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【書評】リニア新幹線が不可能な7つの理由

2024-03-31 | 問題提起
【書評】リニア新幹線が不可能な7つの理由
2021-11-01 | 論評、書評、映画評など
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/2af075eef91d884d9fddd4bd74dadc88

 この本の中で著者は7つの理由を上げ、リニア新幹線は不可能だと断じているが、ご存じの通り国交省の政府認可は取得し、既に各地で建設工事は始まっている。

 いかし、通過する各自治体の許認可権の問題もあり、第1に上げるのは、南アルプスを約20kmトンネルで通過するだけの静岡県は認可を保留している。この理由として、同県静岡市に流れ下る大井川の水流が減少しない様な対策を講じられるまで認可は出せないとの主張だ。

 このリニア新幹線だが、全線の80%が地下を掘削して走る、いわば地下鉄みたいな高速鉄道なのだが、東京都内において、通過地沿線となる大田区田園調布の者達が、近日工事差し止めの行政訴訟を提訴していることもある。

 同書で上げる7つの問題として、膨大な残土、水涸れ、住民立ち退き、乗客の安全確保、ウラン鉱床、杜撰なアセスと住民の反対運動、難工事と採算性を上げているが、私に云わせりゃまだまだあるだろうと思いつつ読んだ。

 まず、作者の上げた問題から、記してみると、膨大な残土だが、前線の80%が地下トンネルだから、極めて膨大な残土がでるのだが、その捨て場所が未定のまま、着工しているということがある。今年7月に生じた熱海・伊豆山の大土石流も山中に積み上げた残土が原因となった。だから、残土は十分将来のことや周辺環境だとか生態系のことも考慮しなければならないのだが、この辺りのことを十分検討しないままJR東海は着工している。

 著者の上げる水涸れの問題だが、これは静岡県としても問題視している訳だが、リニアは既に実験線(開通時は本線として組み込まれる)を40km余工事して、各種の走行実験を繰り返している。その中で、この40数キロの沿線各地で、水涸れ問題が各地で生じているのだ。つまり、山中をトンネル工事すれば、水脈となっている部分を断ち切ることになり、今まで近隣で湧き出ていた水脈が断ち切られ水枯れが生じることは十分考える必用がある。

 この水枯れ問題の話しになると、歴史として何時も思い出すのが、JR東海道本線熱海駅と函南駅を通過する約8キロの丹那トンネルのことだ。このトンネルの何百mか上にには丹那盆地という地域がある。トンネルができるまでは、水量豊富でわさびなどが特産だったというが、昭和9年にトンネルが貫通後は、水は涸れてしまい、今や牧畜が主の寒村となっている地なのだ。JR東海では、この丹那トンネル内で生じる大量の湧水を、熱海側の海に捨て続けているそうだ。ある意味、もったいない話しだと思う。しかし、当時は大戦前の国策として、東海道本線の沼津から国府津間の現在はローカル御殿場線となっている2時間余り要する区間を、僅か30分程で直線的に通過する丹那トンネルを国策として、当時も住民の工事中止の運動はあった様だが、それを無視しつつ工事は完遂されたのだった。

 住民立ち退き問題については、車両基地などの立地地において、一部の住民が立ち退きを迫られていると云う問題で、当のじゅみんにとっては大問題だが、ここは適する代替え地が確保できる前提で良しとしよう。

 著者が上げている乗客の安全確保だが、全線の80%がトンネルで、中には人が簡単に近づけない道路もないような南アルプスの地下深くを走行することがある。しかも、リニア新幹線は運転手もいない無人運転で計画している。所掌程度は乗るのかもしれないが、仮に南アルプス山中の地下何百mもの地で停車して、脱出する場合に、まず脱出用の縦坑を何百mも上昇し、そして冬期だったら数時間も生き延びれない様な環境で、どうやって避難民を救助するのかについては、JR東海は十分な説明がなされていないという。

 ウラン鉱床の件は、岐阜県の一部にウランの出土地区があり、そこの鉱床にぶち当たり残土がでたら、正に捨てるところがなくなるだろうという問題だ。

 ずさんなアセスと住民の反対運動だが、何しろJR東海は各種の説明を十分しないまま、認可取得し工事に着工しているということだ。今のところ、マスコミは、静岡県だけが嫌がらせに反対しているかの様な論調だが、決して静岡県だけの問題ではなく各地で、残土だとか水枯れの危惧を生んでいるのが実情なのだ。

 難工事と採算性だが、先に述べた丹那トンネルは計画8年、実工事期間16年を要している。北海道とを繋ぐ青函トンネルに至っては、通算24年も要し、計画予算を大幅に超過して完成されている。それを、品川から名古屋間の開通を2027年(つまり後6年)で完成できる保証などありはしないだろう。

 それと、当初、このリニアは全額JR東海が自己負担して作ることになっていたのだが、安倍首相の時代に財政投融資で3兆円を国が30年無担保無利子融資することのなったという経緯についても不透明な部分があると指摘している。

 それと、JR東海では、リニア中央新幹線単独では、利益がでないことを明言しているが、ただし、従来意新幹線とリニア新幹線の合算では、輸送旅客数が1.5倍になると見込んでいるという。しかし、このコロナ下で、輸送旅客数は大幅に落ち込み、もしコロナ病変が去ったとしても、国内の多くの国民の窮乏化が進んでいる環境だとか、コロナ病変で一気に進んだテレワークの環境下で、将来的な輸送旅客数が合算値として増える要素がなかろうというのが私見だ。

 それと、著者はJR東海がリニアは既存新幹線の3倍の電力を使うと説明したと云うが、自動車工学的知識のある私見として云えば、3倍に留まる訳がなかろうと思っている。まず、従来型新幹線の最高速を300キロ、リニアを500キロ毎時と仮定すると、最高速は1.6倍だが、最高速の積分値としては、3乗倍の値となることが知られている。従い。1.6^3は6.5倍の電力供給が必要になる計算だ。

 それと、リニアモーターというのは、通常の同期式回転モーターだと、内部に永久磁石があり、その周辺をフィールドコイルが取り巻き、精密ベアリングで、なるべく回転子とフィールドコイルが近くなる位置関係を確保することによりモーターとしての効率を上げている。しかし、リニアの場合、10cm程度浮上させたり、左右の路線に沿って並んだフィールドコイルとの隙間をある程度取らないと、接触して事故になりかねないということで効率低下が起きる。それと、東京から名古屋まで400キロのすべての路線フィールドコイルに電流を流しておくということは電流の総量が超巨大になり非効率この上ないし、1つの列車しか運行できなくなってしまう。そこで、セグメントという概念で、列車の動きと同期した車両の前後何百メートルかだけに動悸電流を流し、そのセグメントを順次移動することで列車の速度を制御する方式となるらしい。しかし、少なくとも1セグメントの励起されるコイル総数は、通常の回転式モーターの極数より余程多いことは素人的に考えても判るだろう。ということで、リニアモーターは、特に高速列車としては、効率という面で、かなりの欠点を内在したシステムだと云うことが結論付けられる。


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