【例題】P社は、事業廃止と自己破産申立てを決定した。現在、P社には雇用中の従業員がいる。
・要件その1:事業者が1年以上事業活動を行っていたこと(賃金の支払の確保等に関する法律7条、賃金の支払の確保等に関する法律施行規則7条)。
・要件その2:事業者が倒産したこと。この「倒産」には2種類ある。
[a]破産管財人が証明をする「法律上の倒産」(賃金の支払の確保等に関する法律7条、賃金の支払の確保等に関する法律施行令2条1項1~3号)。
[b]労働基準監督署長が認定する「中小企業事業主の事実上の倒産」(賃金の支払の確保等に関する法律施行令2条1項4号、2項)。
・要件その3:「破産申立て時or労基署への認定申請時から遡って6か月前」の時点を起点として、当該労働者が「上記起点から2年後までの間」に退職したこと(賃金の支払の確保等に関する法律7条、賃金の支払の確保等に関する法律施行令3条1号2号)。申立て目線で言い換えれば、「退職から6か月以内の申立て」を要する(なお、申立て時点でも雇用が継続していることはマレであろうが、この場合は申立てから1年6月後以内に退職させる必要がある)。裁判所や監督署の都合で決まる「開始決定時・認定時」ではなく、事業者や従業員がコントロールできる「申立て時・認定申請時」が基準とされている(これに対し、未払給与の財団債権化基準は「開始前3か月」とされる)。
・要件その4:未払賃金が「退職日の過去6か月前~立替払請求日前日までに支払期日が到来している定期賃金と退職手当」であり(※)、かつ、「未払総額が2万円以上」であること(賃金の支払の確保等に関する法律施行令4条2項)。
※対象外のもの・・・賞与、解雇予告手当、遅延利息、実費弁償としての旅費など。□220問402
・効果:「未払総額×80%」の立替払いを受けることができる(賃金の支払の確保等に関する法律7条、賃金の支払の確保等に関する法律施行令4条1項柱書)(※)。1円未満は切捨。
※年齢に応じた上限が設けられている(賃金の支払の確保等に関する法律施行令4条1項1~3号):30歳未満は110万円、45歳未満は220万円、45歳以上は370万円。
[申立代理人が採るべき行動]→《法人破産申立てにおける雇用関係の処理》
・客観的資料に基づいた立替払請求書の作成:「労働者名簿」「賃金台帳」「就業規則」「賃金規定・退職金規程」「タイムカード」「公租公課(源泉所得税、社会保険料、労働保険料)の納付記録」を確保した上で、「未払賃金の立替払請求書」等を作成する。□220問403
・申立てを急ぐ:給与の財団債権化の分水嶺は「最後の労働から3か月以内の開始決定」である。立替払制度の要件に関しては、事業廃止日に即日解雇をする場合、この時から6か月以内に破産申立てをする必要がある。この時点で受任していても破産費用が確保できない場合や、事業廃止の後に遅くから受任した場合は要注意。□実践マ269-70
・間に合わない場合は労基署への申請を促す:「退職から6か月以内の申立て」が困難な場合は、事実上の倒産要件に依るべく、該当従業員に「退職から6か月以内の労基所長への事実上の倒産認定申請」を促す。なお、このルートで行く場合、労基署長からの認定通知を受けるまでは破産申立てを控え、監督署調査への協力を優先することになろう(認定通知前に開式決定がされると、法律上の倒産が優先されてしまう)。□220問402-3、フォーラム86
・証明書の作成:申立側の計算を鵜呑みにせず、管財人自身にて計算を行う。□220問403
・疎明資料の提出
野村剛司編著『実践フォーラム 破産実務』[2017]
全国倒産処理弁護士ネットワーク編(木内道祥監修)『破産実務Q&A220問』[2019]

