猛暑から逃れ、涼しい高原へ~
勝沼ICからぶどう畑が広がる道を塩山へ。
杣口林道を右に左にカーヴを切って上がていくとクリスタルライン、
焼山峠からさらに進んで、標高1700mの乙女高原に着きました。
乙女高原は、周囲を森に囲まれ、その森の真ん中がぽっかり開けた草原になっています。
森が草原に迫っているのは、自然の遷移によるものです。
「遷移」とは、自然が長い年月の間に移り変わっていく様子を表した言葉で、
この草原も、飛んできた木の種が成長していくにしたがい、
やがて草原は消滅し、森となってしまう運命にあります。
ではなぜ、乙女高原がいまのところ草原を保っていられるのかというと、
その昔、ここのカヤト(ススキ)が麓集落の人たちによって刈られ、
カヤは肥料や飼料として利用されていました。
その後、乙女高原はスキー場となり、毎年冬には草刈りが行われました。
この草刈りによって、木の種は根付いても刈り取られ、森に遷移しなかったのです。
ところがスキー場がクローズとなり、そうなると草刈りが行われず草原は森になってしまう、、
そこで乙女高原を守る有志のかたがたが立ち上がり、草刈りを継続することになりました。
そうなんです、里山も人間が入り、間伐や下草刈りを行うことで保たれるように、
花が咲き、蝶が舞う美しい草原も、人の手によって守らなければ、森に飲みこまれてしまうんですね。
乙女高原を美しい草原のまま残すために努力なさっているかたがたに感謝です!
さて、前置きはほどほどに、乙女高原の乙女たちをご紹介しましょう
真夏の高原は、花と蝶の楽園です
亜高山性高茎草原の乙女高原では、茎の長い背丈の高い草花が多く、
散策路は長く伸びた草の葉が覆いかぶさるように道をふさいでいます。
淡いピンクの小さな花が穂になって咲くチダケサシ(ユキノシタ科)、
その後ろで咲いているのはタチフウロ
フウロソウ科の花には、他にもハクサンフウロ・アサマフウロがありますが、
タチフウロはなかでもひょろっとしてスレンダー、花のピンクも薄い優しげな色です。
ピンクの乙女、こちらはシモツケソウ(バラ科)とカワラナデシコ(ナデシコ科)
シモツケソウは草原をピンク色に染めるほど、群生することがあります。
ふわっとしたやわらかなピンクが広がる草原はファンタスティック
ちょっと見たかんじはカーネーションに似ているカワラナデシコ
鮮やかなピンクは草むらのなかでもよく目立ちます。
次はパープル系の乙女、ゴマハノグサ科のクガイソウとヒメトラノオ、シソ科のウツボグサ。
ブラシのような花穂には、昆虫たちがたくさん集まってきて蜜を吸うクガイソウ。
昆虫たちにとって蜜を採りやすい花だけあって、いつも賑やかです。
クガイソウに似ていますが、よく見ると花の形が違うヒメトラノオ(右写真)。
クガイソウの花は筒状ですが、ヒメトラノオは花びらが開いて広がっています。
夏枯草(かこそう)という別名もある
ウツボグサは、高さ30cmほどで、この草原ではおちびさん。
背の高い草に囲まれて、ニュッと横から草をかきわけるようにして顔を出していました。
名前の由来は、その昔、矢を入れて腰にぶらさげ持ち歩いた靸(うつぼ)に
穂の形が似ていることからつきました。
緑の草原でとりわけ目立つのは黄色系の乙女
もうすこし早い時期だともっとたくさん見られたと思うキンバイソウ
8月に入ると数も少ないですが、品のある美しい花です。
キンポウゲ科特有の、花びらに見えるのは萼で、雄しべに添うように並んでいる
細長いのが花びらです
キオン(キク科)とホソバノキリンソウ(ベンケイソウ科)、どちらも葉の縁に細かなギザギザが
あって、この鋸歯状の違いが花を見わけるポイントです。
見るたびいつも、おもしろい形だなぁと思うコウリンカ(紅輪花・キク科)
渋めのオレンジ色といい、花開くほどに花びらが反り返って垂れ下がるのといい、
草丈50cmとここではチビながらも、その個性で目立つ存在です。
真夏の高原に咲く花、おなじみのところで、
コオニユリ(ユリ科) ヤマオダマキ(キンポウゲ科) シシウド(セリ科)
まだまだ他にも夏の花がいっぱい咲いていますが、
8月初旬の主役はヨツバヒヨドリ(キク科)、見渡すかぎりの大群落をつくっています。
よく似ている花にフジバカマとヒヨドリバナがあって、前者は自生している数はとても少ないですが、
後者は里山などでフツーによく見かけます。
そして、このヨツバヒヨドリですが、 蝶の大好きな花なんですね~
ふわり、ふわり、、風にのってゆるやかに舞うように飛ぶ姿が優雅なアサギマダラ
太陽の光に透けて見える浅葱色の翅がとても美しい
この優美で繊細な蝶が、何千キロも飛行するする蝶だなんて信じられないくらいです。
涼しい場所を好んで飛ぶアサギマダラは、ヨツバヒヨドリが大のお気に入り
ハデな色と柄がいやでも目につくクジャクチョウ、やはりヨツバヒヨドリが好みのようです。
そしておもしろいのが、翅の表と裏がまるっきり違い、まるで別人(別蝶)、、、、
翅を閉じた状態では、ほぼ黒一色に見えます。なにか理由があるんでしょうね~
マルバダケブキの蜜を吸うウラギンヒョウモン???
タテハチョウ科の△△ヒョウモンは種類が多く見分けがイマイチ?です
つぶらな瞳がかわいいミヤマチャバネセセリとシンプルな翅が美しいジャノメチョウ
あまり黄色くないけど、キアゲハです。
花と蝶で賑わう真夏の高原、周囲の森からはたえず涼しい風が吹き抜けていき、
陽射しは強いけれど気持ちよく過ごせます。
花を見つめ、蝶を追いかけ、草をかきわけながら歩く小道は楽しく、
白樺の木陰でひと休みして耳を澄ませば、鳥が歌い風が渡る心地よい音が聞こえます。
夏は、森の生き物たちの命を紡ぐ動きがいちばん活発な時期、
彼らのそうした姿を目にし、また感じることによって、
なんだかとても元気をもらえたように思える、、、不思議ですね。
もう、いまごろは秋の花が咲いていることでしょう。