米国のジョー・バイデン政権は昨年12月に対ロ制裁を強化した際、ロシアの軍需産業と取引をしている第三国の銀行を米国の金融市場から締め出す措置を強化した。この「二次制裁」の強化を受けて、それまでロシアと取引をしていた中国の銀行は続々と取り止めた。
今年3月以降は中国の大手銀行もロシアとの取引の精査を強化したり、業務から完全に撤退したりするに至ったようだと、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員の土田陽介氏。
中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことから、ロシアと中国の業者は、決済を継続するために他のルートの発掘に努めるようになった。その主なルートは今のところ以下の3つのようだと、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員の土田陽介氏。
1つ目が、中ロ国境の地方銀行による決済ルート。産業が発達している吉林省や黒龍江省の地方銀行がその担い手なのだろうと。
ロシアと中国の間の決済を目的に新設された専門銀行も、両国間の貿易決済を担っているとされている。こうした銀行は、ロシア企業による口座の開設も容認しているようだと。
2つ目のルートは、中ロ国境で暗躍している通貨ブローカーを用いる決済ルートである。紙幣での決済もあれば、地下送金による決済もあるのだと推察される。
3つ目のルートが、暗号資産を用いた決済ルート。
こうした米国による二次制裁強化の影響は、貿易統計からも窺い知れると、土田氏。
今年4-6月期のロシアと中国の貿易統計を確認すると、まずロシアの中国への輸出は前年比1.1%増と、前期(同8.3%増)から失速。 一方、ロシアの中国からの輸入は同4.1%減と22年4-6月期以来となる前年割れに陥った。
ロシア中銀は、6月の政策理事会後の声明で、二次制裁で貿易決済が輸入を中心に停滞し、インフレ圧力になっているとの厳しい見方を示している。
実際、2022年以降にロシアの対中貿易依存度は急上昇しており、特に輸入依存度は、ロシアと中国双方の統計から推測すると4割近くに達している。今年に入ってもロシア経済はプラス成長が続いており、個人消費も前年水準を上回っていることを考慮すれば、中国からの輸入が4%程度とはいえ前年割れとなっている事実は軽視できない。
制裁の効果はラグを伴って実際の貿易データに反映されると考えられるため、米国による二次制裁が今年7-9月期以降の貿易のさらなる悪化につながる可能性は相応に高いと考えられる。いずれにせよ、米国による二次制裁は、ロシアと中国の貿易を着実に圧迫しており、モノ不足を通じてロシアのインフレ再燃を促しているようだと、土田氏。
今後のロシアと中国の貿易決済について、暗号資産が一段と使われるようになるという見方があるようだ。仮にそうなったとして、それが本当にロシア経済にとって前向きなことなのかという素朴な疑問が浮かぶ。なぜならば、暗号資産を用いた貿易決済では、ロシアは中国元という「外貨」を必ずしも稼ぐことができないためだ。
通常の決済ルートが保たれていれば、ロシアは輸出で外貨を稼ぐことができる。
しかし暗号資産を通じて貿易決済を行う場合、暗号資産のままでもいいかもしれないが、レートが安定しないため、やはりルーブルに換えることになるのではないだろうか。
暗号資産による決済が増えれば増えるほど、輸出業者のルーブル資金に対する需要が増えることになる。このことは非輸出部門に出回るルーブルの量を圧迫し、インフレを促すことにならないかと、土田氏。
暗号資産による貿易決済の拡大は、ロシアのマクロ経済運営にとって必ずしも喜ばしいことではなさそうだと。
# 冒頭の画像は、中国・黒竜江省の中ロ国境。中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことで、現地の地方銀行による決済ルートが増えているのだと
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今年3月以降は中国の大手銀行もロシアとの取引の精査を強化したり、業務から完全に撤退したりするに至ったようだと、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員の土田陽介氏。
ロシアへの二次制裁強化は確実に効いている!貿易統計が明らかにする窒息し始めたロシアの対中貿易 【土田陽介のユーラシアモニター】新たな決済手段に移行するロシアと中国の貿易 | JBpress (ジェイビープレス) 2024.7.17(水) 土田 陽介
・米国の対ロ制裁強化によって、ロシアとの取引を手控える中国の銀行が増えている。
・中ロ貿易に関わる企業は中ロ国境の地方銀行に加えて、通貨ブローカーや暗号資産の活用を進めているが、中国とロシアの貿易は輸出入ともに縮小しつつある。
・今後、専門の貿易決済機構が設立される可能性もあるが、そうなれば、ロシアは多角貿易体制から双務貿易(二国間貿易)体制へのシフトを余儀なくされる。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
米国のジョー・バイデン政権は昨年12月に対ロ制裁を強化した際、ロシアの軍需産業と取引をしている第三国の銀行を米国の金融市場から締め出す措置を強化した。この「二次制裁」の強化を受けて、それまでロシアと取引をしていた中国の銀行は続々と取り止めた。米国の金融市場から締め出されれば、銀行ビジネスが成り立たないためだ。
当初、この流れは中小銀行から生じたが、今年3月以降は中国の大手銀行もロシアとの取引の精査を強化したり、業務から完全に撤退したりするに至ったようだ。いわゆる四大銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)もロシア事業の見直しを進め、うち建設銀行と農業銀行はロシア子会社の資産を縮小したという。
中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことから、ロシアと中国の業者は、決済を継続するために他のルートの発掘に努めるようになった。各種報道に基づけば、その主なルートは今のところ以下の3つのようだ。
1つ目が、中ロ国境の地方銀行による決済ルートである。産業が発達している吉林省や黒龍江省の地方銀行がその担い手なのだろう。
またロシアと中国の間の決済を目的に新設された専門銀行も、両国間の貿易決済を担っているとされている。こうした銀行は、ロシア企業による口座の開設も容認しているようだ。
続く2つ目のルートは、中ロ国境で暗躍している通貨ブローカーを用いる決済ルートである。紙幣での決済もあれば、地下送金による決済もあるのだと推察される。
そして、3つ目のルートが、暗号資産を用いた決済ルートだ。中国では表向き、暗号資産の取引は禁止されているが、実態としては国外の取引所で取引したり、相対で取引したりされているようだ。一方で、ロシアでは暗号資産の取引は容認されているため、両国の貿易業者は暗号資産を用いて貿易決済を行っているとのことである。
こうした米国による二次制裁強化の影響は、貿易統計からも窺い知れる。
着実に圧迫されているロシアの対中貿易
中国海関総署の統計から今年4-6月期のロシアと中国の貿易統計を確認すると、まずロシアの中国への輸出は前年比1.1%増と、前期(同8.3%増)から失速した(図表)。一方、ロシアの中国からの輸入は同4.1%減と22年4-6月期以来となる前年割れに陥った。
輸入に関していえば、前年同期(23年4-6月期)の高い伸び率(116.6%増)に伴うベース効果を考慮すると、前年比4.1%減という実績はそれほど悪い内容ではないという印象を受ける。しかしロシア中銀は、6月の政策理事会後の声明で、二次制裁で貿易決済が輸入を中心に停滞し、インフレ圧力になっているとの厳しい見方を示している。
実際、2022年以降にロシアの対中貿易依存度は急上昇しており、特に輸入依存度は、ロシアと中国双方の統計から推測すると4割近くに達している。今年に入ってもロシア経済はプラス成長が続いており、個人消費も前年水準を上回っていることを考慮すれば、中国からの輸入が4%程度とはいえ前年割れとなっている事実は軽視できない。
それに、制裁の効果はラグを伴って実際の貿易データに反映されると考えられるため、米国による二次制裁が今年7-9月期以降の貿易のさらなる悪化につながる可能性は相応に高いと考えられる。いずれにせよ、米国による二次制裁は、ロシアと中国の貿易を着実に圧迫しており、モノ不足を通じてロシアのインフレ再燃を促しているようだ。
「外貨を稼げない輸出」が意味すること
ところで、今後のロシアと中国の貿易決済について、暗号資産が一段と使われるようになるという見方があるようだ。仮にそうなったとして、それが本当にロシア経済にとって前向きなことなのかという素朴な疑問が浮かぶ。なぜならば、暗号資産を用いた貿易決済では、ロシアは中国元という「外貨」を必ずしも稼ぐことができないためだ。
通常の決済ルートが保たれていれば、ロシアの輸出業者が中国の輸入業者との間で決済を行う場合、中国の輸入業者はロシアの輸出業者に対して人民元やルーブルで輸入代金を支払うことになる。人民元建てで輸入代金が決済された場合、ロシアの輸出業者は人民元という外貨を得ることになる。つまり、ロシアは輸出で外貨を稼ぐことができる。
しかし暗号資産を通じて貿易決済を行う場合、中国の輸入業者は手持ちの人民元で暗号資産を購入し、それでロシアの輸出業者に支払うことになる。そしてロシアの輸出業者は、暗号資産をルーブルで受け取ることになる。暗号資産のままでもいいかもしれないが、レートが安定しないため、やはりルーブルに換えることになるのではないだろうか。
ロシアの輸出業者が暗号資産をルーブルに換えたとして、そのルーブルはあくまでロシアの市中に出回っているルーブル資金である。見方を変えれば、暗号資産による決済が増えれば増えるほど、輸出業者のルーブル資金に対する需要が増えることになる。このことは非輸出部門に出回るルーブルの量を圧迫し、インフレを促すことにならないか。
現実的には、輸出部門のルーブル需要の高まりだけでインフレがどれだけ促され、それが中銀の金融政策運営を困難にさせるか、よく分からない。とはいえ、暗号資産がいわゆる資本逃避のツールとして用いられることにも鑑みれば、暗号資産による貿易決済の拡大は、ロシアのマクロ経済運営にとって必ずしも喜ばしいことではなさそうだ。
専門の貿易決済機構が設立される可能性
地方銀行や専門銀行による決済や通貨ブローカーによる決済は、その処理能力の限度から、少額にとどまるのではないだろうか。暗号資産を用いた決済についても、技術的な制約や金融政策・金融行政との兼ね合いから、順調な拡大は望みがたい。とはいえ、抜本的な解決が見込まれない中では、こうした手段で決済を続けるしか方法はない。
米国による二次制裁を回避しつつ貿易決済を継続するためにも、将来的にロシアは中国との間でドル決済に拠らない専門の金融機関を設立し、その金融機関を通じて決済をすることになるのではないだろうか。中国のみならず、インドや他の新興国との間でも、ロシアはそのような貿易決済専門の金融機関を設立することになるのかもしれない。
しかしながら、貿易相手国ごとに専門の金融機関を設立するという方式を採用すれば、ロシアは多角貿易体制から双務貿易(二国間貿易)体制へのシフトを余儀なくされるため、貿易取引はむしろ圧迫されることになる。経済制裁の中でロシアがどのようなかたちで決済の継続を試みるのか、そして米国はその道をどう塞ごうとするのか、注視したい。
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土田 陽介 (つちだ・ようすけ) のプロフィール
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。
・米国の対ロ制裁強化によって、ロシアとの取引を手控える中国の銀行が増えている。
・中ロ貿易に関わる企業は中ロ国境の地方銀行に加えて、通貨ブローカーや暗号資産の活用を進めているが、中国とロシアの貿易は輸出入ともに縮小しつつある。
・今後、専門の貿易決済機構が設立される可能性もあるが、そうなれば、ロシアは多角貿易体制から双務貿易(二国間貿易)体制へのシフトを余儀なくされる。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
米国のジョー・バイデン政権は昨年12月に対ロ制裁を強化した際、ロシアの軍需産業と取引をしている第三国の銀行を米国の金融市場から締め出す措置を強化した。この「二次制裁」の強化を受けて、それまでロシアと取引をしていた中国の銀行は続々と取り止めた。米国の金融市場から締め出されれば、銀行ビジネスが成り立たないためだ。
当初、この流れは中小銀行から生じたが、今年3月以降は中国の大手銀行もロシアとの取引の精査を強化したり、業務から完全に撤退したりするに至ったようだ。いわゆる四大銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)もロシア事業の見直しを進め、うち建設銀行と農業銀行はロシア子会社の資産を縮小したという。
中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことから、ロシアと中国の業者は、決済を継続するために他のルートの発掘に努めるようになった。各種報道に基づけば、その主なルートは今のところ以下の3つのようだ。
1つ目が、中ロ国境の地方銀行による決済ルートである。産業が発達している吉林省や黒龍江省の地方銀行がその担い手なのだろう。
またロシアと中国の間の決済を目的に新設された専門銀行も、両国間の貿易決済を担っているとされている。こうした銀行は、ロシア企業による口座の開設も容認しているようだ。
続く2つ目のルートは、中ロ国境で暗躍している通貨ブローカーを用いる決済ルートである。紙幣での決済もあれば、地下送金による決済もあるのだと推察される。
そして、3つ目のルートが、暗号資産を用いた決済ルートだ。中国では表向き、暗号資産の取引は禁止されているが、実態としては国外の取引所で取引したり、相対で取引したりされているようだ。一方で、ロシアでは暗号資産の取引は容認されているため、両国の貿易業者は暗号資産を用いて貿易決済を行っているとのことである。
こうした米国による二次制裁強化の影響は、貿易統計からも窺い知れる。
着実に圧迫されているロシアの対中貿易
中国海関総署の統計から今年4-6月期のロシアと中国の貿易統計を確認すると、まずロシアの中国への輸出は前年比1.1%増と、前期(同8.3%増)から失速した(図表)。一方、ロシアの中国からの輸入は同4.1%減と22年4-6月期以来となる前年割れに陥った。
輸入に関していえば、前年同期(23年4-6月期)の高い伸び率(116.6%増)に伴うベース効果を考慮すると、前年比4.1%減という実績はそれほど悪い内容ではないという印象を受ける。しかしロシア中銀は、6月の政策理事会後の声明で、二次制裁で貿易決済が輸入を中心に停滞し、インフレ圧力になっているとの厳しい見方を示している。
実際、2022年以降にロシアの対中貿易依存度は急上昇しており、特に輸入依存度は、ロシアと中国双方の統計から推測すると4割近くに達している。今年に入ってもロシア経済はプラス成長が続いており、個人消費も前年水準を上回っていることを考慮すれば、中国からの輸入が4%程度とはいえ前年割れとなっている事実は軽視できない。
それに、制裁の効果はラグを伴って実際の貿易データに反映されると考えられるため、米国による二次制裁が今年7-9月期以降の貿易のさらなる悪化につながる可能性は相応に高いと考えられる。いずれにせよ、米国による二次制裁は、ロシアと中国の貿易を着実に圧迫しており、モノ不足を通じてロシアのインフレ再燃を促しているようだ。
「外貨を稼げない輸出」が意味すること
ところで、今後のロシアと中国の貿易決済について、暗号資産が一段と使われるようになるという見方があるようだ。仮にそうなったとして、それが本当にロシア経済にとって前向きなことなのかという素朴な疑問が浮かぶ。なぜならば、暗号資産を用いた貿易決済では、ロシアは中国元という「外貨」を必ずしも稼ぐことができないためだ。
通常の決済ルートが保たれていれば、ロシアの輸出業者が中国の輸入業者との間で決済を行う場合、中国の輸入業者はロシアの輸出業者に対して人民元やルーブルで輸入代金を支払うことになる。人民元建てで輸入代金が決済された場合、ロシアの輸出業者は人民元という外貨を得ることになる。つまり、ロシアは輸出で外貨を稼ぐことができる。
しかし暗号資産を通じて貿易決済を行う場合、中国の輸入業者は手持ちの人民元で暗号資産を購入し、それでロシアの輸出業者に支払うことになる。そしてロシアの輸出業者は、暗号資産をルーブルで受け取ることになる。暗号資産のままでもいいかもしれないが、レートが安定しないため、やはりルーブルに換えることになるのではないだろうか。
ロシアの輸出業者が暗号資産をルーブルに換えたとして、そのルーブルはあくまでロシアの市中に出回っているルーブル資金である。見方を変えれば、暗号資産による決済が増えれば増えるほど、輸出業者のルーブル資金に対する需要が増えることになる。このことは非輸出部門に出回るルーブルの量を圧迫し、インフレを促すことにならないか。
現実的には、輸出部門のルーブル需要の高まりだけでインフレがどれだけ促され、それが中銀の金融政策運営を困難にさせるか、よく分からない。とはいえ、暗号資産がいわゆる資本逃避のツールとして用いられることにも鑑みれば、暗号資産による貿易決済の拡大は、ロシアのマクロ経済運営にとって必ずしも喜ばしいことではなさそうだ。
専門の貿易決済機構が設立される可能性
地方銀行や専門銀行による決済や通貨ブローカーによる決済は、その処理能力の限度から、少額にとどまるのではないだろうか。暗号資産を用いた決済についても、技術的な制約や金融政策・金融行政との兼ね合いから、順調な拡大は望みがたい。とはいえ、抜本的な解決が見込まれない中では、こうした手段で決済を続けるしか方法はない。
米国による二次制裁を回避しつつ貿易決済を継続するためにも、将来的にロシアは中国との間でドル決済に拠らない専門の金融機関を設立し、その金融機関を通じて決済をすることになるのではないだろうか。中国のみならず、インドや他の新興国との間でも、ロシアはそのような貿易決済専門の金融機関を設立することになるのかもしれない。
しかしながら、貿易相手国ごとに専門の金融機関を設立するという方式を採用すれば、ロシアは多角貿易体制から双務貿易(二国間貿易)体制へのシフトを余儀なくされるため、貿易取引はむしろ圧迫されることになる。経済制裁の中でロシアがどのようなかたちで決済の継続を試みるのか、そして米国はその道をどう塞ごうとするのか、注視したい。
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土田 陽介 (つちだ・ようすけ) のプロフィール
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。
中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことから、ロシアと中国の業者は、決済を継続するために他のルートの発掘に努めるようになった。その主なルートは今のところ以下の3つのようだと、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員の土田陽介氏。
1つ目が、中ロ国境の地方銀行による決済ルート。産業が発達している吉林省や黒龍江省の地方銀行がその担い手なのだろうと。
ロシアと中国の間の決済を目的に新設された専門銀行も、両国間の貿易決済を担っているとされている。こうした銀行は、ロシア企業による口座の開設も容認しているようだと。
2つ目のルートは、中ロ国境で暗躍している通貨ブローカーを用いる決済ルートである。紙幣での決済もあれば、地下送金による決済もあるのだと推察される。
3つ目のルートが、暗号資産を用いた決済ルート。
こうした米国による二次制裁強化の影響は、貿易統計からも窺い知れると、土田氏。
今年4-6月期のロシアと中国の貿易統計を確認すると、まずロシアの中国への輸出は前年比1.1%増と、前期(同8.3%増)から失速。 一方、ロシアの中国からの輸入は同4.1%減と22年4-6月期以来となる前年割れに陥った。
ロシア中銀は、6月の政策理事会後の声明で、二次制裁で貿易決済が輸入を中心に停滞し、インフレ圧力になっているとの厳しい見方を示している。
実際、2022年以降にロシアの対中貿易依存度は急上昇しており、特に輸入依存度は、ロシアと中国双方の統計から推測すると4割近くに達している。今年に入ってもロシア経済はプラス成長が続いており、個人消費も前年水準を上回っていることを考慮すれば、中国からの輸入が4%程度とはいえ前年割れとなっている事実は軽視できない。
制裁の効果はラグを伴って実際の貿易データに反映されると考えられるため、米国による二次制裁が今年7-9月期以降の貿易のさらなる悪化につながる可能性は相応に高いと考えられる。いずれにせよ、米国による二次制裁は、ロシアと中国の貿易を着実に圧迫しており、モノ不足を通じてロシアのインフレ再燃を促しているようだと、土田氏。
今後のロシアと中国の貿易決済について、暗号資産が一段と使われるようになるという見方があるようだ。仮にそうなったとして、それが本当にロシア経済にとって前向きなことなのかという素朴な疑問が浮かぶ。なぜならば、暗号資産を用いた貿易決済では、ロシアは中国元という「外貨」を必ずしも稼ぐことができないためだ。
通常の決済ルートが保たれていれば、ロシアは輸出で外貨を稼ぐことができる。
しかし暗号資産を通じて貿易決済を行う場合、暗号資産のままでもいいかもしれないが、レートが安定しないため、やはりルーブルに換えることになるのではないだろうか。
暗号資産による決済が増えれば増えるほど、輸出業者のルーブル資金に対する需要が増えることになる。このことは非輸出部門に出回るルーブルの量を圧迫し、インフレを促すことにならないかと、土田氏。
暗号資産による貿易決済の拡大は、ロシアのマクロ経済運営にとって必ずしも喜ばしいことではなさそうだと。
# 冒頭の画像は、中国・黒竜江省の中ロ国境。中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことで、現地の地方銀行による決済ルートが増えているのだと
この花の名前は、ツリガネニンジン
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