さこういっぱく

「左後一白」は名馬の証です!

愛馬物語12

2007-11-30 | 愛馬物語
続き(愛馬5頭:ダイレクト/1勝、ウイッシュ/1勝、ソウルフルダンス/未出走、トリニティー/未出走、オリンピア/未出走)

競走馬の生涯ってなんなんだろう?そんなことを考えさせられる出来事がよもや自分の目の前で起ころうとは予想もしていませんでした。今まで、見えないところで愛馬が怪我や病気で苦しんでいることは知っていても、レースで競走中止して予後不良となる馬がいても、あまり気にすることはありませんでした。競馬だからしょうがない。そう思っていました。いずれ体験することはあるかも?位にしか思っていなかったのです。その現実が私の目の前で・・・。

12月に入り、漸く復帰できたダイレクトが、中1週で中山に登場します。前走の逆噴射惨敗から素人の私でさえ、ダート短距離は向かないのでは?と思っていたのですが、陣営の選択はなぜかまた同じ中山D1200。これで5戦連続の中山D1200。どう贔屓目に見ても戦前から勝負にならないだろうと予想していました。ただ、初勝利をプレゼントしてくれた記念すべき愛馬を直接応援したいという理由から、師走の中山に赴きました。この日はダイレクト出資者のご夫婦と現地待ち合わせ。ドキドキの6Rのパドックにダイレクトが登場します。

パドックに現れたダイレクトは相変わらず(良くも悪くも)で調子も平行線という感じに見えたように記憶していますが、実際はどうだったか記憶が定かでありません。ひょっとしたら、デビュー戦のパドックと記憶がダブっている可能性が強いです。返し馬も見たと思いますが、全く記憶にありません。ゴール前に陣取ったことのみうっすらと記憶にあるくらいです。

そしてスタート。どうやってスタートしてレースを運んだのかも記憶から消えております。「1頭シルクダイレクトが転んでいます・・・」と場内実況が耳に入った直後から記憶が蘇ります。「うっ、嘘やろ?」と思ったとき、先頭集団は4角を回り終え、直線に向かって熾烈な攻防を繰り広げていますが、私の脳裏にはその攻防は緩やかに吹き抜ける風にしか感じられませんでした。実際、勝ち馬など記憶にないのですから。その間も、ダイレクトが転んだ4角を見つめていました。確かに1頭転倒しています。やはりダイレクトでした。信じたくなかったけど、ダイレクトでした。

「競走中止でも色々あるから、エージェントの中止もハ行だったし・・・」最悪なことはなるべく思わないようにしていました。転倒したダイレクトは、その後立ち上がり、こちらに向かって走ってきます。しかし、ダイレクトがこちらに近づくにつれ、嫌な予感が徐々に大きくなっていきます。走っているとは言っても、スピードはなく、時折躓きながら、賢明にこちらに向かってきます。中山の坂を賢明に上がってくるのです。何度躓いたことでしょう。周りの観客からはダイレクトが躓くたびに、悲鳴に似た声があがります。私は悲鳴すら上げることなく、ただ向かってくるダイレクトを冷静に見つめていました。そして・・・、肉眼で脚元を確認できる場所に来たとき、全てを悟りました。完全なる故障です。素人から見ても、今後起こることは容易に推察できるほどでした。「ダメだ・・・」そう呟くことしかできませんでした。

ダイレクトは完走したのです。最後の馬がゴール板を過ぎて何分経ったことでしょう?ダイレクトはたった一人で、ゴール板まで来たのです。そして、ゴール板のところでピタッと止まったのです。そこはまさに私達の目の前でした。ダイレクトが止まったと同時に係員が集まり、馬運車も到着します。ダイレクトは故障した脚をかばって3本の脚で立っています。痛かっただろうけど、じっとしていました。そして馬運車に乗る時、1度だけ嘶いたのです。もちろん私には彼が何を伝えたかったのかは分かりません。ただ、競走馬の生涯って・・・と考えさせられる出来事でした。まさか自分の目の前で起こるなんて・・・。(1年後、同じことが同じ場所で起ころうとは思いもしない師走の中山でした)

サラブレッドは走らなければ生きていけない経済動物という一面を持っています。非常に冷たい言い方ですが、否定できません。競馬場で故障する馬たちよりも、もっとむごい殺され方(と殺)をされる競走馬が沢山います。ダイレクトの死だけが特別なことではないのです。彼らは人間の為に生まれ、人間の為に死んでいく動物なんだということを改めて教えられたような気がします。そしてその短い生涯を一生懸命生きているんだということも教えられました。1頭でも多くの馬たちが、その生命を全うできることを切に望みます。

続く(愛馬4頭:ウイッシュ/1勝、ソウルフルダンス/未出走、トリニティー/未出走、オリンピア/未出走)