差押禁止動産の範囲

2020-08-05 16:50:29 | 倒産法・債権管理

【例題】執行官Xは、債権者Gの申し立てた動産執行事件につき、債務者Sの自宅に臨場した。S方には、種々の動産がある。□平野229-32

 

[法定の差押禁止財産]

・民事執行法131条は、動産執行の対象とならない動産を列挙する。□提要160-8

・当該動産が差押禁止動産に該当するか否かは、執行官が差押えの時点を基準として判断する。□提要168

 

[類型1:66万円までの現金]

・債務者の必要生計費を確保させる趣旨で、《66万円までの現金》は常に差押えが禁止される(民事執行法131条3号、民事執行法施行令1条)。

・破産の場面では、破産者が支払不能に陥っていることに考慮され、「66万円×1.5=99万円」までの金銭(預貯金は不可)が当然に自由財産とされている(破産法34条3項1号)。□条解破産311-2

 

[類型2:生活維持のための動産(1)]

・債務者やその家族の生活を維持させるため、次のものは差押えが禁止される;

債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具》(民事執行法131条1号)

《債務者等の1か月間の生活に必要な食料及び燃料》(民事執行法131条2号)

・ここでいう「債務者'等'」には、債務者と生計を一にする同居の親族(事実上の夫婦や事実上の親子関係を含む)が含まれる(民事執行法97条1項)。□提要160-1

・執行実務では、執行官室毎に差押禁止動産該当性の基準を決めている。例えば、冷蔵庫(1台)・29インチ以下のテレビ(1台)・エアコン(1台)・洗濯機(1台)・電子レンジ(1台)・布団(人数分)は、差押えが禁止される例が多い。□平野229-30

・生活保護の被保護者が《既に給与を受けた保護金品及び進学準備給付金又はこれらを受ける権利》も差押えが禁止される(生活保護法58条)。そのため、生保の取扱いは執行実務においても参考になる。なお、□提要161,166-7

 

[類型3:生活維持のための動産(2)]

《実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの》(民事執行法131条7号)

《仏像、位牌その他礼拝または祭祀に直接供するため欠くことができない物》(民事執行法131条8号)

債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類》(民事執行法131条9号)

《債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具》(民事執行法131条11号)

《債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物》(民事執行法131条13号)

《建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品》(民事執行法131条14号)

 

[類型4:生業維持のための動産]

・債務者の生業を維持させるため、次のものも差押えが禁止される;□提要162-5

《主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物》(民事執行法131条4号)

《主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物》(民事執行法131条5号)

《技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)》(民事執行法131条6号)

 

[類型5:その他]

《債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物》(民事執行法131条10号)

《発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの》(民事執行法131条12号)

 

最高裁判所事務総局民事局監修『執行官提要〔第5版〕』[2008]

平野哲郎『実践 民事執行法 民事保全法〔第2版〕』[2013]

伊藤眞ほか『条解破産法〔第2版〕』[2014]

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