今日は冷たい雨でした。
これが雪に変わらないところに、今年の異常気象があるわけです。けっこう寒いんですがねぇ~。いったい昨年の豪雪は何だったんでしょう……。
ということで、本日の1枚は――
■The Jazz Combo From“I Want To Live”/ Gerry Mulligan (United Artist)
スーザン・ヘイワード主演、ロバート・ワイズ監督による1958年の名作映画「私は死にたくない」の音楽はジョニー・マンデルが担当し、従来のハリウッド調では無い、真っ向勝負のモダンジャズを使ったことにより、高い評価を受けました。
そしてそこからは2種類の音源が作られており、まずひとつがフィルム音源=真正サウンドトラック、もうひとつが、その映画に出演したジェリー・マリガンのバンドを使ったジャズアルバムです。
これは劇中でスーザン・ヘイワードが演じる主人公のバーバラが、ジェリー・マリガンの大ファンという設定であり、ならば本人に出演してもらおうという意図でしたが、さらにジョニー・マンデルが書いたスコアに感服したプロデューサーが、映画出演したジェリー・マリガンに作品関連のジャズアルバムを作ってもらおうという目論みで作られたのが、このアルバムだと言われています。
もちろん当時、絶大だったジェリー・マリガンの人気があればこその話であり、映画の中では、スーザン・ヘイワードが遊びに行くナイトクラブで演奏しているがジェリー・マリガンのバンドでした。また彼女が監房の中で、ラジオから流れるジェリー・マリガンの音楽を聴く場面もありました。
で、このアルバムの録音は1958年5月、メンバーはアート・ファーマー(tp)、フランク・ロソリーノ(tb)、バド・シャンク(as,fl)、ジェリー・マリガン(bs)、ピート・ジョリー(p)、レッド・ミッチェル(b)、シェリー・マン(ds) という、物凄いオールスタアズです――
A-1 Black Nightgown
レッド・ミッチェルのベースがリードする、なかなかサスペンス調のカッコイイ曲です。フロント4管の厚みある合奏とリズム隊のビートがビシッと決まったその瞬間、アドリブに突入するバド・シャンクは、そのブレイクからして最高にノッています♪
またバリバリのジェリー・マリガン、突っ込むフランク・ロソリーノ、クールな歌心を優先させるアート・ファーマーのソロも、短いながら充実していますし、バンドアンサンブルが、もう最高です!
ちなみにこの曲は後々まで、ジェリー・マリガンの愛奏曲になっていますね♪
A-2 Theme From“I Want To Live”
前曲の変奏バージョンで、テンポをグッと落としてジェリー・マリガンがテーマを重厚に吹きつつ、バンドアンサンブルにまで気を使った名演になっています。そこで聴かれるバド・シャンクのフルートが抜群の彩りなっているのは、流石にジョニー・マンデルの冴えた作編曲でしょうか。
ここでの主役たるジェリー・マリガンも、アドリブパートでは変幻自在なフレーズで凄い出来栄えだと思いますし、バド・シャンクもフルートで好演♪ なかなかハードボイルドで幻想的な演奏です。
またレッド・ミッチェルの野太いベースとビートの芯がしっかりと感じられるシェリー・マンのシンバルも、本当に良いですねぇ~♪
A-3 Night Watch
一転して、西海岸ハードバッブの極みという名演が続きます。
まずテーマメロディが最高にカッコ良く、ビシッとキマッたリズム隊に煽られてジェリー・マリガンが力強くブローすれば、アート・ファーマーは当にハードバップ魂の炸裂を聞かせてくれます。
またピート・ジョリーは粋なセンスのハードスイングですし、シェリー・マンの幾分悪趣味ギリギリのバスドラが、ここでは最高のノリに繋がっているという、なかなか味わい深い演奏になっているのでした。
素直にノレますよ♪
B-1 Frisco Club
これまたカッコイイ、アップテンポで最高の西海岸ハードバップです。
アドリブパートでは先発のジェリー・マリガンが初っ端からバカノリ! グイグイと突っこんでブリブリと吹きまくるあたりは、従来のスマートなイメージを覆すものがありますねぇ。続くアート・ファーマーも本領発揮のスリルと安定感の二律背反を聞かせます。
さらにフランク・ロソリーノは十八番の細かいフレーズを積み重ね、バド・シャンクはブレイクから絶好調の炸裂ぶりという、山場の連続です。あぁ、素晴らしいですねぇ♪
おまけにピート・ジョリーまでも我を忘れたようにハッスルし、迫力のバンドアンサンブルと対峙するシェリー・マンのドラムソロでは、唸り声まで録音されています! とにかく何度聴いても大興奮の演奏です。
B-2 Barbar's Theme
エキゾチックなアレンジが施された哀切の名曲です。メロディそのものが泣いているんですねぇ~。もちろんジェリー・マリガン以下、バンドメンバーの適切な演奏があればこそなんですが、まずはミュートで味わい深いアドリブを演じるアート・ファーマーが、本当に素敵です♪
また懐の深いシェリー・マンのドラムソロは、好き嫌いが分かれるかもしれませんが、雰囲気は充分だと思います。それあってのバンドアンサンブルと曲の味わいが楽しめると思いますので……。
B-3 Life's A Funny Thing
アルバムの締めくくりは、これも一抹の泣きを含んだ快適なハードバップです。
もちろん西海岸派特有のライト感覚が魅力なんですが、アドリブ先発のフランク・ロソリーノは、そのあたりを百も承知の快演ですし、途中から絡んでくるジェリー・マリガンとの遣り取りにもグッときます。
さらにアート・ファーマーも安定感のあるアドリブで場を引き締め、バド・シャンクの張り切ったアルトサックスに繋いでいますから、続くレッド・ミッチェルは思い切った大技を披露してくれるのでした。
しかもピート・ジョリーはファンキー味までも! バンドアンサンブルも実に良いですねぇ~♪ シェリー・マンもステック&ブラシで冴えまくりです。
ということで、これは映画云々を別にしても楽しい名演集です。
ちなみに楽曲を提供したジョニー・マンデルは本来はトランペッターらしく、バディ・リッチやアーティ・ションの楽団に雇われていたらしいのですが、子供時代からきちんとした音楽教育を受けていたことから、作編曲で頭角をあらわし、アンドレ・プレビン(p) の紹介で映画音楽の世界に入ったとされています。
代表作としては「いそしぎ」があまりにも有名ですが、他にも名曲多数、映画音楽の仕事も書ききれないほどやっており、素晴らしいセンスの持ち主だと、私は思います。
またこの作品と真正フィルム音源をカップリングしたCDも出ているらしいので、聴き比べも一興ですが、後者の演奏はスタジオミュージシャンが中心ですし、このアルバムで聴けるようなタイプの音楽ではありません。
ただし別種でありながら、ジャズの雰囲気は満点という濃密なものです。
最後に気になる映画そのものですが、一種の犯罪サスペンス物であり、個人的には後味が良くないので、ここまでとさせていただきますが、このアルバムに関しては、何度聴いても最高に好きです♪