〈多数当事者〉主債務者の倒産と保証債務の消滅時効

2022-02-12 11:52:00 | 倒産法・債権管理

2024-02-01追記。

【例題】債権者Gは、個人事業者Sに対する500万円の貸金債権αを有しており、Sの親族Hが連帯保証をしている。その後、Hは遠方に転居してSとの交流はなくなった。

(case1)Sが「夜逃げ」をして音信不通となり、αの返済が滞ってから相当期間が経過した。

(case2)Sが自己破産をした。この時点でαの返済が滞ってから相当期間が経過している。

 

[結論]

・債権者は「主債務の時効管理」に集中すればよい。主債務の管理が、自動的に「保証債務の時効管理」ともなる。

・「主債務が事実上の回収不能」となった場合、債権者は、保証人からの回収に注力しつつ、「保証債務より先に主債務の時効が完成してしまう」という事態を避けるための主債務管理にも注意する。

・主債務者が自己破産をした場合、債権者は、保証債務管理のために債権届出を検討すべきである。さらに同廃事件や免責確定後は、保証人を直接のターゲットとした働き掛けをする必要がある。

 

[保証債務の付従性]

・主債務が成立して、初めて保証債務も成立する。□中田(4)565

・主債務が成立すれば、保証債務も消滅する。□中田(4)565

・主債務より保証債務の内容が重くなることは無い(民法448条1項)。□中田(4)565

・債権者が変更すれば、保証債務も移転する(随伴性)。□中田(4)565

・主債務に生じた事由は、保証債務にも効力が及ぶ。□中田(4)565-6

・主債務者が有する抗弁は、保証人も主張することができる(民法457条2項3項)。□中田(4)565-6

 

[主債務の時効管理と保証債務への影響]

・主債務の消滅時効の進行が妨げられれば(完成猶予又は更新)、保証債務の時効進行も妨害される(民法457条1項)。つまり「主債務の時効が完成する前に、保証債務の時効が先に完成してしまう」という事態は起こらない。この規定の趣旨を、付従性から説明する見解と、政策的考慮から説明する見解がある。□中田(4)585-6、山本185-6

・主債務の消滅時効が完成した場合、「当事者」である保証人は、主債務の消滅時効を援用することができる(民法145条)。主債務が消滅すれば保証債務も消滅するので(付従性)、保証人は、債権者に対して「主債務が消滅した」と抗弁できる。□中田(4)583、山本183-4

・もっとも、民法457条1項は、「主債務者による時効完成後の承認・時効利益の放棄」には及ばない。保証人は、主債務者の行動に関わらず「主債務の時効完成」を主張できる。□中田(4)585、潮見P598

 

[主債務の所在不明と保証債務の消滅時効(1):単純保証(普通保証)の場合]

・主債務者が所在不明(連絡不能)となってしまえば、債権者は、主債務からの回収を断念して保証人のみに働き掛けるだろう。ここで「主債務の放置は保証債務の管理に影響しないか?」との疑問が生じるが、単純保証と連帯保証で扱いが異なる。

・単純保証債務の時効障害事由があっても、主債務の時効進行には影響しない。□中田(3)499=中田(4)588、手引134

 

[主債務の所在不明と保証債務の消滅時効(2):連帯保証の場合]

・連帯保証債務への働きかけが主債務に影響するか否かについては、債権法改正によって規律が変わっている。

[1]2020年3月31日以前に締結された連帯保証契約:連帯保証人への「請求」の効力は主債務者にも及ぶ(改正前民法458条→前434条)。なお、時効障害事由のうちで「請求」だけが別扱いされているため、「連帯保証人への差押え」「連帯保証人の承認」は、主債務の時効進行を止めない点に注意。□中田(4)506、潮見P625-6,548、手引134

→連帯保証人へ催告すれば、主債務の時効完成も6か月猶予される(民法150条)。※2020年3月31日以前の催告は旧法下の中断(前153条)。□コンメ149-50

→連帯保証人へ裁判上の請求をすれば、主債務の時効完成も猶予され(民法147条1項)、勝訴すれば主債務の時効も更新される(民法147条2項)。※2020年3月31日以前の訴訟提起ならば旧法下の中断(前147条1号、157条2項)。□コンメ128ー40

[2]2020年4月1日以降に締結された連帯保証契約:原則として、連帯保証人に生じた事由(「請求」も含む)の効力は主債務者に及ばない(民法458条→441条本文)。ただし、あらかじめ債権者と主債務者との間で「連帯保証人に生じた事由の効力が、主債務者にも及ぶ」との特約を設けておくことは可能(民法458条→441条ただし書)。□コンメ364-5、中田(4)597-8

・以上のとおり、主債務の所在不明事例では、債権者は連帯保証契約の締結時期を気にする必要がある。つまり、古い連帯保証契約であれば、主債務は無視して連帯保証人への訴訟提起をすれば時効管理として十分である。他方、新しい連帯保証契約であればまずは特約を設定する必要があり、仮に特約の手当がされていなければ、主債務の時効進行そのものを障害しなければならない(さもなくば「連帯保証債務の時効は進行しないが、放置していた主債務の時効が先に完成してしまい、連帯保証人に主債務の時効を援用される」という事態が生じうる)。□酒井526-8、手引134参照

 

[主債務者の破産と保証債務の消滅時効(1):申立て前後から開始決定まで]

・債務者が自己破産をする場合、債務者(代理人)から債権者へ発送される受任通知が「承認」(民法152条(前147条3号))と解される余地があるため、受任通知の表現には注意が必要である。同様に、債権者による債権調査への回答が「催告」(民法150条1項(前153条))と解される余地があるかもしれない(たぶん)。□手引86-8

・主債務者についての破産手続開始決定は、主債務や保証債務の消滅時効との関係では直接的な意味を持たない(たぶん)。

・他方で、破産手続開始決定によって破産債権の個別行使が禁止され(破産法100条1項)、破産者を当事者とした訴訟提起が禁止される(破産法80条:破産管財人を被告とする必要がある)。その帰結として、保証債務の時効進行を止めたい債権者としては、債権届出を行うか、保証人に直接働きかける必要があろう(たぶん)。□伊藤435-6

 

[主債務者の破産と消滅時効(2):債権調査]

・裁判所(or破産管財人)に対する破産債権の届出(破産法111条)は、破産債権の消滅時効の完成猶予事由(民法147条1項4号)や更新事由(民法147条2項(前152条))となる。この完成猶予の効果は破産手続終了まで継続し(民法147条1項)、保証人に対しても効力が及ぶ(民法457条1項)。したがって、債権調査留保型の事案であっても、破産債権者が、保証債務の管理のために債権届出をする意味はある。□伊藤652-3,751,663、酒井659-60、酒井続331

・破産債権が確定すると(破産法124条1項)、破産債権者全員に対して確定判決と同一の効力を有する(破産法124条3項)。

 

[補足:破産管財人と別除権者との交渉]※2024-02-01追記

・破産手続の係属中、破産管財人と別除権者が担保目的物の処理について交渉を行う際、破産管財人による行為が「被担保債権の債務承認」に該当して消滅時効の進行が妨げられることがある(最三決令和5年2月1日民集77巻2号183頁)。

 

[主債務者の破産と消滅時効(3):手続終了と免責]

・破産手続が終結すると、破産債権者表の記載は破産者に対して確定判決と同一の効力を有する(破産法221条1項前段)。これによって残存する破産債権の消滅時効期間は10年となり(民法169条1項(前174条の2第1項))、終結決定の公告の日から新たに10年の期間が進行する(民法147条2項)。□伊藤751-2、酒井668-70

・民法457条1項(の趣旨)により、破産債権である主債務の時効進行が妨害されたり、時効期間が「10年」に延長された場合、保証債務の時効進行もそれにしたがう。□潮見P602-3、伊藤751-2

・付従性の例外として、主債務が免責されても保証債務は免責されない(破産法253条2項)。そして、主債務の免責が確定すると(破産法253条)、もはや「権利行使可能時(→同時点から消滅時効が進行する)」(民法166条1項2項)を観念することができなくなるので、保証人が「免責確定後に主債務の消滅時効が完成した」と主張することは不能となる(最三判平成11年11月9日民集53巻8号1403頁)(※)。したがって、破産手続終結時と免責確定時との間に大したタイムラグがないのであれば、以後の債権者と保証人の攻防は「手続終結の公告時から保証債務自体の新たな消滅時効期間(10年)が経過したか?」に帰着する(たぶん)。□伊藤793-4,752、酒井672-3、手引135、中田(4)584

※主債務者である法人が破産手続終結によって法人格が消滅した場合も、同様に「主債務の消滅時効」が観念できなくなる(最二判平成15年3月14日民集57巻3号286頁)。□酒井672-3、手引135、中田(4)584

 

[主債務者の破産と消滅時効(4):破産債権未確定の場合=保証債務の時効期間の独自進行]

・以上は管財事件を念頭においているが、同時廃止事件や一定数の異時廃止事件では「破産債権の届出や確定」が行われないので、破産債権についての消滅時効の完成猶予・更新・期間延長の効果は生じない。したがって、保証債務の消滅時効は破産手続とは無関係に進行する。□伊藤752,794、酒井663-5

・この意味で、「債権調査が行われるか否か」「債権調査が行われないとして免責確定までに主債務の時効が完成したか」「債権調査が行われないとして現時点までに保証債務の時効が完成したか」は保証人にとって極めて重要であろう。

 

潮見佳男『プラクティス民法 債権総論〔第3版〕』[2007]

中田裕康『債権総論〔第3版〕』[2013]

酒井廣幸『〔民法改正対応版〕時効の管理』[2018]

山本敬三監修『民法4 債権総論』(有斐閣ストゥディア)[2018]

伊藤眞『破産法・民事再生法〔第4版〕』[2018]

東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会『クレジット・サラ金処理の手引〔6訂版〕』[2019]

松岡久和・松本恒雄・鹿野菜穂子・中井康之編『改正債権法コンメンタール』[2020]

酒井廣幸『〔民法改正対応版〕続 時効の管理』[2020]

中田裕康『債権総論〔第4版〕』[2020]

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