まだ春浅い、木々が芽吹くまえの林床を彩る可憐な花たちは、
林床に光が届く、葉が繁るまでの短い期間だけの儚い命ゆえ、
スプリングエフェラメル(春の妖精)、春の陽炎(かげろう)などと呼ばれている。
日影沢ではそろそろハナネコノメが見頃になっているのではと、
裏高尾を訪れたのは先週の11日、その帰り道で巨大地震が起こった。
日影沢林道の入り口駐車スペースは一台分だけの空きが残っていてラッキー
お目当てのハナネコノメは咲いているだろうか、いそいそと沢沿いの道をたどる。
米粒ほどに小さい花なので、遠目じゃまったく見えないけど、
しゃがんでカメラをのぞき込んでいる人がいたら、そこが群生地。
岩に張りつくようにして咲くハナネコノメ (ユキノシタ科ネコノメソウ属)
花は咲きだしたばかりのようで、ようやく開いてきたといったところ。 全開したときの花(右)
直径5mmと小さい花だけど、ネコノメソウの仲間では一番のべっぴんさん。
白い花びらに見えるのは萼で、真っ赤な雄しべがとてもラブリー
おなじネコノメソウの仲間でも一段とシブイ色味のヨゴレネコノメ
けど、地味ながらもそこは自然の巧みなカラーセンスが発揮されていて、開きはじめた萼の
中にチラリと見える葯の赤紫色(さらに葯が開くと花粉の黄色が加わる)、そして葉には
灰白色の模様どりがしてあってと、落ち着いた色調には抜かりがない。
林床にはアズマイチゲが咲きはじめていた。
日影沢をたどってしばらく歩いてみたが、まだ雪が残る沢沿いに花はなく、
ニリンソウの群生地は大勢の人に踏まれて消滅が危ぶまれ、現在ロープを張って土壌回復中。
咲いていたのは沢の向こう岸に一輪だけだった。
日影沢の先にある木下沢(こげさわ)にも寄ってみた。
木下沢梅林の梅は4分咲きといったところか? 翌日から梅まつりが行われる梅林では、
今年から遊歩道を設置。祭りの期間中は中へ入れることになった。
木下沢のハナネコノメも見てこようと思ったとき、
梅林の反対側では、
急に強く吹いた風が、びっしりと花をつけた杉林をなでると、たちまちのうちに大量の花粉が
煙のごとく舞い上がった。 ひぇ~~これはたまらん。
もう花どころではなくなり、ダッシュで退散 車内へ逃げ込んだ。
最初に揺れを感じたとき、地震とは気づかず、
あれ、目まいかな? 運転中にヤバイぞ、、、なんて思いながら走り出すと、どうも違う。
交差点の信号が軒並み消え、電線がユラユラしているのを見て、ラジオのスイッチを入れた。
乗っているクルマは右に左に気味悪いほど揺れる。
踏切が閉まったままとなり道路はクルマの長い列、相川駅手前で先へ進めない。
地震による揺れはそれからも繰り返しあったものの、付近の人たちの様子はとくに変わりなく、
それを見て、ここは焦らず待つしかないなと1時間ばかり経ったところで、バスの運転手さんが
踏切はいつ開くかわからない、ここ(バスターミナル)でUターンした方がいいと親切にも道を教えてくれた。
延々とクルマが並ぶ反対車線、アドバイスしてもらわなかったらいつ帰れたことか、、、感謝!
おしえていただいた道でR16に出ると、信号機が機能しないところには警官がいたりしてスムーズに帰宅。
停電はしていたものの、それも夜遅くには回復。その後地震の詳しい情報を知るにいたり驚いた。
そして一週間が経ち、被災地の悲惨な状況が伝わってくるにつれ、どうしようもない脱力感と、
あの美しい自然が一瞬のうちにみせる途方もない威力に圧倒される。
釜石港の「世界一深い防波堤」も、押し寄せる津波を防ぐことはできなかった。
31年の歳月と1,215億円をかけた湾口防波堤だったが、自然のパワーにひとたまりもなく崩壊。。
最高に美しいものは最高に強い、いまさらながら思うことだ。
被災地からの報道で、瓦礫のなかに1歳8カ月のお孫さんを探す祖母の姿があった。
めちゃくちゃに破壊された家に「あっ!」と言って駆け寄る祖母、
そこにはお孫さんが誕生した記念に植えた梅の木が、1mほどの高さに育ち、
地震と津波にも負けず、小さな芽をつけていた。
「もうすぐ花が咲くわね、孫のかわりだから大事に育てなくちゃ」
そう話して微笑む祖母の瞳に、微かな希望の光が射しこむのを見た。
計画停電のあいだ、近所の雑木林へ行ってみた。
クヌギやコナラの林床にはスプリングエフェラメルの代表カタクリが、、
気温が17℃を超えると花が開く (ユリ科)
キクザキイチゲは太陽に向かって身を乗り出すようにして
くねっと身をよじってうつむくシュンラン
春の妖精たちはどれも恥ずかしがりやで奥ゆかしい。。
小枝にとまってひと休み?のジョウビタキ
森を散歩しながらエサを探すツグミ
いつもなら散歩する人たちを見かける公園も、いまは訪れる人も少なくひっそりとしている。
久しぶりに来た公園は、春らしい彩りが増えていた。
ハナモモはつぼみを大きく膨らませ、小花が集まって咲くサンシュユは遠目からもきれい。
別名のハルコガネバナ(春黄金花)の方がわかりやすくていいと思う。
カンザクラ(寒桜)とカンヒザクラ(寒緋桜)は満開にちかく
カンザクラの蜜を吸いにやってきたメジロは、パタパタ落ち着きなく花の間を飛び交う。
メジロの嘴は先端が細くとがっていて、花の蜜が吸いやすくなっているそうだが、なるほどそうだ。
それで下から見ると精悍な感じさえする。甘い花の蜜が大好物。
けど、見る角度によってはひょうきんにも見える。白いアイリングのせいかもね。
計画停電の3時間を有意義に過ごせた散歩だった。
まだ寒さが残るなかにも春は確実にやってきていて、花も鳥もそれを静かな歓びとしているようだ。
だが被災地では雪が降り、避難所では寒さと不便を強いられる生活がつづいている。
ほんとうにお気の毒だ。せめて暖かい春が、一日でもはやく訪れますように。
最後になりましたが、地震の犠牲となられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、
被災されたかたがたへ、謹んでお見舞い申し上げます。
また、被災地の一日もはやい復興を、心よりお祈りいたします。