私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

書評紹介 レーシングエンジンの徹底研究

2017-12-24 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険


 このところ、図書館通いが続いているのだが、今回紹介する「レーシングエンジンの徹底研究」(林 義正著)は、貸し出し期限に再貸し出して読み尽くした本である。著者は元日産のエンジンデザイナー(設計者)だ。レーシングエンジンの・・・という表題でがあるが、読み進める中で開発したグループCカー用のVRH35エンジンのことを中心としつつ、常に市販車との対比を解説していくという文章構成であった。かつて、これ程エンジン主要構成としての原理を網羅した本に巡り会ったことはなく、私の知識を一段高めてくれた本だと感じる。その内容のすべてを語ることはできないが、一部だけ紹介してみたい。


1.オットーサイクルPV線図
 図の左はオットーサイクルのPV線図であり、よく教科書に載っているものである。図の右が現実のエンジンのPV線図である。これを比較して、左の原理図は「神様の作ったエンジン」と評しつつ、時間損失や冷却損失、吸排気損失(ポンピングロス)などのことを解説している。なお、エンジンの損失には、この他に各駆動部の摩擦損失がある。神様エンジンは、完全なる断熱圧縮および断熱膨張で、排気バルブを瞬時に開いた瞬間から吸気バルブを瞬時に閉じるまで、シリンダー内は完全に大気圧だ。点火から燃焼圧力がピークとなるのも瞬時で一切の遅延がない。しかし、現実のエンジンでは、点火して瞬時に燃える訳でも、断熱圧縮も断熱膨張も、吸排気ポートやシリンダー内が瞬時に大気圧になることもない。この神様エンジンを目指し、ひたすらエンジンデザイナーは頑張るのだ。ここで、著者はこう述べている。「理路整然とした技術の積み重ねが良い結果を生むものであり、蓄積のベクトルとプロセスを決定するのが思想である。」と記している。この本の至る所に、「私はこう思う、それが思想だ。」なる言葉が出てくるが、正にプロフェッショナルとしての言葉と受け止めたい。

2.シリンダーヘッドの締結について
 VRH35では、V8エンジンであるが各バンクのシリンダーヘッドは1シリンダー辺り8本のボルトで締結される構造としている。(内、シリンダー間の2本は共用)この様な多数のボルトを上部からだけで通すことは、吸排気ポートの関係上不可能である。そこで、吸排気ポートに重なる一部はヘッド側に植え込んだスタッドボルトにより、ブロック側と締結する構造としたとのことである。市販車であれば、専用マシンで同時に全ボルトを上部からトルク管理しつつ自動で締め付けるのだが、レース用エンジンは手組みだからこそ許される構造だ。

3.エンジン回転数の許容限界について
 エンジン回転の限界は、ピストンスピードとか吸排バルブの追従性、そしてコンロッドやピストンの慣性力だけなのかと思っていたが、もう2つ程あることを知った。それは、如何に急速燃焼させ得るかであり、吸排ポートの流速が音速を超えることが出来ないからというものである。吸排ポートを流れる流速は、パルス状の断続した流れであり、一概には測定しがたいが、噴射量と空燃費センサーとの関係で実燃焼量が把握できるから計算上で確かめることが可能だという。この流速限界は、90m/s辺り、最限界としては95m/sとなるらしい。

4.バルブのジャンプとバウンス
 金属バネを使う限り高回転ではサージング(質量、バネ系の共振)の限界はあるのだが、開くときも閉じる時もはカム山から離れた動きをする場合がジャンプである。特に開く時は強制的に開くから問題は少ないが閉じが問題になる。つまり、バルブ、バネ、リフターなどの慣性力が働くから、カム山と大きく離れる場合がある。また、急激に閉じてバルブがシートに当たるときバウンスするという問題がある。

 まだまだ、急速燃焼のこととか、ノッキング限界のことなど、新たに知る知見は多い。ガソリン内燃機関の原理を深めたいという方にとっては、是非目を通したい書籍と思う。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。