OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

春も近いが流氷を聴く

2006-02-28 20:17:04 | Weblog

またまた仕事が地獄に突入です。そこで本日は思い出話シリーズとして、この1枚を――

流氷 / 日野元彦 (three blind mice)

アドリブという瞬間芸に生きるジャズメンは、やはりその場の雰囲気に敏感だと思います。ですから、自分の演奏の場の熱気とか和やかさがダイレクトに演奏に反映してしまう場合が少なくありません。

実は私は以前、1970年代のことですが、新宿のあるライブハウスへ某有名ジャズメンの生演奏を聴きに行った時、なんとお客が私を含めて4人という惨状に曹禺したことがあります。しかもその為としか思われない結果として、お目当ての演奏者が完全にヤル気を無くしたやっつけ仕事を見せつけられました。何しろ自分のソロパートをソソクサと終えると、客席に陣取って酒を飲むその姿は、とてもリーダー盤を出しているミュージャンとは思えず、私は失望させられたのです。しかも、そんな状況ですから、4人しかいない客の内、2人が早々と帰ってしまって、本当に居たたまれない雰囲気でした。

ところがステージでは、若手中心のサイドメン達が修練の場と覚悟したかのように、稚拙な部分も露呈しながら、懸命の演奏を展開してくれたのが救いというか、今でも鮮烈な記憶になっています。

さて、この「流氷」というアルバムは、北海道は根室のジャズファン達が集う「ネムロ・ホット・ジャズ・クラブ」が1976年に主催したコンサートをライブ録音した音源から製作されたものです。

ジャズという音楽はその当時、日本では大衆的な人気を失っており、またフュージョン・ブーム前夜ということで、その存在は非常に厳しいものでしたし、また地方では一流プレイヤーの生演奏に接する機会もあまりないということで、逆に熱烈な思い入れがあったものと推察しております。

このあたりの事情は付属解説書を読んでいただければ、私の文章など余計なのですが、実際、発表されたこのアルバムの演奏は素晴らしいの一言で、それはその場の温かくて、さらに熱い雰囲気、一期一会というジャズの本質と同義の瞬間を見事にとらえた傑作盤になりました。

メンバーは日野元彦(ds) をリーダーに、山口真文(ts)、清水靖晃(ss,ts)、渡辺香津美(g)、井野信義(b) という当時の中堅~若手のバリバリを揃えていますが、山口真文は特に当日のスペシャル参加という以外はレギュラーのバンドということで、その息の合い方は最高です。ちなみに録音は1976年2月7日、つまり厳冬の釧路は流氷の街ということで、アルバムタイトル曲は決定されたようです。その内容は――

A-1 流氷 / Sailn Ice
 ちょっと日本の土着的なメロディとリズムを含んだ重量感満点のオリジナル曲です。と書くと、なんだ、日本人丸出しのズンドコか……、と思われがちですが、ここではそれを逆手にとったポリリズムのウネリが素晴らしく、演奏は怖ろしい深みから宇宙に昇天していくのです。
 この手の演奏は、当時のエルビン・ジョーンズ(ds) のバンドに範を取ったことは否定出来ませんが、既に述べたように正統派4ビートが完全に勢いを失いつつあったこの頃のジャズ界において、ここで聴かれるような純粋ジャズのグルーヴは本当に貴重で、しかも大名演なのですから、たまりません♪
 それはまず、ギター、ベース、そしてドラムスのビシッとキマッたペース設定に導かれた2管で豪快に吹奏される和風モードのテーマから、先発のテナーサックス・ソロが山口真文です。そのスタイルはコルトレーン派どっぷりながら、その真摯なジャズ魂はなかなか快感です。そしてキメのリフを挟んで次は当時の若手注目株だった清水靖晃が、これもバリバリのコルトレーン派という真髄を聴かせます。
 この両者の比較としては、山口真文がどちらかというとソニー・ロリンズ(ts) やウェイン・ショーター(ts) の影響までも含んだ王道ジャズ派なのに対し、清水靖晃はアーチー・シェップ(ts) あたりのフリー派や、この当時、にわかに人気が出てきていたマイケル・ブレッカー(ts) というジャズロック・フュージョン派の影響を取り込んだ過激な部分が魅力です。したがって、ここでも若さにまかせて情熱を思いっきり吐露しています。バックの日野元彦や渡辺香津美の煽りも激烈で、客席は興奮のルツボ♪ 演奏途中の山場で湧き上がる拍手や指笛の大喝采が、臨場感満点に録音されています。
 さらに凄いのが渡辺香津美のギターで、その鮮烈なソロで聴いているこちらは完全に宇宙に昇天させられます。もちろん日野元彦のドラムスも大爆発、その背後で的確にビートを刻みつつ絡んでくる井野信義のベースも大地の蠢きで、素晴らしいコントラストを描いているのでした。このあたりの盛り上がりは、本当に日本が世界に誇る名演だと思います。そして大団円は日野元彦の大車輪ドラム・ソロで、会場のお客さんととも、スピーカーの前で思わず拍手、拍手♪

A-2 Soultrane
 早世したモダンジャズの天才作・編曲家であるタッド・ダメロンが、ジョン・コルトレーンとの共演盤のために書き下ろした哀愁の名曲です。もちろん個人的にも大好きな1曲で、白状するとこのアルバムのお目当ては、この曲でした。
 で、これがその期待に違わぬ大名演♪ 何しろ一人舞台で熱演するテナーサックスが完璧です。ちなみにこのソロは2人いるプレイヤーのどちらか、アルバム解説には明記されておらず長年の疑問でしたが、幸いにもコンサート主催者である「ネムロ・ホット・ジャズ・クラブ」の皆様とネットを通じて連絡がつき、教えを請うての正解は山口真文です。
 なにしろその演奏が、哀愁を押さえて静謐なテーマ演奏から徐々に盛り上げ、もちろんコルトレーン派のフレーズを駆使して激情を爆発させていくのですから、たまりません♪ しかもそのバックでリードするのが日野元彦の繊細なブラシとパワー満点のシンバル、この重いビートのドラムスも最高! ですからアドリブパートでの山口真文の構成力も素晴らしく、タメのある思わせぶりな泣きのフレーズ、所謂シーツ・オブ・サウンドによる豪放な心情吐露は何度聴いても飽きません。特に4分22秒目あたりから執拗に音符を集中させて重苦しく空気を充満させ、5分6秒から一気開放していくあたりは悶絶です。バックで炸裂する日野元彦のトドメの一撃も強烈!
 さらに続く渡辺香津美が素晴らしく透明感のあるソロで泣かせてくれます。それは驚異の早弾き、完璧なオクターブ奏法を含むもので、このあたりは山口真文のソロのバックでも存分に発揮されていますので、ぜひともじっくり聴いていただきたい快演です。
 そして演奏はラストテーマからお約束のテナーサックス無伴奏ソロで、有終の美を飾るのでした。おそらく世界的に聴いても、この曲の最良の演奏バージョンのひとつが、これだと思います。

B-1 New Moon
 宇宙的な広がりが演じられるこの曲は、エルビン・ジョーンズのバンドの看板だったスティーヴ・グロスマンの作曲になっていますが、この当時の正統派モダンジャズの若手プレイヤーはこのあたりの人脈の演奏を目標にしていたという証左でしょうか。実際、コルトレーン伝来のモード系ジャズにロックの影響を加味した演奏が、当時の最新スタイルでした。しかしそれはフュージョン・ブーム前夜ということで、あくまでも硬派であり、それが宇宙的な広がりという側面へ流れていたのだと思います。それはもちろん、当時バリバリの最先端を疾走していたウェザー・リポートの影響も無視出来ないところです。
 で、ここでは渡辺香津美がテーマの前の宇宙的なサウンドをリードして、アドリブパートでは、まず清水靖晃がソプラノサックスで熱演を披露します。そして続く渡辺香津美がロック的な味を含みつつも徹頭徹尾ジャズで勝負したギターを聞かせてくれますが、それにしてもこの曲での日野元彦のドラムスは細かいところまで、熟達の技の連発です。
 それは続く怒涛のドラムソロでも全開で、全くスキがありません。もちろんリズム的には破綻している部分が無いとは言えませんが、それすらも物凄いポリリズムに昇華してしまう日野元彦は素晴らしいドラマーです。残念ながら、終生、経済的にも大衆的な人気にも恵まれたとは言いがたいのですが、その実力と情熱は、ジャズ者にとっては永遠のエピタフでしょう。それがしっかりと刻まれているのが、このアルバムです。

ということで、これは日本が世界に誇る大名盤! と本日も言い切ってしまいます。ちなみに現行CDには同一コンサートから2曲が追加されていますが、実際のステージではアンコールを含めて全10曲が演奏され、その全てが録音されているようです。ただし残念ながら、録音状態や演奏の出来等々から、オクラ入りしているのが現状とのことです。

しかしこれだけの演奏が繰り広げられたライブですから、オクラ入りしている他の曲だって悪いはずが無い! というのはファン共通の思いであります。ぜひともコンプリート盤の発売を熱望しておりますが、それにしてもこの時の生演奏を聴かれた根室のファンは幸せだと思います。それは演奏者といっしょにこのアルバムを作り出したということでもありますが、単に歓声・拍手を入れているということ以上に、その場の雰囲気を盛り上げて快演を引き出した情熱の表れでもあります。そしてそれこそが、ジャズ者究極の楽しみではないでしょうか……。

今回、この項を書くにあたっては、その「ネムロ・ホット・ジャズ・クラブ」の皆々様に多大なるご指導・ご協力を頂きましたが、その全てをここに出すことは、残念ながら出来ませんでした。しかしこのアルバムについては、まだまだ書きたりませんので、いずれ本サイト「サイケおやじ館」の中の「電脳Jazz喫茶」で取上げたいと思っています。

ちなみに「ネムロ・ホット・ジャズ・クラブ」のHPはこのブログからブックマークしてありますので、ぜひとも訪れてみて下さいませ

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宴会芸新定番

2006-02-27 16:49:46 | Weblog

土曜日に出席したある宴会で、早くも荒川静香ネタが炸裂しました。なぁ~に、パインの輪切りに赤いバンダナ通して金メダル、そのまんま、反りかえってのイナバウア~というだけなんですが、これが早くも流行の兆し! 帰りの電車の中で、つり革につかまってイナバウア~と叫び、エビ反りやっている酔っ払いがいましたです♪

ということで、本日の1枚は――

In A Mellow Mood / Buddy DeFranco (Verve)

脇にいても自己主張出来るのが、ジャズの良いところ♪ ですからファンはサイドメン目当てにアルバムを買ったりします。

私にとってのこの作品もそうした1枚で、お目当てはソニー・クラーク(p) の参加です。この人はアメリカでは不遇のうちに麻薬中毒で早世していますが、日本ではウルトラ級の人気がある黒人ピアニストで、幸いにもレコーディングもかなり残していますので、集め甲斐があるというものです。

このアルバムはソニー・クラークがまだ西海岸で活動していた時期のもので、メンバーは白人天才クラリネット奏者のバディ・デフランコをリーダーとして、ソニー・クラーク(p)、ジーン・ライト(b)、ボビー・ホワイト(ds) というカルテット編成、つまりワンホーン物のということで、ソニー・クラークのピアノもたっぷりと聴くことが出来ます。ちなみに録音は1954年9月1日で、その内容は――

A-1 The Bright One
 景気の良いビバップ曲で、クレジットはドリュー&デフランコとなっていますが、これは例えばジャズ・メッセンジャーズのテーマにも使われている、まあ当時のモダンジャズの世界では定番だったのでしょう、いろいろなタイトルで多くのジャズメンが演奏しているお馴染みのナンバーです。
 ここでの演奏はアップテンポの痛快なハードバップになっており、バディ・デフランコは超絶テクニックでクラリネットのチャーリー・パーカーを演じています。実際、物凄いソロとしか言いようがありません! ただ絶句、悶絶するのみです。
 そしてソニー・クラークも、こちらの期待を裏切りません。自分のソロパートになると、待ってましたとばかりに水を得た魚状態で躍動します。またデフランコのバックでも執拗なコード弾きをやったりしています。まあ、後年の粘るファンキー節は出ませんが、一抹の哀愁を含んだその早弾きは、バド・パウエル直系でありながら、ちゃんと自分の個性を確立しています。演奏は9分を超えますが、全くダレることのない大名演だと思います。

A-2 Sonny's Idea
 タイトルどおり、ソニー・クラーク作のビバップ曲ですが、何気ないようでいてちゃんとクラーク節が出ているのは、後年の作曲の上手さを予感させます。そして演奏は快適なテンポで徹頭徹尾スイングしていくのです。
 まずデフランコが低域から高音まで全てを使い切って、絶好調のソロを聞かせてくれます。リズム隊のグルーヴも最高で、特にジーン・ライトのウォーキング・べースは当たり前の凄みを発揮しています。もちろんソニー・クラークは自作曲ということで、完全にツボを掴んだ展開を聴かせますが、実はホレス・シルバーになりかかっている瞬間まであるのは興味深いところです。

A-3 Laura
 有名スタンダードをスローで甘く聞かせるデフランコは、やはり最高です。こういう曲調になると、いつものビバップ節よりは、本来の歌心を存分に発揮するのですねぇ。もちろんそれは超絶技巧に支えらているのですが、そういうテクニカルな部分をあまり感じさせない自然な雰囲気が流石です。ちなみにここではソニー・クラークの出番が無いという、デフランコの一人舞台になっています。

A-4 Everything Happens To Me
 個人的には大好きなこの曲を、デフランコはスローテンポで優しく吹奏してくれます。それは本当に甘美な夢の世界を現出させてくれるもので、聴いているうちに不覚にも落涙しそうになるという表現は、大袈裟ではありません。ちなみにこの演奏もデフランコの一人舞台で、この雰囲気からしてソニー・クラークのアドリブソロが無いのが残念です。

B-1 I'll Remember April
 モダンジャズでは定番のスタンダード曲を定石どおりにラテンリズムも交えて、アップテンポで演奏していますが、全くこの日のデフランコは絶好調で、歯切れ良く鋭いアドリブを展開してくれます。クラリネットという楽器はオクターブ・キーがサックスと異なっているので、猛烈なドライブ感でチャーリー・パーカーのフレーズを吹くのは至難の業なんですが、そういう苦しいところは微塵も見せないデフランコは、真のクラリネット・マスターです!
 お目当てのソニー・クラークも快調で、後年得意技になるファンキー節も披露しています。またドラムスのホビー・ホワイトもの堅実ながら、かなりの実力者と思わせる快演♪

B-2 Wellow Weep For Me
 これもモダンジャズでは人気曲として、かなり黒いムードが魅力なので、カルテットはそこを目標に熱演しています。当然、ファンキーな雰囲気も漂わせてくれますが、もちろんそこはソニー・クラークの存在がカギとなっています。この粘って歯切れの良いフレーズの妙は、まったくソニー・クラークだけのものですから、ファンにはたまりません♪
 またデフランコが、緩いテンポなので下手をするとチンドン屋になりそうなコブシの効いたファンキーなフレーズを、きちんとジャズにしているのは流石です。

B-3 Minor Incident
 このエキセントリックなビバップ曲はデフランコのオリジナルということで、とにかく激烈なアドリブが展開されます。バックで煽るソニー・クラークも部分的にセロニアス・モンクになっていますが、ソロでバド・パウエル流正統派ビバップピアノの真髄を聴かせます。そしてそこにファンキー味をたっぷり塗していくのは、言わずもがなのお楽しみです。

B-4 A Foggy Day
 ちょっと凝ったアレンジでスタートしますが、サビは安心感いっぱいの展開で、お馴染みのテーマメロディが演奏される仕掛けです。アドリブパートでも、絶妙なブレイクから優しい歌心を発揮するデフランコがやはり素晴らしく、ジャズ・クラリネットの魅力をたっぷり味わえます。しかも力強さや黒っぽいドライブ感までもが、しっかりと感じられるのです。続くソニー・クラークも、ここではファンキー節が強く出ていて最高です。

ということで、これはソニー・クラーク中毒者には激オススメの1枚であると同時に、絶好調時のバディ・デフランコをも堪能出来る、1粒でなんとやらのグリコ盤です。

しかもジャケットが素晴らしく、ご覧のとおりの美女が♪ オリジナル盤は何万円もしますが、幸いにもちょっと前に紙ジャケット仕様でCD復刻され、速攻でゲットしたところ、リマスターされた音質も最高でした。ところがネタ元としてリンクしようと探したら、なんと廃盤になっているようです。しかしご安心下さい。ジャケットに拘らなければ、ソニー・クラークと共演したデフランコのセッションを集大成した2枚組CDが出ています。一応、ジャケ写から繋げておきました。

ちなみにソニー・クラークは当時のバディ・デフランコのバンドではレギュラーとして1956年頃まで活動し、多くのレコーディングも残しています。そして翌年にはニューヨークに進出して、それからの大活躍は皆様ご存知とおりですが、実際にはその実力&レコーディングに比して人気はさっぱりだったとか……。日本での異常人気にはアメリカの関係者も愕いていたと言われていますし、1970年代までの海外のジャズファンは、ソニー・クラークを認知しない人が多かったのです。

このあたりは感性違いなんでしょうが、ソニー・クラークが居たことで、私は日本人に生まれて良かったと思っています。はははっ、大袈裟でした♪

それにしてもこの内容でメロウ云々というアルバムタイトルは???ですねぇ。「A-1」を筆頭に、かなりド迫力の演奏が詰め込まれているんですから、ジャケ写に騙されてしまった当時のリスナーの気持ちは、いかばかりか……。

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硬派な一面、柔和な側面

2006-02-26 19:37:31 | Weblog

日頃、柔和な友人が思わぬ場面で硬派な姿勢を見せたりすると、愕くと同時に、何か嬉しかったりもするんですが、本日はそんな1枚を――

Two Of A Mind / Paul Desmond & Gerry Mulligan (RCA)

ポール・デスモンド(as) とジェリー・マリガン(bs) は、本場アメリカでモダンジャズ全盛期にダントツの人気があった白人プレイヤーですから、その2人の共演盤ともなれば、おそらく夢のような和みの世界が展開されると期待してしまいますが、とこがどっこい、このアルバムは真剣勝負の緊張感に満ち溢れた仕上がりになっています。

と、最初から結論を書いてしまいましたが、実際、2人とも平素は豊かな歌心と柔らかい音色、そして抜群のノリの良さで大衆の人気を集めていたのですから、その部分に期待して何が悪いのか? というのが正直な気持ちです。

メンバーはデスモンド、マリガンの2人を中心に、リズム隊がジョン・ビール(b)、ウェンデル・マーシャル(b)、ジョー・ベンジャミン(b)、コニー・ケイ(ds)、メル・ルイス(ds) がセッション日毎に入れ替わって務めてはいるものの、どちらかというとリズム・キーパー的な役割なので、それほど気にする必要は無いと思います。もちろん全員がきっちりした快演です。

A-1 All The Things You Are (1962年7月3日録音)
 モダンジャズでは説明不要の定番スタンダードを、デスモンドとマリガンはテーマ部をフーガ形式で演じ、続けて快適なテンポでアドリブしていきます。その先発はデスモンドが何時もながらの豊かな歌心を発揮して楽しくリードしますが、途中でマリガンがちょっかいを出す場面もあります。しかしそれは、けっして成功しておらず、それが響いたか、自分のソロ・パートでも調子がイマイチ出ていません。それでもドラムスのコニー・ケイが必死で煽るので、徐々にペースを掴んでいくところが、ジャズを聴く楽しみになっております。
 で、クライマックスはデスモンドとマリガンがアドリブで絡みながらラスト・コーラスへ突入していくところで、ここもクラシックからの影響があり、何とそのまんま、締め括りのテーマを奏さずに、ピタリっと演奏を止めてしまうのでした。

A-2 Stardust (1962年7月3日録音)
 有名ポビュラーヒット曲をこの2人がという趣向なので、もう夢のような世界を期待するのですが、愕く無かれ、あのテーマを吹かずにいきなりアドリブで絡みあって演奏が進んでいくという、当に真剣勝負の極みがこれです。
 しかもそのアドリブから極力、甘い歌が省かれて、お互い、如何に鋭いフレーズを出し合えるかを競っている雰囲気になりますから、聴いていて疲れること請け合いです。あぁ、なんでだろぅ……。もちろん2人の魅力であるソフトな音色は互いに守っているのですが……。当に剣豪が対面し、刀を抜く前に駆け引きをしているようです。

A-3 Two Of A Mind (1962年8月13日録音)
 デスモンドのオリジナルで、一転してアップテンポで鋭くスイングする演奏ですが、タイトルどおり、テーマ部分~アドリブパートに至るまでデスモンドとマリガンの絡みで進行していきます。ちなみにこのアルバムはステレオ盤では、右チャンネルにデスモンド、左チャンネルにマリガン、真ん中にドラムスとベースという振り分けなので、そのあたりがなかなか面白く聴けます。
 しかしマリガンのアドリブパートは一人舞台なので、マリガンの物凄いスイング感が満喫出来て痛快です。そしてデスモンドと刃を合わせんとするソロの対決が絡みに転じていくところが、スリルの極みになっているのでした。

B-1 Blight Of The Fumble Bee (1962年8月13日録音)
 これはマリガンのオリジナルですが、もちろんネタ元はコルサコフの「熊蜂の飛行」ということで、アドリブ先発のマリガンは本領発揮の豪快なソロを展開します。そしてそれに対抗するデスモンドは、あくまでもソフトな情感で勝負♪ この対象美が本当に魅力です。ただしデスモンドは甘いフレーズはひとつも吹いておらず、あくまでも硬派な姿勢を崩していません。ですからマリガンとの絡みは真剣そのものですが、全くつけ入るスキがありません。ついにマリガンはドラムスとのソロチェンジで怒りを爆発させますが、その後のサックスコラボレーションは一糸乱れぬところが、流石の聞き物です♪

B-2 The Way You Look Tonight (1962年8月13日録音)
 これもモダンジャズでは定番のスタンダードで、ここでもかなり早いテンポで演じられるお約束がきちんと守られています。もちろんテーマ吹奏は2管の絡みで、裏になり表になりして展開されるあたりは、最高です。
 デスモンド、マリガン、共に快演ですが、何とクライマックスに至ってはデスモンドのアルトソロが多重録音され、結果的に3管の絡みになるのですから強烈です。う~ん、これは本当に必要だったのかなぁ……? 確かに気持ち良いんですが、なんか違和感が無きにしもあらずです。

B-3 Out Of Nowhere (1962年8月13日録音)
 ちょっとアラビアン・モードのイントロが印象的ですが、テーマはお馴染みの旋律をそれほど崩さずに、しかもデスモンドとマリガンの絡みで演奏されるのですから、気持ちの良い展開です。

ということで、実は聴き終わってみれば緊張感ガチガチのスタートから、最後は解れた和みも多少感じられるという作品です。ただし、そこまで聴くのが疲れるというか、体調を整え勝ておかないと、あまりの意外性にKOされるでしょう。それはズバリ、こちらの先入観念をブチ破るエネルギーに充ちているということで、自宅で聴くより、大音量のジャズ喫茶向きのアルバムだと思っています。

もちろんデスモンドもマリガンも友人ではありませんが、またひとつ、彼等が好きなった1枚です。

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安心的ハードバップ

2006-02-25 17:25:57 | Weblog

今日は、これからのネタということで、いろいろなアナログ盤を整理しました。けっこう忘れていたブツや、えっ、というような絶句盤も出してみましたが、あらためて自分の節操の無さに呆れかえりました。それらは追々にご紹介するとして、まずは本日の1枚です――

Off To The Races / Donald Byrd (Blue Note)

タイトルからして、何か政治的なものを含んでいるの? と思いきや、中身は王道バリバリのハードバップです。メンバーはドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ペッパー・アダムス(bs)、ウイントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・テイラー(ds) という無敵の6人組! 特にフロントの3人はドナルド・バードを核として結ばれた盟友なので、息もピッタリの熱演を展開するのです。録音は1958年12月2日とされています――

A-1 Lover Come Back To Me
 バードを中心に3管でキメを入れた後、アップテンポで一気呵成にテーマからアドリブパートになだれこんで行く痛快な演奏になっています。もちろんそこはドナルド・バードの独壇場ですが、続くペッパー・アダムスがハードドライブに対抗するので、ドナルド・バードがもう1回、凄まじいアドリブで現場を収める始末です。そしてジャッキー・マクリーンに至っては、ややワザとらしいスケールアウトしたフレーズまで繰り出す弾けっぷりです。
 こういうフロント陣を支えるリズム隊も堅実かつ躍動的で、クライマックスはドナルド・バードとアート・テイラーの一騎打ち! これぞハードバップという快演です。

A-2 When Your Love Has Gone
 泣きを含んだスタンダードの名曲を、ドナルド・バードは朗々と吹奏していきますが、ややケレン味が強い田舎芝居という雰囲気が漂います。まあ、あまりにも分かり易いということですが……。ちなみにこれは完全にリーダーの一人舞台になっています。

A-3 Sudwest Funk
 タイトルどおり、ドナルド・バードが作曲したファンキーなブルースです。なにしろイントロからウイントン・ケリーが十八番のリックを連発してペースを設定、そこへ3管で演じられるファンキーこの上も無いテーマが被さってきます。ここではドナルド・バードのトランペットに少~し、エコーがかけられているという芸の細かさが雰囲気を盛り上げています。もちろん先発のアドリブ・ソロではお約束のフレーズをたっぷり聞かせてくれますが、なんといっても最初のブレイクがジャズ者にはたまらんはずです。
 続くジャッキー・マクリーンもブルースならばこれっ、という吹奏ですし、ちなみにこれは「Cool Struttin'」ではありませんよっ♪ またペッパー・アダムスも白人ながら、誰よりも黒~いフレーズで一刀両断のド迫力を聞かせます。おまけに、やっぱりウイントン・ケリーです! 粘りと歯切れの良さを両立させた素晴らしい演奏を披露するのです。そして最後にリズム隊の何気ない凄さ! サム・ジョーンズの硬派なベースワークとアート・テイラーのシンバルの美学♪ これはイントロから最後まで、じっくり聴くと寒気がしてくるほどゾクゾクします。

B-1 Paul's Pal
 ソニー・ロリンズが作曲した和み系のソフトバップなので、演奏者の各々が持ち味を如何に出すかという部分が堪能出来ます。まずウイントン・ケリーがテーマのサビで良い味を出しまくりです♪ そしてアドリブ・パート先発のジャッキー・マクリーンが泣きじゃくり、ペッパー・アダムスが意外な歌心を披露していきますが、何と言ってもドナルド・バードが美しい音色と豊かな情緒を全開させているのには、思わず惹き込まれます。正直言うと、この人は何を演じても同じようなフレーズばかり吹いているのですが、それが安心感に繋がっているという、まさに王道派の第一人者なのですねぇ。

B-2 Off To The Races
 アルバムタイトル曲はもちろんドナルド・バードの作曲ですが、これ以前にも別な曲名がつけられて録音も残されている、まあ、十八番のナンバーです。例えばこのアルバムと同じ年の4月に録音されたペッパー・アダムスのリーダー盤「10 To 4 At The 5 Spot (Riverside)」では「The Long 2-4」というタイトルで熱演が繰り広げられていました。
 で、ここでもアート・テイラーのマーチ風なドラムスが刺激的なテーマから、ジャッキー・マクリーンが面目躍如の大暴れ! 続くドナルド・バードも滑らかに、そしてパワフルに歌心を全開させていきます。そしてペッパー・アダムスはブリブリモクモクと重くハードに迫ってくるのです。
 しかしリズム隊も負けていません。ウイントン・ケリーはメチャ、弾けていますし、実はこの曲の主役であるアート・テイラーのドラムスが、ソロでも、バックでも大爆発しているのです。この人の熱演なくして、この曲は成り立たなかったと言うべきでしょう。流石です。

B-3 Down Tempo
 オーラスは顔見世的なブルースがゴスペル風味で演奏されますが、もちろん楽しいテーマはドナルド・バードのオリジナルです。とにかくウイントン・ケリーのイントロが始まっただけで、ウキウキしてきます。アート・テイラーのゴスペルなシンバルも素晴らしく、厚みのある3管のテーマ吹奏に続いて始まるサム・ジョーンズのベースソロは、もう真っ黒です♪ そして滑り込んでくるペッパー・アダムスのバリトンは、思わずニヤリとするフレーズの連続ですし、ドナルド・バードはお馴染みのリックの連発で安心感がたっぷり、ジャッキー・マクリーンは激情のファンキー節という仕掛けです。

ということで、これはドナルド・バードの作品中では、あまりジャズマスコミには取上げられない1枚ですが、実はジャズ者は皆、聴けば虜の人気盤だと思います。つまり食わず嫌い盤ということですね。

その魅力はペッパー・アダムスを含む3管の迫力吹奏と充実のリズム隊ということで、しかも荒っぽくならず、あくまでも「味の世界」で勝負したところが、成功の秘密だと思います。実際、黒人2人の挟まれる形で熱演するペッパー・アダムスは、所謂オレオ・ビスケットですが、気後れすることなく、いつも以上の馬力を披露しています。

またリズム隊はハードエッジで黒い魂が燃え上がるという強烈なグルーヴを産み出しており、あぁ、このトリオだけで1枚でも録音されていたらなぁ……、と思わずにはいられません。資料的にもこの3人がリズム隊を構成した録音は、もう1枚、ジェームズ・クレイ(ts) のリバーサイド盤しか無いと思います。

そのあたりも含んで、これはハードバップを代表するアルバムであり、そしてドナルド・バードは区切りをつけたかのように、次なる展開へと進みます。それはファンキーもソフトバップもモードもジャズロックをも包括していく汎用ジャズだったと思われるのですが……。

とりあえず、このアルバムはぜひとも聴いていただきたいと願っています。安心感は大切なもんですよ。

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今日は黙って金メダル♪

2006-02-24 18:14:15 | Weblog

わっはっはっ、やはりオリンピックで金メダルが取れないと、寂しいことが分かりました。良くやった、荒川静香♪ 顔見世演技では極小ビキニでも着て、思いっきり跳んで、開脚してちょうだい! なんて今日は浮かれ気味ですが、いつかフィギュアでもジャズを使ってほしいなぁ。特にこのアルバムの「B-2」あたりをねっ♪

Keith Jarrett Standards, Vol.1 (ECM)

最初に断っておきますが、私はキース・ジャレットという人は好きではありません。あの演奏中に自己陶酔しての唸り声とか尻振りダンスが、どうしても生理的に受け付けません。しかし悔しいかな、キース・ジャレットが発表する作品の素晴らしさは、認めざるをえません。

例えば初期ピアノトリオで演じたディランの「My Back Pages」が入っている「Somewhere Before (Atlantic)」は傑作だし、ソロピアノの「Solo Concerts (ECM)」は、やっぱり良いし、さらにカルテットでも「宝島(Impulse!)」や「My Songs(ECM)」は素敵だと思います。

そして、この「Standards, Vol.1」です。実はキースがオールスターのトリオでスタンダードを演奏したアルバムを出すと知ったとき、あぁ、キース、お前もか……!? とさして期待もしていませんでした。なにしろ当時、1983年頃はフュージョンが一段落してジャズが4ビートに回帰し、若手は新伝承派と称され、またベテランは如何にもジャズファンの顔色を覗ったようなレコード会社主導の作品ばかりを出す風潮になっていたのです。特に潜在的に人気があるピアノトリオ盤については、例えばハンク・ジョーンズのグレイト・ジャズ・トリオとか、トミー・フラナガンのスーパー・トリオ等々のアルバムが、日本のレコード会社によって製作され、それなりに売れていました。

ただし一部硬派のジャズファンは、けっしてそういうブツを歓迎していませんでした。否、むしろ金のためにやっている、やっつけ仕事として軽蔑すらしていたのです。で、そこへキースのこのアルバムですから、聴く前からなんとなく……。

なにしろメンバーはキース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)、そしてジャック・ディジョネット(ds) という、当時のジャズ界では人気と実力を兼ね備えたバリバリの看板が3人揃ったのですから、御託を並べる前に聴かなければなりません。ちなみに録音は1983年1月とされています――

A-1 Meaning Of The Blues
 「スタンダード」というわりには、いきなりシブイ曲が選ばれてしまいました。演奏もキースがじっくりと元メロディを熟成させるがごときの展開で、ゲイリー・ピーコックも控えめな自己主張に徹しています。しかし何となくディジョネットにやる気が感じられず、最初聴いた時は、ほら、みたことか! と心の中で拍手喝采したのですが、聴き進むうちに、これはっ……! と驚嘆させられるのです。それはキースのメロディ展開の上手さ、ディジョネットのリズムの鋭さ、ゲイリー・ピーコックのハーモニー感覚の恐さ、そういうものが全く地味なここでの演奏世界に充ち満ちているからです。もちろんキースは終始、唸っていますよ。

A-2 All The Things You Are
 モダンジャズでは定番のこの曲を、トリオは全力疾走で演じます。しかしけっして熱くなりません。否、むしろ冷めていて当然という風情が漂います。そしてそれにノセられ、手に汗握ってしまうこちら、いったいどうなんだっ! という憎たらしさがあるのです。これも計算ずくのことなんでしょうが、それなら唸るなよっ、キース! と私は思わず激怒です。本当に参ってしまいますよ……。

A-3 It Never Entered My Mind
 マイルス・デイビスの名演があまりにも有名なスタンダード曲ですが、ここでも定石どおりにスローな展開から、トリオは熟達の技を披露していきます。特にゲイリー・ピーコックの出来は素晴らしく、ベースばかりを聴いてしまうほどです。

B-1 The Masquerade Is Over
 結論から言うと、B面に入って突如、このトリオは燃え上がるのですが、まずこの曲はキースの唸り声がいつも以上に派手な快演が展開されます。それが煩いので、私はディジョネットのドラムス中心に聴くようにしていますが、ゲイリー・ピーコックのベースがまたしても素晴らしい♪

B-2 God Bless The Child
 ビリー・ホリディの名唱が有名なこの曲を、トリオはゴスペル・ジャズロックに焼き直すという荒業を聞かせてくれました。おぉ、これがキースの真髄じゃなかろうかっ♪ 私は大好きです、こういうのっ♪ ディジョネットの重たいビート、イナタさを含んだゲイリー・ピーコックのベース、さらにせつなく歌うキースのゴスペルピアノ♪ 本当に最高です。演奏時間は15分以上あるんですが、それもあっという間の夢の時間です。

ということで、悔しいけれど良いアルバムです。ジャズ喫茶でもリクエストが頻発して私は何回も聴かされましたが、それでも買ってしまったほどです。特に「B-2」は毎朝起き抜けに聴いていたほどです。なんか気合が入るんですよね。

そして当然、セールスも好調で、以降キースはこのトリオ活動を継続し、このアルバム以上の名演・名盤を残していくのですが、まずはこの作品はその端緒の1枚として、虚心坦懐に聴いていただきとうございます。えっ、ケルンについて触れてないって? それはまた、別のお楽しみです。

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ウェスはやっぱり凄い人

2006-02-23 15:23:58 | Weblog

昼メシ後に、ふらっとソフト屋に入ってみたら、なんと紙ジャケット復刻のCDが山のように出ていました。ディープ・パープル、デイブ・メイソン、マーク・ベノ、吉田拓郎……、本当にキリが無いですねぇ。こっちの財政も考えて欲しいもんです。と嘆きつつも、結局、買わざるをえない心境に追い込まれて、何枚か入手しましたが、それは後でご紹介することにして、本日の1枚はこれ――

Goin' Out Of My Head / Wes Montgomery (Verve)

ジャズの世界には短命な天才が大勢おりますが、ウェス・モンゴメリー(g) もそのひとりで、しかも極めてジャズ的な演奏で広く一般に人気が出た絶頂期に、あっけなく天国に召されたのですから残念至極です。

このアルバムはその端緒の1枚で、録音は1965年11月20日と12月22日とされておりますが、全ての演奏にはオリバー・ネルソン編曲・指揮のオーケストラがついていることから、後に若干のオーバーダビングがあったのではないか? と推察しております。

ただしウェスの演奏パートについては、ハービー・ハンコック(p)、ロジャー・ケラウェイ(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、グラディ・テイト(ds) 等をリズム隊に据えての一発録りが基本だと思います。その内容は――

A-1 Goin' Out Of My Head (1965年11月20日録音)
 なかなか愛らしいメロディの素敵な曲で、オリジナルは多分、リトル・アンソニーの1964年秋のヒット曲だと思いますが、これをウェスはソフトロックに演奏しています。なにしろアドリブパートがほとんど無く、メロディを奏でるだけなんですから! これでは物足りないっ! と思うのがジャズ者の性……。しかしこれが、ここでは良いんですねぇ♪ オリバー・ネルソンのアレンジ&オーケストラ伴奏も厚みがあって歯切れ良く、とことんウェスのギターが浮き出すようになっていますし、またそれに負けないウェスのギターは言わずもがなの素晴らしさで、単に原曲のメロディを弾くだけで説得力があるのは、驚異のオクターブ奏法があればこそです。3分に満たない演奏ですが、中身は濃いです。ちなみにシングル盤も出ていましたですね。

A-2 O'Morro (1965年12月22日録音)
 有名なボサノバ曲をウェスが優しく奏でてくれます。バックのオーケストラも趣味が良いアレンジですし、その中でウェスが縦横無尽にアドリブしていくのですから、醸し出される独特の浮遊感が最高の気持ちよさです。

A-3 Boss City (1965年11月20日録音)
 ラテンリズムの楽しい曲はウェスのオリジナルで、しかもサビではファンキー味までも楽しめるという構成です。アドリブでも最初から凄いフレーズの連続で、全く出し惜しみしないその姿勢は自信の表れでしょうか。バックのオーケストラが完全に引張られている雰囲気で、終いにはウェスがリードして4ビートのノリに転じるあたりが、スリル満点です。

A-4 Chm Chm Cheree (1965年12月22日録音)
 ミュージカル「メリーポピンズ」からの有名な1曲を題材に、ウェスは真ジャズギタリストの神髄を聞かせてくれます。ドライブする単音弾きからオクターブ奏法、そして迫力のコード弾きへと展開していく様は痛快です。しかもそのアドリブメロディが全て「歌」になっているのです♪ バックのオーケストラが控えめながら、その色彩豊かなアレンジも特筆物です。

A-5 Naptown Blues (1965年12月22日録音)
 これもウェスのオリジナルで強烈なブルースが演奏されます。イントロはオーケストラのパートで、やややっ、これはマイルス・デイビスの「天国への七つの階段」じゃないか!? という仕掛けも楽しいところです。そして続くのが全篇ド迫力のブルース演奏! ウェスは絶好調のフレーズを連発していきますが、バックのオーケストラもハードドライブなリフを炸裂させており、痛快の極みです。

B-1 Twisted Blues (1965年12月22日録音)
 これも「A-5」と同じ趣向のブルースですが、その演奏は一層凄まじく、ウェスの神業には口がアングリ状態になること請け合いです。低い蠢きから余人の思惑を超越したコード弾きの連続技に至るところなど、当に白熱のドライヴィング・ギター! そして3分18秒目から思いっきり盛り上げて、スキッとアドリブを終わらせるところは、あぁ、もっと聴いていたいっ、とこちらに思わせる最高の演出です。

B-2 End Of A Love Affair (1965年12月22日録音)
 前曲の熱い興奮を冷ましてくれるのが、この演奏です。カラフルなオーケストラに包まれてふわっ、と出てくるウェスのオクターブ奏法の響きは、もう最高です。全体はスローな展開ですが、その中でウェスのアドリブには思いっきり情熱が込められており、これには後にA&Mレーベルで大輪の花を咲かせる萌芽が感じられます。

B-3 It Was A Very Good Year (1965年12月22日録音)
 囁くようなウェスのギターが、とてつもなく魅力的♪ リズム隊はかなり刺激的なツッコミを入れてくるのですが、この繊細なところを最後まで崩さないあたりが、天才の証明でしょうか……。仄かなスパニッシュ調が感じられる静謐な演奏になっています。

B-4 Golden Earrings (1965年12月22日録音)
 これも前曲のムードを引き継いでいるような静かな出だしから、お馴染みの哀愁が漂うテーマを、ウェスはじっくりと弾いていきますが、その秘められた情熱は感動的! アドリブパートへの持っていき方も流石で、テンポを上げて4ビートで勝負に出れば、もう恐いものなしの演奏になっていきます。それにしても、よくこれだけ歌心のあるフレーズが出るもんだ! と呆れかえるほどですよ、これはっ♪ ちなみにアレンジはギル・エバンス調になっているのが微笑ましいです。

ということで、このアルバムはブルースからソフトロック、さらにボサノバからムード音楽まで包括した、完全に出来過ぎの1枚です。しかしウェスは徹頭徹尾、ジャズ演奏家としての姿勢を崩しておりませんし、その神業ギターには、誰をも寄せ付けない凄みがあります。

オリバー・ネルソンのアレンジもシャープで緩いところがありませんし、個人的には、後に大ヒットとなるA&Mレーベルでの作品群と同一の出来だと思っています。曲毎の演奏時間が短いのとオーケストラが付いていることで食わず嫌いになっている皆様には、ぜひとも聴いていただきたい作品です。

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独断と偏見全開

2006-02-22 18:07:32 | Weblog

オリンピックの女子スケート、ショートプログラムですが、やはり楽しいですねぇ、ふっふっふっ♪ もちろんご推察のとおり、サイケおやじ的な観方しかしていないわけですが、そういう独断と偏見は私の持ち味ですから、本日の1枚もこれでご容赦下さい――

The Magnificent Thad Jones Vol.3 (Blue Note)

ジャズ界屈指の天才兄弟といえば、ハンク、サド、エルビンのジョーンズ兄弟でしょう。長兄のハンクはもちろんピアノの大御所ですし、エルビンは革新的ポリリズムを敲き出した偉大なドラマーでした。そしてサド・ジョーンズは作・編曲家としてビックバンドの世界で素晴らしい仕事を残していますが、もちろんトランペッターとしても一流です。

ブルーノート・レーベルには、そういうトランペッターとしてのサド・ジョーンズの真髄を記録したアルバムが3枚あり、これはその最後の1枚で、結論から言うとサド・ジョーンズは、やや不調なんですが、なかなか面白い聴き所があって、個人的には愛聴しています。

アルバムの構成は2つのセッションから成立ち、まず1956年7月14日の録音から1曲、他の5曲は翌年2月2日の録音になっており、前者は畢生の名盤、通称「鳩」という「The Magnificent Thad Jones」と同一セッションからのものなので、悪いはずがありません。

で、私が面白いと言うのは、むしろ後のセッションで、このアルバムの中核を成す部分です。メンバーはサド・ジョーンズ(tp)、ベニー・パウエル(tb)、ジジ・グライス(as)、トミー・フラナガン(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、エルビン・ジーンズ(ds) という6人組です。その内容は――

A-1 Slippes Again (1957年2月2日録音)
 エルビンの重量級ドラムスを活かしたグルーヴィなブルースで、実は少しばかりアレンジされておりますが、リー・モーガンのブルーノート盤「Vol.3」に収録されている「Tip Toeing」と酷似した曲です。ちなみにそちらの録音は1957年3月24日で、ジジ・グライスも参加していることから、特に流用されたものと推察しておりますので、こちらがオリジナル・バージョンと断定致します。ただし、こういう事はジャズの世界ではあまり問題にはなりませんので、念のため……。
 で、こちらの演奏はファンキー度ではリー・モーガンのバージョンには劣るものの、味では負けていません。まずソロの受渡しやコーラスの切れ目に、エルビン・ジョーンズのドラムブレイクを入れ込む趣向が最高です。もちろんエルビンもそれに応えて唸り声を交えつつ熱演しております。そしてアドリブ・パートではリズム隊の動きが最高に秀逸で、黒ビロードのような艶が魅力なトミー・フラナガン、ツボを外さないジョージ・デュヴィヴィエの粘りのベース、そして爆発的なエルビン・ジョーンズというトリオは強烈至極です。

A-2 Ill Wind (1957年2月2日録音)
 サド・ジョーンズが愁いに満ちた有名スタンダード曲をスローな展開で聞かせてくれます。ただし残念ながら、それほど好調とは言えません。それでもどうにか平均点になっているのは、リズム隊の素晴らしいバックアップがあるからで、ジョージ・デュヴィヴィエの的確な絡み、エルビンのタイトなブラシ、さらにトミー・フラナガンのセンスの良いコードワークが見事です。そしてそれに支えられ、少しずつ調子を上げていくサド・ジョーンズという仕掛けになっているのでした。

A-3 Thadrack (1957年2月2日録音)
 タイトルどおりにサド・ジョーンズの作ですが、後々までトミー・フラナガンがレパートリーにしていた快適なハードバップ曲です。アドリブパートでは、まず、ここでもリズム隊が飛び抜けて秀逸です。エルビンが執拗に叩き出すポリリズムに煽られるサド・ジョーンズも素晴らしい! しかし、それにしてもリズム隊です。ジョージ・デュヴィヴィエのベースソロは柔良く剛を制すといった雰囲気で聞き逃せません。

B-1 Let's (1957年2月2日録音)
 これも「A-3」と同じくトミー・フラナガンがレパートリーにしていましたが、オリジナルはここに入っていたというわけです。演奏はアップテンポのハードバップで、まずテーマに仕込まれた絶妙なブレイクがハラハラさせてくれます。そしてサド・ジョーンズが溌剌として味のあるアドリブを披露すれば、ジジ・グライスは黒くも白くも無い、独特の知的なフレーズで勝負、続くベニー・パウエルはミュートでオトボケをかましてくれます。この人はサド・ジョーンズとはこの当時のカウント・ベイシー楽団では同僚の看板プレイヤーで、スタイル的にはハードバップ以前の雰囲気が濃厚ですが、その楽しさは天下一品です。
 そしてまたまた、ここでもリズム隊です。ホーン隊を激しく煽る荒業は言わずもがな、ソロパートでもトミー・フラナガンがエルビンと絶妙のコンビネーションでブレイクを仕掛けながらの真剣勝負を挑み、エルビンは強烈なポリリズムで返します。また、そこへ鋭くジョージ・デュヴィヴィエのベースが斬り込んでくるのですから、もうスリル満点です!
 あれっ、これって……!? そうです、トミー・フラナガンが一世一代の名演盤「オーバーシーズ」と同じ雰囲気になっているのです。それはベースがウィルバー・リトルに交代して1957年8月15日に録音されたものですが、すでに皆様がよくご存知のとおり、エルビンとフラナガンは当時、J.J.ジョンソン(tb) のバンドのリズム隊として鉄壁のコンビネーションを披露していた時期であり、その予行演習というか、実は日常のヒトコマがここでも聴かれたというわけです。あぁ、これがモダンジャズ全盛期の恐ろしさ! こんな凄い演奏が終わりなき日常で軽々と演じられていたのですから♪
 ということで、これがこのアルバムのハイライト演奏です。「オーバーシーズ」が大好きな皆様ならば、きっと気に入るはずだと断言致します。まずはこのリズム隊の素晴らしさをご堪能下さいませ。

B-2 I've Got A Crush On You (1956年7月14日録音)
 前曲で燃え上がったハートを優しく包んでくれるのが、この演奏です。すでに述べたように、この曲だけが別な日のセッションからのものですが、だからといって残り物では無く、サド・ジョーンズについては、このアルバムの中で最高の出来を示しています。
 メンバーはサド・ジョーンズ(tp)、バリー・ハリス(p)、パーシー・ヒース(b)、マックス・ローチ(ds) という所謂ワンホーンで、心に染み入るバラード演奏をじっくり味わえるのでした。そして必ずや、通称「鳩」が聴きたくたくなると思いますよ♪

ですから、このアルバムはやや穿った聴き方しか出来ないのですが、とにかくリズム隊中心に楽しむ他はありません。否、そう聴いて、初めて楽しい作品です。暴言ご容赦願います。

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モブレーマニア

2006-02-21 19:34:07 | Weblog

雪が融けてきたら、その下からゴミが顔を除かせ始めました。犬のフンまであるんです……。雪は天からの贈り物ですが、それに狡さを隠しちゃイカンのじゃないか? 等と、本日は説教おやじに変身! どうもイカンですなぁ。そこで目立たずに皆をリードする秘訣が楽しめるこの盤を聴きます――

Hank Mobley with Donald Byrd And Lee Morgan (Blue Note)

ハンク・モブレーのリーダー盤ながら、リーダー本人が一番目立たないという、如何にもハンク・モブレーらしいアルバムです。この人はオレが、オレがっ、というのが苦手だったと言われていますが、実際はどうだったんでしょう……? このアルバムを聴くと、全曲がモブレーのオリジナル曲でありながら、さもありなん、という雰囲気です。

メンバーはドナルド・バード(tp)、リー・モーガン(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ホレス・シルバー(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という、誰が聴いてもハードバップな面々で、その趣向は2人の若手トランペッターの対決を軸にしていることは、言わずもがなでしょう。ちなみに録音は1956年11月25日で、ということは、ドナルド・バードはハンク・モブレーと共にジャズ・メッセンジャーズを辞め、ホレス・シルバーのバンドでバリバリの看板だった頃ですし、方やリー・モーガンはちょうど3週間前に初リーダー・セッションを行ったばかりの若干18歳! つまりお互いに充分張り切ってた状況だったと思われます。その内容は――

A-1 Touch And Go
 如何にもハンク・モブレー作曲らしい景気の良いハードバップで、先発のソロはホレス・シルバーが独自のシンコペーションで燃えあがります。そして続くトランペットソロがリー・モーガンで、いきなりパワー全開で最後までぶっ飛ばしていくのですから、たまりません♪ ところが続くモブレーがやってくれました。というか、なんか心の準備が出来ていないうちに順番が回ってきたというような雰囲気で、モタモタしながらアドリブソロに入るのです。このあたりがなんともモブレーらしいという人が大勢おりますが、私もそう思います。そしてなんとか調子を上げて面目を保つのですが、続くドナルド・バードが溌剌としている分だけ、損な役回りというところです。
 肝心のトランペット勝負は、僅差でリー・モーガンに軍配が上がりそうなところですが、ドナルド・バードも素晴らしいです。そして演奏はベースとドラムスのソロがあって、クライマックスはリー・モーガンとドナルド・バードのソロ・チェンジの一騎打ちで盛上がります。う~ん、本当にハンク・モブレーが目立たないですねぇ……。

A-2 Double Wahmmy
 これもハンク・モブレー作によるアップテンポのオリジナル曲、先発のソロはリーダーとして面目躍如のモブレーが十八番の「節」をたっぷりと聴かせます。そしてそこにトランペット陣によるカッコ良いリフが被さるのですから、気分は完全にハードバップです。
 続くリー・モーガンも個性をしっかり出して絶好調ですが、追い討ちをかけるドナルド・バードは闘志が空回り気味でしょうか……。否、けっして悪くないのですが、リー・モーガンが素晴らしすぎなんでしょうねぇ。しかしクライマックスのトランペット・チェイスではドナルド・バードがリー・モーガンをリードして上手く盛り上げていくのです。そしてここでは本当に曲の良さがくっきりと浮かび上がり、ハンク・モブレーも自己主張をしていたというわけです。

B-1 Barrel of Funk
 タイトルどおりにファンキーな雰囲気が横溢したミディアム・テンポのハードバップです。先発のトランペットはドナルド・バードで、豊かな歌心を存分に発揮します。さらにハンク・モブレーも柔らかな音色にタメのあるフレーズで本当に魅力的♪ なにしろ途中のミストーンまでもアドリブ構成の一部分にしてしまうという裏技まで披露するのですから!
 そして満を持して登場するリー・モーガンがこれまた最高てす♪ リズムに対する自在なノリとフレージングの妙、さらにアドリブ構成の上手さは本当に神童の証明で、特に7分10秒目あたりからコーラス最後のフレーズまでの展開は、何ともいえない味があります。ちなにここでの勝負は引分けかもしれませんが、個人的にはリー・モーガンに座布団1枚♪ リズム隊の堅実なバックアップも素晴らしく、このアルバムの目玉はこの曲だと思います。

B-2 Mobleymania
 当にハンク・モブレー中毒者のための曲というタイトルがニクイです。先発のソロは溌剌としたリー・モーガンで、全力疾走のスピードに満ちたアドリブ展開が素晴らしい限りです。また続くドナルド・バードも淀みないフレーズを積み重ねて痛快です。そしてハンク・モブレーも十八番のフレーズを連発♪ もちろんその3人を煽るリズム隊も快適なクッションを送り出しており、特にポール・チェンバースの地味ながら強靭なベースワークは最高です。

ということで、最初から狙っていたのか、このアルバムはリー・モーガンがとにかく素晴らしく、ドナルド・バードは残念ながら、やや押され気味ではありますが、それでも新進気鋭のトランペッターの対決はモダンジャズの楽しさに溢れています。しかもそれが、単なる派手な音の吹き飛ばし合いになっておらず、各々がアドリブソロの充実さで勝負している点に好感が持てます。

もちろんそのキーマンはリーダーのハンク・モブレーで、けっしてでしゃばる事無く、手綱を締めている雰囲気が、そこはかとなく漂っています。これはなかなか出来ることではありませんが、そこはモブレーの人徳というか、個性というか、本来の性格の表れか……。そのあたりの結論は、皆様がこのアルバムを聴いて後、判定をお願い致します。

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ハンプトン・ホーズの潔さ

2006-02-20 17:53:24 | Weblog

天候が良いので、雪が一気に消えていきます。これまで懸命に除雪していた人力の虚しさを痛感しますねぇ。本当に自然は偉大です!

ということで、本日の1枚は――

Hamp's Piano / Hampton Hawes (SABA)

ジャズ界の悪習といえば、麻薬です。これは芸能界、否、社会全体の歪みかもしれませんが、悲しいかな特にアメリカのジャズ界は、これが多すぎます。命を縮めた天才が大勢いますし、全盛期に大きなブランクを作ってしまった者は数知れずです。

黒人ピアニストのハンプトン・ホーズもそのひとりで、1950年代後半に全盛期を築きながら、どうしても悪癖から抜け出せずに施設と娑婆を往復した挙句、1966年に引退しています。

しかし本格的な療養生活の甲斐あって、翌年には社会復帰、再びジャズピアニストとして活動を再開させるのですが、当時のアメリカ音楽界では正統派ジャズが不遇の真っ只中……。そこでハンプトン・ホーズも渡欧して、という道筋なのですが、実は金持ち女と結婚して世界旅行に出たのだ、という説もあります。実際、1967~1968年にかけてのハンプトン・ホーズは世界各地を周遊してレコーディングを残しております。

で、このアルバムはそんな時期にドイツで製作された傑作盤♪ メンバーはハンプトン・ホーズ(p) が、エバーハルト・ウェーバー(b)、クラウス・ワイズ(ds) というドイツの俊英を率いてのトリオ編成で、録音は1967年11月8日とされています。その内容は――

A-1 Hamp's Blues
 初っ端にトリオ編成と書きましたが、実はこのアルバムの半分はピアノとベースのデュオになっており、これもその中の1曲です。そしてタイトルどおりのブルースとあって、ハンプトン・ホーズならでは黒~い演奏を期待してしまいますが、得意のブルース・フレーズを出しつつも、ビル・エバンス風のハーモニー感覚を取り入れた、どこかドライな雰囲気が漂っています。そしてエバーハルト・ウェーバーのベースがソロでもバックでも、素晴らしいの一言! この人は本当の天才です。一番の聞物はそれです。

A-2 Rhythm
 ここでドラムスが加わって、ようやくトリオでの演奏がスタートしますが、タイトルどおりに躍動的な演奏で、まずクラウス・ワイズのドラムスが秀逸です。またエバーハルト・ウェーバーのベースも凄みがあります。もちろんハンプトン・ホーズも高速フレーズを弾きまくりですが、明らかに1960年代ならではのモード風のフレーズになっています。つまり往年の「節」が出ないのが、物足りなくもあります。

A-3 Black Forest Blues
 再びピアノとベースのデュオで演じられるブルースですが、黒いムードよりも繊細な感性が表出した演奏になっています。このあたりが1950年代のハンプトン・ホーズに痺れているファンには満足出来ないわけですが、これも悪く無いと、私は思います。とは言え、実際にはエバーハルト・ウェーバーのベースを中心に聴いているのですが……。

A-4 Autumn Leaves
 このアルバムの目玉曲「枯葉」が、期待どおりの素晴らしさで演奏されています。まずハンプトン・ホーズがソロでテーマをスローに変奏し、途中からドラムスが絡んで来て、ビートが強まり、スリル満点の展開へと進みます。もちろんハンプトン・ホーズのアドリブは元メロディを大切にしながら、ファンキーなフレーズやビル・エバンス風のハーモニーで味をつけていくのですから、思わず惹き込まれます♪
 ベースとドラムスのサポートも絶品で、エバーハルト・ウェーバーの繊細で鋭いソロ、クラウス・ワイズの緩急自在なドラムスが最高です! この曲はジャズでは大勢の演奏者によって夥しいバージョンが残されていますが、これは間違いなくベスト50には入る演奏だと思います。

B-1 What is This Things Called Love ?
 B面に入っては再びピアノとベースのデュオで有名スタンダード曲が演じられます。そしてここでの主役は完全にエバーハルト・ウェーバー! と断言してしまいます。なにしろバッキングでもソロでも、完全に演奏をリードしているとしか思えません。もちろんハンプトン・ホーズも好調ですが、なんだかビル・エバンスみたいで、イマイチ没個性……。

B-2 Sonora
 ハンプトン・ホーズ作のボサノバで、なかなかの佳曲です。このどこかで聴いたことのあるような雰囲気は「枯葉」か? という哀愁曲なんですねぇ♪ 肝心の演奏の出来はクラウス・ワイズのシャープなドラムスが印象的ですが、スマート過ぎてハンプトン・ホーズのピアノがいまひとつ、燃えていません。

B-3 I'm All Smiles
 これもなんだか、ビル・エバンスの十八番である某ワルツ曲に似ていますが、実際、ここでのハンプトン・ホーズはビル・エバンスを大いに意識した演奏をしています。ただしドラムスのクラウス・ワイズが張り切りすぎというか、その煽りについて行かないピアノとベースがマイペースで、聴き終わると違和感が残ります。

B-4 My Foolish Heart
 そしてこれは、ビル・エバンスが終生十八番としたスタンダード曲ということで、聴く前から結果がわかっているような雰囲気ですが、ハンプトン・ホーズはエバーハルト・ウェーバーとのデュオで、しっとりとした和みに満ちた名演を聴かせます。しかしそのタッチは硬質で、けっして優しさだけに溺れていません。

ということで、これはハンプトン・ホーズの新しい出発を刻した名盤だと思います。もちろん、その「新しい」という部分はビル・エバンスからの大きな影響というか、この時代の最先端を潔く取り入れたスタイルで、その中にブルース&ファンキーな往年の自己の「節」を盛り込んでいるあたりが、ジャズ者の琴線に触れるというわけです。

またエバーハルト・ウェーバーというベースの俊英にもご注目下さい。録音も非常に良いので、その繊細で力強いスタイルが存分に味わえます。一度聴いたら、虜になりますよ♪ 近々、廉価の日本盤が登場予定、ジャケ写からネタ元をチェックして下さいませ。

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リー・モーガンでぶっ飛ばせ!

2006-02-19 19:31:22 | Weblog

今日は天候も穏やか、高速も空いていましたので、ついついスピード出しまくりでした。その車中で鳴らしていたのが――

Cornbread / Lee Morgan (Blue Note)

昨日がハンク・モブレーなら、今日はリー・モーガンである! これはジャズ者のお約束、だなんて、誰が言ったかというと、それは私です。

まあ、好きなんだし、これにもハンク・モブレーが参加しているということで、ご容赦下さい。

録音は1965年9月18日、メンバーはリー・モーガン(tp) をリーダーに、ジャッキー・マクリーン(as)、ハンク・モブレー(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ラリー・リドレイ(b)、そしてビリー・ヒギンズ(ds) という、云わば当時のブルーノート・オールスターズです♪

主役のリー・モーガンは若干18歳でリーダー盤を出した神童ですが、残念ながら麻薬に溺れ、ジャズ・メッセンジャーズのスターの座からも退き、1960年代前半を棒にふった履歴があります。しかし、このセッションは、その後ようやく社会復帰して調子を取り戻した時期に行われたものだけあって、往年の輝きを取り戻し、尚且つ、新しい方向性も垣間見せた人気盤です。その内容は――

A-1 Cornbread
 1963年晩秋、第一線に復帰したリー・モーガンがその存在を示したのは、ジャズロック調のヒット曲「The Sidewinder」でしたので、以降、レコーディングには必ずと言っていいほど、二番煎じ曲が演奏されました。この曲のそのひとつですが、当時のスパイアクション映画のテーマにでもなりそうな、なかなか楽しいカッコ良さがあります。
 もちろんアドリブも充実しており、8ビートでファンキーにキメるリー・モーガン、粘りとタメのフレーズでソウル味まで出してしまうハンク・モブレー、持ち味のギスギスした音色で鋭角的に迫るジャッキー・マクリーンの泣き節と続くのですから、もう気分は最高です♪
 しかもリズム隊がタイトにキメまくり! 中でもハービー・ハンコックがソロでも伴奏でも、メチャ鋭いファンキー節を聞かせてくれますし、ビリー・ヒギンズの合の手もドドンパにならないのは流石です。
 ちなみに「コーンブレッド」とは、黒人家庭で焼くカステラと甘食の中間のような甘~いパンのことだと思います。

A-2 Our Man Higins
 これもリー・モーガンのオリジナルですが、タイトルどおり、ビリー・ヒギンズとの掛け合いでテーマが進行します。しかもその曲調がアップテンポで、なんともいえない不吉な予感を含んでいるので、先発でソロをとるジャッキー・マクリーンは、オレにまかせろ! とばかりに絶好調のアドリブを聞かせてくれます。
 そして続くリー・モーガンも、突出して不吉なフレーズをファンキー感覚に転換させていく妙技を披露するのですが、このあたりの鋭さは、本当に好調の証でしょう。しかし我らがハンク・モブレーはコルトレーン風のフレーズまで繰り出して対抗するのですが、やや、無理しているなぁ……、という雰囲気が漂います。しかし後半ではモブレー節も飛び出して、やはりきちんとファンを満足させるのでした。
 で、もうひとりの主役といっていいビリー・ヒギンズのドラムスは本当に歯切れ良く、スマートなグルーヴを生み出しており、それに煽られたハービー・ハンコックは最新鋭のフレーズを披露し、続くビリー・ヒギンズのドラム・ブレイクに華を添えています。

B-1 Ceora
 リー・モーガン作のボサノバ曲で、世評では、これがアルバムの目玉とされていますが、個人的には??? せっかくの優しい名曲が3管によるテーマ吹奏で野暮ったくなっている上に、リー・モーガンのアドリブ・ソロも何故かピントが甘く、アイディアが空回り状態……。しかしその窮状を救うのがハンク・モブレーで、せつなく良く歌うそのアドリブの妙技は何度聴いても、流石と唸ります。またイントロやアドリブで存分に発揮されるハービー・ハンコックの洒落たセンスも聴き逃せません。

B-2 I'll Wind
 有名スタンダートをミディアム・スローで演じるリー・モーガンはミュートを使っていますが、マイルス・デイビスになっていないのは、やはり天才の証明です。またハービー・ハンコックが、元曲の中の愁いをハードボイルドに表現して、なかなかの名演になっています。さらに背後で密かに鋭くビートを強調するビリー・ヒギンズにも、ご注目下さい。

B-3 Most Like Lee
 これまたリー・モーガン作のメチャ楽しいハードバップ曲です。そして先発でアドリブに突入するハンク・モブレーが、もう何者も寄せつけない絶好調のソロをたっぷりと聴かせます。続くリー・モーガンもリズムに対する自在のノリと溌剌としたモーガン節でリーダーとしての面目を保っていますし、ジャッキー・マクリーンも激情を爆発させるのです。
 そういう好演を支えるのがビリー・ヒギンズを核としたリズム隊で、ハービー・ハンコックは弾けていますし、ラリー・リドレイの職人技的ベースソロも全開です。ただ惜しむらくは、ホーン隊とビリー・ヒギンズの対決が無いことでした……。

ということで、これはなかなか良く纏まった作品です。しかしそれ故に、いまひとつ爆発的なところが感じられず、何度か聴くと物足りなくなるのも、また事実です。

まあ、今となっては、そういうライト感覚が閉塞的状況にあった当時の黒人社会にアピールするだろう、というようなヨミで作られたのかもしれない等と、憶測出来るのですが……。

そして冒頭にも書いたように、個人的は車の中で愛聴しています。「A-2」や「B-3」では、つい、アクセル強く踏んじゃいますね。う~ん、安全運転第一です。

コメント (3)
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