同級生達はびっくりして、逃げるようにその場を立ち去った。アリエナは、しめたと思った。しかし、すぐにそれは間違いだと考え直した。なにかを貰わなければ、生きていけないんだ。もっと真剣に、もっとうまくやらなくちゃ、誰もわたしにただで物なんかくれないんだ。アリエナは、もっと人通りの多い所へと、移っていった。
アリエナがさかんに往来を行く人に声をかけていると、やっと一人、立ち止まってくれた人がいた。
「オモラさん――」と、アリエナは、一瞬物乞いということを忘れ去った。自分と同じく、狼男のように後ろ指を指され、煙たがられているオモラが、声をかけてくれたからだった。
「アリエナ、元気でやってたかい」と、オモラは晴れやかに言った。そのすぐ横には、なぜかアリスが尻尾を振って立っていた。
「――はい」と、アリエナは、アリスを気にしながら、返事をした。
「いやね、あんたを見つけたのはこの犬なのさ。ちょっと用事があって来たんだけど、あたしの前を邪魔して離れようとしないんだ。あんまり人をせっつくもんで、やって来たらアリエナ、あんたがいたのさ」
アリエナは黙ってうなずいた。
「かわいそうに、聞いたよ。ケントが町を出たんだってね。こんなかわいい子をほっといて――いや、あんたには関係なかったね。
ごめんね、今ちょっと持ち合わせがないんだ。でも、よかったらこれをお食べ」
オモラは、手に提げている袋を地面に置くと、包みを取り出してアリエナに手渡した。
「お腹はすいてないかい? クッチーだよ、あたしが焼いたんだ。あんまりうまく焼けてないけど、我慢して食べとくれ」
「どうもありがとう」と、アリエナは心から言った。
「なにか力になれることがあったら、遠慮なく訪ねてくるんだよ。あたしゃ、少なくともあんたの味方だからね」
オモラは、袋を持ち上げると、それじゃあと言って歩き始めた。アリエナは、笑顔で見送っていたが、思い出したように声をかけた。
「あっ、オモラさん!」
アリエナは急いで駆け寄ると、言った。
「オモラさん、アリスに、クッキーを分けてあげてもいいですか」
「えっ、よくこの犬の名前知ってるわね。誰に教えてもらったの」と、オモラは不思議そうな顔をして、アリエナを見た。
「わたし、この子がまだほんの小さかったときからの、お友達なんです」
アリエナは、包みからクッキーを取ると、手の平に乗せてアリスに差しだした。
「なんだかわかったような、わからないような話だね――」
アリスは、なんのためらいもなく、アリエナの手からクッキーを食べた。最後に残った小さな粉つぶまで、きれいに舐め取った。アリエナはくすぐったい、と肩をすぼめながら、オモラと一緒にほくそ笑んでいた。
オモラが去ると、アリエナの前に、再び現実の厳しい風が吹きつけてきた。日が暮れるまでたたずみ、なにひとつとして収入を得られなかった。オモラから貰ったクッキーだけが、アリエナのポケットの中で、重たく膨らんでいた。