寒の戻りがひと休みして、春らしい暖かさが訪れ、桜がちょうど満開となるころに、
毎年登っている山があります。神奈川県北部に位置する標高578mの石砂山(いしざれやま)は、
いまでは絶滅危惧種となったギフチョウが自然発生する貴重な里山です。
アゲハチョウ科に属する本州特産チョウのギフチョウは、
年に一度、春に発生するたいへん美しいチョウで、その可憐な姿から『春の女神』と呼ばれています。
1960年以前には、丹沢から津久井にかけての山麓に広い範囲で見られたギフチョウですが、
その後開発がすすみ、里山が手入れされなくなったことなどから、多くの生息地が相次いで消滅、
いまではここ藤野町にわずかに見られるだけとなってしまいました。
登山口に向かい、篠原の集落がある小道を行けば、長閑でほっとする景色が広がり、
田の畦にはイヌノフグリやオドリコソウなど春の花がびっしりとならび、
土手の斜面ではエイザンスミレ、ケマルバスミレが可愛らしい顔をのぞかせ出迎えてくれます。
お地蔵さまの後ろで真っ白な花を咲かせているのはズミ。
春の陽射しにまぶしいほど白く輝いています。
ズミの根元にはアマナがたくさん咲いて♪♪♪
この一角にはズミの木が何本かあるのですが、それらのほとんどは枝が折れたり、また根元から
倒れてしまったものもあり、それでも綺麗に花咲いている姿が哀れです。
先日の春の嵐でやられたのでしょう。 春のイメージは、ふわんとした穏やかで優しい感じを
思いがちなのですが、実際のところ春は、そうではなくて、四季のなかで最も荒々しく、
気温の変化も激しいパワーのある季節なんだというのを、このズミへの仕打ちをを見て思います。
登山口からしばらくは暗い杉の樹林帯を登り、やがて広葉樹の明るい雑木林の道となります。
さあ、今日は運よく春の女神に出会えるのでしょうか。
林床に見られるカントウカンアオイの葉です。
ギフチョウは、この葉の裏側に真珠のような小さな卵を産みつけ、卵が幼虫となってからは葉を
食べて育ちます。約40日で蛹化、初夏から翌春までの長い期間を蛹で過ごします。
陽だまりの尾根道を山頂めざし歩いていると、ひらひら~ 一頭のギフチョウが現れました!
地面すれすれを緩やかに飛びまわります。
ギフチョウの姿が見られるのは、気温15℃以上で風のない穏やかな日と条件が繊細なのも、
春の女神様らしいです。。
枯れ葉の上でそっとお休みになる女神さま、、、(^_^)
山頂までの登山道で出会えたギフチョウは、この一頭だけでした。
下山してくる登山者に様子をたずねると、上には4、5頭いましたよ、とのこと、
わっ、うれしい~♪ 期待に胸をはずませながら、わっせわっせと山を登ります。
山頂にはカメラを手にした人たちが何人もいて、女神さまを囲みしきりにシャッターを切っています。
私もスミレにとまって吸蜜中のギフチョウをパシャパシャ。
スミレの蜜をちょこっと吸っては飛び、また別のスミレにとまるを繰り返しながら山頂周辺を
低く飛び交うギフチョウ。そうしたギフチョウの姿をぼんやり眺めているだけで、なんかハッピーな
気分になります。 そして、ギフチョウとともに春の訪れをしみじみと感じられるのが、この山です。
さて、山頂をあとに来た道を戻ります。
登ってくるときギフチョウを見かけた場所では、一頭がひらひら飛んでいました。
きっとこのあたりが好きなんでしょうね~
登山口周辺の野原にも、何頭かのギフチョウが見られ、カメラを持った人たちが追いかけています。
お地蔵さまをよく見ようと、草をかきわけ進んでいくと、そこへ一頭のギフチョウが飛んできて、
私の目の前にとまりました。
美しい翅を広げて見せてくれた女神さま なかなか毛深いんですね~
野に咲く花を眺めながら、のんびり歩いてクルマをとめた場所へと戻ったのが13時過ぎ、
まだ早いので、帰り道途中にある「七沢森林公園」へ寄ってみることにしました。
「七沢森林公園」は、東丹沢の麓にある里山をそのまま公園として活用、横浜スタジアム24個分
の広さがあり、アップダウンを繰り返しながら一周するだけでかなりの運動量になります。
ちょうどサクラが満開で、静かな山里でのお花見が楽しめました。
春が、荒々しさのなかに垣間見せる美、それはサクラやカタクリなどに代表される儚くも美しい
春の花たち。厳しい寒さから解放され、ひととき暖かい陽射しに包まれるとき、
強いパワーと繊細な優しさを併せもつ、春の息吹をひときわ感じます。