屋敷が火で崩れ落ちていく中、おれは必死だった。みんなの命を助けようってな。けど、おやじさんはおれにおかみさんをまかせると、逃げ出してきたばかりの屋敷に、奥さんを探しにまた引き返していったんだ。燃えさかる火の中へな……」
カッカは優しい笑みを浮かべた。
「おれは、本当は職人でも見習いでもねぇのさ。そんなおれを、今まで信頼してくれていたおかみさんには、頭があがらねぇ。これまでも分からず屋相手にさんざん戦ってきたが――」と、カッカは顔の傷跡を指でなぞった。「これからが、おれの本当の戦いさ」
「わたし、そんなことできません」と、アリエナは手で顔を覆った。
「ばか野郎……」と、カッカは小さな声で言った。「誰かが真犯人として捕まるか、それこそ本物の狼男が名乗り出なけりゃ、ばかげた裁判は終わりゃしねぇんだぞ」
「わたしが真犯人になります」と、アリエナは顔をあげて言った。
カッカは、ため息をつくと言った。
「アリエナ、狼男は、女の子じゃないんだよ――」
アリエナは再び手で顔を覆うと、小さく肩をふるわせながら、すすり泣いた。
そこへ、
「おい、そこの小娘、ゲリル様がお呼びだ」
牢番が、錠を開けながら声をかけた。アリエナは、ひっくとしゃくりあげていたのをやめ、険しい目つきをして顔をあげた。
二人の僧が、中へ入ってきた。そして、アリエナを立たせると、牢を出た。カッカは、困ったような表情を浮かべて、その目をそらせた。
「おやおや、かわいいお嬢ちゃんじゃありませんか」と、ゲリルは目を丸くして言った。
審問官の元へ連れてこられたアリエナは、壁を向いて手をつけさせられ、その手首を壁についた鉄輪に結びつけられていた。
「痛い思いをしたくなければ、素直に話すことです。わたしからは、それしか言ってあげられません。なにせ鞭を打つ者が、血なまぐさいことが大好きなんでね。気にくわなければ、遠慮ということをしようとしないんだ」
「わたしは、狼男なんか知りません!」
と、アリエナは壁をにらみ据えながら、きっぱりと言った。
ゲリルは、鞭を持つ太った僧と顔を見合わせた。
「ほっほ、気の強い娘だこと。いつまでそんな口がきけるか、楽しみにすることとしましょう」
ゲリルは後ろへさがると、僧に向かってうなずいた。
太った僧は一度舌なめずりをすると、大きく横に振りかぶり、鞭を振るった。