一転して、岸田秀『嫉妬の時代』

「尊敬していない人、全面的に自信をもって軽蔑している人に、嫉妬することはありません。一見軽蔑しているように見える場合でも、心のどこかで何らかの点に関して尊敬し、憧れています。
そして、この尊敬こそは嫉妬者の自尊心が断じて認めたくないものです。自分にとってあれほど大切なものを奪い取り、自分を絶望に突き落とした奴をどうして尊敬しなければならないのか。嫉妬者は、相手を尊敬していることを否認しようと悪あがきをします。相手の悪口を言いふらしたりするのは、その悪あがきの一つです。相手を優者の位置から引きずりおろすことによって、自分の尊敬の念を打ち消そうとするわけです。嫉妬者は相手を憎み、攻撃します。
しかし、相手を憎んでいることは自分が劣者であることを示すわけですから、嫉妬者は他方では、この憎しみを否認しなければなりません。一方では憎まなけれだならないし、他方では憎んでいることを否認しなければなりません。嫉妬者はにっちもさっちもゆかない袋小路にはまり込みます」