面談強要禁止仮処分の実務

2022-05-02 13:54:37 | 民事手続法

【例題】Xは、Yと同じ町内に住んでいるが、町内会の運営をめぐって関係が悪化した。YからXへは昼夜を問わない電話連絡や度重なる訪問がなされるようになった。Yは、Xの人格攻撃をする内容のチラシの配布も行っている。

 

[申立ての趣旨]

・妨害を受けている被害者としては、妨害者を相手方とする「面談等禁止を求める仮処分」を申し立てることが考えられる。

・主文(申立ての趣旨)例は、金子武志「面談強要禁止等仮処分申立事件について」判例タイムズ962号4頁参照。□岩崎596

 

[申立ての理由(その1):被保全権利]

・被保全権利(民事保全法13条1項)は「人格権(→妨害排除請求権、妨害予防請求権)」となる。営業にも支障を来している場合は「営業権」も追記されよう。□三重野409、岩崎593

・債権者は、正に人格権が侵害されているといえるだけの「執拗な面会強要の事実」や「重大な名誉毀損事実の告知の事実」を疎明する必要がある(この点を自覚的に論ずるのは瀬木(+三重野)か)。妨害行為の録音録画や詳細な陳述書の提出が求められよう。□瀬木628、三重野414、岩崎595

 

[申立ての理由(その2):保全の必要性]

・論理的には、被保全権利の疎明が成功した後に「保全の必要性(民事保全法13条2項)」が問題となる。仮の地位を定める仮処分においては「保全の必要性=争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」と表現され(民事保全法23条2項)、救済の切迫性が認められないケースを除外する機能を有する。□和田230、瀬木212

・保全の必要性の疎明は、「限りなく事実のレヴェルに近く、かつその内容が曖昧な要件を基礎付ける事実を疎明するものであり、ヌエ的な曖昧さを有する」とも説かれる。□瀬木211

・仮地位仮処分における疎明の程度は、「民事訴訟における請求認容の心証の程度」と大差ないレベルが要求される。□関190

・先行して被保全権利の項目で「人格権(営業権)が侵害されていること」を詳論することになろうが、保全の必要性の項目でも繰返しの主張をすることになろうか(たぶん)。□岩崎595

 

[申立書等の提出]

・保全命令申立一般の申立手数料は「債権者1名、債務者1名」の場合は2,000円となる(民事訴訟費用法3条1項別表第1の11の2のロ)。債権者又は債務者が複数の場合は多い方の一方当事者を基準として「2,000円×多い方の人数」となる。□裁判所WEBサイト(東京地裁)

・管轄は債務者の住所地となる(民訴法4条)。

・名古屋地裁の場合、保全一般の郵券は4,550円となる。

・債権者は、「申立書正本1通、疎明資料(甲号証)の写し各1通、申立手数料、郵券」を裁判所(名古屋地裁:執行センター4階の民事第2部保全非訟係)に提出する。当事者目録は不要だろう。なお、この時点で「疎明資料の原本」は不要(後述)。

・債権者は、債務者直送用の「申立書副本1通、疎明資料(甲号証)の写し各1通、直送書」も用意し、裁判所から期日の通知を受けるのを待って遅滞なく直送する(民事保全規則15条)。早ければ申立ての翌日に期日通知がなされた例もある。□瀬木223

 

[要審尋事件]

・仮の地位を定める仮処分では、債務者審尋が必要的となる(民事保全法23条4項本文)。実務では双方対席審尋が原則化している。□瀬木218、京野今井52

・債権者は、双方審尋の席上に疎明資料の原本を持参し、審尋において書証(書面の証拠調べ)が行われることになろう。□瀬木218

 

[裁判:認容の場合]

・申立てを認容する方向の場合、通常は、保全命令の発令に先行して担保決定がなされる(民事保全法14条1項)。債権者としては、これに対する上申や即時抗告が可能であるが、文句がなければ速やかに保証金を供託し、供託書に裁判所に提出することになろう。「反社会的な行動を封じる仮処分では、少額の担保で足りる」と説かれる。□瀬木86-8、平野331-2、関191、三重野414、岩崎598

・保全命令には、訴訟費用の裁判を行わない。□瀬木255

・保全命令には「理由の要旨」を示せば足り(民事保全法16条ただし書)、実務上は「申立てを相当と認める」程度の極めて簡潔な内容にとどまる。□瀬木255-6

・保全命令を発令する決定書は当事者に送達される(民事保全法17条)。なお、保全執行にあたって債務者への送達を待つ必要はない(民事保全法43条3項)。□司研35、平野334-5

・作為不作為を命じる仮処分については、本執行と同様の執行が可能となり(民事保全法52条2項)、不作為義務違反に対しては間接強制が可能となる(民事保全法52条1項→民事執行法172条)。□瀬木466,468、平野345

 

[裁判:却下の場合]

・形式的要件を欠く場合や、実体的要件(被保全権利の疎明、保全の必要性の疎明)を欠く場合には、申立ては却下される(「棄却」とは言わない)。□京野今井60

・条文上では却下決定も「理由の要旨」で足りるとされるものの(民事保全法16条ただし書)、実務では比較的詳細な内容が付されている。訴訟費用の判断もされる。□瀬木258

・決定書一般として却下決定を送達する必要はないが(民事保全法7条→民訴法119条)、実際の運用では当事者双方に送達されている。□瀬木260

・却下決定を受けた債権者は、2週間以内に即時抗告をすることができる(民事保全法19条1項)。即時抗告が却下されてもさらなる抗告はできないため、「二審制」となっている(民事保全法19条2項)。□平野349、京野今井60

 

司法研修所『民事弁護教材 改訂 民事保全〔補正版〕』[2005]

平野哲郎『実践 民事執行法 民事保全法〔第2版〕』[2013]

京野哲也・今井隆一『基礎から実務へ 民事執行・保全』[2013]

★三重野真人「元交際相手によるストーカー行為に対する仮処分」須藤典明・深見敏正『民事保全』[2016]

★岩崎政孝「面談強要禁止の仮処分」須藤典明・深見敏正『民事保全』[2016]

★関述之『民事保全手続』[2018]

★瀬木比呂志『民事保全法〔新訂第2版〕』[2020]

和田吉弘『基礎からわかる民事執行法・民事保全法』[2021]

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