安倍外交には賛辞が大勢で、対露制裁についても、日本の国益を追求する独自外交があってしかるべきとの声が多い中、当然あってしかるべき声で、堂々と唱えておられることに敬意を払い、備忘録としてアップさせていただくこととしました。
日本政府は9月下旬、ウクライナ問題に関する対露追加制裁を発表した。だが今回も、G7(先進7カ国)に渋々おつき合いする様子が見え隠れする。1回目の制裁がロシア要人の入国を禁じていなかったため、プーチン大統領の「側近中の側近」、セーチン氏は大手を振って来日している。要するに、日本側の対露制裁は遅すぎるばかりか不十分なのである。そのような感想を私が抱く理由を、3点に限って指摘する。
≪クリミアと北方領土は同根≫
第1に、己の領土をいわれなく奪われて実効支配されているという点で、北方領土とウクライナ南部のクリミア半島の問題が同根であること。日本とウクライナはともに、旧ソ連ないしは継承国ロシアによる軍事力の行使による、明らかな国際法違反行為の犠牲者という境遇にある。したがって、日本はG7の対露制裁に単に参画するだけではなく、むしろ、率先垂範して制裁の旗振り役を務めてもおかしくないのである。
ところが、安倍晋三政権は次のような理屈をこねているかにみえる。わが国にはロシアに北方領土を返還させるという悲願がある。そのための環境整備が曲がりなりにも進捗しつつある現在、対露制裁に余り熱心な姿勢を示して折角改善しつつある雰囲気をぶち壊す愚を犯したくない、と。
右は、説得力を欠く主張と評さざるを得ない。そのような理由で対露制裁に躊躇(ちゅうちょ)するなら、日本は二重基準を採る利己的な国家に堕すからである。つまり、自国領土を取り戻すことには熱心な一方、他国が同様の仕打ちを蒙(こうむ)った場合は非協力を決め込む。むしろ、その逆こそが日本として取るべき正しい態度だろう。戦後日本は69年の長きにわたり、領土が略奪される悲劇を経験している。したがって、G7諸国でウクライナの憤りや心情を最も良く理解する立場にあり、クリミアなどをめぐる対露制裁に最も積極的な姿勢を取ることに吝(やぶさ)かではない、と。
≪中韓へのシグナル忘れるな≫
わが国が厳しい制裁をロシアに科さなければならない第2の理由がある。日本が韓国や中国との間で領土紛争を抱えているという事情である。つまり、韓国は目下、日本固有の領土である竹島を不法占拠中であり、中国も隙あらば日本から尖閣諸島を奪おうと虎視眈々(たんたん)と機会を狙っている。
そのような状況下で、安倍政権がクリミアなどウクライナの問題と北方領土の問題について首尾一貫しない態度を示すならば、どうであろう。日本の対応を刮目(かつもく)して見守っている北京やソウルに対して、誤解を招くメッセージを発信することになるだろう。
外交活動は、相手側に直接向けた言動だけによって行われるとは限らない。必ずしも当事者でない第三国に対する言動を通じても展開される。いわゆる、diplomacy by examples(例示外交)である。
その意味で、民主党政権は、袴田茂樹・新潟県立大学教授がよく引かれるように、致命的な過ちを犯している。2012年7月、ロシアのメドベージェフ首相が国後島再訪という「屈辱」をわが国に与えたにもかかわらず、玄葉光一郎外相はわざわざプーチン露大統領を保養先のソチに訪ねた。秋田犬の土産まで持参して。
奪われた領土に関するかくも鈍感な日本の態度から学んだのは、ロシアだけではなかった。韓国の李明博大統領は早速、竹島上陸を敢行し、中国も尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船を衝突させるといった露骨な対日揺さぶり行動を起こしている。
≪対米協調路線を貫く重要性≫
ウクライナ危機、特にロシアによるクリミア併合で第3に肝要なのは、安倍政権が対米協調路線を貫くということである。
戦後日本は国際紛争を武力で解決することを自らに禁じてきている。ジョセフ・ナイ米ハーバード大教授は、常々引用しているように、次のような比喩を用いて、外交交渉における日本の敗北を予言している。「もし、右手を用いることを自らに禁じて左手だけを使うボクサーがいると仮定しよう。そのことを熟知している相手ボクサーは、きっと彼の右側を攻めてくるにちがいない」と。
自らの軍事力だけに頼り得ない戦後日本は、米国と同盟関係を組むことによって、初めて身の安全を確保し得てきた。核兵器を持っていない日本を例えば、武力を信奉する「プーチンのロシア」が国家ないしは交渉相手として認めてきた背景には、日本の背後に米国が控えていることもあった。尖閣諸島についていえば、米国は諸島が日本の施政権下にあり、日米安保条約の適用対象になると繰り返し保障してくれている。
そんな日本がウクライナ危機に際し米国の対露制裁方針に必ずしも賛同せず、何とかしてそれを逃れようとさえ試みるならば、どうであろう。日本の姿勢は身勝手な甘えん坊のように映り、米国をはじめ世界の各国に内心では蔑視され、事実上、G7内で仲間外れにされる危険さえはらむ。(きむら ひろし)
中国に追い越されたとは言え、世界第3位のGDPを誇る日本。少子高齢化と人口減、世界一の財政赤字比率と成長力に陰りはみられますが、G7のメンバーとして世界をリードする役割を担っています。
一方、記事の木村名誉教授の言葉を借りれば「戦後日本は69年の長きにわたり、領土が略奪される悲劇を経験している。」のです。終戦のドサクサまぎれに、北方領土をロシアに不法占拠され、竹島を李承晩ラインで勝手に実効支配され、今日では、尖閣諸島に中国が海と空から侵犯を繰り返しています。
更に、今日では、中国と韓国の歴史問題共闘プロパガンダにより、捏造誤認識を世界に喧伝され、国家の名誉を傷つけられています。
自民党・安倍政権が復権・誕生したのには、日本を取り戻すとのスローガンに期待をかけて支持した人々が多かったことが寄与したはずです。
そこには、民主党政権がぶち壊した日米同盟の復活も含まれますが、戦後レジュームからの脱却=米国におんぶにだっこの状態から脱却して、自力でも安全保証を担える米国との普通の同盟国関係の構築が含まれていたと理解しています。
その考えからは、日本の国益は、先ず日本が護る努力をし、及ばないことは同盟国などと連携すると言う流れになります。
領土問題は、自分で解決する努力が先ず必要で、その上で同盟国等と連携することとなります。
自国の国益を自国が主張して護ることと、他国と連携して護ることの優先度はどちらなのか。その悩みどころが、ウクライナ問題での対露制裁協調にあるのですね。
近隣諸国に力で領土を不法占拠されたり、侵略に今もあっている日本は、力による現状変更には、断固異議を唱え阻止せねばならない。今日の世界情勢のなかで、核の抑止力を米国に頼り、自力で国を護れない日本は、同盟国等との連携無くして単独では自国を護れないのであり、関連国との連携を重視せねばならない。
米国でさえも単独での世界の警察の地位を放棄した今日の世界情勢。日本も当然独歩の道は歩めません。
米国の力が衰えたと言う意味で、自国は自分で護る力をつけることは必要です。しかし、力で現状変更を達成しようとする野望には、世界が一致団結して戦わねばなりません。日本は、力による現状変更の被害国でもありますから、関連諸国と団結して、率先して力による現状変更の動きは阻止せねばならないという木村名誉教授の主張には異議はありません。
苦しいかじ取りが安倍政権には課せられますが、世界が納得する正統性がある舵取りを期待しています。
# 冒頭画像は、プーチン大統領の来日について協議された言われる、9月の森元首相とプーチン大統領との会談
寒桜とメジロ
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日本は今後ロシアとどう付き合うべきか
http://ironna.jp/article/199
日本外交の転機になりうる節目ですね。