附帯請求の始期と利率

2023-06-12 20:25:54 | 契約法・税法

【例題】

(case1)貸主X1は、借主Y1に対し、貸金の返還を求めている。

(case2)買主X2は、売主Y2に対し、債務不履行を理由として売買契約を解除して支払った売買代金の返還を求めている。

(case3)交通事故の被害者X3は、加害者Y3に対し、損害の賠償を求めている。

※平成29年法律第44号・第45号による改正前後の民商法を「改正前/後民法、改正前/後商法」などと称する。

 

[主たる請求と附帯請求]

・講学上、「主たる請求」に附帯されるものを「附帯請求」と呼ぶ。民訴法9条2項は附帯請求を「訴訟の附帯の目的」と呼び、附帯請求として「果実、損害賠償、違約金、費用」を挙げる。

 

[貸金債権:約定利息と法定利息]

・利息支払の合意の有無:当事者の一方が非商人であれば、合意がない限り利息債権は生じない(改正前民法には明文なし、改正後民法589条1項)。他方で、商人間の金銭消費貸借であれば、合意がなくても当然に法定利息が発生する(改正前後商法513条)。□中田契約旧365、類型別31-2(参照)

・始期と終期:特約がない場合、利息が生じる1日目は「元本を受け取った日(※)」(改正前民法では最二判昭和33年6月6日民集12巻9号1373頁、改正後民法589条1項)となり、最終日は「返還(すべき)時期(←最終日の日中に返金しても1日分の利息が生じる)」までとなる。□加藤細野226

※民法上は貸付日初日参入とされているものの、貸金実務は「貸付日は不算入、弁済日は参入」と約定するのが通例か(たぶん)。

・約定利率:利息債権の利率は約定利率による(改正前民法404条、改正後民法404条1項)。貸金の約定利率は年15~20%が民事上の上限となる(利息制限法1条1号2号3号)。業者が年20%を超えて貸し付けると刑事罰の対象となる(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律5条2項)。□潮見プ38,45-6

・法定利率:約定利率が決められていない場合、2020年3月31日以前に利息が生じた場合(↑の理解では、元本受領日≒契約成立日が基準か)、旧民事法定利率5%(平成29年法律第44号附則15条1項、改正前民法404条)か、旧商事法定利率6%(平成29年法律第45号4条3項、改正前商法514条)が適用される。2020年4月1日以降に利息が生じた場合は、「利息が生じた最初の時点での法定利率(現在は3%)」が適用される(改正後民法404条2項)。□中田契約旧365、潮見プ38

 

[貸金債権:遅延損害金]

・返還時期の定めがある場合の始期:約定された返還時期(最終日)の翌日から、債務不履行責任としての遅延損害金が発生する(改正前後民法412条1項、改正前後民法419条2項)。□中田契約旧363、潮見プ159

・返還時期の定めがない場合の始期:「貸主による返還の催告→相当期間の経過」をもって返還時期が到来し、それ以降、債務不履行としての遅延損害金が発生する(民法591条1項、改正前後民法419条2項)(※民法412条1項の排除)。□中田契約旧362、潮見プ159

・約定利率(or損害賠償額の予定):「損害賠償額の予定=遅延損害金の利率(改正前後民法420条)」があればそれにより、それがなくとも「利息の約定利率(改正前後民法419条1項ただし書)」が定められていればそれによる。さらに。貸金の遅延損害金の利率の上限は年21.9~29.2%となる(利息制限法4条1項)。□潮見プ160、加藤細野228-9、類型別32-3

・法定利率:遅延損害金や利息の約定利率が決められていない場合は、法定利率による(改正前後民法419条1項本文)。□潮見プ160

 

[契約解除に基づく原状回復請求権:法定利息]

・法定利息の発生:契約解除によって原状回復請求権としての金銭返還請求権を行使するときは(改正前後民法545条1項本文)、これに対する法定利息が生じる(改正前後民法545条2項)。これは不当利得返還請求権一般の規律の特則である(※)。約定で法定利息の発生を否定することも可能だろう(たぶん)。

最二判昭和40年9月10日集民80号271頁:「民法五四五条二項の利息は、同法五四五条一項の規定する契約解除に基づく原状回復のため、返還すべき金銭に附することを要する法定利息であつて、その実質は不当利得返還の法理より生じ、かつ「其受領ノ時ヨリ」附することを要する点からも明らかな通り、履行の遅滞によりはじめて発生する遅延損害金と発生の原因を異にし、右金銭返還義務の履行遅滞を原因とするものではないから、同法五四六条、五三三条所定の同時履行の抗弁権にかかわりなく発生し、たゞその利息債務の履行が右抗弁権の作用を蒙るにすぎないと解すべきものである。」

・始期:特約がない場合、利息が生じる1日目は「金銭を受領した日(※)」となる(改正前後民法545条2項)。例えば、仙台地家裁ウェブサイトは「売買契約の解除等の理由で売買代金の返還を請求するような場合は、被告の売買代金受領の日から遅延損害金の請求が可能です(民法545条2項)。」と明記する。

※上述した貸金債権の利息の始期(改正後民法589条1項)と同じ発想か(たぶん)。

・法定利率:2020年3月31日以前に当該契約が締結されていれば、旧民事法定利率5%(平成29年法律第44号附則15条1項、改正前民法404条)か、旧商事法定利率6%(平成29年法律第45号4条3項、改正前商法514条)が適用される。2020年4月1日以降に当該契約が締結されていれば、「締結時点の法定利率(現在は3%)」が適用される(改正後民法404条2項)。□中田契約旧228

 

[契約違反に基づく損害賠償請求権:遅延損害金]

 

[不当利得返還請求権:悪意受益者の法定利息]

・悪意性:金銭を受領した者がその時点(※)で「法律上の原因のないこと」につき悪意であれば、法定利息が生じる(民法704条前段)。□加藤細野330

※厳密には、利得消滅の抗弁(民法703条)に対し、「利得消滅時点の悪意」が再抗弁となる。□吉川131-2

・始期:法定利息が生じる1日目は「受領した日」である。□加藤細野330、吉川145

・法定利率:商行為であれば旧商事法定利率となる。□吉川145

 

[不当利得返還請求権:悪意受益者の損害賠償債務]

・民法704条後段によれば、悪意受益者は「法定利息を超える損害」の賠償責任を負う。これは不法行為責任一般として解され、注意的な規定にすぎない。□吉川147-8

 

[不当利得返還請求権:遅延損害金]

・始期:期限の定めのない債務であり、「履行請求時=遅滞=請求の翌日が1日目」となる(改正前後民法412条3項)。実務的には、訴状をもって履行請求を行う趣旨で「訴状送達の日の翌日から・・・」と請求するのが多いか。□加藤細野326

・法定利率:商行為であれば旧商事法定利率となる。□吉川149

・悪意受益者の場合は「民法704条前段の法定利息」と「遅延損害金」が競合する。□吉川148

 

[不法行為に基づく損害賠償請求:遅延損害金]

・始期:裁判実務は「不法行為当日=(何らの催告もなく)遅滞に陥った日=遅延損害金の発生日」とする(最三判昭和37年9月4日民集16巻9号1834頁)(※)。

※「本来は期限の定めのない債務であるにもかかわらず、あえて改正前後民法412条3項を適用しない」という例外的処理となっている。このような例外的処理をするだけの理論的・説得的説明を欠く、との批判がある。□潮見不法旧266-7、松本1551-5

 

潮見佳男『不法行為法』[1999]

加藤新太郎・細野敦『要件事実の考え方と実務〔第2版〕』[2006]

吉川愼一「不当利得」伊藤滋夫総括編集『民事要件事実講座 第4巻』[2007] ※裁判実務家が従前の通説を率直に批判しつつ、学説に目を配りながら「判例説」の再構成を試みている。

中田裕康『契約法』[2017]

潮見佳男『プラクティス民法債権総論〔第5版補訂〕』[2020]

松本克美「不法行為による損害賠償債務の遅延損害金の起算日と20年期間の起算点」立命館法学403号1549頁[2022]

司法研修所編『4訂紛争類型別の要件事実』[2023] ※改めて読み返すと取り上げられる事案も多くなく、記述も薄い。

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