映画で楽しむ世界史

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楽聖の恋人探し「ベートーベン 不滅の恋」

2010-12-26 18:46:34 | 舞台はドイツ・オーストリア

「ベートーベン演奏会デヴュー200年記念作品」と銘うった「ベートーベン 不滅の恋」( 1994年のアメリカ映画)

1、ベートーベンの恋人探し

 べトーベン映画は何本かあるが、この映画はべトーベンの遺書に中に紛れ込んでいた宛先不明の恋文について、何時、誰宛てにかかれたものかという事実探しを主軸にすえるもの。このテーマは、恋文の中に出てくる一文から「不滅の恋」探しと呼ばれ、永年に亘り多くの人の興味、研究を呼び、未だ結論が出ていない大問題。

 不滅の恋人は誰なのか?この映画では古くからある二人を追いながら、最後には通鉄を離れ大胆な想像を加えフィクション仕立てとなる。即ち、従来の定説である、

 ①ジュリエッタ・グチャルルディ(ジュリエッタ説) や、②テレーゼ・ブルンスヴィック(テレーゼ説)を準主役としながらも、彼女達である可能性を退け、③弟の妻であるヨハンナ・ベートーベンが秘密の恋人であるとする。

 日本で長年この問題を考証、研究した「青木やよひ」さんの「ベートーベン<不滅の恋人>の謎を解く」では、恋文に出てくる唯一二人の逢引の年月、場所などを追及する。

そして二人が会う可能性のあったのは、1812年7月5日、プラハの西カールスバート温泉であるとし、やはり上記①、②の二人はその日その場所にいた可能性がなく、新たに、

アントーニア・ブレンターノ(アントーニア説)や、⑤ヨゼフィーネ・ダイム(ヨゼフィーネ説)に重きをおいた解説をしている。

そこでは③のヨハンナは、丁度その時期、友人から預かった真珠の首飾りを着服したとして服役中で、全く考慮外とされている。

 従ってここは専門家の説に従い、ヨハンナ説は全くのフィクションとしていいのだが、著者は映画から受けた感動にも影響されつつ、ずぶの素人が何事も異説を好む性癖もはたらき、ヨハンナ説に強いシンパシイーを感じる。

それは、映画に出てくるベートーベンと弟とのヨハンナを巡る争い、その時期、場所は何時何処だったのか、映画では触れられていないのだが、それをベートーベンの出身地ボンと考えれば・・・ 以下のような考察も出来ないだろうか。

2、ボンというところ

ライン川西岸ベルリンの壁時代は西ドイツの首都であったボン。ここはベートーベンの生まれた18世紀末、ケルンの大司教領の一部で、選帝侯(大司教)の宮殿があったところ。

(歴史的にケルン大司教は、①文字通りキリスト教ケルン教区の最高聖職者であると共に、②ケルン地方の地方領主、③ケルンの都市領主でもあり、殆んど独立国の首長、ドイツの選帝侯でもあるのだが・・・肝心のケルン市は早くから経済都市として発展し、市民が自治を確立しており、大司教はボンに追い出され、そこに宮殿を構え、もっぱら選帝侯と呼ばれたという経緯がある)

ベートーベンの時代の選帝侯マクシミリアンは神聖ローマ帝国皇帝ハプスブルグ家の出身で、マリア・テレジアの末子(マリー・アントワネットの弟)。従ってボンの宮殿はウイーン宮殿の雰囲気、特に音楽について理解が深かった。選帝侯がベートーベンを表立って支援した様子はないが、彼のウイーン行きには理解を示したことは間違いない。

3、フランス革命の息吹

しかし問題はこの時代背景。ベートーベン18歳に1789年にフランス革命勃発し、ライン以西、フランスに近いアルザス・ロレーヌの街々には革命の息吹が強く吹荒れる。

特にベートーベンがボンを離れる1792年は、フランス革命の最重要時期。

1789年の人権宣言、その後教会財産の国有化、聖職者を公務員として政府の下におく「聖職者民事基本法」などが施行され、1791年には立憲君主制を定めた憲法が発布され、立法議会が開かれ・・・ジャコバン派台頭。

1791年8月、フランス革命に反対するオーストリア、プロシャ両国王による「ピルニッツ宣言

1792年4月、フランスは対オーストリア宣戦布告、7月「祖国の危機」宣言、義勇兵募集、ストラスブールで「ラ・マルセイエーズ」の原曲誕生、

8月パリにコンミューン発生、ルイ16世幽閉、9月ヴァルミーの戦いでフランスがオーストリアを破り、ライン西岸まで迫り、この地域を支配下に収める。

 

この年ベートーベン21歳。ボンの大学で学びながら何を考えただろうか。

生来口下手、政治的な、理屈を述べられるような男ではない。しかし1785年に誕生し、ドイツ青年を沸かせていたシラーの「歓喜に寄す」に関心を示していたことからしても、フランス革命の「自由、平等、博愛」思想に共鳴したことは間違いなかろう。

しかし飲んだくれの父を抱えた貧乏所帯の我が家。祖父以来宮廷に頼るしかない音楽一家。生計の道は音楽しかない。とするとウイーン。周りもウイーン行きを勧めてくれる。となると・・・複雑な心境のままボンを離れざるをえない。

その影にヨハンナという美女を巡る弟との確執があったとしたら・・・あとは想像に任せよう。

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