三井記念館美術館 2010年7月7日(水)-9月20日(月・祝)
2010年は平城遷都1300年の節目に当たるということで、ここ東京でもそれに関連して本展が開催。チラシから概要を抜粋すると、「奈良の古寺20寺院に伝わる飛鳥時代から室町時代の仏像46点、仏教工芸品19点(うち国宝3点、重要文化財45点)が一堂に展示される仏教美術の大展覧会」だそうです。
展覧会名にある會津八一(1881-1956)は、私も不勉強で今回初めて知ったのだが、解説によると、明治時代の廃仏毀釈の嵐の中、荒廃の危機にさらされた奈良の古寺や仏像の価値を見出し、再評価した人であるらしい。元々英文学を修めたが、のちに奈良美術に魅せられ、以降その魅力を歌人、書家、美術史家としての活動を通じ、世に伝播し続けた。
ちなみにこの展覧会は、新潟、東京、奈良と3ヶ所で開催される巡回展。場所ごとに内容も工夫され、もう終わってしまったが、會津八一の故郷である新潟では彼にちなんだ出展品がとても充実していた模様。
仏像と仏教工芸品に重きが置かれたという東京展の構成は、以下の通り:
展示室1 金銅仏
展示室2 金銅仏
展示室3 會津八一関係資料
展示室4 奈良の古寺と仏像Ⅰ(東大寺・西大寺・唐招提寺・薬師寺)
展示室5 仏教工芸品
展示室6 會津八一関係資料
展示室7 奈良の古寺と仏像Ⅱ(長谷寺・室生寺・當麻寺・橘寺・法隆寺・大安寺・秋篠寺・元興寺)
20の寺院も記しておきます:
秋篠寺・岡寺・元興寺・興福寺・西大寺・正暦寺・新薬師寺・大安寺・當麻寺・當麻寺奥院・橘寺・唐招提寺・東大寺・能満院・長谷寺・般若寺・法隆寺・法起寺・室生寺・薬師寺
では、個人的に印象に残った展示品を挙げていきます:
展示室1 金銅仏
#102 『菩薩半跏像(伝如意輪観音)』 奈良時代後期・8世紀 (岡寺) 重要文化財
まずは飛鳥から奈良時代にかけて作られた金銅仏たちが出迎えてくれる。金銅仏とは、銅で鋳造した上に金鍍金(めっき)を施した仏像。どの仏様も1000年以上の時を経てほとんど表面の鍍金は剥がれ、深く沈んだ鈍い光沢を放っている。この像に限ったことではないが、ここに並ぶ小さな仏様たちの顔の表情、手や指の動き、衣の襞や紐の結び目などのディテールに、観れば観るほど吸い込まれていく。
右にやや首を傾げたこの像は、同じ時代に作られたほぼ同じ大きさの東大寺の『菩薩半跏像(伝如意輪観音)』(奈良時代後期・8世紀)と仲良く並んでいたが、猫背の東大寺の仏様と比べてこちらは背筋がまっすぐ伸び、姿勢が正しい。
#10 『押出阿弥陀三尊及び僧形像』 奈良時代前期・7世紀 (法隆寺) 重要文化財
「鋳出した浮彫状の原形に、薄い銅板を当てて図様を打ち出す」技法を押出(おしだし)というそうだ。細かい文様もきれいに打ち出されており、像とは異なる柔らかい仏教美術の世界に心が休まる。このような押出像は全部で4点ほど展示されているが、この作品では中央に阿弥陀様、両脇に菩薩様、その間に僧が二人合掌している。
展示室4 奈良の古寺と仏像Ⅰ(東大寺・西大寺・唐招提寺・薬師寺)
#36 『四天王立像(持国天)』 鎌倉時代・弘安3~4年(1280~1281) (東大寺) 重要文化財
四天王像が四体全て揃って展示されているうちの、これは持国天。各像とも寄木造りで、広目天のみ桜の木、他はヒノキだそうだ。友人も本展でこの像が一番良かったと言っていたが、私も一目惚れ。何てかっこいいのでしょう。右足に重心を置き、クロスした両腕の袖が宙にはためき、内なる力をため込んでいるような表情。刀を振りかざすポーズより迫力があるのでは?
#41 『五劫思惟(ごごうしゆい)阿弥陀如来坐像』 鎌倉時代・13世紀 (東大寺) 重要文化財
正直、ビックリした。チラシの裏に掲載されていた写真でうすうすこの仏像が気にはなっていたのだが、実際対面したら想像以上に大きくて(高さ106cm)、その存在感に息を呑んだ。なぜそんな頭に?と思うのは私だけではないと思うので、解説を引用すると、阿弥陀仏の前身である法蔵菩薩が、五劫(一説に21億6000万年)の長い間修業をしているうちに、こんなに髪が伸びてしまった、という表現らしい。しかもヒノキの一材から丸彫りの一木造りというのも驚きです。
余談ながら、この秋東博で開催される「東大寺大仏」展(10月8日(金)~)にも、これととてもよく似た像が出展されるようです。
#63 『如来形立像』 平安時代・9世紀 (唐招提寺) 重要文化財
この像は、ギリシャやローマの遺跡から出土する頭部と手足を欠いた彫像“トルソー”になぞらえ、「唐招提寺のトルソー」と呼ばれるそうだ。木彫ながら確かにトルソーだが、頭部や手足がないだけでなく(頭部なしでも高さが154cmある)、厚い胸板(横から見るとかなり張り出している)、足の長いプロポーション、身体に張りついた衣の流れるような襞など、ヘレニズム彫刻を思い浮かべずにはいられない。とても美しいです。
展示室5 仏教工芸品
#11 『金堂天蓋天人』 及び『金堂天蓋鳳凰』 奈良時代前期・7世紀 (法隆寺) 重要文化財
法隆寺金堂の内陣の、ご本尊の上の天蓋を飾る飛天2軀と鳳凰。そばで鑑賞しても美しいこの作品が、頭上の天蓋の装飾に使われているのか、とちょっと気になって、思わず法隆寺のサイトをのぞいてみた。画像はなかったけれど、「天井には、天人と鳳凰が飛び交う西域色豊かな天蓋が吊され」とあり、その様子をどうにも見たくなった。
国宝である西大寺の『金剛宝塔』(鎌倉時代)もこの章に展示。
展示室7 奈良の古寺と仏像Ⅱ(長谷寺・室生寺・當麻寺・橘寺・法隆寺・大安寺・秋篠寺・元興寺)
#103 『伝日羅立像』 平安時代・9世紀 (橘寺) 重要文化財
日羅(にちら)は、聖徳太子信仰に支えられた橘寺において、太子の仏法上の師となった百済僧とされた人だそうだが、本像は日羅像として作られたとは考えられないとのこと。プロポーションや衣襞の表現などは、同時代に作られた前出の#63『如来形立像』に酷似しているが、この像では手足の爪や手相に至るまでくっきりした彫りが印象に残る。切れ長の目、弓なりの眉の根元が寄った先にすっと続く小さな鼻と口は顔の中央にまとまり、整ったお顔立ち。
#8 『観音菩薩立像(夢違観音)』 奈良時代前期・7世紀 (法隆寺) 国宝
悪夢を見たら、この夢違観音(ゆめちがいかんのん)様にお祈りすると善夢に変えてくれるという伝承が江戸時代前期に成立したとのこと。確かにそのたおやかな立姿に穏やかなお顔立ちは、そんな信仰をも生むかもしれない。でも、東京の美術館の展示ケースの前でお祈りしたら逆に罰が当たるのでは、なんて思ってしまった。やはり仏様がいらっしゃるお寺まで詣でないとご利益がなさそうな気がしますが、はて。細部を見ると、手と足の指の先がずいぶん上にしなっていますね。
本展は9月20日(月・祝)まで。東京の後は奈良に巡回します。
奈良県立美術館
2010年11月20日(土)-12月19日(日)
2010年は平城遷都1300年の節目に当たるということで、ここ東京でもそれに関連して本展が開催。チラシから概要を抜粋すると、「奈良の古寺20寺院に伝わる飛鳥時代から室町時代の仏像46点、仏教工芸品19点(うち国宝3点、重要文化財45点)が一堂に展示される仏教美術の大展覧会」だそうです。
展覧会名にある會津八一(1881-1956)は、私も不勉強で今回初めて知ったのだが、解説によると、明治時代の廃仏毀釈の嵐の中、荒廃の危機にさらされた奈良の古寺や仏像の価値を見出し、再評価した人であるらしい。元々英文学を修めたが、のちに奈良美術に魅せられ、以降その魅力を歌人、書家、美術史家としての活動を通じ、世に伝播し続けた。
ちなみにこの展覧会は、新潟、東京、奈良と3ヶ所で開催される巡回展。場所ごとに内容も工夫され、もう終わってしまったが、會津八一の故郷である新潟では彼にちなんだ出展品がとても充実していた模様。
仏像と仏教工芸品に重きが置かれたという東京展の構成は、以下の通り:
展示室1 金銅仏
展示室2 金銅仏
展示室3 會津八一関係資料
展示室4 奈良の古寺と仏像Ⅰ(東大寺・西大寺・唐招提寺・薬師寺)
展示室5 仏教工芸品
展示室6 會津八一関係資料
展示室7 奈良の古寺と仏像Ⅱ(長谷寺・室生寺・當麻寺・橘寺・法隆寺・大安寺・秋篠寺・元興寺)
20の寺院も記しておきます:
秋篠寺・岡寺・元興寺・興福寺・西大寺・正暦寺・新薬師寺・大安寺・當麻寺・當麻寺奥院・橘寺・唐招提寺・東大寺・能満院・長谷寺・般若寺・法隆寺・法起寺・室生寺・薬師寺
では、個人的に印象に残った展示品を挙げていきます:
展示室1 金銅仏
#102 『菩薩半跏像(伝如意輪観音)』 奈良時代後期・8世紀 (岡寺) 重要文化財
まずは飛鳥から奈良時代にかけて作られた金銅仏たちが出迎えてくれる。金銅仏とは、銅で鋳造した上に金鍍金(めっき)を施した仏像。どの仏様も1000年以上の時を経てほとんど表面の鍍金は剥がれ、深く沈んだ鈍い光沢を放っている。この像に限ったことではないが、ここに並ぶ小さな仏様たちの顔の表情、手や指の動き、衣の襞や紐の結び目などのディテールに、観れば観るほど吸い込まれていく。
右にやや首を傾げたこの像は、同じ時代に作られたほぼ同じ大きさの東大寺の『菩薩半跏像(伝如意輪観音)』(奈良時代後期・8世紀)と仲良く並んでいたが、猫背の東大寺の仏様と比べてこちらは背筋がまっすぐ伸び、姿勢が正しい。
#10 『押出阿弥陀三尊及び僧形像』 奈良時代前期・7世紀 (法隆寺) 重要文化財
「鋳出した浮彫状の原形に、薄い銅板を当てて図様を打ち出す」技法を押出(おしだし)というそうだ。細かい文様もきれいに打ち出されており、像とは異なる柔らかい仏教美術の世界に心が休まる。このような押出像は全部で4点ほど展示されているが、この作品では中央に阿弥陀様、両脇に菩薩様、その間に僧が二人合掌している。
展示室4 奈良の古寺と仏像Ⅰ(東大寺・西大寺・唐招提寺・薬師寺)
#36 『四天王立像(持国天)』 鎌倉時代・弘安3~4年(1280~1281) (東大寺) 重要文化財
四天王像が四体全て揃って展示されているうちの、これは持国天。各像とも寄木造りで、広目天のみ桜の木、他はヒノキだそうだ。友人も本展でこの像が一番良かったと言っていたが、私も一目惚れ。何てかっこいいのでしょう。右足に重心を置き、クロスした両腕の袖が宙にはためき、内なる力をため込んでいるような表情。刀を振りかざすポーズより迫力があるのでは?
#41 『五劫思惟(ごごうしゆい)阿弥陀如来坐像』 鎌倉時代・13世紀 (東大寺) 重要文化財
正直、ビックリした。チラシの裏に掲載されていた写真でうすうすこの仏像が気にはなっていたのだが、実際対面したら想像以上に大きくて(高さ106cm)、その存在感に息を呑んだ。なぜそんな頭に?と思うのは私だけではないと思うので、解説を引用すると、阿弥陀仏の前身である法蔵菩薩が、五劫(一説に21億6000万年)の長い間修業をしているうちに、こんなに髪が伸びてしまった、という表現らしい。しかもヒノキの一材から丸彫りの一木造りというのも驚きです。
余談ながら、この秋東博で開催される「東大寺大仏」展(10月8日(金)~)にも、これととてもよく似た像が出展されるようです。
#63 『如来形立像』 平安時代・9世紀 (唐招提寺) 重要文化財
この像は、ギリシャやローマの遺跡から出土する頭部と手足を欠いた彫像“トルソー”になぞらえ、「唐招提寺のトルソー」と呼ばれるそうだ。木彫ながら確かにトルソーだが、頭部や手足がないだけでなく(頭部なしでも高さが154cmある)、厚い胸板(横から見るとかなり張り出している)、足の長いプロポーション、身体に張りついた衣の流れるような襞など、ヘレニズム彫刻を思い浮かべずにはいられない。とても美しいです。
展示室5 仏教工芸品
#11 『金堂天蓋天人』 及び『金堂天蓋鳳凰』 奈良時代前期・7世紀 (法隆寺) 重要文化財
法隆寺金堂の内陣の、ご本尊の上の天蓋を飾る飛天2軀と鳳凰。そばで鑑賞しても美しいこの作品が、頭上の天蓋の装飾に使われているのか、とちょっと気になって、思わず法隆寺のサイトをのぞいてみた。画像はなかったけれど、「天井には、天人と鳳凰が飛び交う西域色豊かな天蓋が吊され」とあり、その様子をどうにも見たくなった。
国宝である西大寺の『金剛宝塔』(鎌倉時代)もこの章に展示。
展示室7 奈良の古寺と仏像Ⅱ(長谷寺・室生寺・當麻寺・橘寺・法隆寺・大安寺・秋篠寺・元興寺)
#103 『伝日羅立像』 平安時代・9世紀 (橘寺) 重要文化財
日羅(にちら)は、聖徳太子信仰に支えられた橘寺において、太子の仏法上の師となった百済僧とされた人だそうだが、本像は日羅像として作られたとは考えられないとのこと。プロポーションや衣襞の表現などは、同時代に作られた前出の#63『如来形立像』に酷似しているが、この像では手足の爪や手相に至るまでくっきりした彫りが印象に残る。切れ長の目、弓なりの眉の根元が寄った先にすっと続く小さな鼻と口は顔の中央にまとまり、整ったお顔立ち。
#8 『観音菩薩立像(夢違観音)』 奈良時代前期・7世紀 (法隆寺) 国宝
悪夢を見たら、この夢違観音(ゆめちがいかんのん)様にお祈りすると善夢に変えてくれるという伝承が江戸時代前期に成立したとのこと。確かにそのたおやかな立姿に穏やかなお顔立ちは、そんな信仰をも生むかもしれない。でも、東京の美術館の展示ケースの前でお祈りしたら逆に罰が当たるのでは、なんて思ってしまった。やはり仏様がいらっしゃるお寺まで詣でないとご利益がなさそうな気がしますが、はて。細部を見ると、手と足の指の先がずいぶん上にしなっていますね。
本展は9月20日(月・祝)まで。東京の後は奈良に巡回します。
奈良県立美術館
2010年11月20日(土)-12月19日(日)