くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(54)【9.5章 再起】

2021-08-02 19:04:08 | 「大魔人」
         9.5【再起】

「退院、おめでとうございます」

 と、アマガエルは、ビールがなみなみと注がれたジョッキを持ち上げた。
「サンキュ」と、ニンジンが、こちらもビールがなみなみと注がれたジョッキを持ち上げた。

「乾杯」と、二人のジョッキが、冷たい音をキンン、と立てた

「どういう風の吹き回しだよ」と、ビールを口に運びながら、ニンジンが言った。
「どうって?」と、アマガエルが、不思議そうな顔をした。
「――」と、ニンジンは焼き鳥を口に運びつつ、つまらなさそうに言った。「退院祝いとバイト代は、別だからな」
「おやおや」と、アマガエルが顔色を曇らせた。「不満そうですね」
「あたりまえだろ」と、ニンジンは口をとがらせた。「この1ヶ月、入院しっぱなしで、収入がまったくないんだ。そこに来てバイト代も踏み倒されたんじゃ、ミイラになっちまうよ」
「こりゃ、人聞きの悪い」と、アマガエルが、焼き鳥の串を口に運びながら言った。「せめてものお礼に、病院代は寺が払ったと思ったんですけど」
「必要経費だろ」と、ニンジンは、どこか上の空で言った。
「この退院祝いだって、私持ちなんですけど」と、アマガエルが言った。
「そりゃ、おまえの勝手だろ」と、ニンジンが、アマガエルを見て言った。「それにこりゃ、ノンアルコールじゃないか」酔えるかよ――と、ニンジンは、ビールをがぶがぶと流しこんだ。
「けっこう、気に入ってるみたいですけどね」と、アマガエルは、ビールをちびちび飲みながら言った。「私は、いつもこればっかりです」
「すみません、おかわりください」と、ニンジンが、空のジョッキを持ち上げながら言った。
 ――ハーイ。と、厨房の中から、声が聞こえた。
「おっと、忘れてました」と、アマガエルが、ニンジンに手の平を見せて言った。「一人、5杯までですから」
「――」と、ニンジンは、凍りつきそうな顔をして言った。「退院祝いなんだろ。せめて飲み放題にしてくれよ」
「病み上がりの人に、暴飲暴食は勧められません」と、アマガエルは言った。
「ちぇっ」と、ニンジンは、ため息をついた。「聞こえはいいが、ようは持ち合わせがないんだろ」
「それは、しっ――です」と、アマガエルは、唇を人差し指で押さえた。
「ちぇっ」――あ、どうも。と、ニンジンは、おかわりのビールを、大事そうに受け取った。
「まだ、行方不明の子供達を探してるんだろ」と、ニンジンは言った。
「ええ」と、アマガエルは、ビールを口に運びながら言った。「あなたは信じないでしょうけど、私は確かに、あの時ケイコちゃんを見たんです」
「……」と、ニンジンは考えるように言った。「家に火を点けた母親は、悪魔の住処を燃やしたんだって、自慢そうに言ってたらしい」
「警察からの、情報ですか」と、アマガエルは、ニンジンの顔を見た。
「病室に何度も訪ねてきて、あれやこれや聞かれたよ」と、ニンジンは、ため息交じりに言った。
「どうせ、信じちゃくれなかったでしょ」と、アマガエルが、枝豆を口にしながら言った。
「――そっちは、どうよ」
 ニンジンが言うと、アマガエルは、黙って首を振った。
「子供達の家が火事になってから、警察には事情を説明に行ったんですがね」と、アマガエルは、うつむきながら言った。「2回目からは、ほとんど門前払いでした」
「そっちは、まだいいだろ」と、ニンジンは、舌打ちをしながら言った。「寺の僧侶が、悪魔だ魔法だって話をしたって、メンタルを病んでるなんて、思われやしない」
「あなただって、症例のない奇病から復活したんですから、常識とはちょっと外れたことを言っても、かわいそうに見られるだけでしょうが」
 アマガエルが言うと、ニンジンは、つまらなさそうに舌打ちをした。
「――母親の自供がなくたって、あれは、実際にあった出来事なんだよな」と、ニンジンは、確かめるように言った。「でも、“住処を燃やした”って、どういうことよ」
 と、アマガエルは、考えるように言った。
「悪魔だと思われていたケイコちゃんの帰る場所を奪えば、為空間からは戻ってこられない。そういう意味なんでしょうね」
「イクウウカンだっけか? あそこに閉じこめておけば、悪魔は復活できない。だから自分は、正しいことをした」と、ニンジンは言った。「子供達が行方不明なのは、自分が閉じこめたからだって、そういう意味だろ」
 アマガエルは、こくりとうなずいた。
「けど、あなた達は帰ってきた。少なくとも、あなたと、マコト君は、一緒に戻って来た」
「ああ」と、ニンジンは言った。「Kちゃんはわからないが、まことと一緒だったのは、間違いないんだ」

「――」と、二人はわずかの間、口をつぐんだ。

「なぁ」と、ニンジンが言った。「まことがいなくなったって聞いて、まず考えたのは、魔人の生まれ変わりだっていう正体がばれて、逃げたんだと思ったんだ。だから、大怪我をしてるのに、姿を出せなかったんだってな」
「――私も、確かに姿を見たケイコちゃんが、どこに行ってしまったのか、考えてばかりでした」と、アマガエルが言った。「でも、母親の供述を聞いて、がっかりしたのと、しかし反対に、恐ろしさも感じたんです」
「だよな。やっぱり」と、ニンジンは、アマガエルを見ながら言った。「子供達が姿を消したのは、まだあいつらが追いかけてるからだよな、二人を――」





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