常習累犯窃盗

2023-03-25 01:11:25 | 刑事実体法

【例題】Aは、スーパーマーケットで万引きをした疑いで現行犯逮捕された。Aには複数の同種前科がある。

→《2度目の有罪判決を受けるとき

昭和五年法律第九号(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)
第二条 常習として、左の各号の方法により、刑法第二百三十五条、第二百三十六条、第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪又はその未遂罪を犯したる者に対し、窃盗をもって論ずべきときは三年以上、強盗をもって論ずべきときは七年以上の有期懲役に処す。
一 兇器を携帯して犯したるとき。
二 二人以上現場において共同して犯したるとき。
三 門戸牆壁等を踰越損壊し、又は鎖鑰を開き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入して犯したるとき。
四 夜間人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入して犯したるとき。
第三条 常習として、前条に掲げたる刑法各条の罪又はその未遂罪を犯したる者にして、その行為前十年内にこれらの罪又はこれらの罪と他の罪との併合罪につき、三回以上六月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たるものに対し、刑を科すべきときは、前条の例による。 

 

[盗犯等防止法の意義]

・昭和初期に世間を騒がせた「説教強盗」の出没を受け、昭和5年に「盗犯等の防止及び処分に関する法律」が制定された。□川合303

・第2条から第4条まで:常習犯としての強窃盗を捕捉する特別の加重類型である。第2条「常習特殊窃盗(など)」、第3条「常習累犯窃盗(など)」、第4条「常習強盗致死傷・常習強盗不同意性交等致死」。□川合303

・第1条:正当防衛の要件に対する特則である。→《侵入窃盗》□川合303

 

[常習累犯窃盗の要件]→《2度目の有罪判決を受けるとき》

・根拠となる罰条は、「盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条、刑法235条」となる。

・今回の単純窃盗:前提として、刑法235条の構成要件に該当する必要がある。

・常習:行為者が「反復して窃盗を行う傾向性」を有する必要がある。起訴状の記載は「常習として」とのみ記載すれば足り、常習性の認定に用いる事情に限定はない。例えば、今回の窃盗行為の態様と、後述の「その行為前10年間3回受刑の事実」とを総合して常習性を認定することもできる(最二判昭和33年7月11日刑集12巻11号2553頁)。□川合304-5、加藤488-90

・10年以内の同種実刑前科3回:今回の犯罪日時を基準日として過去10年以内に「宣告刑6か月以上の強窃盗実刑前科が執行された×それが3回以上」が必要となる。[1]過去の判決宣告日が10年より前であっても、その刑期の一部が10年以内に含まれていれば足りる。[2]ここでいう「執行を受ける」とは10年以内に刑の執行が着手されたことを意味し、10年内の終了までは不要(東京高判昭和27年2月21日高刑集5巻3号344頁)。□川合305、加藤489-90

 

[罪数関係(1):実体法上の処理]

・数個の窃取行為が存在する場合:常習犯や営業犯は、構成要件上、複数の行為が予定されている(集合犯)。したがって、常習としての窃取行為が複数存在しても、それら行為の全体が一罪(包括一罪)となり、常習累犯窃盗(+常習特殊窃盗)が一個のみ成立する。→《罪数論入門》□川合306、山口720

・窃盗目的の住居侵入を伴う場合:「訴追された常習累犯窃盗」とは別に「窃盗目的の住居侵入(窃取着手前or着手済み)」が存在する場合、両者は一罪となる(最三判昭和55年12月23日刑集34巻7号767頁)。→《侵入窃盗》□川合306-7

 

[罪数関係(2):身柄拘束の回数]

・包括して常習累犯窃盗を構成する「t1時点での窃盗行為α」「t2時点での窃盗行為β」が存在する場合、まずは窃盗行為αにつき逮捕勾留をした後に、さらに窃盗行為βについて逮捕勾留をすることは可能か。見解は対立しているが、近時は次の整理が有力だろう(これに対する福岡高決昭和42年3月24日高刑集20巻2号114頁は、捜査実務に甘く安易に複数回勾留を肯定する。しかし、現在の裁判実務はこの高裁判例に依ってはいないか)。□田中45

[1]一罪一勾留の原則にいう「一罪」は「実体法上一罪」である(通説)。

[2]一罪一勾留の原則の根拠は、一事不再理効と類似した「検察官の同時処理義務」に求められる。窃盗行為αと窃盗行為βを同時に処理することが困難であった場合には、例外的に複数回の身柄拘束が許容される。

[3]常習犯の場合は、窃盗行為αと窃盗行為βとの間に証拠の共通が認められないことが多く、同時捜査が要求できない場合が多いだろう。

[4]なお、窃盗行為αについて起訴している場合、さらに窃盗行為βで起訴することはできない(二重起訴禁止)。したがって、窃盗行為βでも被疑者勾留をした場合、10日(20日)以内に先行する公訴事実を訴因変更する必要がある。この訴因変更によって2個の被告人勾留が併存してしまうが、実務的にはいずれかの勾留を取り消すことになろう。

・逮捕状請求書には「同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨及びその犯罪事実」を記載する必要がある(刑訴規則142条1項8号)。

 

[常習累犯窃盗の効果(1):権利保釈の否定]

・常習累犯窃盗の法定刑は、常習特殊窃盗と同じく「短期3年(法2条)~長期20年(刑法12条1項)」となる。したがって、権利保釈の1号除外事由(=今回の法定刑が短期1年以上)に該当してしまう(刑訴法89条1号)。

・常習ゆえ、権利保釈の3号除外事由(=常習+今回法定刑長期3年以上)にも該当してしまう(刑訴法89条3号)。→《権利保釈除外事由としての常習性概念》

・同種実刑前科のうちに常習累犯窃盗を含む場合は、権利保釈の2号除外事由(=前の法定刑が長期10年以上)にも該当してしまう(刑訴法89条2号)。

 

[常習累犯窃盗の効果(2):累犯加重(=長期30年)の可能性]

・同種実刑前科のうちに「執行終了から5年以内」があると累犯加重の適用を受ける(刑法56条1項)。常習累犯窃盗の長期は20年なので(上述)、累犯加重によって長期30年となる(刑法57条、14条2項)。

 

川合昌幸「第235条(窃盗)」大塚仁・河上和雄・佐藤文哉・古田佑紀『大コンメンタール刑法第12巻〔第2版〕』[2003]

田中康郎「一罪一勾留の原則(判批)」井上正仁編『刑事訴訟法判例百選〔第8版〕』[2005]

山口厚「単純一罪・包括一罪」西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法第1巻総論』[2010]

加藤俊治編著『警察官のための充実・犯罪事実記載例ー刑法犯ー〔第5版〕』[2021]

(以下は参考)

原田和明「常習累犯窃盗のある人への福祉的支援についての一考察ー万引きを繰り返す女性への支援を中心として」豊岡短期大学論集第15号213頁以下[2018]

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