原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

徒然紀行⑧-野付半島に棲みついたオジロワシ

2011年05月20日 08時05分17秒 | 徒然記

 旅の魅力の一つに予期せぬ出会いというのがある。旅のだいご味を知るのはこんな時だ。

野付半島はその形からして、予期せぬ出会いを感じさせる。海流に乗って集められた砂が堆積してできた陸地(砂嘴)は、全長28キロの半島を形作っている。左には、野付水道(根室海峡)の海が広がり、右には汽水湖の風連湖が続く。前を見ると地平線と水平線が一つになっていた。他では見ることができない独特の風景がそこにある。海沿いにある漁師の番屋には数多くの鳥が集まっていた。その中にひときわ大きな鳥がいた。黄色いくちばしと逞しい爪を光らせた足が見えた。オジロワシである。

(1羽は成鳥、1羽はまだ未成年。ひょっとして親子かも)

季節は五月上旬。この時期にはオジロワシやオオワシたちは北の国(シベリアやカムチャッカ半島)へと帰ってしまう。彼らが道東に顔を見せるのは冬の一時期(11月から4月上旬まで)だけだ。なぜここに、まだいるのか。オジロワシとの予期せぬ出会いであった。目測ではあるが十羽ほど確認できた。

このオジロワシは野付半島に留鳥として棲みついてしまった一団らしい。よく見るとまだ成鳥となっていないものもいた。

道東ではこうしたオジロワシが五百羽ほど確認されているとか(北海道全体では一千七百羽もいる)。大半のオジロワシは北の国へ旅立つのだが、渡りをやめたオジロワシもかなりいるようだ。同じ時期に飛来してくるオオワシが留鳥となっている記録はない。北海道に居場所を決めているのはオジロワシだけ。なぜこうした生態系の変化が生まれるのだろうか。こうした野生たちの変化は人間にはなかなか理解できない。

一つの推理がある。北海道に棲みついたオジロワシのうち、番(つがい)として確認されているのは十組程度である。オジロワシが春から秋にかけてシベリアなどへ向かうのは産卵と子育てのためである。オジロワシが幼鳥から成鳥となるまでは4年、5年かかる。まだ成鳥とならないオジロワシは子育てのために、北の国へ向かう必要がない。その故に留鳥として北海道にとどまっているのでは。実際、野付で見たオジロワシの多くがまだ成鳥となっていないワシたちであった。留鳥として残っているうちに渡り鳥の性質を忘れてしまう可能性もある。北海道で子育てをする番が現れるのも当然の成り行きなのではないのだろうか。

道東ではオオワシよりオジロワシの方が目に付く。どちらも絶滅危惧種に指定された野鳥であるが、実際の個体数はオオワシよりオジロワシの方が少ない。将来の絶滅の危険度はオジロワシの方がはるかに高いのである。彼らが北海道に棲みついた理由も種の保存に理由があるのかもしれない。北の国への遠い旅にはいくつもの危険がある。より安全に子供を育てるのに、遠くシベリアまで行くより日本で産み育てた方がたしかだ。全くの素人の推測にすぎないのだが、何となく納得できる(自画自賛)。

砂浜や野付の湿原を悠々と飛来するオジロワシはなんとなく幸せそうに見える。周辺にはたくさんの鳶もいた。彼らは共同で棲みついているのかと、のんびり眺めていた時である。突然、鳶に襲いかかられ逃げ惑うオジロワシを見た。猛禽類の頂点と思っていたオジロワシであるが、それほど強くはないらしい。周りにはカラスもたくさんいた。鳶は基本的にカラスより弱い。とすると、オジロワシはカラスにも追い立てられる可能性がある。彼らの肩身の狭い生活環境をちょっと考えてしまった。オジロワシが絶滅危惧種となった理由の一端にこの弱さがあるのかもしれない。

(早春の野付半島は荒涼としているが夏は一面緑に変わり野花が咲き乱れる)

野付半島は高い山がないから、海風が直接当たるように感じる。吹きさらしの砂の上にいると自然の厳しさがしみるように感じる。それでも、春から夏にかけてはいろいろな花が咲き、美しい風景が広がる。小動物も集まる。猛禽類の彼らの餌もたっぷりある。シベリアなどの北の国よりはるかに暮らしやすいはずだ。鳶やカラスにいじめられることがあっても、彼らにとって北海道はやはりパラダイスなのだろう。

野付半島の風に吹かれて、そう思った。


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2 コメント

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阿寒にも・・ (numapy)
2011-05-20 14:47:36
オジロワシが営巣してるそうです。もっとも留鳥かどうかは確認してないらしいですが・・。
道東には500羽もいるんですか。中には、面倒くさがりか、単なるグータラもいるんでしょうね。
ワシは後姿が好きです。肩の辺りになんともいえない孤独感がある。トビには凛とした孤独感をあまり感じません。チョッと思い込みが激しいですかね。
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阿寒にもいましたか。 (原野人)
2011-05-21 07:11:03
わが町では見かけないですね。冬はたくさん集まる塘路湖周辺でも巣作りをしている様子はありません。厚岸の方はいるらしいです。やはり食料の関係で海際の方が棲みやすいのかも知れません。
ということは、阿寒には彼らの食べ物があるのかも。あと森の関係もあるかもしれません。
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