労働審判手続の平均審理日数を教えて下さい。
労働審判 手続「申立て」からの平均審理日数は74日程度です。
申立書が会社に届いてから2か月程度といったところだと思います。
労働審判 手続の全体像を把握するのに便利な資料としては,裁判所ウェブサイトの労働審判手続に関するページ がお勧めです。
私は,依頼者に労働審判の全体像を説明する際,このページに掲載されている「~労働審判手続の流れ~」 をプリントアウトして使用することが多くあります。
東京大学社会研究所の意識調査によると,労働者側は,「とても満足している」と「少し満足している」を合わせて約60%が満足していると回答しているのに対し,使用者側は,「全く満足していない」と「余り満足していない」を合わせて半分以上が満足していないと回答しています。
労働審判は,労働者の方が,使用者よりも,満足度が高い傾向があるようです。
東京大学社会科学研究所の意識調査によると,労働者が労働審判 を利用した理由としては,
① 公正な解決
② 経済的利益
③ 社会的名誉や自尊心
④ 強制力のある解決
⑤ 自分の権利
等が多くなっています。
これに対し,使用者側が労働審判を利用した理由としては,
① 公正な解決
② 申し立てられたので仕方なかった
③ 事実関係をはっきりさせる
等が多くなっています。
この点も,労働審判 を民事調停と比較して考えると分かりやすいでしょう。
民事調停で調停不成立の場合には何らの判断もなされないまま調停手続が終了してしまいます。民事調停が不成立になった場合,自動的には訴訟に移行しませんので,訴訟で争う場合には別途訴訟提起が必要となります。何らの判断もなされていない状態で別途訴訟を提起する負担は重いこともあり,そのまま紛争が立ち消えになることも珍しくありません。
他方,労働審判手続で調停がまとまらなければ,たいていは調停案とほぼ同内容の労働審判が出され,労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば自動的に訴訟に移行することになりますので,必ず訴訟対応が必要となります。さらに何か月も訴訟を続ける価値がある事案でなければ,調停案や労働審判の内容に多少不満があっても,労働審判手続内で話をまとめてしまった方が合理的なケースが多いところです。
この点は,労働審判 を民事調停と比較して考えると分かりやすいでしょう。
民事調停を利用した場合,裁判官が調停期日の全ての時間に同席するとは限らず,ほとんどの時間は裁判官は調停の場に同席せず,調停が成立することになったとき等,わずかな時間しか調停の場に現れないということも珍しくありません。必ずしも労働問題の専門的な知識経験を有するとはいえない調停委員が,調停をまとめることばかりに熱心になってしまい,権利義務関係を十分に踏まえずに,言うことを聞きやすそうな当事者の説得にかかることもあります。当然のことですが,権利義務を踏まえた調停を行わないと,調停が不調に終わった場合に訴訟を提起した場合,調停委員から言われていたのとは異なる結論となる可能性が高くなってしまいます。
他方,労働審判手続では,裁判官(労働審判官)1名が,常時,期日に同席しており,労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名とともに,権利義務関係を踏まえた調停を行うため,調停内容は合理的なもの(社内で説明がつきやすいもの,労働者が納得しやすいもの)となりやすくなります。また,調停をまとめず,労働審判に対し異議が出して訴訟で争っても,労働審判は裁判官(労働審判官)1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名により権利義務関係を踏まえて出されたものですから,労働審判の内容よりも自分に大幅に有利に解決する見込みが大きい事案はそれほど多くはありません。
労働者の大部分は,解雇 されたことなどを不満に思ったとしても,自分を解雇するような会社に本気で戻りたいとは思わないことが多く,従来は,転職活動や転職後の仕事の支障になりかねないことなどを懸念して,余程の事情がなければ,時間のかかる訴訟手続を利用してまで解雇の効力を争うようなことは多くありませんでした。
しかし,労働審判 手続は,原則として3回以内の期日で審理を終結させることが予定されており(労働審判法15条2項),申立てから3か月もかからないうちにかなりの割合の事件が調停成立で終了しますので,退職後,次の就職先を見つけるまでのわずかな期間を利用して労働審判を申し立て,それなりの金額の解決金を獲得してから転職することも十分に可能となっています(ただし,調停が成立せず,労働審判に対して異議が出された場合は,自動的に訴訟に移行することに注意。)。
使用者側にも,労使紛争を早期に解決できるというメリットがありますが,従来であれば表面化しなかった紛争が表面化する可能性が高くなるという側面を有していますので,労使紛争の予防を意識した労務管理がますます重要となっています。
労働審判 手続の特徴はどれも重要なものですが,私が特に注目しているのは,
① 迅速な解決が予定されていること
② 裁判官(労働審判官)1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名により権利義務関係を踏まえた調停が試みられること
③ 調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,自動的に訴訟に移行すること
の3点です。
労働審判 法は,
① 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し,
② 裁判所において,裁判官(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(労使双方から1名ずつ選任される労働審判員合計2名)で組織する委員会が,当事者の申立てにより事件を審理し,
③ 調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,
④ その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利義務関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判)を行う手続(労働審判手続)を設けることにより,
⑤ 紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図ること を目的とするものです(労働審判法1条)。
平成18年4月から新たな制度として始まった労働審判 は,東京地裁だけでも年1000件を超える申立てがなされており(日本全国では年3000件超),個別労使紛争を適正迅速に解決する手続として実務に定着した感があります。
労働審判手続は,使用者にとっても短期間で個別労使紛争を解決することができるメリットがある一方,従来であれば労使紛争が表面化しなかった事案についても労使紛争が表面化しやすくなっており,企業の負担が重くなっている面もあります。また,労働審判手続は訴訟手続とは比べものにならないくらい手続進行ペースが早く,企業側の答弁書準備の負担が重いなど,労働審判手続特有の問題に対する的確な対応も必要となります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京) は,労働審判事件を数多く取り扱ってきました。代表弁護士藤田進太郎は,日本弁護士連合会の労働法制委員会の労働審判PTのメンバーであり,日本全国の労働問題を多数取り扱っている弁護士とともに,より良い労働審判制度の構築のため活動しています。会社経営者を悩ます労働審判の対応は,弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)にご相談下さい。