父さんは、わたしにまずいものを見せてしまったって、そんな苦々しい顔をしていた。わたしも、唾を吐きかけてやりたいほど、嫌っていた。
でも、いまの物乞いのわたしは、どうしたっていうの? ただ座っているばかりで、誰かが助けてくれる、まだそんな夢を見ているのかしら。わたしには、あの時の物乞いさんのように、自分を訴える勇気も、ありはしないんだわ……)
「いやぁ、あれ、アリエナだわ……」
めずらしい物を見つけたという声に続き、どれどれ、と先を争うような声が聞こえた。
アリエナは、顔をあげてそちらを向いた。それは、学校の同級生達だった。彼女達は、しきりにこちらを指差し、落ちぶれ果てたアリエナの姿を、噂しあっているようだった。
好奇心は、すぐにいたずら心に変わった。中の一人が、おっかなびっくり、アリエナに近づいてきた。アリエナは、黙って座ったまま、ぼんやりと無感情な視線を、彼女に向けていた。
「あっ、ほんとにアリエナだ!」
アリエナの顔を覗きこんだ彼女は、けたけた笑いながら、友達の所へ駆け戻っていった。まるで、物珍しい拾い物でもしたようだった。
だんだんと、同級生達はにじり寄ってきた。からかい半分なのは、わかりきっていた。
「わぁ、かわいそうなんだぁ」そういう顔は、どれも皆笑っていた。
彼女達は、口々に勝手なことを言っては、面白がっていた。アリエナに聞こえているのにもかまわず、図々しく悪口を並べ立てた。
「狼男の妹よ」そんな言葉までもが、かけられた。
そういえば、泣き出すとでも思ってるのかしら。アリエナはそう思って、じっと渋面を作って耐えていた。どんなことを言われたからって、簡単に涙なんか見せやしない。と何度も自分自身に言い聞かせた。
「物乞いなら、物乞いらしく『お恵みください』とか言えばいいのに。いつまでもお嬢様気取りでいるみたい――」
アリエナは、キッと声の主を睨みつけた。その目には、もはや気落ちしたアリエナはいなかった。元気いっぱいの、たくましいアリエナが蘇っていた。
「ねぇ、食べ物くれない。ねぇ、お金持ってるんなら、置いていってよ。わたし、今日は、まだ水しか飲んじゃいないんだから。さぁ、なにかおくれよ、恵んでおくれよ」
両手を突きだし、せかすように叫んだ。どこか演技めいたところもあったが、これがわたしなのよ、とアリエナは、気持ちが晴れやかになるような気がしていた。
「――なにもないんなら、仕事でもいい。ぼろの服でもいい。いらない物があるんなら、わたしにおくれよ。ねぇ、おくれよ」