取立訴訟の実務

2023-02-02 18:11:29 | 倒産法・債権管理

【例題】Gは、Sに対する100万円の給付判決(確定)を有している。Gは、SがDに対して有する売掛金債権80万円を差し押さえた。GはDに取り立てたが、Dはこれに応じない。

 

[取立訴訟の性質]

・訴訟物は「執行債務者(S)の第三債務者(D)に対する給付請求権(=被差押債権そのもの)」であり、差押債権者(G)が執行債務者(S)に代わって被差押債権を行使する(法定訴訟担当説)。□条解1349、要マ(3)252

・なお、差押命令の記載上は「被差押債権の元本のみ」を差し押さえたように読めるが(たぶん)、差押えの効力(=取立てできる範囲)は「差押え後の附帯請求部分」にも及ぶ。□条解1352、要マ(3)251

・請求原因事実は、①被差押債権の発生、②差押命令の発令(民事執行法145条)、③第三債務者への差押命令の送達(民事執行法145条3項、5項)[=差押えの効力発生]、④執行債務者への差押命令の送達(民事執行法145条3項)+同日から1週間経過(民事執行法155条1項)[=取立権の発生]となる。基本的な書証は「被差押債権の発生を基礎付けるもの(←もっとも、債権者の入手は容易でないか)、債権差押命令正本、差押通知書」となろう。□条解1353、要マ(3)253-4

・法定訴訟担当説に立てば、取立権の発生原因事実(上記②~④)は訴訟要件に位置付けられる。債権者の立場から換言すれば、取立訴訟の係属中は、前提となる債権差押命令事件を取り下げることができない(取下げをもって原告適格が否定されてしまう=訴え却下となる)。□条解1350,1353、要マ(3)253

・民事訴訟一般の原則とおり、取立訴訟の管轄は、被告である第三債務者の普通裁判籍(民事訴訟法4条1項)、被差押債権に応じた特別裁判籍(民事訴訟法5条各号:義務履行地など)となる。□条解1351

 

[執行債務者の関与の有無]

・現行法は、「執行債務者への訴訟告知」を特に法定していない。債権者は、自身の判断で([例]被差押債権に関する詳細な立証)、執行債務者へ訴訟告知をするか否かを選択する。訴訟告知を受けた執行債務者が参加する場合の形式は「共同訴訟的補助参加」となる。□条解1351

・なお、第三債務者と執行債務者が共同して執行妨害をしている例では、債権者は、(取立権の行使に加えて)両名に対する損害賠償請求も定立することになろう。

 

[第三債務者の反論]

・取立訴訟の被告となる第三債務者(D)は、執行債務者(S)に対して主張する事項を、そのまま債権者(G)に対して主張することができる。反論の中心は被差押債権の成否や範囲に関するものとなろうか(たぶん)。□条解1353

・差押命令の効力発生時との関係では、「自分(第三債務者)が差押命令の送達を受ける前に弁済済み」との主張も抗弁となる。□条解1353

・以上に対し、請求債権(執行債権)の不存在や消滅は請求異議訴訟で争うべき事由(請求異議事由)だから、取立訴訟での抗弁とはならない(最一判昭和45年6月11日民集24巻6号509頁)。□条解1353

 

[取立訴訟の終結と事後処理]

・債権者は、いつでも取立訴訟を取り下げることができる。この場合も、債権差押命令事件が係属している限り差押債権者の地位に影響はない。ただし、第三債務者の資力悪化等によって債務者への損害賠償義務が発生する余地には注意(民事執行法158条)。□条解1354

・取立訴訟の原告である債権者と被告である第三債務者との間で和解をすることもできる。□条解1354-5

・取立訴訟の判決の効力(既判力)は、民事訴訟法115条1項2号がいう「他人=執行債務者」にも及ぶ。つまり、執行債務者は、自分の知らないうちに不利な判決(=被差押債権の不存在の認定など)を受けるリスクを負うことになるが、現行法はこの手当を欠く。□条解1359,1350、要マ(3)252

 

岡口基一『要件事実マニュアル第3巻〔第3版〕』[2010]

伊藤眞・園尾隆司編集代表『条解民事執行法』[2019]

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