深夜の産科棟
ナースステーションでは当直の引き継ぎが行われていて、
その奥の分娩室が並ぶ廊下は、ひっそりと静まりかえっていました。
ソファやクロゼットが置かれ、ホテルの一室にいるようにデザインされた分娩室は
寛げる雰囲気で、部屋のタイプは好みで選べるそうです。
部屋の照明はほの暗く絞られ、妊婦がリラックスできるよう配慮されています。
あたらしい命を迎えるベッドが分娩室に運ばれ、
助産師さんがテキパキと出産の準備をすすめていきます。
準備室で陣痛の間隔が短くなるまでを過ごし、2分間隔くらいになってようやく
分娩室へ移動します。陣痛の間隔や長さは個人差が大きく、とくに初産婦では
お産に時間がかかることが多く、初めて母となる日を迎えるのは、妊娠から
出産まで長きにわたり、精神的・肉体的にそれはそれはたいへんなことです。
分娩室での時間はどんどん過ぎていきます。
壮絶な痛みが何度も繰り返して妊婦を襲い、妊婦はその痛みを乗り越えようと
ただひたすら必死にがんばります。
どこかの分娩室から「痛い~~~っ!」と、悲痛な叫び声が聞こえてきます。
女性だけに与えられた特別な痛み、そして苦しみ、
生命を分かつ者だけが体験できる崇高なドラマであるだけに、その過程は厳しい。
分娩室に入ってから3時間半が経過。
妊婦の苦痛に歪む顔を見つづけているこちらも緊張の連続で、
それにもまして長い苦痛を耐えている妊婦を思うと、
一刻もはやく生まれてきてほしいと気持ちばかりが焦ります。
渾身の力をこめていきみがはじまる。
お産というのは、長い痛みを耐えてきた最後に最大のパワーを発揮しなければならな
い。血を、肉を、骨を分け与えた新しい生命を、闇から光の世界へと導きだす最後の
仕上げは、ことさら苦痛を伴うんですね~。
頭の一部が出はじめた!
助産師さんの両手が忙しく動くなか、
待ちに待ったあたらしい命がすこしづつ姿を現してきます。
頭部に続いて上半身がでて、
そして全身が現れ、あたらしい命はこの世に生を受けたことで
「オギャー!」と産声をあげます。
この元気な産声によって、それまで張りつめていた部屋の空気感が
一挙に和らぎ、歓びと安堵に変わります。
あたらしい命が生まれいづる瞬間、なんて素晴らしい一瞬なんでしょう。
この世でいちばん尊いと思えるリアルな一瞬です。
へその緒の処理を済ませ、生まれたてほやほやの赤ちゃんを
すぐにおかあさんの胸へのせてあげます。
こうすることで、子は胎児のときに感じていた母の温もり、声、心臓の音
などなど、懐かしい記憶にふれて安心することでしょう。
それまで泣いていた子は、母の胸にふれてピタッと泣きやみ、
何か考えるように母の感触に浸っているように見えました。
こうしてしばらく母と子は、静かにふれあいの時を過ごします。
そのとき、母となった大きな喜びに加え、母性が芽生えます。
さて、赤ちゃんは計測のため、お母さんから離されベッドに入れられて
大泣き。手足をバタバタさせて泣きじゃくります。
まぁまぁ元気のよいこと! 体重計の針が揺れて計れないほどです^^
誕生から1時間後、やっと産着を着せてもらえました。あったか~
まだお風呂は入っていませんが、バラ色のきれいな肌をしています。
あ、女の子ですよ。。
いまではお産のスタイルもずいぶん進歩?して、
産婆さんを呼びに行って自宅で出産するなんてことも聞かなくなりました。
病院出産も、分娩室で家族に見守られながらリラックスした雰囲気で
行えるようになったりと、オープンなかたちになってきました。
機会があれば、出産シーンに立ち会ってみることをおすすめします。
どんなに時代が進もうと、生命の誕生、その神秘さに変わりはないと思います。
リアルさにふれる、またとない機会となるでしょう。