l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

クリーブランド美術館展 名画でたどる日本の美

2014-02-21 | アート鑑賞
東京国立博物館 2014年1月15日(水)-2014年2月23日(日)



展覧会の公式サイトはこちら

クリーブランド美術館は、設立100年を迎える全米でも有数の総合美術館で、”なかでも体系的に収集した日本美術の作品は、全米屈指のコレクション”だそうです。

海外の美術館に所蔵されている日本美術作品のコレクションとあっては、一度機を逸したら二度と日本でお目にかかれない確率も大きいでしょうし、そのような展覧会では珍しい作品に出会えることもしばしば。本展にはまた、東博との交換展という背景もあるようです。

今回は出展数が約50点とさほど多くはないものの、仏画、中世絵巻、屏風絵、水墨画と多岐に渡るジャンルの中に目を惹く作品も多々あり、やはり行ってよかったと思う展覧会でした。

章の構成は以下の通りです:

第一章 神・仏・人
第二章 花鳥風月
第三章 山水
終章 物語世界


≪福富草子絵巻≫ (室町時代・15世紀)

 部分

主題は、「放屁の芸」でひと儲けした高向秀武(たかむこのひでたけ)に弟子入りするも、騙されて下剤となる朝顔の種を飲まされ、その結果、芸を披露しに向かった中将の家で大失態を演じてボコボコにされてしまった福富の話。過去に別バージョンの絵巻を観たことがありますが、今回は福富のおかみさんの猛烈キャラがパネルでフィーチャーされていて思わず笑ってしまいました。例えば、目論見が失敗し、中将の家から血だらけで戻ってきた福富を、妻は怒ってさらに打ちのめします。赤ん坊を背負いながらも着物の裾を端折って福富の背に乗っかり、鬼の形相で夫を鞭打つ妻。ただでさえ弱っている福富には抵抗する気力もなく(もっともこの人は始めから奥さんに頭が上がらないのでしょうね)、打たれるがままです。

でも、彼女は福富のために下痢止めの薬をもらいに行ったり、夫を騙した秀武を絶対呪い殺してやると言わんばかりに必死に呪いの儀式を行ったり、道で出くわした秀武に噛みついたり、と彼女なりの愛情表現(?)も示します。

今回、もう一点出展されていた≪融通念仏縁起絵巻≫ (鎌倉時代・14世紀)も素晴らしかったし、中世絵巻にみられる日本人の線描表現にはいつも引き込まれます。詞書が読めればもっと楽しめるのでしょうけど。

≪朝陽補綴図(ちょうようほてつず≫  (南北朝時代・14世紀)



「朝陽補綴」とは、“禅僧が朝日のもとで破れた袈裟を縫う”という、禅宗で好まれたポピュラーな主題とのことですが、私は初めて観ました。サッカー好きの私としては、イングランドのルーニーを思わせる禅僧の顔つきにどうにも目がいってしまいますが、画面全体を見渡すと緩急の効いた筆の運びの見事さに気づきます。ザザッと一気に濃い墨で表された袈裟に対し、そこから伸びる糸や針を持つ禅僧の手は繊細です。

≪大空武左衛門像(おおぞらぶざえもんぞう)≫ 渡辺崋山 (1827)



大空武左衛門は実在した熊本藩のお抱え力士で、身長が227cm(!)もあったそうです。西洋画の技法を学び、写実描写を追求した渡辺崋山が、カメラ・オブスキュラを使って彼をほぼ等身大に描いたのがこの作品。牛を跨げるほど足が長く、「牛跨ぎ」とも呼ばれたそうですが、仰ぎ見るような背の高さや手や足の大きさといい、文字通りのけぞるような肖像画でした。

≪南瓜図(なんかず)≫ 伝没倫紹等(もつりんじょうとう)賛  (室町時代・15世紀)

 部分

蟻を擬人化したような生き物が大きな南瓜を引っ張る図は、一瞬自分の体より大きい葉や餌を運ぶ蟻の隊列を思わせましたが、よく観ると笛を吹いたり太鼓を叩いている人もいます。南瓜の上の人も扇子を煽りながら囃したてているし、ひょっとしてこれはお祭りの情景、南瓜はさしずめお祭りのお神輿か山車といったところでしょうか?悲しいかな、賛が理解できないので本当のところはわかりません。この蟻のような生き物はしばしば絵画に現れるモティーフだそうですが、私には珍しいものでした。

≪松に椿・竹に朝顔図屏風≫ 伝海北友松 (江戸時代・17世紀)

 右隻・部分

水墨で描かれた松の幹が中途で霞みの中に没しています。足のない幽霊ではありませんが、松の物質的な実在性よりも、樹木の霊(スピリット)が立ち現れたような感じがしました。

≪琴棋書画(きんきしょが)図屏風≫ (室町時代・16世紀)

 左隻・部分

中国の教養人が嗜んだ四芸を主題にした作品は今まで幾度となく観てきたので、私にも馴染みの主題となりました。この作品では、碁(棋)と画の二芸が取り上げられていますが、画を嗜む文人の、自作の出来栄えにまんざらでもなさそうな「ふむ」といった表情が印象的。

ちなみに右隻では、碁を打つ文人が眉間にしわを寄せ、口をへの字に結んで苦戦しているようです。

≪燕子花図屏風≫ 渡辺始興(しこう) (江戸時代・18世紀)

 左隻・部分

この図柄はいやでも尾形光琳の代表作を想起させますが、本作品では燕子花の下半分以上が霞みの中に消え、花びらも光琳よりはポッチャリしている感じです。このところ世界各地で起こっている洪水のニュースが多いせいか、不謹慎ながらこの燕子花も水没しているように見えてしまいました。

本展ではその他、期せずして馬遠米友仁などの中国山水画の貴重な作品や(クリーブランド美術館の館長さんが、日本美術を単独ではなく東洋美術の流れの中で捉える視点をもとにコレクションされていたことがベースにあるようです)、アンリ・ルソーのジャングル画などを観られたことも収穫でした。