原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

近すぎて、遠い島、クナシリ

2009年09月29日 09時46分06秒 | 地域/北海道
世界遺産に認定され多くの人を集める知床半島。この半島を横断してウトロと羅臼を結ぶ道がある(冬季は閉鎖される)。半島のほぼ中央に羅臼岳がそびえ、道はそのすぐ横を通り抜ける。峠には展望台がある。ウトロ側から上ってくると、この峠から海への眺望が開ける。その海には黒く大きな島影が浮かんでいた。国後島であった。驚くほど近い。にもかかわらず、狭い根室海峡は無限の広さを感じさせて島の前に横たわっていた。

視野いっぱいに広がる国後島は圧倒されるほど大きく感じる。面積は1497.56㎢。長さは123㎞もある。沖縄本島より大きい。隣にある択捉島はさらに大きい。この二つの島に根室側の歯舞諸島、色丹島を加えたのが北方四島。この返還にむけて、旧ソ連時代からロシアに対して日本政府は長い間交渉してきた。しかし、返還という言葉がむなしくなるほど、その交渉は全く進行していない。

(羅臼町の海岸からみた国後島。直線で30キロ余りの距離)

ロシア側からみれば60年以上占領した島なのだから、今更日本の領土という概念は全くない。それどころかプーチンは2015年までを目標に、クルム(北方四島を含む千島列島全体)諸島の大開発計画さえ発表している。日本とロシアでは立っているポジションが決定的に違っている。
その出発からしておかしい。ヤルタ会談の密約があったとしても、旧ソ連軍が日本の北方領土を進攻したのは、1945年8月15日以降のこと。占守島を攻撃したのは8月18日から。日本軍の抵抗で思うような成果はなかったが、それでも戦争終了の号令で日本軍は武器を捨てた。その機に乗じて国後島にソ連軍が入ったのは9月1日である。日本が太平洋戦争の降伏文書に調印する前日であった。いかに意図的な進出であったかがわかる。以後、現在に至るまで、根室海峡をはさんで対峙する国土は外国のものとなり、往来にはパスポートが必要となる関係となった。
北方四島はアメリカと旧ソ連の対立軸の中で翻弄されたといっても過言ではない。1956年の日ソの協定では、返還がかなり前進したにもかかわらず、60年の日米安保条約の締結でソ連が硬化。一気に返還ムードがなくなる。一時、お金で四島が帰る可能性が出たとき、異を唱えたのがアメリカであった。それなら小笠原も沖縄の返還もしないと言い出した。北方四島は二大大国の国益に翻弄されていたのである。
日本の政府もだらしない。こうした国際問題に全く無力だったからだ。手をこまねいたとは言わないが、なんの実行力を持たなかったことは事実だ。

(相泊からみた国後島)

今年9月、日本で初めてともいうべき政権交代がなされ、閣僚人事の発表されたとき、一つの驚きがあった。鈴木宗男代議士が外務委員長に指名されたからである。自民党時代、ロシアとの交渉窓口で活躍していた政治家であり、あの「ムネオハウス」の当事者である。その当時の様々な疑惑で係争中であることは周知の通り。この政治家が外務委員長に就任した際のインタビューで、北方領土の返還を解決するために尽力する、と言い放っている。確かにロシアとの人脈もあるようだし、経験も深い。自民党時代とは環境も違うので、一縷の望みがないわけではないだろう。
だが、彼は刑事告訴されている人物。東京地方裁判所や東京高裁では有罪が確定している。最高裁の判決がまだ出ていないというだけの、極めて危うい状況でもある。もし有罪が確定すれば、その時点で政治家を辞めなければならない。しかもその可能性は極めて高い。そうした政治家を任命した首相の責任は必ず問われるであろう。有罪が確定する前に返還が実現すれば、逆に空前の大ヒット人事となる、のだが、無理だろうな。

そうした中で北方四島を考えるとますます暗く重苦しくなる。国後島はアイヌ語のクンネ・シリ(黒い島)からその名がついたといわれている。羅臼から眺める黒い島がますます暗く見えてしまう。この島に日本の島としての明るいスポットがあたる日がやってくるのだろうか。この島の旧住民の年齢はかなり高くなっている。記憶が確かなうちに返還という日が来ることを切に願いたい。

(冒頭の写真は知床峠からみた国後島)

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4 コメント

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無力感! (numapy)
2009-09-29 14:08:57
先日納沙布岬に行ってきました。
野付半島から見る国後島は、まさに手の届きそうな距離だったけど、納沙布からも近くに見えました。
見ていてジワジワ湧きあがってきたのは無力感。
プーチンは2年後、再び大統領に復帰するでしょう。
そうなると永遠に返還はない、ということになる。
ロシアという国は、多重人格の国です。傲慢さと欧米に対するコンプレックスがごちゃ混ぜになってる。ずっと昔からそうだった。
ここと上手くやれる人物は、世界でも殆どいない。
悲観的になります。
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そうです、ロシアは難しい (原野人)
2009-09-30 09:49:37
たしかに無力感ですね。日本の外交力はあの敗戦以来、急激に低下してしまいました。というより、その力を奪い取られたわけですから。これからどうすべきなのか、まったくの暗中模索でしょう。竹島や魚釣島の問題も全く解決できていません。暗い気持ちになるばかりですね。またまたの二日酔いのために、さらに憂鬱です。
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初めまして (kameichi)
2009-09-30 20:25:23
私もこの夏、知床峠から国後島を見てきました。一番上の写真は知床峠からのものですよね。ほぼ同じアングルの写真が自分のカメラにも入っていました。

今の日本の外交能力では、いくらロシアが不当に占拠している状態だとしても、北方四島を返還させるのは難しいでしょうね。そもそも政治家にしろ、外務省の役人にしろ、北方四島を返還させないといけないと本気で思っている人間がどれほどいるのかと思います。間違っても2島返還でお茶を濁すようなことは絶対にしてほしくないですね。
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こんにちは、kameichiさん (原野人)
2009-10-01 14:00:26
たしかに、東京や本州で生活していると北方領土に対する認識はかなり薄いようです。外務省の官僚たちも領土に対する考え方はできるだけ穏便にという風潮に流されていることも事実です。しかし、政治家は本来違うはずなんですがね。北海道選出の政治家もたくさんいます。問題は彼らの本気度にあります。政局に左右されていては本当の戦いなどできるはずがないですね。
2島返還などという話は戯言にもなりません。
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