l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

マンチェスター大学 ウィットワース美術館所蔵 巨匠たちの英国水彩画展

2012-12-13 | アート鑑賞
Bunkamura ザ・ミュージアム  2012年10月20日(土)-2012年12月9日(日)
*会期終了 (12月18日より新潟県立万代島美術館へ巡回)



展覧会の公式特集ページはこちら

前売り券を買っていたにもかかわらず行きそびれ、終了間際に飛び込み鑑賞してきました。一応記録に残しておきたいと思います。

本展には、英国の画家による水彩画・素描作品を4500点も所蔵しているというマンチェスター大学付属のウィットワース美術館のコレクションから、150点あまりの作品が並びました。

17世紀にオランダからもたらされた水彩画は、18世紀の英国で広く普及。習作などの補佐的な役割ではなく、一つの芸術分野として確立したのは英国においてのことだそうです。

英国を代表する画家約70人の作品によって、18世紀から19世紀に全盛期を迎えた英国水彩画の流れを追うという趣旨ですが、そもそも展示が難しい水彩画をこのようなまとまった形で観られるのはとても貴重。ウィットワース美術館が2012年~2014年にかけて大規模な拡張工事を行うために実現したようです。

構成は以下の通り章立てされていました:

第1章 ピクチャレスクな英国
第2章 旅行:イタリアへのグランド・ツアー
第3章 旅行:グランド・ツアーを超えて、そして東方へ
第4章 ターナー
第5章 幻想
第6章 ラファエル前派の画家とラファエル前派主義
第7章 ヴィクトリア朝時代の水彩画
第8章 自然


では、いくつか心に残った作品を挙げていきたいと思います:

≪南西の方角から望むコンウェイ城≫ ポール・サンドビー (1802年)



北ウェールズにあるコンウェイ城を遠方に望むパノラマ風景。この作品では中景に霞んでいますが、結構立派なお城(というより中世の砦)です。私もはるか昔に一度行ったことがあり、地元出身の友人の運転する車で3日間走りまわった北ウェールズの、起伏に富み、ドラマティックに展開する景色を懐かしく思い出しました。

この作品にはグワッシュ(不透明水彩絵具)が使われているので、色の濃淡にめりはりのある画面になっています。

≪ヴェネツィアの運河のカプリッチョ≫ サミュエル・プラウト



カプリッチョ(架空の景観図)とは言いながら、いかにもヴェネツィアらしい光景です。確かに人物たちの配置が劇の舞台のようでもありますが、左側の建物のファサードに、運河をはさんで対面する建物の影が差す様子や、少し霞んでそびえ立つ塔など、繊細に表現されています。

英国の貴族の子弟たちが、教育の仕上げとして行ったヨーロッパ大陸へのグランド・ツアー。ローマ、ナポリを訪れ、スイスを経由して帰国するのが一般的な旅程で、ヴェネツィアも外せない目的地の一つだったそうです。この作品は違いますが、そのツアーに画家を隋行させて、訪れる先々で風景を描かせたなんて、何とも贅沢な大名ツアーですね。

≪旧ウェルシュ橋、シュロプシャー州シュルーズベリー≫ J.M.W.ターナー(1794年)



英国では、18世紀に国内の地誌的な風景画の需要も高まり、ターナーも『銅版画マガジン』から依頼を受けてこの作品を描きました。雑誌に掲載後、版画として出版されたそうです。

ちょうど橋が建て直されているところを実況するかのように、画面に記録されています。家屋のような建造物が載っている手前が橋の古い部分なのですが、後方から新しくすっきりした橋が取って替わろうとしています。

≪アップナー城、ケント≫ J.M.W.ターナー (1831‐32年)



うろこ雲を照射しながら光り輝く夕日と、その光がまぶしく反射する水面。遠くに大型の帆船が逆光の中に霞みます。解説の通り、まるでクロード・ロランのような風景画ですが、色彩感覚はまさにターナー。

≪夢の中でポンペイウスの前に姿を現すユリア≫ ヨハン・ハインリヒ(ヘンリー)・フュースリ

 

フュースリの水彩画とは珍しいものを拝見しました。ブレイクも何点か並んでいましたが、個人的には少年マンガ風のブレイクより、少女マンガ風のフュースリの柔らかい画風の方が好きです。

≪マンフレッドとアルプスの魔女≫ ジョン・マーティン (1837年)



ジョン・マーティンの水彩画を観られるとは思ってもみませんでした。テイト・ブリテンの常設にかけられている2枚の大作を初めて観たときの、あの飲み込まれそうなインパクトは、その後何度絵の前に立っても薄まりません。

水彩の小画面ながら、この作品でもその壮大な世界は健在です。解説には「大げさな背景」とありますが、私にはこのうねりまくる画面が彼の持ち味に思えます。

≪窓辺の淑女≫ ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ (1870年)



正直なところ、ジェイン・モリスをモデルにした作品はちょっと苦手なのですが(あのトタンのように波打つ髪と、真っ赤な唇がどうにも)、この作品の実在感は凄いです。振り返ると、そこにデンと彼女がいる感じがしました。

≪ビーチー岬から望むイーストボーン、サセックス≫ ジョージ・アーサー・フリップ (1863年)



とてもイングランドらしい景観を切り取った1枚。石灰質の真っ白な断崖、青い海、明るい緑に覆われた崖。大陸から船で渡って来て、ドーヴァーの白亜の絶壁が見えてくると、イングランドに来たという感慨が湧くと聞きます。私はビーチー岬に行ったことはありませんが、イギリスの海はとても好きで、様々な海岸へ友人たちとよく出かけました。

≪プロヴィデンス号―テムズ川に浮かぶ艀船≫ マイルズ・バーケット・フォスター



こちらもとてもイングランド的な光景です。初めて知る画家ですが、別の出品作≪夏季―ふたりの少女、幼子、人形≫にさらに顕著な通り、点描のような筆触が特徴的です。この人の作品は当時から引っ張りだこの人気で、今も競売で高値を生んでいるそうです。

≪ブナの木、ヘレフォードシャー州フォクスリー、彼方にヤゾー教会を望む≫ トマス・ゲインズバラ (1760年)



解説に「ゲインズバラは生涯を通じて、骨が折れて退屈な肖像画の制作に嫌気がさすと、風景を描いて英気を養った」とあります。肖像画の仕事をきっちりこなしているように見えながら、やはり時には外の空気が吸いたくなるのでしょうね。本展にも何点か出品されているジョン・エヴァレット・ミレイも、確か同じようなことを言ってましたっけ。

以上、やや地味目な選択となりましたが、ターナーの作品のみ20点以上集めた第4章や、ミレイ、ハント、バーン=ジョーンズ、マドックス・ブラウン、ソロモンなどの色鮮やかなヴィクトリアンの画家たちの作品、コンスタブル、ウィルソン、ガーティンなどの18世紀の古い作品なども並び、かなり見応えがありました。

また、水彩画は確かにお手軽な画材ではありますが、描き直しはききませんし、描く人の画力やセンスが本当に光る技法だとしみじみ思いました。

2012年4月から巡回が続く本展は、東京の後はとうとう最後の開催地、新潟県へ巡回します:

新潟県立万代島美術館

2012年12月18日(火)-2013年3月10日(日)


雪の多い季節ですが、行かれる方はどうぞお気をつけて足をお運びください。








最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。