遊爺雑記帳

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2020年末にEU中国間で大筋合意に至った中欧投資協定が凍結

2021-06-19 01:33:55 | 米中新冷戦時代
 最近、欧米の中国専門家と意見交換をすると、ほとんどの専門家が「中国政府は大きなミスを犯した」と一致した見方を示す出来事があると、キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の瀬口清之氏。
 2014年にスタートして7年間続いていた中欧投資協定(CAI)が、2020年12月中旬になって、中国側が突然譲歩し、EUの要求を呑むと回答。EUと中国は12月30日に大筋合意に達したのでした。
 ところが、その合意が凍結される事態を招いているのだそうです。
 原因は、EUが中国の新疆ウイグル自治区における人権侵害を批判し、同自治区関係者に対する制裁措置をとったことに対して、中国の報復措置が過大であることへのEU側の怒り。
 中国が制裁を解除するまで、EUでの審議は再開されないことが決定されたのでした。
 中国の対EU報復制裁の内容が、EUの対中制裁の内容と釣り合いのとれた限定的なものにとどまっていれば、ここまで反中感情は高まらず、CAIの審議停止決定に至ることもなかった。
 中国自身が実施した報復制裁のもつ重大な意味、それがもたらす大きな代償にまで考えが及ばなかったという中国側の判断ミスがあったと。
 
中国が戦狼外交で失った莫大な資産 伝統の「徳治」を重んじる外交は考えられないのか | JBpress (ジェイビープレス) 2021.6.17(木) 瀬口 清之

■1.中国政府が犯した大きなミス
 最近、欧米の中国専門家と意見交換をすると、
ほとんどの専門家が「中国政府は大きなミスを犯した」と一致した見方を示す出来事がある

 
EUが新疆ウイグル自治区の人権問題を批判して実施した対中制裁に対し、中国政府が報復措置として実施した対EU制裁のことである。

 この中国による
報復制裁の内容が、EUによる対中制裁に比べてあまりに厳しすぎたため、EU議会が強く反発した。

 そして、
2020年末にEU中国間で大筋合意に至った中欧投資協定(EU-China Comprehensive Agreement on Investment=EU中国包括的投資協定、以下CAI)について、EU議会での最終合意に向けた審議を停止する決定を下したのである。

 EUが中国に対して提示した
審議再開の条件は中国による上記制裁の解除である。

 中国政府がこれを簡単に解除するとは考えにくいことから、審議停止は長引くとの見方が支配的だ。
最悪の場合は再開されない可能性もあるとの見方も少なくない。

 
CAIの交渉はEU中国間で2014年にスタートして7年間続いていた。2020年12月初旬、EU関係者のほぼ全員が2020年末までにCAI交渉が大筋合意に達する可能性はまずないと見ていた

 その
主な原因は、EUが中国に対して強く要求してきた相互主義(reciprocity)の条件を中国が一貫して拒否していたからである。

 中国はまだ発展途上国であるため、先進国であるEUと同じ基準で市場の競争条件を整備するのはまだ無理だというのが拒否の理由だった。

 
ところが、12月中旬になって、中国側が突然譲歩し、EUの要求を呑むと回答した。

 
その背景は、第1に、米国のジョー・バイデン政権が1月に発足し、ドナルド・トランプ政権とほぼ同様の強硬な対中外交を展開すれば、米国がEUに対して圧力をかけ、EUとの交渉はさらに難しくなる可能性が高かったことがある。

 
第2に2020年後半は輪番制で決まるEUの議長国がドイツだった。

 そのため、2020年末までであれば、
親中的なメルケル首相のサポートが期待できるが、その機会を逃すと中国をサポートする有力な人物が現れることは期待できなくなるという要因があったと見られている。

 EU側は中国の突然の譲歩に驚いたが、それを好機と捉え、一気に大筋合意に動いた。

 これに対して、バイデン政権で国家安全保障担当大統領補佐官に就任したジェイク・サリバン氏が、就任前の12月22日にツイッターでこのEUの動きを牽制した。

 それにもかかわらず、
EUと中国は12月30日に大筋合意に達した

 
合意内容は中国の譲歩に基づくものであるため、中国にとっての経済的なメリットは大きくない

 
しかし、政治的な観点から見れば、深刻な米中対立が続く中で、EUとの関係強化を形にすることができたのは中国にとって非常に大きな意味があった

 
ところが今、上記のように、この大切な政治資産が失われるリスクに直面している

 この代償の大きさは計り知れない。
そこまでして中国が対EU強硬姿勢にこだわったのはなぜか

 この点について、欧米の複数の中国専門家は、
中国はEUがCAIの審議停止に踏み切るといった厳しい反応を決定することまで予測できていなかったのではないかと見ている。

 以下ではこの問題の経緯を少し詳しく説明したい。

■2.EUと中国の制裁応酬の経緯
 2021年3月22日、EU外相理事会は、中国の新疆ウイグル自治区における人権侵害を批判し、同自治区関係者に対する制裁措置を採択した。

 制裁の内容はEU域内への渡航禁止、EU内の資産凍結などであり、対象は新疆ウイグル自治区の公安局長、同自治区党委員会幹部、同元幹部、新疆生産建設兵団の党事務局長の4人および新疆生産建設兵団公安局の1組織である。

 これに続いて米国、カナダ、英国もEUに同調する形で、類似の制裁措置を発表した。

 これに対して、中国政府は同日、これに対する報復措置として中国への入国禁止など対EU制裁を発動した。

 対象は、5人の欧州議会議員、オランダ国会議員、ベルギー連邦議会議員、リトアニア国会議員、ドイツおよびスウェーデンの学者など計10人に加え、欧州理事会政治・安全保障委員会、欧州議会人権問題分科会、ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)、デンマークの民主主義アライアンス財団の4組織である。

 EU側の制裁が新疆ウイグル自治区の地方政府関係者を対象とする限定的な内容だったのに対し、中国側の報復措置はEU全体を代表する政治家、専門家および重要組織が対象とされ、EUによる制裁の内容に比べてはるかに厳しい内容だった。

 これを受けて、EU議会は、5月20日、2020年12月30日にEU中国間で大筋合意に達し、現在批准に向けて詳細項目について審議中だったCAIについて、審議を凍結することを可決した。

 
中国が制裁を解除するまで審議は再開されないことが決定された

■3.中国の対EU制裁の意図と誤算
 欧米の中国専門家は、中国による対EU報復制裁がEUの対中制裁に比べて大幅に厳しい内容であることは中国政府の指導層幹部も十分認識していたと見ている。

 しかし、それがCAIの審議停止に直結することまでは予想していなかったのではないかとの見方が多い。

 中国では国家の政策運営方針は政府内部で決定される。最近は重要法案に関しては事前にパブリックコメントを求め、必要に応じて修正を加えるようになっている。

 しかし、政府内部の審議から最終決定に至る政策決定過程は国民に明らかにされることはない。したがって、一般国民の世論や国民感情が政策に影響することは稀である。

 
今回のEU議会でのCAIの審議凍結は、中国の報復制裁に対して、新疆ウイグル自治区の人権問題を巡るEUの反中感情の高まりが影響したものである。

 
中国は報復制裁がここまでEUの反発を招き、CAIの審議停止につながることまでは予想できていなかったとの見方が多い。

 仮に
中国の対EU報復制裁の内容が、EUの対中制裁の内容と釣り合いのとれた限定的なものにとどまっていれば、ここまで反中感情は高まらず、CAIの審議停止決定に至ることもなかったと見られている。

 問題は、
中国側の報復制裁の対象が、EU全体を代表する政治家、専門家および重要組織に及んだため、これが民主主義に対する重大な挑戦と受け止められたことだった。

 欧米の中国専門家は、
この点が中国の大きなミスだったと評価している。

 中国自身が民主主義国家であれば、対EU制裁の内容が意味することの重大さに気づいたはずだった。

 しかし、政治体制が異なるため、
自身が実施した報復制裁のもつ重大な意味、それがもたらす大きな代償にまで考えが及ばなかったというのが複数の欧米の中国専門家の見方である。

■4.習近平主席は戦狼外交の修正を示唆
 
EU議会がCAIの審議停止を発表したすぐ後の5月31日習近平主席が共産党幹部に対して、対外的な情報発信について、「自信を示すだけでなく謙虚で、信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージづくりに努力しなければいけない」(時事通信から引用)と伝えたと報じられている

 これについて
欧米の中国専門家は中国政府指導層がEU議会のCAI審議停止決定という重大な結果に直面して、対外的な強硬姿勢の行き過ぎを修正すべきであると考えたと見ている。筆者の見方も同じである。

 しかし、
これによって「戦狼外交」と呼ばれる中国の強硬な外交姿勢が即座に修正されるとの見方をする専門家はいない

 ほとんどの専門家は中国政府が外交姿勢を改めることに対して懐疑的であり、実際に何か変化するかどうかはしばらく様子を見る必要があるとの見方で一致している。

■5.目には目を歯には歯をの代償
 中国は2010年頃まで、鄧小平が掲げた「韜光養晦」(実力を隠して内に力を蓄え時を待つ)の方針に基づいて、対外的に控えめな姿勢を保っていた。

 しかし、リーマンショック後の中国経済が世界で唯一目覚ましい回復を実現し、世界経済を大恐慌から救ったと評価された。

 それを機に中国国内のナショナリズムが盛り上がり、「目には目を歯には歯を」型の対外強硬姿勢が目立つようになった。

 最近では、2020年9月、チェコの国会議長の台湾訪問時の台湾支持発言に対する制裁、2020年11月の王毅外相の訪日に際して日中外相会談直後に行った共同記者会見の席上で尖閣諸島をめぐる問題で日本政府の見解と相いれない発言をしたことなどから、欧州、日本からの強い反発を招いた。

 今回の対EU制裁ではEU議会のCAIの審議停止を招いたほか、最近は、中東欧諸国も中国との経済協力の枠組みである17+1の対話から離脱、あるいは消極姿勢を示す動きが見られ始めている。

 
米国との対立が長期化する中、中国にとって日本やEUとの良好な関係を安定的に保つ意義は大きく、両者との関係改善・強化のため中国政府として様々な努力を重ねてきた

 これは中国側が一方的に望んだものではなく、
日本、EU側も中国との関係を重視するがゆえに、中国政府に呼応して関係改善努力を積み上げてきていた

 
それにもかかわらず、中国政府が外交面で強硬姿勢を示すことにより、それらの成果が次々と失われている

 外交面で強硬姿勢を示すことによって
中国外交部が短期的に対面を保つことができ、中国国内のナショナリズムからも支持される
 
しかし、その代償として失うものは大きい

 これまで
長期にわたり、内外の多くの関係者とともに多大な努力を積み上げてようやく実現した成果を一瞬で壊している

 対外強硬姿勢から得られる短期的な評価の重さとそれによって失われる成果のために費やされた膨大な努力の重さは釣り合っていない。

 
中国の姿勢は経済力と軍事力にものを言わせて、中国の陣営に加われ、中国の主張を認めろと圧力をかけているような印象を与える

 中国の伝統精神文化である東洋思想ではリーダーの人間的な資質を重視する「徳治」を重んじる。

「徳治」はリーダーが他者のために自己の最善を尽くしきることによって、周囲の人々が感謝し、自ら進んでリーダーを支えたいと考えるような統治を目指す。

 中国が米国のリーダーシップに対して不満を抱く大きな要因の一つは、最近の米国の政策運営に「徳治」の要素が欠けていると感じることにあるのではないかと推察される。

 もしそうであれば、その姿勢を真似るのではなく、中国自身が「徳治」の本家本元として、自ら「徳治」の姿勢を示すべきである。

 その理念が外交面で実践されれば、戦狼外交のような強硬姿勢は自然に修正されていくはずである。

 EU関係者のほぼ全員が2020年末までにCAI交渉が大筋合意に達する可能性はまずないと見ていたのが、12月中旬になって、中国側が突然譲歩し、EUの要求(相互主義)を呑むと回答し、一気に大筋合意に動いたのだそうです。
 中国が譲歩に転じた理由は 2つ。
 1つは、バイデン政権が誕生。トランプ政権とほぼ同様の強硬な対中外交を展開すれば、米国がEUに対して圧力をかけ、EUとの交渉はさらに難しくなる可能性が高かったこと。
 2つ目は、2020年後半は輪番制で決まるEUの議長国がドイツだったこと。
 親中的なメルケル首相のサポートが期待できるが、その機会を逃すと中国をサポートする有力な人物が現れることは期待できなくなるという要因があった。

 EUと中国は12月30日に大筋合意に達した。
 合意内容は中国の譲歩に基づくものであるため、中国にとっての経済的なメリットは大きくない。しかし、政治的な観点から見れば、深刻な米中対立が続く中で、EUとの関係強化を形にすることができたのは中国にとって非常に大きな意味があったと瀬口氏。
 
 ところが今、この大切な政治資産が失われるリスクに直面。
 この代償の大きさは計り知れない。そこまでして中国が対EU強硬姿勢にこだわったのはなぜか。
 欧米の複数の中国専門家は、中国はEUがCAIの審議停止に踏み切るといった厳しい反応を決定することまで予測できていなかったのではないかとの評価。
 
 仮に中国の対EU報復制裁の内容が、EUの対中制裁の内容と釣り合いのとれた限定的なものにとどまっていれば、ここまで反中感情は高まらず、CAIの審議停止決定に至ることもなかったと見られていると瀬口氏。

 EU議会がCAIの審議停止を発表したすぐ後の5月31日、習近平主席が共産党幹部に対して、対外的な情報発信について、「自信を示すだけでなく謙虚で、信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージづくりに努力しなければいけない」(時事通信から引用)と伝えたのだそうです。
 欧米の中国専門家は、中国政府指導層が対外的な強硬姿勢の行き過ぎを修正すべきであると考えたと見ている。瀬口氏も同じ見方だと。
 しかし、これによって「戦狼外交」と呼ばれる中国の強硬な外交姿勢が即座に修正されるとの見方をする専門家はいないとも。

 米国との対立が長期化する中、中国にとって日本やEUとの良好な関係を安定的に保つ意義は大きく、両者との関係改善・強化のため中国政府として様々な努力を重ねてきた。
 日本、EU側も中国との関係を重視するがゆえに、中国政府に呼応して関係改善努力を積み上げてきていた。
 外交面で強硬姿勢を示すことによって中国外交部が短期的に対面を保つことができ、中国国内のナショナリズムからも支持される。
 しかし、その代償として失うものは大きい。長期にわたり、内外の多くの関係者とともに多大な努力を積み上げてようやく実現した成果を一瞬で壊していると瀬口氏。

 中国の姿勢は経済力と軍事力にものを言わせて、中国の陣営に加われ、中国の主張を認めろと圧力をかけているような印象を与える。
 対外強硬姿勢から得られる短期的な評価の重さとそれによって失われる成果のために費やされた膨大な努力の重さは釣り合っていないと。

 中国自身が「徳治」の本家本元として、自ら「徳治」の姿勢を示すべきである。その理念が外交面で実践されれば、戦狼外交のような強硬姿勢は自然に修正されていくはずであると瀬口氏。

 しかし、中国の世界制覇の夢を追い続ける習近平政権においては、ありえない話ですね。



 # 冒頭の画像は、習近平




  この花の名前は、 デアスキア ディアモンテ コーラルローズ


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