殺処分をなくすカギは“適正飼養”…
パナソニックが保護犬猫 約350頭の譲渡会を開催
2022年5月3日(火)
ゴールデンウィークが始まった4月29日と30日、東京都江東区の「パナソニックセンター東京」で犬と猫の譲渡会が開催された。
東京、千葉、神奈川、埼玉から14の保護団体が参加し、2日間合計で約350頭の保護犬・保護猫が紹介された。
初日は季節外れの寒さと雨という悪天候にもかかわらず、多くの来場者が集まり関心の高さをうかがうことができた。
(写真:REANIMAL)
◆保護犬・保護猫の役に立ちたいという思い
パナソニックは、見守りカメラや抜け毛が絡みにくい掃除機など、ペットとの快適な生活をサポートする家電製品を販売している。
動物に関わる形で社会貢献をしたいとの思いから、昨年秋に「ジアイーノ保護犬猫応援プロジェクト」が立ち上がった。
保護犬・保護猫を飼育するシェルターでは、においが課題の1つとなっているという。
そこで、空気清浄機を全国10の保護団体に寄贈。里親希望者を受けれやすい環境づくりに、シェルター内を除菌脱臭する「ジアイーノ」が活用されている。
また、毎朝の清掃では特に糞尿のにおいが強かったが、次亜塩素酸を使った脱臭効果でスタッフの働きやすさも向上したという声が現場から届いているという。
パナソニックエコシステムズ 家電マーケティング部の田頭裕子氏によれば、「我々の家電が保護犬や保護猫の役に立てば」との思いから始まったのがこの応援プロジェクトだそうだ。
◆「譲渡会を身近に感じてほしい」
ほとんどがボランティアスタッフや寄付などによって運営されている保護団体は、譲渡会を行う場所の確保に苦労するケースが多い。
また、保護犬や保護猫に関する情報発信に割く時間や費用も限られる。
保護団体が抱えるそうした課題を、パナソニックは応援プロジェクトを通して知ったという。
そこで、譲渡会場の提供と幅広い情報発信をプロジェクトの第2弾として、「パナソニック保護犬猫譲渡会」の開催が決まった。
初の取り組みだが、ペットカメラと掃除機の担当部署も賛同して今回の開催に至った。
このイベントを企画した田頭氏は、「“ちょっと行ってみようかな?”と、譲渡会を身近に感じていただきたかった」と話す。
事前にTwitterやインスタグラムなどSNSを活用した情報発信も積極的に行ったことで、注目度は高かったようだ。
初日は昼過ぎに整理券の配布が終了していた。
◆会場には獣医師も常駐
譲渡会は午前・午後に分け、2日間で合計4セッションが行われた。
里親希望者に紹介されるのは、犬と猫の負担を考えて1頭当たり最大3時間。
その間、それぞれの保護団体スタッフが様子を見て休憩させたり、ケージに覆いをかけて休ませたりと注意を払った。
会場には獣医師も常駐しており、体調に気遣った運営が行われた。
◆団体からのコメント…終生飼養の大切さ
会場では、参加団体から話を聞くこともできた。
主に関東圏の自治体が保護した犬猫の里親探しを行っている「アルマ東京ティアハイム」は、最期まで面倒を見る終生飼養の大切さを訴える。
自治体への持ち込みや殺処分などの数字は減っているが、飼育放棄や飼い主の病気などによって行き場のなくなる犬や猫は少なくないという。
亡くなった親が可愛がっていたペットの引き取り依頼もあるそうで、「お子さんがいらっしゃる方でも、ご自身に何かあった時は(愛犬や愛猫を)どうするか考えておいてほしい」と話す。
◆「蛇口を閉める」ことにもつながる譲渡会
明るい兆しが感じられる意見も聞かれた。
保護犬・保護猫という存在に対する社会的な認知は進んでいるようだ。
約70匹の猫を伴って参加した「ねこかつ」(埼玉県)によると、以前はパナソニックのような大企業が譲渡会を主催することは「全く考えられなかった」そうだ。
「保護猫カフェを始めた9年前は、“保護猫って何?”という状況でした。まだ十分とは言えませんが、広く知られてきたことを実感します」と代表の梅田達也氏は話す。
とはいえ、殺処分をなくすためには新しく不幸な命が生まれない環境も必要だ。
梅田氏は、「今いる子たちを救うのと同時に、“蛇口を閉める”活動も重要です」という。
終生飼養に加えて無秩序な繁殖の防止など、「適正飼養」に関する啓発活動を並行して行うことが大切だ。
「テレビで動物の保護活動を観ても、“心に刺さる”ことは多くないと思います。でも身近で譲渡会があれば、そこにいる子(=犬・猫)たちが“なぜそういうことになったのか?”を考えるきっかけになります」と、梅田氏は語る。
適正飼養について考えるきっかけづくりにも、譲渡会は重要な役割を担っているようだ。
◆コロナ禍が生んだ新しい流れ
昨今のペットブームが飼育放棄の増加につながることを懸念する声が聞かれるが、悪い面ばかりではないという団体もいた。
都内で保護犬猫カフェを運営する「スモールライフプロテクション」によると、リモートワークなどで在宅時間が増えたのをきっかけに保護犬を迎える世帯が増えたそうだ。
「仕事の関係であきらめていた方が、『今ならゆっくり向かい合える』とお迎えするケースが増えました」という。
◆今後への期待
今回の譲渡会では100点におよぶ写真の展示も行われた。
様々な事情で保護された犬と猫たちの、現在の幸せそうな様子が印象的な作品が並ぶ。
「かわいそう」な部分だけでなく、こうした暖かい面を紹介しながら幅広い層にアプローチすることも大切だろう。
パナソニックは今後も、「ジアイーノ保護犬猫応援プロジェクトと譲渡会を通じて、一匹でも多くの保護犬・保護猫が幸せに過ごせるように支援活動を行っていきます」としている。
これまでの取材では、「日本が保護団体の必要ない社会になるのが願い」と語る団体に会うことがあった。
応援プロジェクトのような取り組みを大企業が始めたことで、そんな社会が実現する日が来るかもしれない。
RE ANIMAL 石川徹
【画像】年齢も性別も様々な犬や猫が譲渡会で紹介された