検察官請求証拠を争う弁護人の証拠意見

2019-10-04 23:03:51 | 刑事手続・刑事政策

[証拠決定の基準]

・証拠調べの請求に対する証拠採否の基準は、[1]証拠調べ請求の手続上の適法性、[2]証拠能力の有無(要証事実が厳格な証明の対象である場合)、[3]証拠調べの必要性、の3点である。実務上重要なのは、証拠能力([2])と取調べの必要性([3])である。□石井106、プロ71

 

[証拠全般に対する「関連性なし(異議)」]

・証拠法の不文の準則として、証拠能力(証拠の許容性)が認められるためには、まず「証拠の関連性(relevancy)=<当該証拠>と<証明すべき事実>との間の論理的関係」が要求される。この発想の現れは、明文(刑訴法295条1項;事件との無関係事項の尋問の制限、刑訴規則189条1項;立証趣旨の明示)にも見られる。□酒巻485、緑259

・証拠調べの請求者は「立証趣旨=<当該証拠>と<証明すべき事実>との関係」を明示しなければならない(刑訴規則189条1項)。検察実務では、証拠等関係カードの立証趣旨欄に「被害状況」「犯行の目撃状況」などと簡潔に記載している。□酒巻400、プロ39,65

・関連性は、「当該証拠→[ⅰ]→そこから直接に証明しようとする事実A→[ⅱ]→事実Aから推認しようとする事実B」という2つのレベルで問題となり得る(検察官が究極的にほしいのは事実Bである)。いずれのレベルであっても、「証明力をもたないので関連性がない」という例(講学上の自然的関連性;[例]ウワサ、疑似科学、偽造証拠、事件との無関係など)と、「一応の証明力はあるが誤謬のリスクがある」という例(講学上の法律的関連性;[例]悪性格、遺体写真(?))がある。□リークエ357-9、岡神山79-80

・検察官請求証拠に関連性がないと考える場合、弁護人は「関連性がないため(検察官の証拠調べ請求に対して)異議あり」との証拠意見(刑訴規則190条2項前段)を述べることになろう。□岡神山76

・弁護人の意見異議が出された後の進行として、[a-1]裁判所が直ちに証拠決定をする、[a-2]裁判所が提示命令(刑事訴訟規則192条)をかけた上で証拠決定をする、[b]採否が留保された上で検察官が当該関連性の立証を試みる、のいずれかが考えられよう。□プロ48-9,71

・証拠意見に反して裁判所が証拠採用決定(刑事訴訟規則190条1項)をした場合、弁護人としては、速やかに「関連性のない証拠の採用=刑事訴訟法317条("事実の認定は、証拠による。")の解釈適用を誤った法令違反」を理由とする異議(刑訴法309条1項)を申し立てる必要がある。□プロ86-8、酒巻460-1,483、異議マ39-40

 

[証拠全般に対する「必要性なし(異議)」]

・関連性(+違法収集証拠排除法則+自白法則+伝聞法則)が肯定されれば、証拠能力は具備される。□酒巻483

・その上で、刑訴規則189条の2は「証拠調べの請求は、証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して、これをしなければならない。」と規律する。この観点から、裁判所は、重複する証拠(関連性が肯定されても)争点との結びつきが乏しい証拠は、証拠却下決定をすることができる。□酒巻486、プラ40、石井275参照

・したがって、弁護人が「(証拠能力は争わないが)必要性なし」との意見異議を述べることも考えられる。□石井88参照

・必要性を欠く証拠が採用決定されてしまったとき、弁護人は、「刑訴規則189条の2("証拠調べの請求は、証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して、これをしなければならない。 ")、刑訴規則199条1項("証拠調については…検察官が取調を請求した証拠で事件の審判に必要と認めるすべてのものを取り調べ…")の解釈適用を誤った法令違反」を理由とする異議(刑訴法309条1項)を申し立てる。もっとも、必要性の判断にあたっては裁判所の広汎な裁量が肯定されている(最大判昭和23・6・23刑集2巻7号734頁)。□異議マ40、角田303

 

[被告人以外の供述調書に対する「不同意」]

・請求された証拠が伝聞証拠の場合、証拠の採否についての意見(刑訴規則190条2項前段)とともに、刑訴法326条1項の同意の有無を明らかにする必要がある。通常、「証拠意見」とはこの両者を総称している。□岡神山75

・「326条同意=証拠能力付与説」の立場(近時の実務では伝聞性解除説も有力化している←違いがわからん…)からは、弁護人が同意しなかった供述調書は、原則として証拠能力を持たない(刑訴法320条1)。□プロ50,54、岡神山77

・弁護人の同意が得られなかった場合、検察官は、当該供述者の証人尋問を申請することになろう。□プロ50

 

[被告人の自白調書に対する「不同意+α」]

・自白調書には、刑訴法322条1項の伝聞例外が適用されるため、単なる「不同意」では証拠採用を避けられない。そこで、自白調書を排除したい弁護人は、「不同意+任意性を争う(刑訴法319条1項)」と述べる必要がある。さらにこの場合、任意性に疑いを生じさせる具体的事情の特定が求められる(争点形成責任)。□プロ55

・自白調書に対して「不同意」とのみ述べた場合、裁判所から不同意の趣旨を質問される。任意性は争わない場合、「信用性を争う」「必要性を争う」などと付記することになろう。□プロ69

・もっとも、裁判員裁判施行以降の実務では、同意の有無にかかわらず、「被告人質問を先行する→その上で自白調書の必要性を判断する」という運用も一般化している。弁護人として、この運用を求める意見を述べることが考えられよう。□プロ55、岡神山84-5,195-7

 

★大阪弁護士会刑事弁護委員会公判実務部会『実践! 刑事弁護異議マニュアル』[2011]

石井一正『刑事実務証拠法〔第5版〕』[2011]

緑大輔『刑事訴訟法入門』[2012]

★岡慎一・神山啓史『刑事弁護の基礎知識』[2015]

酒巻匡『刑事訴訟法』[2015]

角田雄彦「「必要性」判断から「許容性」判断への一元化へ」後藤昭ほか編著『実務体系 現代の刑事弁護 2 刑事弁護の現代的課題』[2015]

★司法研修所刑事裁判教官室『プラクティス刑事裁判』[2015]

★司法研修所刑事裁判教官室『プロシーディングス刑事裁判』[2016]

宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『刑事訴訟法〔第2版〕(リーガルクエスト)』[2018] ※堀江執筆の証拠法(第4章)の記述は出色。

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