
トランプ米大統領の関税引き上げに対し、中国は一連の報復措置で対抗した。4月4日には他の措置とともに、米国の防衛、エネルギー、自動車産業にとって不可欠な17種類のレアアース(希土類)の一部と、磁石類の一部の輸出を停止した。
事態を受けたメディアの論説で、欧米が抱える脆弱(ぜいじゃく)性に対する深い不安が露呈。
実際に、米国は以前にも同じ状況に置かれていた。
しかし現在は、レアアースは比較的希少な鉱物資源といったレベルに変化していると、マリアン・L・タピー氏。
中国は15年前、日本と中国が互いに領有権を主張する海域を巡り日本と論争になった後、日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。
米防衛アナリストは、中国は戦略面での脆弱(ぜいじゃく)性に付け込んでいると警告。米製造業者は、あらゆるものに重要な役割を果たすレアアースの代替品を求めて奔走。
当時、中国は世界のレアアース生産の93%を占め、最も希少な重希土類の99%超を支配していたので、このパニックは当然のことにみえた。
しかし現在では、戦略面の災難とされたこの出来事を覚えている人はほとんどいないと、マリアン・L・タピー氏。
市場のメカニズムが資源をてこにしようとする中国の試みを損なった。2010年代初めに、中国以外からの供給の伸びが加速したのだと。
2014年までには、レアアース市場における中国のシェアが90%超から約70%に低下したと。
中国の輸出割当制度にも、驚くほどの穴があることが判明。
生産者は抜け穴を利用し、制限の対象外である最小限の加工を施した合金を出荷した。一方で、生産量の推計15~30%は近隣諸国を通じてこっそり持ち出された。中国政府が何千にも及ぶ小規模の採掘業者を取り締まれなかったことで、禁輸措置は致命的な打撃を受けたと、タピー氏。
メーカーは目を見張るほどの適応能力を示したとも。
精錬業者は一時的に代替的な触媒を使い、磁石メーカーはレアアースの使用量を減らせるよう合金を調整した。新たな技術に完全移行するメーカーさえあった。この「需要崩壊」によって、新たな供給態勢の本格稼働が可能になる前に、危機の影響が小さくなった。2011年に急騰していた価格は、急速に危機前の水準に戻ったと、タピー氏。
この2010年のエピソードは、原材料を地政学的な武器として使う試みの根本的な制約をあらわにした。
中国はレアアースのかなりの市場シェアを維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)に減らした。武器計画用の在庫は一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持されていると、タピー氏。
レアアースは、レア(希少)という名にもかかわらず、極めて豊富に存在するのだそうです。
セリウムは、銅よりも埋蔵量が多い。レアアースがレアである理由は、地球化学的に見て少量ずつに分散化されていることだと。
レアアースはまた、抽出するのが難しい。こうした要因でレアアースは比較的希少な鉱物資源になっているとも。
同時に、レアアースの大規模生産を進めるカナダのような同盟諸国との自由貿易と友好関係は、国家主権や不法移民をめぐる非現実的で非生産的な争いよりも重視されるべきだと、タピー氏。
われわれがより広い視点から思い起こすべきなのは、実態がなかったレアアース危機が、経済的圧力行使の試みに対して、グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できるという証明になったことだとも!
# 冒頭の画像は、中国・江西省のレアアース鉱山

この花の名前は、椿
↓よろしかったら、お願いします。

遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス
事態を受けたメディアの論説で、欧米が抱える脆弱(ぜいじゃく)性に対する深い不安が露呈。
実際に、米国は以前にも同じ状況に置かれていた。
しかし現在は、レアアースは比較的希少な鉱物資源といったレベルに変化していると、マリアン・L・タピー氏。
【寄稿】それほど希少ではない中国のレアアース - WSJ
過去の供給停止に向けた動きでは、世界は適応方法を見つけた
By マリアン・L・タピー 2025年5月14日
ドナルド・トランプ米大統領の関税引き上げに対し、中国は一連の報復措置で対抗した。4月4日には他の措置とともに、米国の防衛、エネルギー、自動車産業にとって不可欠な17種類のレアアース(希土類)の一部と、磁石類の一部の輸出を停止した。
その事態を受けたメディアの論説で、欧米が抱える脆弱(ぜいじゃく)性に対する深い不安が露呈した。米紙ニューヨーク・ポストは、中国が「米産業の膝を撃ち抜いた」と非難した。英BBCは、共産主義の中国が「アメリカに大打撃を与えた」と大々的に報じ、英誌エコノミストは、中国によるレアアースの支配は「米国を傷つける可能性のある武器」だと警告した。
こうした論説には一理ある。国際エネルギー機関(IEA)によれば、中国はレアアースの生産で約61%、加工で92%の世界シェアを持っている。しかし米メディアが苦悶(くもん)に満ちた反応を見せたことで、多少の忘れっぽさも露呈してしまった。実際には、米国は以前にも同じ状況に置かれていたのだ。
中国は15年前、日本と中国が互いに領有権を主張する海域を巡り日本と論争になった後、日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。中国の動きは、先進国全体に警鐘を鳴らすものだった。レアアース価格は急騰し、2010年1月に1キロ当たり4.15ドル(約600円)だったセリウムは、2011年7月には150.55ドルまで高騰した。米防衛アナリストは、中国は戦略面での脆弱(ぜいじゃく)性に付け込んでいると警告した。米製造業者は、風力タービンから精密誘導ミサイルまであらゆるものに重要な役割を果たすレアアースの代替品を求めて奔走した。
このパニックは当然のことにみえた。当時、中国は世界のレアアース生産の93%を占め、最も希少な重希土類の99%超を支配していた。米議会は中国のレアアース市場独占に関して公聴会を開き、ドン・マンズーロ下院議員(共和、イリノイ州)は、中国の行動が「何万人もの米国人の雇用を脅かす」と述べた。
権威主義的な大国である中国が、豊富な鉱物資源を地政学的な武器として振りかざし、資源をあまり持たない西側諸国を自国の言いなりにしてきたという同議員の主張には説得力があった。しかし現在では、戦略面の災難とされたこの出来事を覚えている人はほとんどいない。
市場のメカニズムが資源をてこにしようとする中国の試みを損なった。2010年代初めに、中国以外からの供給の伸びが加速したのだ。米レアアース生産会社のモリコープが米カリフォルニア州、豪同業ライナスがオーストラリアで既に開発を始めていたプロジェクトが加速し、生産能力は何万トンも増えた。2014年までには、レアアース市場における中国のシェアが90%超から約70%に低下した。
中国の輸出割当制度にも、驚くほどの穴があることが判明した。生産者は抜け穴を利用し、制限の対象外である最小限の加工を施した合金を出荷した。一方で、生産量の推計15~30%は近隣諸国を通じてこっそり持ち出された。中国政府が何千にも及ぶ小規模の採掘業者を取り締まれなかったことで、禁輸措置は致命的な打撃を受けた。
メーカーは目を見張るほどの適応能力を示した。精錬業者は一時的に代替的な触媒を使い、磁石メーカーはレアアースの使用量を減らせるよう合金を調整した。新たな技術に完全移行するメーカーさえあった。この「需要崩壊」によって、新たな供給態勢の本格稼働が可能になる前に、危機の影響が小さくなった。2011年に急騰していた価格は、急速に危機前の水準に戻った。
この2010年のエピソードは、原材料を地政学的な武器として使う試みの根本的な制約をあらわにした。中国はレアアースのかなりの市場シェアを維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)に減らした。武器計画用の在庫は一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持されている。
レアアースは、レア(希少)という名にもかかわらず、極めて豊富に存在する。セリウムは、地球上で25番目に多い一般的元素だ。重量にして地殻の100万分の68を占めているセリウムは、銅よりも埋蔵量が多い。レアアースがレアである理由は、地球化学的に見て少量ずつに分散化されていることだ。レアアースは、単独の鉱物のかたまりではなく、他の鉱物の中に均等に混在している傾向が強い。レアアースはまた、抽出するのが難しい。レアアースが通常、放射性物質であるトリウムやウランを含むことが多い幾つかの鉱物と結び付いているからだ。こうした要因でレアアースは比較的希少な鉱物資源になっている。
そのため有用なレアアースを抽出する工程で環境問題が発生する恐れがある。だが、時にはこうした懸念よりも国家安全保障を重視せざるを得ない。同時に、レアアースの大規模生産を進めるカナダのような同盟諸国との自由貿易と友好関係は、国家主権や不法移民をめぐる非現実的で非生産的な争いよりも重視されるべきだ。
米国が半導体、重要鉱物、医薬品原料などのサプライチェーン(供給網)に関する新たな懸念に対処する中で、われわれがより広い視点から思い起こすべきなのは、実態がなかったレアアース危機が、経済的圧力行使の試みに対して、グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できるという証明になったことだ。
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筆者のマリアン・L・タピー氏は、ヒューマンプログレス・オーガニゼーションの創設者兼エディターで、ケイトー研究所のグローバル・リバティー・アンド・プロスぺリティー・センターの上級研究員。
過去の供給停止に向けた動きでは、世界は適応方法を見つけた
By マリアン・L・タピー 2025年5月14日
ドナルド・トランプ米大統領の関税引き上げに対し、中国は一連の報復措置で対抗した。4月4日には他の措置とともに、米国の防衛、エネルギー、自動車産業にとって不可欠な17種類のレアアース(希土類)の一部と、磁石類の一部の輸出を停止した。
その事態を受けたメディアの論説で、欧米が抱える脆弱(ぜいじゃく)性に対する深い不安が露呈した。米紙ニューヨーク・ポストは、中国が「米産業の膝を撃ち抜いた」と非難した。英BBCは、共産主義の中国が「アメリカに大打撃を与えた」と大々的に報じ、英誌エコノミストは、中国によるレアアースの支配は「米国を傷つける可能性のある武器」だと警告した。
こうした論説には一理ある。国際エネルギー機関(IEA)によれば、中国はレアアースの生産で約61%、加工で92%の世界シェアを持っている。しかし米メディアが苦悶(くもん)に満ちた反応を見せたことで、多少の忘れっぽさも露呈してしまった。実際には、米国は以前にも同じ状況に置かれていたのだ。
中国は15年前、日本と中国が互いに領有権を主張する海域を巡り日本と論争になった後、日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。中国の動きは、先進国全体に警鐘を鳴らすものだった。レアアース価格は急騰し、2010年1月に1キロ当たり4.15ドル(約600円)だったセリウムは、2011年7月には150.55ドルまで高騰した。米防衛アナリストは、中国は戦略面での脆弱(ぜいじゃく)性に付け込んでいると警告した。米製造業者は、風力タービンから精密誘導ミサイルまであらゆるものに重要な役割を果たすレアアースの代替品を求めて奔走した。
このパニックは当然のことにみえた。当時、中国は世界のレアアース生産の93%を占め、最も希少な重希土類の99%超を支配していた。米議会は中国のレアアース市場独占に関して公聴会を開き、ドン・マンズーロ下院議員(共和、イリノイ州)は、中国の行動が「何万人もの米国人の雇用を脅かす」と述べた。
権威主義的な大国である中国が、豊富な鉱物資源を地政学的な武器として振りかざし、資源をあまり持たない西側諸国を自国の言いなりにしてきたという同議員の主張には説得力があった。しかし現在では、戦略面の災難とされたこの出来事を覚えている人はほとんどいない。
市場のメカニズムが資源をてこにしようとする中国の試みを損なった。2010年代初めに、中国以外からの供給の伸びが加速したのだ。米レアアース生産会社のモリコープが米カリフォルニア州、豪同業ライナスがオーストラリアで既に開発を始めていたプロジェクトが加速し、生産能力は何万トンも増えた。2014年までには、レアアース市場における中国のシェアが90%超から約70%に低下した。
中国の輸出割当制度にも、驚くほどの穴があることが判明した。生産者は抜け穴を利用し、制限の対象外である最小限の加工を施した合金を出荷した。一方で、生産量の推計15~30%は近隣諸国を通じてこっそり持ち出された。中国政府が何千にも及ぶ小規模の採掘業者を取り締まれなかったことで、禁輸措置は致命的な打撃を受けた。
メーカーは目を見張るほどの適応能力を示した。精錬業者は一時的に代替的な触媒を使い、磁石メーカーはレアアースの使用量を減らせるよう合金を調整した。新たな技術に完全移行するメーカーさえあった。この「需要崩壊」によって、新たな供給態勢の本格稼働が可能になる前に、危機の影響が小さくなった。2011年に急騰していた価格は、急速に危機前の水準に戻った。
この2010年のエピソードは、原材料を地政学的な武器として使う試みの根本的な制約をあらわにした。中国はレアアースのかなりの市場シェアを維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)に減らした。武器計画用の在庫は一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持されている。
レアアースは、レア(希少)という名にもかかわらず、極めて豊富に存在する。セリウムは、地球上で25番目に多い一般的元素だ。重量にして地殻の100万分の68を占めているセリウムは、銅よりも埋蔵量が多い。レアアースがレアである理由は、地球化学的に見て少量ずつに分散化されていることだ。レアアースは、単独の鉱物のかたまりではなく、他の鉱物の中に均等に混在している傾向が強い。レアアースはまた、抽出するのが難しい。レアアースが通常、放射性物質であるトリウムやウランを含むことが多い幾つかの鉱物と結び付いているからだ。こうした要因でレアアースは比較的希少な鉱物資源になっている。
そのため有用なレアアースを抽出する工程で環境問題が発生する恐れがある。だが、時にはこうした懸念よりも国家安全保障を重視せざるを得ない。同時に、レアアースの大規模生産を進めるカナダのような同盟諸国との自由貿易と友好関係は、国家主権や不法移民をめぐる非現実的で非生産的な争いよりも重視されるべきだ。
米国が半導体、重要鉱物、医薬品原料などのサプライチェーン(供給網)に関する新たな懸念に対処する中で、われわれがより広い視点から思い起こすべきなのは、実態がなかったレアアース危機が、経済的圧力行使の試みに対して、グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できるという証明になったことだ。
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筆者のマリアン・L・タピー氏は、ヒューマンプログレス・オーガニゼーションの創設者兼エディターで、ケイトー研究所のグローバル・リバティー・アンド・プロスぺリティー・センターの上級研究員。
中国は15年前、日本と中国が互いに領有権を主張する海域を巡り日本と論争になった後、日本に対してレアアースの輸出停止措置を取るとともに、日本を除く世界全体に割り当てるレアアース輸出枠を40%削減した。
米防衛アナリストは、中国は戦略面での脆弱(ぜいじゃく)性に付け込んでいると警告。米製造業者は、あらゆるものに重要な役割を果たすレアアースの代替品を求めて奔走。
当時、中国は世界のレアアース生産の93%を占め、最も希少な重希土類の99%超を支配していたので、このパニックは当然のことにみえた。
しかし現在では、戦略面の災難とされたこの出来事を覚えている人はほとんどいないと、マリアン・L・タピー氏。
市場のメカニズムが資源をてこにしようとする中国の試みを損なった。2010年代初めに、中国以外からの供給の伸びが加速したのだと。
2014年までには、レアアース市場における中国のシェアが90%超から約70%に低下したと。
中国の輸出割当制度にも、驚くほどの穴があることが判明。
生産者は抜け穴を利用し、制限の対象外である最小限の加工を施した合金を出荷した。一方で、生産量の推計15~30%は近隣諸国を通じてこっそり持ち出された。中国政府が何千にも及ぶ小規模の採掘業者を取り締まれなかったことで、禁輸措置は致命的な打撃を受けたと、タピー氏。
メーカーは目を見張るほどの適応能力を示したとも。
精錬業者は一時的に代替的な触媒を使い、磁石メーカーはレアアースの使用量を減らせるよう合金を調整した。新たな技術に完全移行するメーカーさえあった。この「需要崩壊」によって、新たな供給態勢の本格稼働が可能になる前に、危機の影響が小さくなった。2011年に急騰していた価格は、急速に危機前の水準に戻ったと、タピー氏。
この2010年のエピソードは、原材料を地政学的な武器として使う試みの根本的な制約をあらわにした。
中国はレアアースのかなりの市場シェアを維持しているものの、米防衛産業はその依存度を最低限(世界需要の0.1%未満相当)に減らした。武器計画用の在庫は一時的な供給混乱の影響を軽減できる水準で維持されていると、タピー氏。
レアアースは、レア(希少)という名にもかかわらず、極めて豊富に存在するのだそうです。
セリウムは、銅よりも埋蔵量が多い。レアアースがレアである理由は、地球化学的に見て少量ずつに分散化されていることだと。
レアアースはまた、抽出するのが難しい。こうした要因でレアアースは比較的希少な鉱物資源になっているとも。
同時に、レアアースの大規模生産を進めるカナダのような同盟諸国との自由貿易と友好関係は、国家主権や不法移民をめぐる非現実的で非生産的な争いよりも重視されるべきだと、タピー氏。
われわれがより広い視点から思い起こすべきなのは、実態がなかったレアアース危機が、経済的圧力行使の試みに対して、グローバル市場と人類のイノベーションが抵抗できるという証明になったことだとも!
# 冒頭の画像は、中国・江西省のレアアース鉱山

この花の名前は、椿
↓よろしかったら、お願いします。

遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス