l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

誕生!中国文明

2010-08-03 | アート鑑賞
東京国立博物館 平成館 2010年7月6日(火)-9月5日(日)

本展の公式サイトはこちら



「中国文明」と言われると、“数千年の歴史”という言葉がのしかかり、不勉強な私など身構えてしまうのだが、今回はあっけらかんとした展覧会名と、チラシの可愛いヒヨコちゃんに誘われるまま、とりあえず会場に行ってみた。

展示室では、恐らく何度も中国に行かれたことがありそうな年配のご婦人方が、解説パネルを見上げながら「殷と商が同じなんてビックリねぇ」などと言い合い、作品に解説を加えたりしていたが、私のようなビギナーには次から次へと立ち現れる多様な作品たちの造形が単純に興味深く、肩肘張らずに楽しめる展覧会でありました。

感想に入る前に、サイトを参照しながら少しばかり本展のご説明を。今回お目にかかれるのは、中国の河南省で出土した青銅器、金銀器、漆器、陶磁器、壁画、彫刻、文字資料など約150点の作品群。その河南省とは、黄河中流域に位置し、中国最初の王朝と言われる夏(か)の中心地であったとされ、以降、商(殷)、東周、後漢、魏(三国時代)、西晋、北魏、北宋などの王朝が都を置いた地域。夏が始まった紀元前2000年頃から北宋が滅亡した12世紀頃まで、中国の政治、経済、文化の中心地であった。

ということで、紀元前18世紀頃から紀元12世紀頃までの作品が並ぶ、いわば中国文明のエッセンスを垣間見られる展覧会かもしれません。

では、個人的にインパクトのあった作品を少し挙げていきます:

第1部 王朝の誕生

『動物紋飾板(どうぶつもんかざりいた)』  夏時代・前17~前16世紀



チラシで見て以来、一体どんな作品なのだろうと思っていたのだが、いざ対面したら全長16.5cmの小さなものだった。とはいえ、モザイクのように敷き詰められたトルコ石が織りなす面は、何となくクレーの色面構築を思い出させたりもし(こんなに濃い緑青色の作品はないかもしれないけど)、色が好みのせいもあってその美しさにしばし見入った。被葬者の胸の位置で発見されたそうで、顔の横に両手を揃えて伏すキツネに似たこの動物は、つり上がった目で邪気を払いながら主人を護っていたのかもしれない。

『白陶盉(はくとうか)』  夏時代・前18~前17世



独特の形状をした3本足は空洞で、立脚するためのみならず、この部分にも液体が入ることになる。安定感のあるこの器の何かが私をとても惹きつけるのだが、じっと見詰めてもそれが何なのかよくわからず。

『兕鐄(じこう)』  西周時代・前11~前10世紀



肉を煮るための堂々たる『方鼎(ほうてい)』、罪人を処刑するための刑具である『鈌(えつ)』など、大小様々な青銅器が並ぶ一角にちょこんとあった、液体を注ぐための器。古代中国の青銅器には造形と装飾に優れたものが多いとのことだが、建造物を思わせるような構築美を放つ作品が多い中、蝸牛のようなのんびり感が漂うこの作品は可愛い部類。

尚、もう少し進むと、肉を盛る大ぶりな鼎(てい)が9口、穀物を盛る簋(き)が8合、同じく食べ物を盛る鬲(れき)が9口という大所帯セットが、一つの大きな展示ケースにズラリと並んでいて壮観だった。

『玉壁(ぎょくへき)』  西周時代・前11~前10世紀



磨くと美しい色を発する石を「玉(ぎょく)」と呼ぶ。本展ではその玉を素材とした様々な作品が並んでいるが、壁(へき)は中心に小さい穴のあいた平たい円盤のことを言うそうだ。石は硬いから、現代の研磨機のない時代に人の手のみでこのようにまん丸く造形したり、穴をあけたりするのはとても大変だったことでしょう。しかもこの作品は、中央の穴の周縁部だけ数ミリ高く残してあるという手の込みよう。この玉壁から「完璧」という言葉が生まれたそうです。

『盉(か)』 春秋時代(黄国)・前8~前7世紀



青銅製の容器。先端がくるくると丸まった把手のせいか(注ぎ口との位置関係はちょっと変だけど)、丸っこい胴体が子ブタの後ろ姿みたいで単純に可愛らしく思えた。上部の面には「獣面紋」と言われる象形文字のようなものが刻まれている。そういえば、盉とは香草の煮汁で酒に香りをつけるための容器だそうで、他にもそんな説明の器が出てくる。どんな味のお酒だったのか、ちょっと気になるところ。

『金縷玉衣(きんるぎょくい)』  前漢時代・前1世紀



玉が死体を腐敗から守ると信じられていたため、皇族や王侯貴族は亡くなるとこのような玉を縫い合わせた衣で全身を覆ったそうだ。全長180cmもあるこの作例では2008枚もの玉札が使われており、寸分の隙間なく縫い合わされ、頭頂部も丁寧に円形に覆っている。付随展示されていた耳栓、鼻栓、口に含む蝉型含玉(がんぎょく)、手に握る玉豚(ぎょくとん)も全て玉製。

第二部 技の誕生

高さ180cm以上ある『七層楼閣』(後漢時代・2世紀)に迎えられる第二部は、「暮らし」「飲食の器」「アクセサリー」という三つのテーマの下、陶製、金製、銀製、玉製、ガラス製など様々な素材の作品が並ぶ。

『金製アクセサリー』 (左)と『金製耳飾り』 (右)、共に北宋時代・11~12世紀



何とも精緻な細工。金製アクセサリーは下部の一番大きな石が取れてしまっているが、どんな宝石が入っていたのだろうと想像するのも楽しい(ルビーなどいかがでしょう?)。耳飾りの方は全ての石がなくなってしまっているが、入っていたらさぞやゴージャスだったでしょうね。

第三部 美の誕生

『神獣』  春秋時代・前6~前5世紀



舌を出す怪獣の頭上には6匹の龍、背中には小さめの龍のような怪獣が立ちあがり、更にその口にも龍がくわえられている。何となく中国雑技団の力技的バランス感覚を思わせた。

『神獣多枝灯(しんじゅうたしとう)』  後漢時代・1世紀



こちらも入り組んだ造形の作品。3層構造の燭台で、人やら動物やらがにぎやかに装飾している(一番下の台座には28体もの動物と人が時計回りに貼りつけられているそうだ)。動物の角か木の枝のように飛び出す龍たちの背には、帝天の使いであるという羽の生えた「羽人(うじん)」たち。てっぺんが鶏というのがちょっとメルヘンチックでもあり、いわば後漢風シャンデリアとでも言いましょうか。

『卜骨(ぼっこつ)』  商時代・前13~前11世紀

画像は省くが、動物の骨に刻まれた甲骨文字。中国で文字が始まったのは前13世紀頃で、当然紙はまだなかったため、亀の甲羅やこの作品のように動物の骨に刻まれた。この甲骨文字が現在知られている中国最古の本格的な文字とのこと。このコーナーでは、他に青銅、石、竹の上などに刻まれた漢字の先祖たちが見られる。その中の1点、黒い石に端正に漢字の列が刻まれた『王尚恭墓誌(おうしょうきょうぼし)』(北宋時代・11世紀)は見惚れるほど美しい。全ての文字を彫り終えるまでに、一体どれほどの時間がかかったのでしょう?

『画像磚(がぞうせん)』  南北朝時代・5~6世紀



磚(せん)とはレンガのことで、これを積み上げて造った墓室を「磚室墓」と言うらしい。その磚に紋様を施したのがこの作品。西洋の礼拝堂の壁面を装飾するフレスコ画に近いのかな?などと思いながら眺めた。本展では、その作例として6点が並ぶが、画像に取り込んだのはそのうちの『出行図(しゅっこうず)』と題された2点。上の作品では男性4人が弓矢や盾を持って行進し、下の作品では女性たちが香炉や傘を持って歩いている。とりもなおさず色彩が美しいことと、衣服のモダンさが印象的だった。

本展は、東京で9月5日(日)まで開催した後、以下の予定で九州と奈良を巡回します:

九州国立博物館 2010年10月5日(火)~11月28日(日)
奈良国立博物館 2011年4月5日(火)~5月29日(日)


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2 コメント

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Unknown (一村雨)
2010-08-07 07:51:08
金縷玉衣をいくつも並べて、あの鐘のように暗い照明の中にぼぉっと浮き上がるように展示したらものすごい迫力だろうなぁと感じました。
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Unknown (YC )
2010-09-07 22:33:27
☆一村雨さん

金縷玉衣、私は初めて観たので感動しましたが、
あれが何体もあって、しかも一村雨さんがおっしゃる
ような展示だったら、正に生命の輪廻を感じさせる
壮大な空間になるでしょうね。
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