危険なペットフードの見分け方
「国産」表記にも注意すべき理由〈週刊朝日〉
2022年5月11日(水)
「添加物不使用」などとアピールする食品はスーパーでもよく見かける。
食の安全に注目が集まるなか、ペットが口にするものにも気を配ろうとする動きが。
ペットフード製造の実態をもとに、どうすればより安全な製品を選べるのかを考える。
写真はイメージ(Getty Images)
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近年、犬や猫のごはんの高級化が進んでいる。
一般社団法人ペットフード協会の「2019年度ペットフード産業実態調査」を見ると、15年以降、出荷量は横ばいにもかかわらず市場規模は拡大し続け、5年で540億円もの成長を遂げている。
「ペットは家族の一員」という考え方が当たり前になった今、安心安全で良質なペットフードの需要が増えるのも納得だ。
では、大事な家族の健康を守るには、どんなことに気をつけて製品を選べばよいのだろうか。
食の安全を考えるとき、多くの人が気にするのは添加物の問題だ。
食品問題評論家の垣田達哉氏はこう話す。
「現代では一般的に、ある物質が人間の体に害があるかを調べるためにはまず動物実験が行われます。動物によくないものは人間にもよくない。その逆も然りです。動物のほうが寿命が短く体も小さいので、人間よりも有害物質の影響を受けやすいとも考えられます」
人間の食品において安全性が疑問視されている添加物が、ペットフードにも使われているケースはままある。
リスクがあるならば、とらないにこしたことはない。
タール系着色料は、赤色2号など「○色○号」の名前がついた合成着色料のこと。
犬や猫は色覚が発達していないため、色をつけても食いつきには関係ないが、見栄えをよくすることで飼い主の購買意欲を刺激しようと考えるメーカーは積極的に添加する。
酸化防止剤であるBHA、BHT、エトキシキンは、ペットフードの場合は家畜用飼料と同じく1グラムあたり合計150マイクログラム(犬用はエトキシキン75マイクログラム)までの添加が認められている。
しかし有識者からは、数カ月もしくは数年の命の家畜と、10~20年ほど生きるペットで摂取量の基準が同じことを不安視する声も上がっている。
ペットフードは水分量が少ない順に、ドライフード、セミモイストフード(半生フード)、缶詰やレトルトパウチに入ったウェットフードの3種類に分類される。
このうちセミモイストフードは、プロピレングリコールのような湿潤調整剤やソルビン酸カリウムのような保存料が多く使われる傾向にあるので要注意。
安全なペットフードを選ぶためには、「何が入っているか」だけでなく、「どこで作られたか」という視点も重要だ。
07年、北米でペットとして飼われていた犬猫が腎不全で大量死する事件が起きた。
原因は、工業用の化学物質、メラミンで汚染された中国産小麦グルテン入りのペットフードを食べたことだった。
メラミンは、プラスチックや肥料の原料となる化合物。
中国の業者が、小麦グルテンのたんぱく質含有量を多く見せるために不正に添加していたことが発覚した。
垣田氏は「日本や欧米では行政が食品の製造や流通をきちんと管理しているが、食の安全への意識が低い国では悪質な業者でも取り締まられずに営業できてしまう実態がある」と話す。
日本における「国産」表記は、「加熱や成型などの実質的な最終加工を国内で行った」という意味でしかないので、材料の原産地が信頼できる国であるかどうかにも注意を払うとよい。
■「抜け穴」もある国による監視
また、海外で製造されたペットフードの場合、輸入プロセスによっても製品の安全性が左右される。
『愛犬を長生きさせる食事』(小学館)の著者、ノア動物病院グループ院長の林文明氏は、こう指摘する。
「ペットフードは重量があるので、輸送は基本的に船便。特に、個人業者などが正規代理店を通さずに輸入する場合、温度や湿度が管理されていない劣悪な環境で数カ月かけて運ぶケースもある。いくら酸化防止剤が入った製品でも、そんな状態で保管されたら油が酸化し、食べたペットがおなかを壊すこともある」
日本における犬猫用ペットフードの製造や輸入販売は、前述の“メラミン事件”をきっかけに整備され、農林水産省と環境省が所管するペットフード安全法によって規制されている。
09年に同法が施行される前のペットフードは「何が入っているのかよくわからない」というブラックボックス的な状況だった。
法整備された今は、特定の添加物、農薬、汚染物質などの含有量の上限が定められたほか、原材料名や原産国名の表示や、製造・輸入業者の届け出が義務化され、安全性に問題がある製品は国が廃棄や回収を命じることができる。
しかし現実には、すべての製品に目を光らせることは難しいようだ。
農水省の担当者は悩ましげに打ち明けた。
「国内で流通する製品はランダムで抜き打ち検査をしているが、成分を分析するには大量のサンプルが必要。個人がSNSやフリマサイトで小袋で売っているような商品だと、検査が難しいこともあります」
また、ペットフードによって食中毒が起きたとしても、毎回国が把握できるとは限らない。
人間の場合、病院で食中毒やその疑いと診断されたら、担当医師は保健所に届け出る義務があるが、獣医師はその必要がないのだ。
環境省は日本獣医師会に対し、ペットフードが原因と考えられる犬や猫の健康被害が発生した場合は同省の通報窓口に情報提供するよう協力要請をしているが、いまだ“お願い”の域を出ていない。
なぜペットフードは、人間の食品と同じレベルの厳しさでは取り締まれないのか。
その背景について、前出の農水省担当者は「ペットが食中毒を起こしているかどうかを判断することの難しさ」を挙げる。
「まずおなかの強さの個体差が人間以上に大きい。室内飼いか屋外飼いかによっても細菌への抵抗力は違い、同じペットフードを食べてもおなかを壊す子と壊さない子がいる。また、動物は拾い食いなどをするので衛生管理が難しく、ペットフードと体調不良の因果関係を明らかにするのは至難の業です」
国による監視には限界があるのだ。
■酸化リスク高い高温加熱の商品
ネット社会の功罪もあり玉石混交なペットフードが出回る一方で、こだわりぬいた製品づくりに励む企業もある。
犬猫生活株式会社(東京都)は、人間が食べても大丈夫な材料で作った自社のペットフードを“ヒューマングレード”という言葉で表現する。
原材料名を見ると、生肉(鶏肉、牛肉)、金沢港の旬の魚、鶏レバー、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ)など、たしかに我々の食卓になじみ深い食材の名前が並んでいる。
同社の佐藤淳社長が、一般的なペットフードに使われている材料について教えてくれた。
「生肉と表記していない製品は、肉や骨、内臓、血液、皮などを混ぜて粉状にしたものを使っていることも多い。巷では『病気で死んだ家畜の肉も混ざっていて危ない』という噂もありますが、さすがに日本では使っていないと思います。問題が起きたときのことを考えると、リスクを背負ってまで使う業者はいないでしょう。それより、動物原料を粉末にする過程で高温での加熱・乾燥が行われ、酸化防止剤を入れないと品質を保てなくなることのほうが問題です」
酸化の問題は、材料をペットフードに加工する段階でも発生する。
「ドライフードの場合、私たちは90度前後の低温で長い時間をかけて加熱しますが、200度近い高温で一気に加工するような製品はやはり酸化しやすい。風味も失われるため、表面に油脂を吹きつける“オイルコーティング”でペットの食いつきをよくしているが、その油脂自体も酸化の原因になる」(佐藤社長)
酸化した油は、ペットの消化器に負担をかける。
佐藤社長は自ら、製品改良のために他社のペットフードを口にして匂いや味を確かめているが、酸化が進んだ製品は「オエッとなる独特の臭い」がするそうだ。
ここまで、ペットフードに関する様々な危険性を挙げたが、どうすればより安全な製品を見極めることができるのか。
佐藤社長によると、ポイントは二つあるという。
「原材料の産地など、細かく情報開示されている商品は信頼できるでしょう。また、値段もわかりやすい判断材料。私たちの製品は1カ月分で4480円(税別)ですが、他社だと600円ほどのものも。高ければいいというわけではないが、3千円台後半以上のものであれば、大抵はこだわって作られたものだと思います。ペットフードはワンちゃんやネコちゃんの食べ物といえど、食事。『自分も食べられるかな?』という視点できちんと調べて、選んでほしい」
出されたものを食べるしかないペットたち。愛犬・愛猫の健康を守れるのは、飼い主しかいない。
(本誌・大谷百合絵) ※週刊朝日 2022年5月20日号