本件は,原告が,平成21年5月15日に被告富士ゼロックス株式会社に対してした退職の意思表示は,錯誤があったから無効である,又は強迫による意思表示であるから取り消すとして,被告に対し,
① 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
② 本件退職意思表示の日の翌日以降
ア 毎月25日限り,39万7462円の割合による賃金
イ 毎年7月末日限り106万4800円の夏季賞与
ウ 毎年12月末日限り107万6700円の冬季賞与
上記ア~ウに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
の各支払を求めた事案です。
本判決は,原告の退職意思表示は,錯誤により無効であるとして,
① 原告の地位確認を認めるとともに,
② 賃金請求についても,概ね認容しています(一部却下等)。
本件でまず印象に残ったのは,富士ゼロックスが,原告の退職を急ぎすぎたのではないかという点です。
原告に問題があったことは分かるし,何らかの処分が必要だったということも分かるのですが,当時,どうしてここまで原告を急いで退職させなければならなかったのか,判決理由からは,今ひとつ分かりません。
そもそも,原告の勤怠承認者等のチェック,注意,指導が十分になされていれば,このような事態にはならなかったように思えます。
原告の勤怠承認者等が,原告の勤怠に関するチェック,注意,指導を怠ったことに関し,何らかの処分がなされているのでしょうか?
いずれにせよ,上司が部下の勤怠管理をしっかり行い,問題があれば注意指導していくことの重要性を,改めて認識させられました。
次に印象に残ったのが,富士ゼロックス労働組合の対応です。
本判決からは,組合がまともな対応をしているようには読み取れません。
私は,強すぎる組合は企業活動を阻害すると思っていますが,だからといって,組合として当たり前のことをしなくていいとは思っていません。
組合がもう少ししっかりしていれば,富士ゼロックスも,原告も,このような訴訟をせずに済んだのではないでしょうか。
どうしてこのようなことになってしまったのか,判決からは読み取れませんが,残念なことです。
弁護士 藤田 進太郎