クックックッ……と、急にオモラが笑いだしたので、アリエナは断られる覚悟をせずにはいられなかった。
「すみません、いい考えだと思ったもんですから――」と、アリエナは、慰めるような目をしているアリスの頭をなでた。
「いや、ごめんごめん。違うのよ、びっくりしたのよ」
「えっ?」
「いやね、はずかしくて言わなかったんだけど、あたしさ、自分で作ったクッキーを、町に行って売ろうと思ったのさ。でも、どうしても勇気が出なかったんだ。気に入ってもらえるかどうか恐くてさ。で、あきらめて帰る途中、あんたに会ったのさ」
どう、おいしかったかい。と訊かれたアリエナは、「とっても」と言って大きくうなずいた。
「はっは、それはよかった。けど、あんた、腕の方はどうなんだい」
「――自信はないけど、お母さんに仕込まれたことがあるんです。まだ小さかった時だけど、でも、きっとできると思うんです」
「へぇー。あたしもアリスさんのビスケットは食べたことがあるよ――ああ、そうか。この犬、あんたんとこの犬だったのね。やっとわかったよ」
「すみません……」と、アリエナはもじもじしながら言った。
「いや、いいんだよ。もううちの子と同じようなもんだから。グレイもどっか行っちまったしね」
アリエナは、振り向いたオモラの顔を見られなかった。
「で、あたしはどうすればいいんだい」
「あの。小麦粉を貸してほしいんです。うちにはもう、材料がないから」と、アリエナは言いにくそうに言った。
「そんなことならお構いなしさ。ここの台所だって使っていいよ。きっと燃料もないんだろうからね」オモラはそう言うと、
「そのかわり」
と、ニッと歯を見せて眉をひそめた。
「うちの仕事を手伝ってもらうよ。まぁ、あんたは力仕事にゃ向いてない。あたしのかわりに、家事をやっとくれ。片腕一本じゃ、グレイの穴を埋めるのに精一杯なんでね」
アリエナは戸惑っていたが、はっきりと言った。
「わかりました。わたし、やります」
「よっし。そうときまれば、腹ごしらえだ。ばりばり働いてもらわないといけないからね」と、オモラは言うと、皿に熱いスープを注ぎ、目を細めながら、テーブルの上に置いた。
アリエナは、口の中に溢れだす唾を、スプーンを手に取る前から、何度も飲みこんでいた。