l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

没後150年 歌川国芳展

2012-01-08 | アート鑑賞
森アーツセンターギャラリー 2011年12月17日(土)-2012年2月12日(日)



展示は以下の通り前期と後期に分かれ、ほとんどの作品が入れ替わるとのことです:

前期:2011年12月17日(土)-2012年1月17日(火)
後期:2012年1月19日(木)-2012年2月12日(日)

*会期中、2012年1月18日(水)のみ作品展示替えのため休館。

公式サイトはこちら

松の内を過ぎてしまいましたが、新年のご挨拶を申し上げます。

ほぼ1年ぶりの更新となってしまいましたが、昨年は私にとって返す返すも非常に難義な1年でありました。今年は少しでも安泰に過ごせ、芸術にうつつを抜かせる時間が多く持てるよう祈るばかりです。

また、拙ブログをのぞきに来て下さった皆様にとっても、より佳き1年となりますように。

年が明けたからと言って時空に目に見える境界線があるわけでもありませんが、区切りは区切り、全ては心の持ちよう。ということで、本展にも張り切って元旦に足を運んできました。

嗚呼、しかし、JRから日比谷線に乗り換えようと日比谷駅の階段を降りていくと、「地震発生のため運転見合わせ」のアナウンス。今年も元旦からこれか、とちょっと意気消沈しかけましたが、ほどなく運転が再開してホッ。

そして無事目的地に到着するも、六本木ヒルズは想像以上の混雑ぶりで、チケット購入にも長蛇の列。展望台目的のお客さんも多いのではと思いきや、国芳展の会場もなかなかの混みようでありました。

歌川国芳(うたがわくによし 1797-1861年)は幕末の江戸に活躍した、日本橋生まれの浮世絵師。2011年は国芳の没後150年にあたり、それを記念して開催されたという本展には前後期合わせて約420点が並ぶ、過去最大規模の国芳展だそうです。

展覧会の構成は以下の通り:

第1章 武者絵―みなぎる力と躍動感
第2章 説話―物語とイメージ
第3章 役者絵―人気役者のさまざまな姿
第4章 美人画―江戸の粋と団扇絵の美
第5章 子ども絵―遊びと学び
第6章 風景画―近代的なアングル
第7章 摺物と動物画―精緻な彫と摺
第8章 戯画―溢れるウィットとユーモア
第9章 風俗・娯楽・情報
第10章 肉筆画・版木・版本ほか


では、前期に出展されていた作品の中から数点挙げてみたいと思います。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個 九紋龍史進・跳潤虎陳達』



第1章は極彩色の濃密な色世界が氾濫し、圧倒されます。本作は国芳の出世作となった、水滸伝に登場する108人の登場人物を一人ずつ(一個はひとりと読む)描いた武者絵シリーズのうちの一点。もはや着物の柄なのか皮膚なのか判別できないほどの刺青は江戸の男たちをしびれさせたらしく、当時の刺青の流行に拍車をかけたそうです。筋肉のもりもり感もすごい。そういえばなでしこの澤選手が脛の筋肉を披露していましたが、ふくらはぎだけではなく、脛もあんなに盛り上がるものなんだと非常に驚きました。

『相馬の古内裏』



第1章には、色彩もさることながらダイナミックな画面構成に息を飲む作品が目白押し。本作は山東京伝の読本に取材したという作品ですが、読本では数百の骸骨が戦闘を繰り広げる場面を国芳は巨大な骸骨一体に置き換えているそうです。この大胆な発想により、観る者に一度観たら忘れられない大きなインパクトを与えていることは明らか。骸骨自体も美しいと思ったら、国芳は西洋の書物で見た骨格図を基にこの骸骨を描いているとのこと。

『鑑面シリーズ 猫と遊ぶ娘』



鏡に映った美女を描くシリーズのうちの一点。国芳の描く女性は明るく健康的で、笑顔が見られるものが多いと解説にありましたが、なるほどこの作品の女性も猫と戯れながら自然な笑みを浮かべています。浮世絵に描かれている女性の顔にはあまり表情がないというイメージがあって、今までさほど顔自体に見入ったことがないのですが、今回国芳の描く女性たちの目元・口元が表情豊かであることに気づかされました。また、この第4章に登場する女性たちがそれぞれ身につけている着物の柄も繊細で素敵。子どもたちを描いた作品もそうですが、国芳の女性や子供たちに注ぐ視線には、どこか父性愛を感じさせられます。

『近江の国の勇夫於兼』



西洋版画を思わせる作品でしょう?遠景の山脈描写はニューホフという人の本の銅版画挿絵から取り込んでいるそうです。先の骸骨もそうですが、西洋のものも積極的に取り入れる国芳の柔軟性と新進性がわかります。

『流行達磨遊び』 手が出る足が出る



国芳の美人画を見ながら、やはり今年はこうやって笑顔が増えるといいなぁなんて思っていたのですが、この作品には思わず笑ってしまいました。職人が達磨に目を入れると、魂が宿って手や足が出る。子どもは動き出した達磨を押さえ込んでいるんですね。

『流行猫の曲手まり』



すごくリフティングが上手な猫たち。浦和レッズ、今季は頼むぞ。

『絵鏡台合かゞ身』 猫/しゝ・みゝづく・はんにやあめん



猫たちが無理な体勢で寄り添い、影絵を作っています。左端の「はんにやあめん」(般若面。これも国芳のダジャレ)を形作る、下顎担当の猫ちゃんの赤い首輪と背中が妙に私の心をくすぐります。

『絵鏡台合かゞ身』 三福神/へび・かへる・まいまいつぶり



影絵部分は是非会場で。つりそうな左足を小さな左手で支えて持ち上げ、引きつった笑いを見せる太鼓腹の神様、がんばれ。

『憂国芳桐対模様』



図録では見開きに渡ってしまっているので全図を取り込めませんが、3枚綴りの一番左の画面で、ド派手な上着を着て踏ん張っているのが国芳。自作品に登場する自画像に顔が描かれたものは一点もないそうで、この絵師の美学を思わせます。

図録の解説によると、国芳は師匠の奥様に漬物を無心し、「姉さんこれ一本借りて行きやすよ」と漬物桶から大根を一本掴みだし、香りを振りまきながら鼻歌か何かで帰って行くような人だったようです。きっと大らかで憎めない性格の人だったのでしょうね。

最後の方には版木も数点展示されていますが、その彫りの複雑さには驚かされます。浮世絵の木版画はいくら大量に刷られたと言っても、絵師、彫り師、刷り師らによる手作業で全て行われ、手間がかかっているのだということに改めて気づかされました。

前期だけでも200点以上の作品が並ぶ中、ほんの少ししかお伝えできませんが、是非この機会に国芳ワールドをご堪能されることをお勧めします。