本日も――

The Complete 1963 Copenhagen Concert / John Coltrane (Gambit)

以前、別なレーベルから出ていたブツの再発ですが、リマスターされて中低域に厚みのある、ド迫力の音に仕上がっています。もちろん公式音源ではありませんから、モノラルのライブ録音ですが、それが団子状でドッカ~ン! と迫ってくる快感に酔い痴れることが出来ます。

録音は1963年10月25日、コペンハーゲンでのコンサートを収録しています。メンバーはもちろん、ジョン・コルトレーン(ts.ss)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という黄金のカルテットです――

☆Disc 1
01 Mr. P.C.
 スピード感溢れるテーマがカッコ良い、このバンドが十八番のブルースです。
 まず、いきなりジョン・コルトレーンがリードしてテーマが吹奏され、そのまんまマッコイ・タイナー・トリオともいうべきパートが始まります。
 こういう海賊盤の録音では、だいたいマッコイ・タイナーのピアノはオフ気味になっているのですが、ここではしっかりと前面に出たバランスになっていますし、エルビン・ジョーンズのドラムスが、またド迫力!
 あぁ、最高だっ! 私の世代では多分、マッコイ対エルビンという部分で「パブロフの犬」状態では? つまりそれだけで、ジャズを聴いている気分に浸りきってしまうのです。
 こうして5分半近く対決が続いた後、今度はエルビン対ジミー・ギャリソンという、恐いものが待っています。そして完全なべースソロになった次の瞬間、コルトレーン対エルビン・ジョーンズという、待望のお約束があって、いよいよジョン・コルトレーンが鬼神の咆哮! 魂の大爆発です。
 結局こんなの、生演奏か大音量じゃなければ楽しめないと痛感するのでした。エルビン・ジョーンズのヤケクソのブッ叩きが全てかもしれません。

02 Impressions
 これも当時のバンドでは定番メニュー♪ 豪快にモードを使ったアップテンポの演奏で、その展開は前曲同様、テーマの後にはマッコイ・タイナーの全力疾走ピアノが堪能出来ます。もちろんエルビン・ジョーンズのポリリズムとシンバルワークの妙、ジミー・ギャリソンの蠢くベースも強烈です。
 そしてジョン・コルトレーンは16分過ぎにようやく登場し、律儀にもテーマを吹奏しなおしてアドリブに入るのですが、盛り上がったところで残念ながらテープがブチ切れの不完全版なのが、全く惜しいところです。
 
☆Disc 2
01 Promise

 アフリカ調のゴスペルとでも申しましょうか、何とも思わせぶりな始まりですが、アドリブパートでは何時ものコルトレーン・ジャズが楽しめます。と言うか、楽しめますというよりは、苦行を経ての快楽というSM的要素が、この時期のモード~フリージャズの本質かもしれません。
 ここでもマッコイ・タイナー・トリオが露払いを務めた後、ジョン・コルトレーンがソプラノサックスで登場する、その刹那の一瞬が最高ですねっ♪ もちろんその後は白熱のモード地獄が待っています。そして最後には、何とモトネタの「Summertime」を吹いていまうオトボケも憎めません。
 
02 Afro-Blue
 これも当時の定番中の大定番! ジョン・コルトレーンのソプラノサックス、ここにあり! なんですが、またまたマッコイ・タイナーが先導するあたりに、マンネリが感じられます。
 しかしエルビン・ジョーンズが炎のドラムスで鬼のように煽りたてますから、聴いている私は感極まって……♪ これがジャズです! 大音量で聴かなければ、バチが当ります!

03 Naima
 コルトレーンのと言うよりも、今やモダンジャズを象徴する名曲となった静謐なバラードですが、かなり混濁したものが出るようになっていた当時のバンドですから、タダではすみません。
 後半になるとジョン・コルトレーンが独り善がりに力み、リズム隊が呆れかえるという展開になります。そしてそれゆえに、ラストテーマの吹奏が、より荘厳になるという仕掛けが、あざとさ満点! 個人的は大好きな仕掛けです♪ 

04 My Favorite Things
 そして大団円は、これが出なけりゃ収まらないという、ジョン・コルトレーンが生涯のヒット曲です。もちろん原曲は有名ミュージカルからのスタンダード曲ですが、曲そのものは、ジョン・コルトレーンが演奏してから有名になったという経緯があるようです。
 ここでの演奏は何時もの展開同様、テーマの変奏からマッコイ・タイナーの暗くて饒舌なピアノソロ、そしてジョン・コルトレーンがバンドを従えて痙攣&爆裂の心情吐露に終始します。そしてそれが唯一無二の快感に繋がるところが、この当時のバンドの凄さだと思います。

ということで、演目そのものについては、毎度お馴染みの事しか書けないほど、完成された展開になっています。出来・不出来の評価も、この当時の一連のライブ録音の中では平均点というか、そのレペルは永遠不滅の領域まで達していますから、素直に聴いて納得のバージョンばかりです。

ただし個人的な鑑賞法では、前述したとおり、大音量で聴いて感銘という部分を楽しんでいるので、現在の境遇には感謝するところ♪ 結局、若い頃に出来なかった事のリベンジとして、このCDを買ったわけです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1970年代型ウッズ

2006-08-24 19:15:05 | Weblog

1970年代のジャズは、やはりフュージョンが主流だったわけですから、それまでアドリブ命の王道を歩んできたミュージシャンがフュージョン物を出したからと言って、軟弱とか変節の謗りを受けるのはスジ違いなんですが、現実と世間は厳しいものがありました。

特にジャズ喫茶という文化がある日本では、歌やコーラス入りのフュージョンは露骨にロックやソウルと繋がってしまうので、それがどんなにカッコ良い演奏でも、困った存在でした。

またストリングスやオーケストラを大々的に導入した作品も、作り物と軽視されていたのです。

さて本日の主役フィル・ウッズは、皆様良くご存知のとおり、ハードバップ時代からアドリブ命! ブリブリのアルトサックスでチャーリー・パーカー伝来のモダンジャズを守っていたガチンコ野郎でしたから、フュージョン全盛期の1970年代中頃に大手レコード会社のRCAと契約して発売した一連のアルバム、つまりストリングスやブラスを大胆に入れ、甘い楽曲を演奏し始めた頃は、フィル・ウッズ、お前もか!? と決めつけられたひとりです。

そしてこの作品も賛否両論、いろいろと言われたのですが――

The New Phil Woods Album (RCA)

某ジャズ喫茶でマスターが仕入れて来たピカピカの新譜として鳴らされた時に、その場に居たので個人的には思い出深いアルバムですし、一聴、気に入った演奏がありました。

録音は1975年10~12月、メンバーはフィル・ウッズ(as,ss)、マイク・メリロ(key)、スティーヴ・ギルモア(b)、ビル・ゴッドウィン(ds) という当時のレギュラー・カルテットを核として、サム・ブラウン(g)、ラルフ・マクドナルド(per)、チャールズ・マクラッケン(cello)、さらにブラス&ストリングス・セクションを加えています。ちなみにオーケストラ・アレンジは Emile Charlap とされていますが――

A-1 The Sun Sutie
 いきなり不安感いっぱいのストリングが出てくるので嫌な予感に満たされるのですが、すぐにフィル・ウッズの情熱のアルトサックスが空回りしそうなテーマを吹奏してくれるので、ホッとします。
 しかしバックのストリングとブラスの重厚な響きが支配的ですし、エレピの使用がフュージョンどっぷり、さらにリズムも16ビート疑惑を秘めています。
 あぁ、やっぱりフィル・ウッズも……、と思った次の瞬間、あの猛烈なウッズ節が炸裂して演奏はカルテットによる猪突猛進に転じるのですから、たまりません。
 エレピを弾くマイク・メリロは当時の新進気鋭で、全くの無名でしたが、センスの良さ、ジャズ魂は本物だと感銘した記憶も鮮やかです。また、このあたりのブラス&ストリングのアレンジも嫌味がありません。
 さらに次の展開が、往年のヨーロピアン・リズムマシン風の正統派ジャズロックになり、ラテンビートも包括した爆発的な演奏になるのですから、ドギモを抜かれます。リズム隊も軽めな録音ながら馬力が感じられますし、最後の正統派4ビートの場面なんか、手拍子・足拍子状態になりますよ♪ もちろんフィル・ウッズは力み満点、鳴り過ぎアルトサックスの本領発揮です!

A-2 At Seventeen / 17才の頃
 一転して爽やかに演奏されるのが、同時期にジャニス・イアンの歌でヒットしていた「17才の頃」です。しかもボサノバ・アレンジでメロウに展開されるのですから、グッときます。ゲスト参加のサム・ブラウンの生ギターやラルフ・マクドナルドのパーカッションも控えめながら楽しく、マイク・メリロのピアノも歌心がたっぷり♪
 最高の気持ち良さですから、この演奏は当時、ラジオや有線でも頻繁に流されていましたですね♪ 流石フィル・ウッズ、この味はビリー・ジョエルの「素顔のままで」の間奏に繋がっています。

A-3 Gee
 またまた重厚なブラス&ストリングスを従えた演奏ですが、ここではピアニストのマイク・メリロが主役になっています。つまりそれほど、この人はリーダーから信頼されていた証で、これ以降、フィル・ウッズのバンドでは要として活躍していくのですが、この曲は自作自演、アレンジまでも手がけていますし、多分これが初レコーディングと言われています。

B-1 B Side D
 さてB面はふくよかなストリングの響きでスタートする、これはそれだけの演奏です。

B-2 Chelsea Bridge - Johnny Hodges
 有名なデューク・エリントン楽団のヒット曲、そしてそのバンドのスタアだったアルトサックス奏者のジョニー・ホッジスに捧げられたフィル・ウッズのオリジナル曲がメドレーで演奏されます。
 まず前者はゆるかやなテーマ吹奏から徐々にビートを強め、アドリブパートではフィル・ウッズのアルトサックスが激情を存分に吐露! 要所で入るアレンジされたブラスのリフも効果的です。
 そして後者は、このアルバムの人気曲♪ しかも珍しや、フィル・ウッズのソプラノサックスがたっぷりと楽しめるのです。あぁ、このテーマの軽快な楽しさ、フィル・ウッズ自身が多重録音したと思われる「ひとりフォー・ブラザース」のサックス合奏パートも最高です。
 肝心のソプラノサックスは、もちろん基本のアドリブフレーズはアルトサックス吹奏時と全く変わりなく、「泣き」と「情熱」を連発してくれますから、初めて聴いた瞬間から、私は歓喜悶絶でした。もちろん何度聴いても不思議と泣けてくる演奏で、全くジャズを聴く喜びに満ちていると思います。

B-3 Body And Soul
 これもモダンジャズでは使い古されたネタではありますが、この有名スタンダードのキモを、これだけ上手く料理するフィル・ウッズは、やはりアドリブの天才だと思います。
 もちろん情熱たっぷり、唸りと力みが存分に出ていますから、好き嫌いは別れると思いますが、私はやっぱり好き♪ としか言えません。

B-4 Mimi
 小粋な楽しさに溢れたスタンダード曲ですが、こういう隠れ名曲を探してくるフィル・ウッズのセンスに、まず脱帽です。もちろん演奏は快適至極、ソプラノサックスの妙技と歌心が堪能出来ます。
 リズム隊も絶好調で、正統派ハードバップの真髄を追及してるのですから、演奏時間の短さが残念でなりません。

B-5 Sacre Coeur
 オーラスは、再び荘厳なブラス&ストリングが導入されたフィル・ウッズのオリジナル曲です。しかも擬似ボサノバのリズムとか、もったいぶったリーダーの熱いアルトサックス、不気味なセロの絡み……等々が、徐々に楽しいものに変化していく様がジャズっぽさの極みになっているようです。
 また、ここでもマイク・メリロのエレピが大活躍♪ 全体のどこを切ってもフュージョンになっていますが、こういうジャズがあっても許せる雰囲気が濃厚だと思います。

ということで、これはフュージョン全盛期に出た、極めてジャズ色の強い1枚です。もちろん多重録音という、ガチガチのジャズ愛好者にとっては忌み嫌う手法が用いられていることから、一部ではフィル・ウッズも地に落ちたとまで言われたらしいのですが、私は気になりません。

否、むしろ、その部分こそが徹底的にフィル・ウッズらしさが楽しめところだと思っています。例えば、繰り返しになりますが「Johnny Hodges」における「ひとりフォー・ブラザース」のパート等は、心底ゾクゾクするのです♪

そしてフィル・ウッズは、この時期、同傾向のアルバムを何枚か作り、グラミー賞まで獲得していますが、その日常的ライブ活動では、このセッションでも共演したメンツによるレギュラー・バンドを従えて、アドリブの至芸を追求した正統派モダンジャズを聴かせていました。そしてそういう集大成的なライブ盤まで、同社で製作しているのです。

ソフト&ハード&メロウな1970年代型フィル・ウッズこそ、もしかしたら全盛期なのかもしれません。

ちなみに現在、紙ジャケット仕様のCDで復刻中です。機会があれば、聴いてみて下さいませ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どっちもどっち?

2006-08-23 20:01:24 | Weblog

アナログ盤にはA面とB面があって、当然のことながら、片面ずつしか聴けないわけですから、その印象は面毎に違ってきますし、それゆえにアナログ盤独自の緊張感というものがあるのです。

例えばA面を聴いて気に入れば、そっちばかりを聴くことが多くなり、B面が粗略に扱われたりするのですが、ジャズ喫茶の場合、それが特に顕著で、リクエストするにしてもサイドを指定するか、店にお任せするかで、運命が別れたりするのです。

一番いけないのは、購入する前にどちらか片面を聴いて、それが自分の好みでなかったりすると、もう購買意欲はどこへやら……。

まあ、このあたりは、限られたお金でコレクションを増やそうとする者には避けられない厳しさではありますが、本日の1枚は私にとっても、それでした。

Pit Inn / Cedar Walton (East Wind)

当時からジャズ喫茶族を中心に人気が高いピアニストのシダー・ウォルトンが、来日した時の新宿「ピット・イン」公演から製作されたライブ盤です。

録音は1974年12月23日、メンバーはシダー・ウォルトン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という、オールスター・トリオですが、実は当時、ちゃんとレギュラーで活動していただけあって、纏まりは最高です――

A-1 Suite Sanday
 タイトルどおり、一応、組曲形式を目論んだ演奏で、ラテン、ゴスペル、フォーク、スローバラードなんかが、脈略無く連なっています。後半にはビリー・ヒギンズのドラムソロも仕込まれていますが、聴いている私には煮えきらず、熱くなれない展開でした。う~ん、???なのです。

A-2 Con Alma
 レイ・ブライアントの決定的名演があるモダンジャズ曲で、ラテンリズムも鮮やかに演奏されるのですが、これもイマイチ、ノリきれません。個人的には烈しい指使いの強烈なグルーヴを求めていたのですが……。
 サム・ジョーンズのベースも音色を含めて空々しく、ビリー・ヒギンズを中心としたリズムとビートの仕掛けも虚しく響くのです。
 決して演奏そのものがダメではないのですが、空ろな愛とでも申しましょうか……。

A-3 Without A Song
 楽しいはずの有名スタンダード曲ですが、これも燃えませんというか、現代ならば萌えませんと書くべき演奏です。
 最初はシダー・ウォルトンが全くのソロで曲を引っ掻き回し、ドラムスとベースを従えてからは懸命にスイングしようと試みるのですが、歌心はどこへやら……。しかもトリオの3者の思惑がズレているような演奏に終始しています。
 実はこのアルバムには、個人的にかなり期待していたので、もう、ここまでの3曲、つまりA面を聴いただけで、これは買うのや~めた! 状態です。

B-1 Suntory Blues
 ところが、そんな思いが霧散するのが、この演奏です。
 曲はシダー・ウォルトンのオリジナルで、もちろん某洋酒メーカーに捧げられたブルースですが、黒っぽいのに臭味が無いという、なかなか不思議な魅力があります。しかもグルーヴィなんですねっ♪ ジャズロック・ワルツみたいなビートも素敵ですが、全員がメロディを大切にした演奏に撤しているようです。
 ちなみにこのアルバムは発売された頃にジャズ喫茶で聴いたわけですが、最初にA面聴いてガックリ、別に店でB面聴いて歓喜悶絶という局面に、この演奏があったというわけです。もちろんアルバムは即お買い上げ♪

B-2‘Round Midnight
 モダンジャズではあまりにも有名なド定番曲ですから、生半可な演奏ではリスナーが納得しないということで、シダー・ウォルトン以下トリオの面々は、まずストレートにテーマメロディを出した後、テンポを上げてグイノリのハードバップに仕立て上げています。
 ただし無分別という事では無く、ちゃ~んと原曲のミステリアスな雰囲気が大切にされていますし、シダー・ウォルトンの弾き出すフレーズには先進性も感じられるのでした。

B-3 Fantasy In“D”
 これこそシダー・ウォルトンの代表作で、若手有望株としてジャズ・メッセンジャーズに在籍していた頃に「雨月」というタイトルでレコーディングも残されたモード曲です。
 それは幻想的な響きとハードバッブの楽しさが融合した素敵な演奏でしたが、ここでもその味は健在で、アップテンポでバリバリ弾きまくるシダー・ウォルトンは、全く爽快です。もちろんテーマメロディの変奏的な部分を含んだアドリブになっているので、どこまでもモードの中の歌心が楽しめます。
 またベースのサム・ジョーンズがキメのフレーズを入れてアクセントを強調すれば、ビリー・ヒギンズは例によって歯切れの良いシンバルと小刻みにグルーヴするスネアのコンビネーションで勝負していますから、演奏は何処までも高みの昇りつめん勢いに溢れているのでした。
 これこそ1970年代ジャズ、というよりもジャズ喫茶の音なんですねぇ♪

B-4 Bleeker St. Theme
 鳴り止まない拍手の中、このトリオのバンドテーマが楽しく演奏され、観客は手拍子で参加するというノリノリ大会です。
 それと言うのも前曲の出来が上出来だったからに他ならず、つまりB面全体のグルーヴィな雰囲気が、ここに終結する展開だと思います♪
 もちろん演奏中のメンツ紹介は観客から大歓声で盛り上がり、熱い雰囲気でアルバムも終了するのでした。

ということで、あくまでも個人的な感想ですが、どうしてこのアルバムはこんなに両サイドの印象が違うのでしょう。「印象」と言うよりも「出来」と言うならば、コンサート終盤を収めたB面が盛り上がっているのも当然の結果ではありますが!

ですから、私はB面ばっかり聴いていて、ある日、思い出したかのようにA面を聴いて???な気分に陥る繰り返しを、今日までやっています。

ある特定のアルバムについて、どちらの面を鳴らすによってジャズ喫茶の個性が現れるというのは、ジャズ者にとっては暗黙の了解ですが、この作品なんかどうなんでしょう……。

発売された頃に集中的に鳴らされて以降、ほとんど聴いた記憶が無いのですが……。おそらく大方の店では、レコード棚にひっそりと死蔵されているんでしょうねぇ、ちょっと淋しいなぁ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベイシー対ミルト

2006-08-22 19:57:19 | Weblog

今年の甲子園大会決勝戦、再試合の最後の最後でエース対決とは、台本があっても演出出来ない運命の対決でしたね♪

結果はともかく、こういう勝負のアヤを楽しむのがスポーツ観戦の醍醐味だと思います。

翻ってボクシングの亀田チャンプは、元王者と再戦するらしいですが、前回のインチキがありますから、次にどんなに良い真剣勝負をやっても、また八百長だろう! まあ、上手くなったねぇ、八百長がっ! と言われてしまうでしょう。

それが勝負の世界、勝負をナメタ者に対する世間の見方です。

ということで、本日の1枚は対決も自然体でやれば和むものという――

Milt Jackson + Count Basie + The Big Band Vol.1 (Pablo)

天才ヴァイブラフォン奏者のミルト・ジャクソンは、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)という有名なレギュラーバンドをやっていながら、他流試合の多い人です。それだけジャズ界では飛び抜けた実力と汎用性を身につけていた証なんでしょうが、何時如何なるセッションでも、ミルト・ジャクソンという個性を失うことが無いのは、天性の資質というところでしょうか。

このアルバムはカウント・ベイシー・オーケストラと吹き込んだ傑作盤で、所謂スタアの競演♪ しかも製作が1950年代に多くのオールスタア物を出していたヴァーヴレーベル直系のパブロということで、隅々まで行き届いた仕上がりになっています。まず演目が最高なんですねぇ~♪

録音は1978年1月18日、メンバーは一方のスタアとしてミルト・ジャクソン(vib)、対するカウント・ベイシー楽団はカウント・ベイシー(p)、フレディ・グリーン(g)、ジョン・クレイトン(b)、ブッチ・マイルス(ds) という強力リズム隊を核に、一騎当千のブラス&リード陣が顔を揃えています――

A-1 The Come Back
 1950年代のカウント・ベイシー楽団のスタア歌手=ジョー・ウィリアムスの十八番だった変則ブルースです。ここでの演奏はオリジナルのアレンジを大切にしながら、このバンドだけのイナタイ雰囲気と緩やかなノリを聴かせてくれます。
 それはまず、リズム隊だけでペースを設定し、要所でホーン隊が参加していくというお約束ですが、ミルト・ジャクソンはそのグルーヴを掴みきり、自然体でアドリブに滑り込んでいく瞬間で、もうゾクゾクしてきます。そして全体に真っ黒な雰囲気が横溢したところに登場するテナーサックスは、エリック・ディクソン! この人のタフなところも素敵です。
 演奏はこの後、再びミルト・ジャクソンがファンキーなキメを連発し、ミュート・トランペットの絡みを従えて盛り上がっていくのでした。

A-2 Basie
 一転して高速4ビートでバンドが咆哮し、ミルト・ジャクソンがリフを縫って強烈なアドリブを聴かせてくれる、本当に豪快な演奏です。
 原曲は1960年代からカンウト・ベイシー楽団が十八番にしていたモダンなネタだけに、ミルト・ジャクソンもツボを外していません。
 そしてそれをがっちり支えるのが、フレディ・グリーンのリズムギターとブッチ・マイルスのキメまくりドラムスです。もちろんカウント・ベイシーのブギウギ系ピアノにも腰が浮きます♪ あぁ、何度聴いても最高です!

A-3 Corner Poket
 これまたカウント・ベイシー楽団を代表するヒット曲で、このバンドでは一番人気のギタリスト=フレディ・グリーンの作編曲が冴えまくる永遠の定番です。
 となれば、歌心優先のミルト・ジャクソンのアドリブが悪いわけが無く、どこまでも歌になっているバンドの演奏と一体となった名演が繰り広げられています。もちろんフレディ・グリーンのリズムギターも最高♪

A-4 Lady In Lace
 ミディアムテンポで膨らみのあるグルーヴが魅力の、これはもうカンウト・ベイシーのバンドでなければ出来ないノリの中で、ミルト・ジャクソンが奮闘しますが、ここではバンド側の判定勝ちでしょうか……。

A-5 Blues For Joe Turer
 ここでの演奏はリズム隊&ミルト・ジャクソンというコンボ形式です。
 全体が、当然カウント・ベイシーの「間の芸術」的なピアノを中心として進みますので、ミルト・ジャクソンも最高のブルース・フィーリングでこれに応えるあたりが、スリルと寛ぎのジャズの喜びに満ちているのでした。

B-1 Good Time Blues
 これも1960年代からカウント・ベイシー楽団では十八番になっているブルースで、まずはリズム隊だけの演奏からスタート♪ フレディ・グリーンのリズムギターが冴え、ジョン・クレイトンのベースが唸り、ブッチ・マイルスが淡々とビートを送り出す中、カウント・ベイシーのピアノが切り詰めた音符で最高のブルースを聴かせてくれますが、こういう思わせぶりが、次の興奮を呼び起こすという最高の仕掛けになっているのです。
 するとミルト・ジャクソンが倍テンポまで持ち出してモダンなブルースの対比を聴かせるという、芸の細かさと大サービスの展開です。
 そしてクライマックスは痛快なホーン陣の合奏とリフの嵐! 

B-2 Lil' Darlin'
 これまたカウント・ベイシー楽団の大ヒット演目で、超スローなタメとグルーヴは、当にこのバンドだけの持ち味というところです。
 そしてミルト・ジャクソンもまた、スロー物が大得意とあって、全く余人のつけ入るスキが無い演奏を聴かせてくれるのです。
 お約束のフレディ・グリーンのキメも鮮やかですし、膨らみのあるアンサンブルにミルト・ジャクソンのヴァイブラフォンがどこまでも優しく響くという、心に染み入る仕上がりです。

B-3 Big Stuff
 いきなりカウント・ベイシーの一人舞台というピアノがたっぷりです。そして続けてドラムスとベースを従えてのトリオ演奏から、いつしかバックにはド迫力のリフをつけるオーケストラが!
 後半に入ると、さらに自然にミルト・ジャクソンが登場しているという、何だか魔法のような演奏ですが、鉄の結束というカウント・ベイシー楽団に外様のミルト・ジャクソンが違和感無く融け込んでしまうあたりに、両者の懐の深さが感じられます。

B-4 Blue And Sentimental
 カウント・ベイシーが書いた、これも永遠の「せつない系」名曲です。
 もちろんスローからミディアムテンポの中で、如何に元メロディを膨らませ、美メロアドリブを披露するかが勝負の分かれ目でしょうか。
 ここでのミルト・ジャクソンはテーマの変奏を主体にしながら絶妙な歌心を発揮しています。
 ちなみにこれもコンボ演奏ですが、あぁ、それにしてもフレディ・グリーンの存在感の強さ!

ということで、個人的には好きな作品なんですが、ガチガチのベイシー楽団ファンからは評判が良くないと言われています。まあ、ミルト・ジャクソンがでしゃばり過ぎという雰囲気も濃厚ですからねぇ……。

ただしこの時のセッションは、かなり快調だったようで、このアルバムの続篇「Vol.2」も発売されています。

しかし現行CDのマスタリングはイマイチじゃないでしょうか? 何とか日本の素晴らしい技術でリマスターを熱望しているのですが……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする