のり巻き のりのり

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ウグイス嬢の思い出

2016年03月11日 | 随想
我が家でウグイスの鳴き声を聞いた。今年初めてである。

ウグイスの鳴き声 Singing Bird (Japanese Bush Warbler)


例年なら、拙いながらもっと早くから聞こえるのだが、今年はどこで練習をしてきたのだろう。
完成された美しい声を披露してくれた。

見事な鳴き声に聞きほれ、アンコールを期して拍手をしたら
「無粋なやつめ」と思ったかどうか、さっと次の場所へ飛び去ってしまった。

私もウグイスになったことがある。ウグイス嬢である。

大学生の時、知人に「アルバイトをしないか」と言われ、選挙の手伝いをした。
候補者についてはくわしく知らないし、政治や政党に興味なしの若造のころである。

ハガキ書きをしたり、電話で投票の依頼をしたり、弁当の用意をしたり、忙しいけれど期間限定で条件の良いアルバイトだった。

そうこうしていると「選挙カーに乗ってくれないか」という。ウグイス嬢である。
初めてのこととて「もっと大きな声で」と叱咤激励され、家でも練習をしながら、なんとか乗り切った。

報酬は思いのほか多く「ラッキー!」と単純に喜んだものである。
しかし、候補者が落選したので、心苦しい思いをしたことを覚えている。

世間知らずのお嬢さま。好奇心が強く、怖いもの知らずの年頃だったからこそできたのだと思う。
後にも先にも一度きりの経験である。

そのとき、選挙カーがどこを通ったのか、どんなトーンで声を出していたのか、具体的にどんなことをしゃべっていたのか、すっかり忘れてしまった。

今日我が家に来てくれたウグイス君は、この場所を覚えているだろうか。
自分の美しい声を覚えているだろうか。