いかなる政治献金が違法となるか

2017-07-31 20:40:58 | 刑事実体法

2020-06-19追記。

【例題】衆議院議員Xは、Yから100万円の寄附を受けた。この寄附は適法か。

 

[政治資金規正法による寄附制限]※「政治資金規正法」との表記に注意。

(1)用語

・「公職の候補者」(政治資金規正法3条4項);衆議院議員(候補者)、参議院議員(候補者)、地方公共団体議会議員(候補者)、首長(候補者)

(2)候補者個人への寄附は厳しい

・寄附者が個人(または政治団体)の場合;[1]原則として、「公職の候補者」の政治活動に対して金銭等を寄附することはできない(政治資金規正法21条の2第1項)。[2]例外的に「選挙運動に関する金銭等の寄附」は同一人Xに対する個別制限年150万円、総枠制限年1000万円まで可能(政治資金規正法21条の2第1項、21条の3第3項、22条2項)。したがって、【例題】のYが個人ならば、選挙費用目的かつ総枠制限内の寄付ならば適法。

・寄附者が会社や労働組合等の場合;候補者個人へ寄附することはできない(政治資金規正法21条1項)。

・寄附者が政党の場合;政党が候補者個人におこなう寄附はOK(政治資金規正法21条の2第2項)。

(3)政党等への寄附は緩和

・候補者個人への寄附は制限が厳しいため、寄附を企てる者としては、候補者が属する政党など(政治資金団体、資金管理団体、政治団体)への寄附を考えよう。ここで受領者となりうる団体のうち「政党=政治団体のうちで一定の要件をみたすもの(政治資金規正法3条2項)」と「政治資金団体=政党のために資金上の援助をする目的を有する団体で法定の届出がされているもの(政治資金規正法5条1項2号)」は、単なる「政治団体」等と比べて寄附制限が緩和されている。

・寄附者が個人の場合;政党(政治資金団体)に対しては、総枠制限年2000万円の範囲内ならば個別制限なく寄附OK(政治資金規正法21条の3第1項1号)。

・寄附者が会社等の場合;政党(政治資金団体)に対しては、Yの資本金等に応じた総枠制限内(年750万~1億円)で寄附OK(政治資金規正法21条の3第1項2~4号、同2項)。

(4)罰則

・量的制限等に反して寄附を受領した候補者等Xは、1年以下or50万円以下の罰則の対象となる(規正法22条の2、26条1号)。

・制限規定に違反した寄附者Yも同様の罰則を受ける(規正法26条1号)。

 

[贈収賄罪]

刑法197条1項 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。

刑法198条 第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。

・寄附者から公職に対する寄附が、単なる寄附にとどまらず、公職の特定の職務行為に対する報酬に該当すれば、公職に収賄罪(寄附者に贈賄罪)が成立する。

・単純収賄罪は「具体的な職務行為の依頼」を欠いても成立する。もっとも、いわゆる政治献金においては、単に「受領者による政治活動が寄附者の利益にかなうことを一般的に期待する」だけでは賄賂性を欠く(最三決昭和63・4・11刑集42巻4号419[大阪タクシー事件])。この意味で、寄附を受けた政治家に単純収賄罪(刑法197条1項前段)を問うことは実務上困難であり、もっぱら「請託(=一定の職務行為の依頼)」を伴う受託収賄罪(刑法197条1項後段)の成否が問題となる。□中森310、井田599、西田476、三黒288-9、裁判例につき上嶌779-81

 

[あっせん収賄罪]

刑法197条の4 公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。

・賄賂罪一般は「具体的な職務権限のある公務員が、(正不正を問わず)職務行為をすることの対価として報酬を受け取る」ことを基本とする。この理解に立つと、寄附者の期待が政治家による事実上の影響力の行使(例;民事トラブルへの介入、他者へ「顔を聞かせる」)である場合、「政治家が当該影響力を行使することはその一般的職務権限(or密接関連行為)ではない」として職務関連性を欠く。

・そこで、このような「職務関連性のない口利き行為」を捕捉するのが、あっせん収賄罪である(刑法197条の4;収賄罪の一つとして規定されるものの構造が違う)。【例題】において、Xが、Yの請託を受けて「他の公務員に対し、職務上不正な行為をさせるようあっせんすること等」の報酬として寄附を受けていれば、Xにあっせん収賄罪(Yに贈賄罪)が成立する。以上のとおり、あっせん収賄罪における「賄賂」とは、(不正な行為への対価ではなく)あっせんの対価である。□園田、中森313、井田601、三黒291-2

・実務的には、何らかのあっせん行為がなされた場合、[1]一般的職務権限・職務密接関連行為の理論(※)により、職務関連性が肯定されるか(=単純収賄罪等が成立するか)(※否定例につき上嶌760-1)、[2]職務関連性が否定されるとしても、なお、あっせん収賄罪が成立しないか、との順序で検討される。□岩倉256

(※)個人的には、中森308-9「…密接関連性の概念は明確とはいえない…相手方に対する影響の大きさがなぜ賄賂罪としての処罰につながるのか不明であるし、行為の公務的性格や本来の職務への影響という観点は、独立の判断基準たりうるは疑わしい。」という指摘に共感する。裁判例の個別事案の処理を見てもさっぱりわからん…。

 

[公職者あっせん利得罪]

公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律1条1項 衆議院議員、参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長(以下「公職にある者」という。)が、国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときは、三年以下の懲役に処する。

・あっせん収賄罪をもってしても、あっせん行為の目的が「適法な行為」であれば処罰できない(例;他の公務員に裁量内の行為をさせる)。□園田

・そこで平成12年に公布された「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(あっせん利得処罰法)」は、政治公務員による政治活動の廉潔性の保持(国民の信頼)を確保するため、適法行為をさせる口利きで利得を得る行為も処罰の対象とした。あっせん収賄罪と比べると、[1]主体は限定的、[2]あっせんの対象も限定(=国が行う契約や処分)、[3]あっせんの方法も「その権限に基づく影響力の行使」に限定、[4]客体を財産上の利益に限定(※刑法上の「賄賂」は金銭に見積もることのできないものでも可)、[5]行為を利益の「収受」に限定(※あっせん収賄罪では「要求・約束」レベルでも処罰)、[6]あっせんの内容は適法違法を問わない。□上嶌805-7、園田、三黒294-7

 

(寄附制限の関係)

☆☆東京都選挙管理委員会「政治資金規正法及び公職選挙法における寄附の制限」[2012]

総務省「なるほど!政治資金 政治資金の規正」

福岡県古賀市「選挙のQ&A[政治資金規正法]」

(収賄罪等の関係)

☆西田典之『刑法各論〔第5版〕』[2010]

岩倉広修「贈収賄罪における職務関連性」池田修ほか編『新実例刑法[各論]』[2011]

☆中森喜彦『刑法各論〔第4版〕』[2015]

☆☆園田寿「亡国の犯罪ー甘利疑惑で問題の〈あっせん利得罪〉とはどのような犯罪なのかー」[2016]

上嶌一高「刑法第197条(収賄、受託収賄及び事前収賄)」「刑法第197条の4(あっせん収賄)」西田典之ほか編『注釈刑法第2巻各論(1)』[2016]

☆井田良『講義刑法学・各論』[2016]

三黒雄晃「贈賄罪-国内」芝原邦爾・古田佑紀・佐伯仁志編著『経済刑法-実務と理論』[2018]

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