
「あれは中国に与えたのではない。パナマに与えたのであり、今度はそれを取り戻す」
米国の投資会社ブラックロックが3月4日、パナマ運河にある2カ所の港を香港の港湾運営会社、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)から買収すると発表した直後、ドナルド・トランプ米大統領はこう述べたと、英エコノミスト誌。
どちらもトランプ氏の抑止にはなりそうにない。ここ数日、米国からパナマの運河へのアクセスを確保する軍事オプションを用意するよう大統領が国防総省に命じたと報じられていると。
中国の最初の反応は驚くほど抑制されたものだった。
それから2週間経つと、中国が不満を抱いているしるしがはっきりしてきた。中国当局による規制強化の兆しも明らかになってきたとも。
米国からパナマの運河へのアクセスを確保する軍事オプションを用意するよう大統領が国防総省に命じたと報じられている。
中国の動きは、トランプ氏の抑止にはなりそうにないと、英エコノミスト誌。
多くの関係者にとって、問題は今、中国のグローバルな港湾ネットワークをほぼ半分に縮小させ、世界の海運業の再編を招く可能性を秘めた総額230億ドルの取引に中国がどの程度抵抗するつもりがあるかだと。
最初の兆候が現れたのは、3月13日、中国政府内に設けられた香港を監督する部署「香港マカオ事務弁公室」のウエブサイトが、取引を痛烈に批判する論説記事を転載した時のことだ。
記事の出所は親中派の香港紙「大公報」で、この取引は「卑屈」で「すべての中国人を裏切る」ものだと断じていた。
そして関係企業は「自分たちがどちらの側に付いているのか考える」べきだと付け加え、この取引が中国の海運業や世界インフラ整備計画「一帯一路」に打撃をもたらす恐れもあると警鐘を鳴らしたのだそうです。
3月18日には香港の李家超行政長官が、公的部門の懸念は「真剣な注目」に値すると発言してだめを押した。
続いて米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、習近平国家主席は今回の取引に腹を立てていると報じ、ブルームバーグ通信も、この取引が安全保障や独占禁止に関連する法令に違反していないかどうかを中国本土の政府機関が調査していると伝えた。
しかし、中国中央政府のプロパガンダ機関や省庁は、今回の取引を直接的には非難していない。
週末にパナマを訪れた中国の代表団も目立たないように行動しており、習氏が取りうる選択肢をまだ吟味している最中であることがうかがえたと、英エコノミスト誌。
習氏の側近らは、ソーシャルメディアにあふれ出た中国国民の怒りをCKハチソンとそのオーナーである李嘉誠氏に向かわせようとしているのだそうです。
取引の阻止を試みることは中国にとってもリスクが大きい。
まず、米中首脳の相互訪問を計画しているちょうどその時に緊張を高めることになる。
中国がパナマ運河を「運営している」というトランプ氏の誇張がもっともらしく聞こえるようになるばかりか、CKハチソンが運営する欧州やオーストラリアの港も含め、中国の港は果たして安全なのかという国際的な懸念を広めてしまうことにもなる。
華為技術(ファーウェイ)や字節跳動(バイトダンス、TikTokの親会社)をめぐる論争に続き、中国が民間企業に及ぼす影響への世間の目が厳しくなる恐れもあると、英エコノミスト誌。
シンクタンクのカーネギー国際平和財団に所属するアイザック・カードン氏によれば、中国企業が20年前に構築し始めたグローバルな港湾ネットワークには現時点で50カ国・93カ所の港が組み込まれており、これらのすべての港で中国企業は少なくとも1つのターミナルを所有または運営しているのだそうです。
中国海軍がジブチに置いた唯一の海外基地を補強するためにこれらの港をいかに利用しているかが分かると、英エコノミスト誌。
中国の港湾ネットワークと軍事利用では、例えば、中国の軍艦が2023年に寄港した外国の港は27カ所で、そのいくつかは中国が支配している港だったと、英エコノミスト誌。
コンテナ港には軍艦専用の設備がないことがほとんどで、中国が作戦行動を支援するには軍隊と装備をあらかじめ配置しておかねばならない。
したがって、パナマにあるCKハチソンの港は、中国の軍艦が実際に使ったことはないとしても、米国の安全保障上の権益を限定的ながら脅かす恐れを秘めている。
スエズ運河のすぐ南にある港や、同運河の北端近くに位置するエジプト海軍基地にある港も同様だ。
それでも、もし中国がいずれかの運河で米軍を本当にブロックしたいのであれば、2021年にスエズ運河の封鎖につながったような事故を仕組むだけで済むと、英エコノミスト誌。
この問題に取り組んでいる研究者たちは、商業面での影響の方が大きいと指摘しているのだそうです。
米国は中国がこれまでやって来たように、貨物の取り扱いや港への優先的なアクセスを保証する取り決めを通じてグローバルな海運業界の形成に影響力を行使できるようになるかもしれない。
例えばすでに提案されているように中国で建造された船舶が米国の港を使う際に料金を徴収したりすれば、CKハチソン所有のターミナルが4カ所あるメキシコ経由のものも含め、中国の対米輸出抑制に寄与する可能性があると、英エコノミスト誌。
だが、シンクタンク、メルカトル中国研究所のヤーコブ・ギュンター氏は、輸出と造船業界の復活を目指す米国のこうした取り組みは成功しないかもしれないと見ているのだそうです。
そう考えると、残るは政治だと、英エコノミスト誌。
習氏は政府の介入を受けなくても中国の民間企業がもっと「愛国的」になることを望んでいるのだそうです。
それでも、習氏の目下の最優先課題は米国との全面的な貿易戦争を回避すること。台湾問題についても妥協できることを願っているかもしれないと。
またトランプ氏がパナマにこだわっていることから、145日間の独占交渉期間中にいくつかの港を取引対象から外すことも考えられる。
習氏にとって譲歩はつらいことだろう。だが、今回のケースでは、抵抗する方が痛みが大きいかもしれないと、英エコノミスト誌。
「辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」と公言、世界経済を『関税』のディール風で混乱させているトランプ氏。
パナマ、スエズの両運河の米中争奪戦とともに、世界経済へのトランプ氏のかき回しは、新たな米国の指導力奪還、MAGA(Make America Great Again)を達成できるのでしょうか。それとも、離反、脱アメリカをまねくのでしょうか!
# 冒頭の画像は、トランプ大統領

この花の名前は、ミヤコワスレ
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
米国の投資会社ブラックロックが3月4日、パナマ運河にある2カ所の港を香港の港湾運営会社、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)から買収すると発表した直後、ドナルド・トランプ米大統領はこう述べたと、英エコノミスト誌。
どちらもトランプ氏の抑止にはなりそうにない。ここ数日、米国からパナマの運河へのアクセスを確保する軍事オプションを用意するよう大統領が国防総省に命じたと報じられていると。
中国の最初の反応は驚くほど抑制されたものだった。
それから2週間経つと、中国が不満を抱いているしるしがはっきりしてきた。中国当局による規制強化の兆しも明らかになってきたとも。
港をよこせ、中国がパナマ運河の取引を嫌いながらも阻止しないかもしれないワケ | JBpress (ジェイビープレス) 2025.3.26(水) 英エコノミスト誌
習近平は何かを得るために何かを失うことも必要かもしれない。
「あれは中国に与えたのではない。パナマに与えたのであり、今度はそれを取り戻す」
米国の投資会社ブラックロックが3月4日、パナマ運河にある2カ所の港を香港の港湾運営会社、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)から買収すると発表した直後、ドナルド・トランプ米大統領はこう述べた。
世界23カ国の計43カ所の港が対象となる取引の発端と規模を考えると、中国の最初の反応は驚くほど抑制されたものだった。
それから2週間経つと、中国が不満を抱いているしるしがはっきりしてきた。中国当局による規制強化の兆しも明らかになってきた。
どちらもトランプ氏の抑止にはなりそうにない。ここ数日、米国からパナマの運河へのアクセスを確保する軍事オプションを用意するよう大統領が国防総省に命じたと報じられている。
多くの関係者にとって、問題は今、中国のグローバルな港湾ネットワークをほぼ半分に縮小させ、世界の海運業の再編を招く可能性を秘めた総額230億ドルの取引に中国がどの程度抵抗するつもりがあるかだ。
■習近平の深謀遠慮
当初の反応より強い異議が唱えられる最初の兆候が現れたのは、3月13日、中国政府内に設けられた香港を監督する部署「香港マカオ事務弁公室」のウエブサイトが、取引を痛烈に批判する論説記事を転載した時のことだ。
記事の出所は親中派の香港紙「大公報」で、この取引は「卑屈」で「すべての中国人を裏切る」ものだと断じていた。
そして関係企業は「自分たちがどちらの側に付いているのか考える」べきだと付け加え、この取引が中国の海運業や世界インフラ整備計画「一帯一路」に打撃をもたらす恐れもあると警鐘を鳴らした。
中国政府が批判のボリュームを上げたことは、お墨付きを与えたことを示唆していた。
3月18日には香港の李家超行政長官が、公的部門の懸念は「真剣な注目」に値すると発言してだめを押した。
続いて米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、習近平国家主席は今回の取引に腹を立てていると報じ、ブルームバーグ通信も、この取引が安全保障や独占禁止に関連する法令に違反していないかどうかを中国本土の政府機関が調査していると伝えた。
しかし、中国中央政府のプロパガンダ機関や省庁は、今回の取引を直接的には非難していない。
週末にパナマを訪れた中国の代表団も目立たないように行動しており、習氏が取りうる選択肢をまだ吟味している最中であることがうかがえた。
習氏の側近らは、ソーシャルメディアにあふれ出た中国国民の怒りをCKハチソンとそのオーナーである李嘉誠氏に向かわせようとしている。
李氏には、本土に所有していた不動産を10年以上前に売却し始めたせいで中国の指導者層から疎まれた経緯がある。
中国当局は、今回の取引(CKハチソンが香港と中国本土に保有する港湾10カ所は除く)の阻止を公式の規制機関に命じていない模様だ。
CKハチソンもこの取引は「純粋に商業的なもの」だと述べている。
非公式的には、CKハチソンの取締役会や、米国人による領土内の港湾事業買収の適否を判断しなければならない政府に対し、中国が圧力をかける方法はいくつもある。
そのような政府のなかにはパキスタンやミャンマーなど、米国よりも中国の方に友好的な国もある。
取引阻止を試みるリスクは大
だが、取引の阻止を試みることは中国にとってもリスクが大きい。
まず、米中首脳の相互訪問を計画しているちょうどその時に緊張を高めることになる。
また、中国がパナマ運河を「運営している」というトランプ氏の誇張がもっともらしく聞こえるようになるばかりか、CKハチソンが運営する欧州やオーストラリアの港も含め、中国の港は果たして安全なのかという国際的な懸念を広めてしまうことにもなる。
そして華為技術(ファーウェイ)や字節跳動(バイトダンス、TikTokの親会社)をめぐる論争に続き、中国が民間企業に及ぼす影響への世間の目が厳しくなる恐れもあるだろう。
また、今回の取引によって生じる戦略的なコストは、中国が当初感じたほどではない。例えば軍事面を見てみよう。
シンクタンクのカーネギー国際平和財団に所属するアイザック・カードン氏によれば、中国企業が20年前に構築し始めたグローバルな港湾ネットワークには現時点で50カ国・93カ所の港が組み込まれており、これらのすべての港で中国企業は少なくとも1つのターミナルを所有または運営している。
また、同氏の研究成果を見れば、中国海軍がジブチに置いた唯一の海外基地を補強するためにこれらの港――中国の主要な貿易ルートやグローバル海運事業の難所の周辺に集中している――をいかに利用しているかが分かる。
中国の港湾ネットワークと軍事利用
例えば、中国の軍艦が2023年に寄港した外国の港は27カ所で、そのいくつかは中国が支配している港だった。
CKハチソンの港を含む寄港先は、アデン湾の海賊パトロールなど平時の行動期間中に、中国が防衛に役立つ関係を構築したり軍艦の修理・補給を行ったりするのに貢献している。
さらに、他国の民生・軍事サプライチェーンを監視・妨害する警備要員やその装備を秘密裏に配置することもできるだろう。
だが、平時であっても、軍艦の寄港には受け入れ国の政府の承認が必要になるのが普通だ。
例えばスリランカなどいくつかの国では、中国が運営しているターミナルに中国の軍艦は入らない。
戦時になれば承認を得るのは一層難しくなる。受け入れ国が国際法上の交戦国になり、軍事目標になる恐れがあるためだ。
また、コンテナ港には軍艦専用の設備がないことがほとんどで、中国が作戦行動を支援するには軍隊と装備をあらかじめ配置しておかねばならない。
したがって、パナマにあるCKハチソンの港は、中国の軍艦が実際に使ったことはないとしても、米国の安全保障上の権益を限定的ながら脅かす恐れを秘めている。
スエズ運河のすぐ南にある港や、同運河の北端近くに位置するエジプト海軍基地にある港も同様だ。
それでも、もし中国がいずれかの運河で米軍を本当にブロックしたいのであれば、2021年にスエズ運河の封鎖につながったような事故を仕組むだけで済む。
また、CKハチソンは透明性が高く営利目的で活動しているため、中国のネットワークを構成するほかの50カ所の港(これらも戦略的な場所にあることが多い)を所有・運営する国有企業2社ほどには言いなりにならない。
造船・海運業を支配する強み
カルドン氏などこの問題に取り組んでいる研究者たちは、商業面での影響の方が大きいと指摘している。
今回の取引により、米国は中国がこれまでやって来たように、貨物の取り扱いや港への優先的なアクセスを保証する取り決めを通じてグローバルな海運業界の形成に影響力を行使できるようになるかもしれない。
ほかの手段と組み合わせ、例えばすでに提案されているように中国で建造された船舶が米国の港を使う際に料金を徴収したりすれば、CKハチソン所有のターミナルが4カ所あるメキシコ経由のものも含め、中国の対米輸出抑制に寄与する可能性がある。
だが、ベルリンを本拠地とするシンクタンク、メルカトル中国研究所のヤーコブ・ギュンター氏は、輸出と造船業界の復活を目指す米国のこうした取り組みは成功しないかもしれないと見ている。
たとえ今回の取引が成立したとしても、中国は造船・海運業の支配と傘下に置いているほかの港を通じて海運業に影響力を及ぼし続ける。
そのうえ、予想されている世界貿易の不振によって利益に打撃が及ぶのであれば、港湾ネットワークの縮小は悪いことではないかもしれない。
また、今回の取引は、このところ港湾事業を縮小しているCKハチソンにとって魅力的だ。
ブラックロックが提示した買収価格は、CKハチソンの市場時価総額に大幅なプレミアムを乗せたもので、取引発表当日に同社の株価は22%上昇した(そして香港紙「大公報」が最初の批判を行った後、6%下落してその日の売買を終えた)。
最後は政治判断
そう考えると、残るは政治だ。
習氏が不快感を表明したとの報道は理解できる。米国に対抗でき、世界における中国の利益を守ることもできる強い指導者というのが彼のイメージだからだ。
そのため中国政府当局者は、弱腰に見えたり反応が遅いと思われたりすることを心配しているとニューヨークのシンクタンク、外交問題評議会の劉宗媛氏は語る。
習氏はまた、政府の介入を受けなくても中国の民間企業がもっと「愛国的」になることを望んでいる。
それでも、習氏の目下の最優先課題は米国との全面的な貿易戦争を回避することだ。習氏にしてみれば、その方が中国に及ぶ打撃が深刻になり得るからだ。
台湾問題についても妥協できることを願っているかもしれない。
またトランプ氏がパナマにこだわっていることから、145日間の独占交渉期間中にいくつかの港を取引対象から外すことも考えられる。
習氏にとって譲歩はつらいことだろう。だが、今回のケースでは、抵抗する方が痛みが大きいかもしれない。
習近平は何かを得るために何かを失うことも必要かもしれない。
「あれは中国に与えたのではない。パナマに与えたのであり、今度はそれを取り戻す」
米国の投資会社ブラックロックが3月4日、パナマ運河にある2カ所の港を香港の港湾運営会社、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)から買収すると発表した直後、ドナルド・トランプ米大統領はこう述べた。
世界23カ国の計43カ所の港が対象となる取引の発端と規模を考えると、中国の最初の反応は驚くほど抑制されたものだった。
それから2週間経つと、中国が不満を抱いているしるしがはっきりしてきた。中国当局による規制強化の兆しも明らかになってきた。
どちらもトランプ氏の抑止にはなりそうにない。ここ数日、米国からパナマの運河へのアクセスを確保する軍事オプションを用意するよう大統領が国防総省に命じたと報じられている。
多くの関係者にとって、問題は今、中国のグローバルな港湾ネットワークをほぼ半分に縮小させ、世界の海運業の再編を招く可能性を秘めた総額230億ドルの取引に中国がどの程度抵抗するつもりがあるかだ。
■習近平の深謀遠慮
当初の反応より強い異議が唱えられる最初の兆候が現れたのは、3月13日、中国政府内に設けられた香港を監督する部署「香港マカオ事務弁公室」のウエブサイトが、取引を痛烈に批判する論説記事を転載した時のことだ。
記事の出所は親中派の香港紙「大公報」で、この取引は「卑屈」で「すべての中国人を裏切る」ものだと断じていた。
そして関係企業は「自分たちがどちらの側に付いているのか考える」べきだと付け加え、この取引が中国の海運業や世界インフラ整備計画「一帯一路」に打撃をもたらす恐れもあると警鐘を鳴らした。
中国政府が批判のボリュームを上げたことは、お墨付きを与えたことを示唆していた。
3月18日には香港の李家超行政長官が、公的部門の懸念は「真剣な注目」に値すると発言してだめを押した。
続いて米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、習近平国家主席は今回の取引に腹を立てていると報じ、ブルームバーグ通信も、この取引が安全保障や独占禁止に関連する法令に違反していないかどうかを中国本土の政府機関が調査していると伝えた。
しかし、中国中央政府のプロパガンダ機関や省庁は、今回の取引を直接的には非難していない。
週末にパナマを訪れた中国の代表団も目立たないように行動しており、習氏が取りうる選択肢をまだ吟味している最中であることがうかがえた。
習氏の側近らは、ソーシャルメディアにあふれ出た中国国民の怒りをCKハチソンとそのオーナーである李嘉誠氏に向かわせようとしている。
李氏には、本土に所有していた不動産を10年以上前に売却し始めたせいで中国の指導者層から疎まれた経緯がある。
中国当局は、今回の取引(CKハチソンが香港と中国本土に保有する港湾10カ所は除く)の阻止を公式の規制機関に命じていない模様だ。
CKハチソンもこの取引は「純粋に商業的なもの」だと述べている。
非公式的には、CKハチソンの取締役会や、米国人による領土内の港湾事業買収の適否を判断しなければならない政府に対し、中国が圧力をかける方法はいくつもある。
そのような政府のなかにはパキスタンやミャンマーなど、米国よりも中国の方に友好的な国もある。
取引阻止を試みるリスクは大
だが、取引の阻止を試みることは中国にとってもリスクが大きい。
まず、米中首脳の相互訪問を計画しているちょうどその時に緊張を高めることになる。
また、中国がパナマ運河を「運営している」というトランプ氏の誇張がもっともらしく聞こえるようになるばかりか、CKハチソンが運営する欧州やオーストラリアの港も含め、中国の港は果たして安全なのかという国際的な懸念を広めてしまうことにもなる。
そして華為技術(ファーウェイ)や字節跳動(バイトダンス、TikTokの親会社)をめぐる論争に続き、中国が民間企業に及ぼす影響への世間の目が厳しくなる恐れもあるだろう。
また、今回の取引によって生じる戦略的なコストは、中国が当初感じたほどではない。例えば軍事面を見てみよう。
シンクタンクのカーネギー国際平和財団に所属するアイザック・カードン氏によれば、中国企業が20年前に構築し始めたグローバルな港湾ネットワークには現時点で50カ国・93カ所の港が組み込まれており、これらのすべての港で中国企業は少なくとも1つのターミナルを所有または運営している。
また、同氏の研究成果を見れば、中国海軍がジブチに置いた唯一の海外基地を補強するためにこれらの港――中国の主要な貿易ルートやグローバル海運事業の難所の周辺に集中している――をいかに利用しているかが分かる。
中国の港湾ネットワークと軍事利用
例えば、中国の軍艦が2023年に寄港した外国の港は27カ所で、そのいくつかは中国が支配している港だった。
CKハチソンの港を含む寄港先は、アデン湾の海賊パトロールなど平時の行動期間中に、中国が防衛に役立つ関係を構築したり軍艦の修理・補給を行ったりするのに貢献している。
さらに、他国の民生・軍事サプライチェーンを監視・妨害する警備要員やその装備を秘密裏に配置することもできるだろう。
だが、平時であっても、軍艦の寄港には受け入れ国の政府の承認が必要になるのが普通だ。
例えばスリランカなどいくつかの国では、中国が運営しているターミナルに中国の軍艦は入らない。
戦時になれば承認を得るのは一層難しくなる。受け入れ国が国際法上の交戦国になり、軍事目標になる恐れがあるためだ。
また、コンテナ港には軍艦専用の設備がないことがほとんどで、中国が作戦行動を支援するには軍隊と装備をあらかじめ配置しておかねばならない。
したがって、パナマにあるCKハチソンの港は、中国の軍艦が実際に使ったことはないとしても、米国の安全保障上の権益を限定的ながら脅かす恐れを秘めている。
スエズ運河のすぐ南にある港や、同運河の北端近くに位置するエジプト海軍基地にある港も同様だ。
それでも、もし中国がいずれかの運河で米軍を本当にブロックしたいのであれば、2021年にスエズ運河の封鎖につながったような事故を仕組むだけで済む。
また、CKハチソンは透明性が高く営利目的で活動しているため、中国のネットワークを構成するほかの50カ所の港(これらも戦略的な場所にあることが多い)を所有・運営する国有企業2社ほどには言いなりにならない。
造船・海運業を支配する強み
カルドン氏などこの問題に取り組んでいる研究者たちは、商業面での影響の方が大きいと指摘している。
今回の取引により、米国は中国がこれまでやって来たように、貨物の取り扱いや港への優先的なアクセスを保証する取り決めを通じてグローバルな海運業界の形成に影響力を行使できるようになるかもしれない。
ほかの手段と組み合わせ、例えばすでに提案されているように中国で建造された船舶が米国の港を使う際に料金を徴収したりすれば、CKハチソン所有のターミナルが4カ所あるメキシコ経由のものも含め、中国の対米輸出抑制に寄与する可能性がある。
だが、ベルリンを本拠地とするシンクタンク、メルカトル中国研究所のヤーコブ・ギュンター氏は、輸出と造船業界の復活を目指す米国のこうした取り組みは成功しないかもしれないと見ている。
たとえ今回の取引が成立したとしても、中国は造船・海運業の支配と傘下に置いているほかの港を通じて海運業に影響力を及ぼし続ける。
そのうえ、予想されている世界貿易の不振によって利益に打撃が及ぶのであれば、港湾ネットワークの縮小は悪いことではないかもしれない。
また、今回の取引は、このところ港湾事業を縮小しているCKハチソンにとって魅力的だ。
ブラックロックが提示した買収価格は、CKハチソンの市場時価総額に大幅なプレミアムを乗せたもので、取引発表当日に同社の株価は22%上昇した(そして香港紙「大公報」が最初の批判を行った後、6%下落してその日の売買を終えた)。
最後は政治判断
そう考えると、残るは政治だ。
習氏が不快感を表明したとの報道は理解できる。米国に対抗でき、世界における中国の利益を守ることもできる強い指導者というのが彼のイメージだからだ。
そのため中国政府当局者は、弱腰に見えたり反応が遅いと思われたりすることを心配しているとニューヨークのシンクタンク、外交問題評議会の劉宗媛氏は語る。
習氏はまた、政府の介入を受けなくても中国の民間企業がもっと「愛国的」になることを望んでいる。
それでも、習氏の目下の最優先課題は米国との全面的な貿易戦争を回避することだ。習氏にしてみれば、その方が中国に及ぶ打撃が深刻になり得るからだ。
台湾問題についても妥協できることを願っているかもしれない。
またトランプ氏がパナマにこだわっていることから、145日間の独占交渉期間中にいくつかの港を取引対象から外すことも考えられる。
習氏にとって譲歩はつらいことだろう。だが、今回のケースでは、抵抗する方が痛みが大きいかもしれない。
米国からパナマの運河へのアクセスを確保する軍事オプションを用意するよう大統領が国防総省に命じたと報じられている。
中国の動きは、トランプ氏の抑止にはなりそうにないと、英エコノミスト誌。
多くの関係者にとって、問題は今、中国のグローバルな港湾ネットワークをほぼ半分に縮小させ、世界の海運業の再編を招く可能性を秘めた総額230億ドルの取引に中国がどの程度抵抗するつもりがあるかだと。
最初の兆候が現れたのは、3月13日、中国政府内に設けられた香港を監督する部署「香港マカオ事務弁公室」のウエブサイトが、取引を痛烈に批判する論説記事を転載した時のことだ。
記事の出所は親中派の香港紙「大公報」で、この取引は「卑屈」で「すべての中国人を裏切る」ものだと断じていた。
そして関係企業は「自分たちがどちらの側に付いているのか考える」べきだと付け加え、この取引が中国の海運業や世界インフラ整備計画「一帯一路」に打撃をもたらす恐れもあると警鐘を鳴らしたのだそうです。
3月18日には香港の李家超行政長官が、公的部門の懸念は「真剣な注目」に値すると発言してだめを押した。
続いて米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、習近平国家主席は今回の取引に腹を立てていると報じ、ブルームバーグ通信も、この取引が安全保障や独占禁止に関連する法令に違反していないかどうかを中国本土の政府機関が調査していると伝えた。
しかし、中国中央政府のプロパガンダ機関や省庁は、今回の取引を直接的には非難していない。
週末にパナマを訪れた中国の代表団も目立たないように行動しており、習氏が取りうる選択肢をまだ吟味している最中であることがうかがえたと、英エコノミスト誌。
習氏の側近らは、ソーシャルメディアにあふれ出た中国国民の怒りをCKハチソンとそのオーナーである李嘉誠氏に向かわせようとしているのだそうです。
取引の阻止を試みることは中国にとってもリスクが大きい。
まず、米中首脳の相互訪問を計画しているちょうどその時に緊張を高めることになる。
中国がパナマ運河を「運営している」というトランプ氏の誇張がもっともらしく聞こえるようになるばかりか、CKハチソンが運営する欧州やオーストラリアの港も含め、中国の港は果たして安全なのかという国際的な懸念を広めてしまうことにもなる。
華為技術(ファーウェイ)や字節跳動(バイトダンス、TikTokの親会社)をめぐる論争に続き、中国が民間企業に及ぼす影響への世間の目が厳しくなる恐れもあると、英エコノミスト誌。
シンクタンクのカーネギー国際平和財団に所属するアイザック・カードン氏によれば、中国企業が20年前に構築し始めたグローバルな港湾ネットワークには現時点で50カ国・93カ所の港が組み込まれており、これらのすべての港で中国企業は少なくとも1つのターミナルを所有または運営しているのだそうです。
中国海軍がジブチに置いた唯一の海外基地を補強するためにこれらの港をいかに利用しているかが分かると、英エコノミスト誌。
中国の港湾ネットワークと軍事利用では、例えば、中国の軍艦が2023年に寄港した外国の港は27カ所で、そのいくつかは中国が支配している港だったと、英エコノミスト誌。
コンテナ港には軍艦専用の設備がないことがほとんどで、中国が作戦行動を支援するには軍隊と装備をあらかじめ配置しておかねばならない。
したがって、パナマにあるCKハチソンの港は、中国の軍艦が実際に使ったことはないとしても、米国の安全保障上の権益を限定的ながら脅かす恐れを秘めている。
スエズ運河のすぐ南にある港や、同運河の北端近くに位置するエジプト海軍基地にある港も同様だ。
それでも、もし中国がいずれかの運河で米軍を本当にブロックしたいのであれば、2021年にスエズ運河の封鎖につながったような事故を仕組むだけで済むと、英エコノミスト誌。
この問題に取り組んでいる研究者たちは、商業面での影響の方が大きいと指摘しているのだそうです。
米国は中国がこれまでやって来たように、貨物の取り扱いや港への優先的なアクセスを保証する取り決めを通じてグローバルな海運業界の形成に影響力を行使できるようになるかもしれない。
例えばすでに提案されているように中国で建造された船舶が米国の港を使う際に料金を徴収したりすれば、CKハチソン所有のターミナルが4カ所あるメキシコ経由のものも含め、中国の対米輸出抑制に寄与する可能性があると、英エコノミスト誌。
だが、シンクタンク、メルカトル中国研究所のヤーコブ・ギュンター氏は、輸出と造船業界の復活を目指す米国のこうした取り組みは成功しないかもしれないと見ているのだそうです。
そう考えると、残るは政治だと、英エコノミスト誌。
習氏は政府の介入を受けなくても中国の民間企業がもっと「愛国的」になることを望んでいるのだそうです。
それでも、習氏の目下の最優先課題は米国との全面的な貿易戦争を回避すること。台湾問題についても妥協できることを願っているかもしれないと。
またトランプ氏がパナマにこだわっていることから、145日間の独占交渉期間中にいくつかの港を取引対象から外すことも考えられる。
習氏にとって譲歩はつらいことだろう。だが、今回のケースでは、抵抗する方が痛みが大きいかもしれないと、英エコノミスト誌。
「辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」と公言、世界経済を『関税』のディール風で混乱させているトランプ氏。
パナマ、スエズの両運河の米中争奪戦とともに、世界経済へのトランプ氏のかき回しは、新たな米国の指導力奪還、MAGA(Make America Great Again)を達成できるのでしょうか。それとも、離反、脱アメリカをまねくのでしょうか!
# 冒頭の画像は、トランプ大統領

この花の名前は、ミヤコワスレ
↓よろしかったら、お願いします。

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