【債権法改正】時効障害制度

2024-03-24 13:50:50 | 契約法・税法

【例題】Gは、Sに対する金銭債権100万円を有しているが、履行期から相当期間が経過しているため、その管理方法を検討している。

 

[新法旧法の適用関係]

・消滅時効の期間:[1]2020年3月31日まで発生した債権には、原則して旧法が適用される(平成29年法律第44号附則10条4項)。ただし、その重要な例外として、施行日前の不法行為(生命身体損害)であっても施行時点で時効が完成していないものは、新法が適用されて時効期間は「5年」に伸長される(平成29年法律第44号附則35条2項) 。[2]2020年4月1日以降に発生した債権には、新法が適用される(平成29年法律第44号附則10条4項)。□中込61,160-1

・障害事由:ここでは、債権の発生時期ではなく、障害事由の発生時期によって区分けされている。[1]2020年3月31日までに発生した障害事由には、旧法の「中断・停止」規定が適用される(平成29年法律第44号附則10条2項)。[2]2020年4月1日以降に発生した障害事由には、新法の「更新・完成猶予」規定(※)が適用される(平成29年法律第44号附則10条2項)。□中込55-6

※承認を別にすれば、権利の存在が確証されたことを「更新」、権利行使の意思が明らかにされたことを「完成猶予」とする。□潮見37

 

[承認:中断=更新]※変更なし

・「承認」の位置付けは、旧法と新法で実質的に変わりない。旧法では「承認=時効の中断事由」(旧法147条3号)、新法では「承認=時効の更新事由」と呼ばれ、いずれもそれまでに進行してきた時効期間をゼロにする(新法152条1項参照)。

 

[協議を行う旨の書面合意:最大1年の完成猶予]※新設

・旧法下においては、「承認」「裁判上の請求」という両極端の中断事由しか用意されておらず、「債権者による時効完成阻止目的だけの訴訟提起」というムダも生じ得た(私見では「債務者による承認回避のための一切の交渉拒否」もこの現れだろう)。□一問一答49-51

・新法は、「権利についての協議を行う旨の合意を書面(電磁的記録)ですること」というカテゴリーを新設し、それに「一定期間の時効完成猶予」という効力を与えた(新法151条1項)。ここでいう一定期間とは、min[1年、1年未満の約定期間、協議続行拒絶通知から6月]である(同項各号)。

 

[催告:6か月の完成猶予]※変更なし

・「催告」の位置付けは、旧法と新法で変わっていない(規定ぶりは整理された)。時効完成をとりあえず先延ばししたい債権者としては、「催告=完成猶予」をすることで「裁判上の請求」までの時間を6か月間稼ぐことができる(新法150条1項)。□一問一答47

・訴訟や強制執行申立てが後に取り下げられた場合でも、「催告」としての完成猶予効(6か月)は認められる(新法147条1項各号列記以外の部分、148条1項各号列記以外の部分)。→《訴え取下げの実務》□潮見38

 

[仮差押え&仮処分:完成猶予効]※格下げ

・旧法で「仮差押え」「仮処分」は、時効中断事由の一つとされていた(旧法147条2号)。

・新法下では、「仮差押え」「仮処分」は「終了後6か月間の完成猶予事由」に格下げされたので(新法149条1号2号)、「民事保全手続の申立て(※)~民事保全手続終了から6か月」の間に時効を完成させない、という効力にとどまる。債権者は、遅くともその間に本案を提起する必要がある(換言すれば、保全手続が係属する限り時効は完成しない)。□一問一答47、香川148-9

※明文では「仮差押え・仮処分に掲げる事由」とのみ規定されているが、申立ての時点で完成猶予効が生じると解すべきであろう(新法149条の解釈は、旧法154条のそれが妥当する)。旧法下でも「動産執行による金銭債権の消滅時効中断の効力発生時期=債権者が執行官に対しその執行の申立をした時」と解されていた(最三判昭和59年4月24日民集38巻6号687頁)。□香川148

 

[強制執行等:完成猶予効+更新効]

・新法下では、「強制執行」「担保権の実行」「形式的競売」「財産開示手続」の申立て(※)があれば、当該手続の終了まで完成猶予効が生じる(新法148条1項各号)。

※仮差押え・仮処分と同様に、「申立て」とは明記されていないが申立て時に効力が生ずると解すべきであろう。□香川142-3

・これら民事執行手続が終了時に時効は更新され(=時効期間がゼロとなる)、新たに時効が進行する(新法148条2項)。

 

[裁判上の請求等:完成猶予効+更新効]

・新法下では、「裁判上の請求」「支払督促」「裁判上の和解・民事調停・家事調停」「破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加」があれば、当該手続の終了まで完成猶予効が生じる(新法147条1項各号)(※)。

※完成猶予効が生じるのは、「訴訟提起時」「支払督促の申立て時」「調停等の申立て時」「破産債権等の届出時」だと解される。□香川131-4、潮見38(自明の書きぶり)

・これら手続において確定判決(or確定判決と同一の効力を有するもの)によって権利が確定したときは、時効は更新され(=時効期間がゼロとなる)、新たに時効が進行する(新法147条2項)。

 

潮見佳男『民法(債権関係)改正法の概要』[2017]

筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』[2018]

中込一洋『実務解説 改正債権法附則』[2020]

香川崇「第147条」「第148条」「第149条」松岡久和・松本恒雄・鹿野菜穂子・中井康之編『改正債権法コンメンタール』[2020]

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