群馬県桐生市にある標高980mの鳴神山は、この山だけに自生する日本固有種の花
カッコウソウが咲くということで、花を楽しみに出かけてきた。
カッコウソウはサクラソウ科の仲間で、5月にピンク色の美しい花を咲かせる。
だが、花は相次ぐ盗掘によって絶滅寸前となり、地元保存会の手により移植が行われ
そのご苦労のかいあってどうにか花は絶えずにいる。
いくつかある登山口のひとつ、コツナギ橋登山口より入山。
下山を大滝口にとって周回コースを歩こうと思い、林道中間地点の路肩に駐車。
雨上がりの爽やかな朝、卯の花が咲く沢沿いの林道を、「夏は来ぬ」を口ずさみながら歩く♪~(^ε^ )
10分ほど歩くとガードレールの小さな橋があり、その先に数台クルマがとめてあったので、
ここかな?と見ると、細い山道の入り口に小さくコツナギ橋登山口とあった。
コツナギ沢に沿って登る山道は、フカフカと落ち葉のクッションが効いた歩きやすい道で、
何度か沢を横切りながら緩やかに高度を上げていく。 沢を渡ってくる風が気持ちいい。
やがてポツンと咲くヤマブキソウの花に出会う。薄暗い樹林の中、山吹色の花がよく目立つ。
そして
進むにつれてヤマブキソウは増えて、林床を点々と黄色く彩っていた。
ルイヨウボタンの小群落があった。地味な花だけど美しい。釣り糸を垂らしたウラシマソウ、
どちらもなるほど!と思わせるネーミング。 ルイヨウボタンは「類用牡丹」と書き、葉が牡丹に
似ているから、ウラシマソウは、花から出る長い糸のようなものを浦島太郎の釣糸にたとえている。
すごく小さくて目立たない花、フタバアオイを初めて見た。
葉は、徳川家の家紋をデザインするのに使われたとは知っていたけど、こんなに
地味な花の葉がどうして家紋になったのか、いきさつが気になる。
しげしげと花を見て写真を撮っていたとき、「何かありますか?」と声をかけられた。
振り向くとビデオカメラを肩に担いでいて、カッコウソウの取材に来たNHKだった。
カッコウソウが咲いているか心配だったけど、NHKが花を撮りに来てるなら大丈夫。
それ、急げ!
カッコウソウ絶滅を危惧しての「種の保存法」が今年度5月1日に法律化され、採取したり傷をつけたり
すると、懲役一年以下、もしくは100万円以下の処罰となる旨の立て札があった。
本来カッコウソウは広葉樹林に自生していて、それが移植されていまは杉林に咲いている。
保存会のかたがパトロールをかねていらしてたのでお話を伺ってみると、やはり杉林での
生育は好ましくないとのことだった。杉の葉が落ちて花にかかることや、日照がさえぎられること
など、条件が花にとって厳しい。移植した当時は杉も小さかったので問題なかったらしい。
けれど、そうした条件のよくないなかでも、カッコウソウは健気に美しい花を咲かせていた。
保存会のかたがたの、花を守り育てる努力と情熱の賜だと思う。
寒さがつづいた今年は開花が遅れ、見頃も例年より10日ほど遅く、この日16日でも
開花しているカッコウソウは少なめで、まだしばらくは花が楽しめそうだ。
鳴神山だけに咲くカッコウソウ、貴重な美しい花を多くの人たちがシェアして見る歓びを
いつまでも共有していくことができますよう願わずにいられない。
カッコウソウ咲く杉林をひと登り
すると椚田峠で、ここから山頂へは明るい広葉樹林が広がる。
斜面にへばりつくように咲いていたフイリフモトスミレ。
花は小指の先に満たないほど小さく、葉脈に沿って白い斑が入っている。
山頂へつづく道は、眩いほどの明るい緑に包まれ、葉のひとつひとつが輝いている。
なんて気持ちのいい山道!
ヒメイワカガミが咲いていますよ
来る途中でおしえてもらった花情報に、あたりを注意深く見ながら歩く。
ありました!白花のイワカガミ
花弁のフリンジも可愛らしく、岩場にひっそりと咲いていた。
一気に展望が開ける鳴神山頂、それまでまったく展望がなかったのが、ピークに立つと
360度の大展望となって、そのギャップにうれしさ倍増。緑のグラデーションもくっきりと、
若葉に萌える5月の山、素晴らしい眺め!
ちょうど昼時でもあって
山頂は大入り満員。なんとか隙間を見つけて座り、おにぎり一個とお茶の素早い昼食にする。
山頂に集う皆さん、どなたもニコニコ笑顔で、山を楽しんでいる様子が見てとれる。
展望できる山々が方向板で示されていて、なんでもぐるり32山が眺められるという。
奥には男体山や白根山の白く輝く峰々が望めた。
初夏の陽射しが降りそそぐ山頂を満喫して下山にかかる。
山頂直下の急坂を下った真下に神社があって、鳥居をくぐった先で道は二つに別れていた。
右は駒形へ、もう一方が大滝へ下る道らしい。ここの杉林にもカッコウソウの移植地がある。
保護ロープをたどって上へと登ったところに、5株ほど開花しているのが見られたが、大半は
まだ咲いていない。 大滝への下山は岩ザクの歩きづらい道がつづく。この道はもう歩きたくない。
次に来るときは駒形から登ってみよう。
カッコウソウにヒメイワカガミ、めずらしい花が見られた鳴神山、山頂からの大展望も素晴らしく、
いい山だった。そうそう、この山にはカッコウソウ同様、ナルカミスミレというこの山のみ見られる
すみれ(花は純白で茎は緑色)があったのだが盗掘により絶滅、いまや幻の花となってしまったそうだ。
また、絶滅が危ぶまれるヒイラギソウも見ておきたい花。まだ小さなつぼみだった。
ゆっくり花を見ながら歩いても4時間弱のコースタイムなので、また花の時期に来てみようと思う。