ビシーン、という鋭い音が、アリエナのすぐ横の壁を打った。
「ほっほ。なにをびくびくしてるんですか、お嬢さん。でも、次からは本気ですよ――」
太った僧はうなずき、また大きく横に振りかぶった。
と、勢いよく扉が開き、牢番の僧が吹っ飛んできた。僧は、石の床に背中から落ちると、それっきり気を失って泡を吹きだした。
「何事だ」と、ゲリルは叫んだ。
ゲリルが扉へ近づこうとすると、異様に光るつりあがった目が、ゲリルの横を素早く通りぬけた。グゲッ、という悲鳴が聞こえたのは、そのすぐ後だった。ゲリルが後ろを振り返ると、鞭を持っていた僧が、吹っ飛んできた僧と同じく、泡を吹いて倒れていた。
「貴様……」と、ゲリルはくやしそうに言った。
光る目の正体は、狼男に変身したグレイだった。グレイは、アリエナの手首に巻かれたロープを引きちぎると、アリエナを背に、自分が盾になるように立ち塞がった。
「ゲリル、もうこれ以上ひどいことはさせないぞ――」
「はっは、これは笑わせやがる」と、ゲリルは宙を仰いで笑った。「狼男だというから、どんな強そうな奴が現れるかと思えば、牙もない半端な小僧か」
ゲリルは、腹を押さえて笑った。
「自分からやって来るとは、おつむまでいかれているときた。おれはな、はなっからこの時を待っていたんだよ。おまえが姿を見せるのをな」
グレイは、アリエナをそのままに、きらびやかな僧衣を纏うゲリルに向かって、ダッと目にもとまらぬ早さで突っこんでいった。二人がぶつかり合う刹那、鉄を引っ掻く音と、銃の轟音が室内にこだました。
ゲリルは、グレイの勢いに押され、二、三歩離れたところに尻もちをついた。その僧衣は胸の辺りから裂け、下には鋼の鎖が見えていた。
「あーっ!」
と、アリエナは思わず声を出した。
グレイが壁に激突し、もんどり打って倒れたからだった。その壁には血が飛び散り、肩を押さえたグレイの手の下から、血が流れ落ちていた。
「クックック、どうだ、銀の弾の威力は――」
ゲリルは、ゆっくりと立ちあがった。その手には、拳銃が握られていた。
「狼男め、おとなしくあの世に行きやがれ」
腰に拳銃を構えたゲリルは、肩口を押さえて懸命に後じさるグレイに近づいて行った。
狂人のようなゲリルの笑い声が、不気味に響いていた。
「やめて!」
アリエナは叫ぶと、ゲリルに駆け寄って腕にしがみついた。