ジムはゲリルを睨み据えながら、なんとか自由になろうともがいていた。
「――いいか、よく聞け。人の心を引きつけておくには、刺激が必要なんだ。おれ達がただ説教壇の上に立っているだけなら、おまえらはすぐに神を信じなくなる。だから、見せしめを出すんだよ。神の教えが本当であったと、心からの信仰を呼び起こすためにな。神の力は偉大であると、敬服させるためにな。遙かな未来までも、おれ達は神を守り続けていくだろう。地上に楽園を打ち立てるまではな――」
ゲリルは静かに目を閉じると、そっと手を合わせた。ジムは、その足元に唾を吐きかけた。
「おまえらの神など、誰が信じるものか!」
ゲリルはきつい目でジムを見やると、僧達に言った。
「連れて行け――」と、すぐに「ちょっと待て」と呼び止めた。
「町長、処刑された小僧達が最後に言っていたことがあった。本物の狼男を見たってな。おれはいぶり出してみせるよ、必ずだ」
「けっ、今さらそんなことを言ってなんになる。狼男も魔女も、みんなおまえ達の作り話じゃないか」と、ジムは怒りを露わにして言った。
「ふっふ……」と、ゲリルは笑いながら言った。「おれ達の作り話だと? 笑わせるな。本物がいるからこそ、利用したんじゃないか。やつらはな、おまえらよりもっと人間らしい姿をしてるんだ。普通の人間と見分けるなんてことは、無理に等しいのさ。向こうから、進んで正体を現してくれない限りはな」
ジムが礼拝堂から引きずられるようにして出て行くと、ゲリルはぽつりとつぶやいた。
「早く出てこい。狼男め――」
アリエナは、不安な日々を過ごしていた。町から遠く離れているため、異端審問官達の暴挙を直接目にすることはなかったが、それだからこそなお、目に見えない恐怖心を抱いてしまうのだった。
「心配しなさんな。アリエナにはなんにも関係ないんだからさ」と、オモラは盛んに励ましてくれた。しかし、そのオモラ自身が、どこか落ち着きがないのを、アリエナは感じていた。普段はてきぱきと仕事をこなしていくオモラが、たびたび失敗をするようになっていた。それまでは、両腕のあるアリエナが、役に立たない自分を責めてしまうほどだったのが、皿を一枚割ってしまっただけで、片腕のないことをしきりにくやしがった。ぴりぴりとしているそんな時は、アリエナが声をかけることをためらうほど、思い詰めた雰囲気が漂っていた。
眠れない夜が続いた。そして、そんなある夜、アリエナは一人森を行く、オモラを見たのだった。何度も寝返りを打って、ようやくうとうとしかかった頃だった。ベッドの傍らで横たわっていたアリスが、屋根裏の扉を足で引っ掻いて、さかんに下へ降りたいとねだった。アリエナは寝ぼけた目で、ギシギシ……とかしぐ扉を持ち上げてやった。アリスは梯子をいっさんに飛び降り、玄関へ駆けていった。